司法書士ジャーナル
橋本司法書士事務所ブログ

8月 21 2026

借用書で絶対にやってはいけないこと 債権回収(個人の貸金請求)

お金を貸した相手が今一つ信用できない時に借用書を作ります。ただし借用書には注意事項が、いくつかあります。

一般の方が作成した借用書には、後ほど不利になる可能性が高いものがたまに見られるので、ここで取り上げてみたいと思います。

Q 借用書を作る時の注意事項を教えてください

A 分割払いの借用書でたまに見かけるのが「期限の利益喪失条項」の書き忘れです。これは後で大変なことになるので、絶対に忘れてはいけない重要な項目です。

Q なぜ忘れてはいけないのですか?

A 期限の利益とは分割払いの期限が来るまでは請求されないという、債務者の利益のことです。

例えば、「36万円を1月から毎月月末に3万円ずつ12回で払う」という分割払いの借用書の記載があった場合を考えてみましょう。この時、1月は支払われて、2月に支払いが無かったとしたら、どうなると思いますか。

Q 1月分を差し引いた33万円を請求すると思いますが?

A 残念ながら不正解です。この場合、期限の利益喪失条項が書かれていないと、2月分の3万円しか請求できません。

Q なぜ3万円しか請求できないんでしょうか?

A 債務者には、3月分以降の支払いに対して「期限の利益」があるからです。3月末の期限が到来しない限り3月分の請求はできません。4月分は4月末、5月分は5月末が過ぎないと、同じように請求できません。このような状態を防ぐために「期限の利益喪失条項」が必ず必要なのです。

Q 期限の利益喪失条項とは具体的に何ですか?

A 「一定の金額を超えて支払いが無かったら、残額を一括で請求できる」という取り決めのことを期限の利益喪失条項と言います。一定の金額は色々種類がありますが、「1回でも支払いが無かったらダメ」とか「2回分支払いが無いとダメ」などが多いですね。

Q 他に注意事項はありますか?

A 債務者の署名と押印が必要です。押印は実印と印鑑証明書があれば、より確実ですが、認印でも指で押されたものでも有効です。この押印が無いと裁判で不利に働く時があります。

Q 裁判で、どの様に不利になるのですか?

A 相手が借用書の内容を素直に認めてくれれば問題ないのですが、もし「そんな借用書は知らない」とか「借用書を書いた覚えはない、でっちあげの偽物だ」と言って反論してきたら、押印の無い借用書は証明するのが大変になります。

署名の筆跡鑑定をして本人のものだという証明が無いと裁判で負ける可能性が高くなります。一方、押印があれば筆跡鑑定の必要が無く、本人のものだと推定されます。

Q なぜ押印があれば筆跡鑑定の必要が無いのですか?

A 署名押印のある借用書には「2段の推定」が働くからです。2段の推定の説明は専門的すぎて長くなるので省略します。とりあえず署名押印があれば本人が把握して作成したものという推定が働くのだと覚えておいてください。

Q 推定と言うのは、あいまいな表現ですが、確定ではないのですか?

A 確定ではありません。法律用語で推定と言った場合、「証拠による反論が出ない限り真実であると扱われる」と言う意味です。

つまり借用書に債務者の署名押印がされていると、債務者が借用書を否定しようと思ったら証拠を出して反論しないと認めてもらえないということです。具体的には債務者側が筆跡鑑定をして自分の署名ではないと証明する必要があるわけです。

Q 筆跡鑑定をする立場が押印の有る無しで入れ替わる訳ですね

A その通りです。押印が無いと貸した側が筆跡鑑定をして債務者本人の署名だと証明する必要があり、押印があると借りた側が筆跡鑑定をして債務者本人の署名ではないと証明しなければならないのです。押印の有る無しで証明する責任(法律用語で立証責任と言います)を負う人が逆になるわけです。

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