
今まで日本では、欧米に比べて遺言書を残す人の割合が少ないと言われていました。その為、相続が発生した後の相続人間のトラブルも多く、問題となっていました。実際に専門家として相続の実務をやっていると、いつまでたっても遺産分割協議がまとまらなくて次の手続に進めないという事態は必ず経験します。もちろん故人としては、自分の死後も親族が仲良くしてくれることを願っているのでしょうが、現実はなかなかそうはいかないことも多いようです。
一方、遺言が残っていれば、遺言のとおりに遺産分割が行われることになり、争いを未然に防ぐことにつながります。このような遺言の有効性が徐々に認識されるようになり、最近では遺言が書かれるケースが増えてきています。
☆一般的には「ゆいごん」と呼ばれることが多いですが、法律用語では「いごん」と読みます。
特に次にあげるようなケースでは経験上、遺言を書かれた方が良いと思われます。
※クリックで詳細が開きます。該当するケースをご覧ください。
最もトラブルが起こりやすいケースです。この場合、遺言は絶対に作成した方が良いと思います。
何故なら、両親が先に他界している場合、被相続人(亡くなった方)の兄弟姉妹が相続人になり、配偶者と遺産分割協議をすることになるからです。
配偶者にとって、被相続人の兄弟姉妹とはあまり付き合いが無い場合が多く、場合によっては、ほとんど面識が無いということも珍しくありません。このような希薄な関係で遺産分割協議をするわけですから、当然トラブルも多くなります。遺産分割協議書の実印のハンコをもらう為に、兄弟姉妹に高額のハンコ代を支払ったという実例も多いのです。
配偶者を、このようなトラブルから救う為にも、是非、遺言を残しておいて頂きたいケースです。
不動産は均等に分けることが難しいので、最も争いになりやすい相続財産です。特に同居で面倒をみてくれた相続人がいる場合、遺言を残しておかないと、別居の相続人と同居の相続人の取り分が同じになってしまい、めぼしい財産が不動産しか無い場合、最悪不動産を売却して金銭に換えて別居の相続人に分配しなければならなくなります。
法定相続人以外の人に財産を残したい場合は、遺言は必須となります。
籍を入れていない内縁関係の夫婦の場合、遺言書がないとお互いに相続権は発生しません。他の相続人から住んでいる家を出て行けと言われるケースもあります。必ず遺言を書きましょう。
株式が法定相続されると、全く経営に関係していない相続人が一定の割合で株主になってしまう可能性があります。これを防ぎたい場合は遺言書を残した方が良いでしょう。
生前に認知すると現在の家族との間でもめる可能性があるため、遺言で認知することが可能です。
事情により、特定の相続人を優遇したい場合には遺言が必要です。
また、特定の相続人の相続分を減らしたい場合にも遺言は必要です。
遺言について具体的なイメージがつかみにくいという方のために、代表的な事例または、ちょっと珍しい事例を、いくつか紹介いたします。
遺言には3つの種類があります。
自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言です。
このうち、秘密証書遺言はメリットが少なく、ほとんど実務では使われていないので説明を省きます。
配偶者居住権とは、民法の改正により令和2年4月1日以降に開始した相続から新しく認められるようになった権利のことです。法律の条文では以下のように書かれています。
「相続の際、被相続人の配偶者が被相続人の財産に属した建物について取得する権利であり、その配偶者が相続開始の時に当該建物に居住していた場合において、その全部について無償で使用および収益をすることができる権利(民法1028条1項)」(下線については筆者が記載しました)
ようするに、相続が開始した後に、配偶者が他の相続人から「その不動産を売却して分配したいから出て行ってくれ」と言われないために設けられた制度だと考えて頂ければ分かり易いかと思います。
残された配偶者にとっては大変ありがたい配偶者居住権ですが、無条件に認められる訳ではありません。以下の
いずれかの
条件を満たす必要があります。
①遺言に書かれていること
配偶者居住権が認められる最も確実な方法は、被相続人(故人)が生前に遺言に書いておくことです。配偶者が住み慣れた家に住み続けられるように、遺言を残しておきましょう。
ちなみに、配偶者居住権を遺言に書く場合の書き方には、ちょっとした注意がいります。発生原因を「相続」ではなく「遺贈」にしなくてはいけません(このように法律で決められています)。この部分は専門的な話になりますので、遺言を書く時には専門家に相談されることをオススメします。
②遺産分割協議で認められること
配偶者居住権の取得について遺言が残されていない場合、遺産分割協議によって認めてもらわなければなりません。遺言に比べると一気にハードルが上がります。そもそも他の相続人から「売却したいから出て行ってくれ」と言われる可能性があるから新設された制度なので、売却したい相続人がいた場合、遺産分割協議が進まない恐れがあります。
③家庭裁判所で認められること
遺言が残されていなくて、遺産分割協議もまとまらなかった場合、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることになります。その結果、家庭裁判所で認めてもらえれば、配偶者居住権は成立します。ただし、これには時間と費用が余分にかかります。
これら3つの条件を比べた場合、やはり最も確実で手続が早いのは遺言が書かれていた場合です。残された配偶者のためにも、できるだけ遺言を残してあげたいものです。
日本では体調が相当に悪化してから遺言を決断するケースが多いので、結果として遺言無効確認訴訟が増えています。遺言無効確認訴訟とは、遺言で不利益を受けた相続人が「その遺言は無効だ」と裁判所に訴えるものです。
遺言無効確認訴訟の理由の大半を占めているのが、「遺言を残した当時、遺言者は認知症だった、あるいは意識が無かった。だから遺言は遺言者の正確な意思で書かれたものではない」というものです。高齢で入院している場合などは、この理由はかなりの説得力があり、実際に遺言無効が裁判で認められてしまうケースも増えています。
これを防ぐ一番の方法は健康なうちから遺言を書いておくことですが、日本では「遺言なんて縁起が悪い」、「子どもが死を願っている気がする」などと考える人が多く、なかなか早めに遺言を残す習慣が定着しないのも事実です。
そのため現実的な方法としてオススメなのが、遺言を残す時に医師の診断を受けて診断書をもらっておくことです。これがあれば、遺言を残すだけの意思能力があったという有力な証拠となります。
この時によく使われるのが「長谷川式認知症スケール」と呼ばれる診断方法です。認知症の診断で広く使われている標準的な方法ですが、簡易な方法なので必ず正確とは言えません。正確さを求める場合は検査をしてもらう必要がありますが時間がかかるという欠点があります。よって健康状態が悪化している場合はスピードが求められますので(日本での遺言は、この状態が多い)、長谷川式で診断書をもらった方が良いでしょう。
自筆証書遺言とは、遺言者が全文を直筆で書いて押印し作成する方式の遺言です。
※遺言書保管制度の新設
相続法が改正されて令和2年7月から利用が可能になった新しい制度で、法務局が自筆証書遺言を預かってくれるという制度です。
下記の表で示した自筆証書遺言のデメリットをカバーする目的で作られたので、自筆証書遺言がより安全で使いやすくなることが期待されています。
司法書士の立場から見ても、非常にすぐれた制度だと思います。この制度により自筆証書遺言の件数は増えていくでしょう。
※実際にあった事例で、相続手続を一通り済ませたと思った数年後に故人の通帳が押し入れから見つかったということがありました。ご主人の自筆証書遺言が残されていたケースで、家庭裁判所で検認をしてもらい、遺言の通りに相続手続を済ませていました。しかし、それから数年後に新たな通帳が見つかった時には、検認済みの自筆証書遺言は紛失していて見つからなかったのです。このような場合は、あきらめるしかないのでしょうか。
実は検認が済んでいれば自筆証書遺言の代わりになるものがあるのです。それが検認期日調書謄本です。これは自筆証書遺言を家庭裁判所で検認すると、家庭裁判所に記録が残り、その記録の謄本をいつでも請求することができるのです。そしてこの謄本は自筆証書遺言の原本と同じように相続手続に使うことができます。
検認期日調書に記録されている内容は、「担当した裁判官の氏名、検認期日に出頭した相続人の氏名、裁判所で陳述した内容、遺言書の外観(封が空いていたとか、字がにじんでいたとか)」などです。この検認期日調書と一緒に遺言書原本の写しも家庭裁判所に保管されます。
(ただし法務局の遺言書保管制度を利用していた場合は、この限りではありません)
| メリット | デメリット |
|---|---|
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公証人役場に行き、遺言者からの遺言内容の口述をもとに、公証人が遺言書を作成して保管する方式の遺言です。安全確実なので、当事務所では公正証書遺言をおすすめしております。
| メリット | デメリット |
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☆病気で入院している場合でも公正証書遺言を残すことが可能です。公証人に出張をお願いして入院している病室で作ってもらうことが出来ます。当事務所では、病院に出張して相談にのることも出来ますので、お気軽にお電話ください。(出張費用は別途頂戴いたします)



具体的に、どのような遺言を残したいのかをヒアリングします。

ヒアリングに沿って下書きを作成して、ご確認いただきます。

司法書士が事前に公証人と打ち合わせをします。

証人二人と遺言者と司法書士が公証人役場に出向きます。
(証人が見つからない場合は当事務所で用意いたします)

「エンディングノート」は、自分の最期はこうありたい、という希望を書くものとして、徐々に浸透してきました。具体的には、家族や友人への感謝の言葉、自分史、財産状況、介護、看護、尊厳死や葬儀、埋葬、墓の希望まで、多岐にわたります。実際に記入を始めると、あらためて大切なものがわかったり、今からでもやりたいことが見つかったり、良い点もあります。しかし、注意しなければならないポイントもいくつかあります。
例えば、財産状況を書くにあたって、通帳の番号やパスワードなどの情報を詳細に記載していたら、「エンディングノート」を紛失してしまった場合、とても困ったことになります。ただの紛失ならともかく、ひょっとして誰かに盗まれたかも、などといらぬ心配をすることになります。
だからといって、誰にも秘密にしていて、すべてが終わってから見つかっても意味がありません。
また、読んだ人が後でどうしたら良いか悩むような内容になっていないか考える必要があります。「葬儀は盛大にやってくれ」と書かれていても、残された人は、具体的にどうしたら良いのか分かりません。同様に介護や尊厳死についても、具体的に伝えるのは案外難しいものです。費用とも関連してきますので、慎重に言葉を選ぶことが大切です。
特定の誰かに何かを頼みたい、というときは、その人の承認を得ておきましょう。そうすることで、後からのトラブルを防ぐことができます。
以上のようなポイントに注意して書けば、家族への思いも伝わり、自分の最期を自分の望むように出来るという点から、エンディングノートは便利なものと言えます。ただし、法的な拘束力はありませんので、遺言の代わりにはなりません。あくまで財産に関することは、遺言で解決することになります。
従って、「エンディングノート」には、家族への思いや、終末の自分の希望などを中心に記入し、「遺言」には財産の分け方について書いておくことになります。
「エンディングノート」の書き方について、具体的に何から書き始めて良いか分からないという方は、当事務所のファイナンシャルプランナーが相談を受け付けております。お気軽にご相談下さい。
遺言の内容を実現する為に選任された人のことを遺言執行者と呼びます。
遺言執行者は必ずしも選任する必要はありません。しかし、遺言の内容に納得しない相続人がいることが予想される場合は、選任しておいた方がスムーズに手続を進めることが出来るでしょう。
遺言執行者は、遺言書に書いて指定する場合と、相続が開始した後に相続人が家庭裁判所に申し立てて指定する場合があります。
遺言書に遺言執行者を書いておけば、後日、家裁に選任の申立をする必要も無く、スムーズに手続を進めることが出来ます。また、家裁に支払う余分な費用も節約出来ます。従って、遺言書には遺言執行者も書いておくことをおすすめしております。
尚、法的な知識もあり、相続人との利害関係も無い法律専門家を遺言執行者に指定するのは、一般的によく行われています。当事務所では、ご希望があれば、司法書士が遺言執行者になることも出来ますので、お気軽にご相談ください。
「余計な延命治療を望まない方のために」
尊厳死宣言書とは、完治・回復の見込みがない場合に、ただ延命だけを目的とした治療を行わず、人としての尊厳を保ったまま死を迎えることを、意識があるうちに書面に残しておくことを言います。
「リビングウイル」とも呼ばれ(生前の意思という意味です)、尊厳死宣言書を残すことによって、医師に対して延命治療を止めるように促すことが出来ます。
尊厳死宣言書は公正証書で作成するのが一般的なので、公正証書遺言を作る時に一緒に作成する方が増えています。当事務所では、ご希望に応じて尊厳死宣言書作成のご相談も受け付けております。
尊厳死宣言書について、より詳しい情報が知りたい方は以下のページを参照して下さい
| 公正証書遺言の作成 | 6万円(税込6万6000円) |
|---|---|
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| 3000万円以下 | 30万円 |
|---|---|
| 1億円以下 | 1% |
| 1億円超 3億円以下の部分 | 0.8% |
| 3億円超 5億円以下の部分 | 0.5% |
| 5億円超 10億円以下の部分 | 0.3% |
| 10億円超の部分 | 0.1% |
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☆遺言執行の報酬は、相続が発生した時に相続財産から支払われます。 |
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