司法書士ジャーナル
橋本司法書士事務所ブログ

10月 10 2023

保証人の消滅時効 時効(116)

10:19 AM 時効

保証人は時効援用できるのか

保証人は時効の援用をできるかというのは、なかなか複雑な問題です。なぜなら様々なパターンがあり、そのパターンによって時効援用できる場合とできない場合に分かれるからです。今回はパターンごとの時効援用の可否を詳しく見ていきたいと思います。

※尚、ここで言う保証人とは連帯保証人のことです。日本の取引の現場では連帯ではない保証人が登場することはまずありませんので、保証人と言えば連帯保証人のことだと考えてください。

説明の前提

ここでは債権者をA、債務者(主債務者)をB、保証人(連帯保証人)をCとして説明します。また、時効が途中で止まって振り出しに戻ることを専門用語で「中断」と言います。

尚、法律が改正されて最近の契約では「更新」と呼ぶように変わりました。ただし、時効になるような古い契約では改正前の「中断」が今でも使われます。「更新」が主流になるのは、もう少し時間が経ってからになりますね。従って、今回の説明では時効が途中で止まることを「中断」と呼ぶことにします。

さて、借りた相手が会社の場合、時効が中断するのは最終取引日から5年が経った日になります。(より正確には期限の利益喪失日から5年になりますが、話を分かり易くするために、ここでは最終取引日からとします)

保証人が時効援用できる条件

保証人であっても時効の援用ができる場合があります。基本的には以下の2つの場合です。

  1. 主債務の時効が完成した
  2. 保障債務の時効が完成した

主債務とはAとBとの契約で発生した債務のことです。大元の貸し借りのことだと思ってください。

一方、保証債務とはAとCの契約で発生した債務のことです。誤解している人が多いですが、BとCの間には契約関係はありません。

法律上は主債務と保証債務は別の債務です。ゆえに主債務と保証債務の時効は別々に進行します。

保証人が支払っていなければ保証債務の時効は進むのか

主債務と保証債務が別ならば、Cがずっと支払っていなければ保証債務は5年で時効になるのか、と言う問題です。これも誤解が多いポイントです。

契約は別と言っても無関係ということではありません。主債務が存在しなければ保証債務は存在しません。分かり易く言うと「主債務あっての保証債務」ということになります。これを専門用語で附従性と言います。

従って、Bが支払いを続けているのに、保証債務だけが単独で時効になることはありません。つまり、Bが支払いをしている場合は、保証債務の時効が進むことは無いということです。

時効期間が経過しているのに債務者Bが時効援用をしない時

民事の時効の最大の特徴は、時効援用の主張をしない限り、例え時効期間が経過していても時効にはならない、と言う点です(一方、刑事事件の時効は時間が経てば勝手に成立します)。

時効期間が経過しているのにBがAに対して時効援用をしなかったら、Cはいつもで経っても時効の恩恵に預かれません。そこでCがBに連絡しないで単独で時効援用することはできるのか、と言う問題です。

これに対する回答は「Cは単独で時効援用できる」になります。Bに時効を援用するようにお願いする必要は無い、ということです。

時効期間経過前に債務者Bが支払ってしまったら

時効期間経過前に支払った場合は「中断」と言って、時効期間が振り出しに戻って再びゼロからのスタートになります。では、Bが時効期間経過前に支払った場合、その効果はCに及ぶのでしょうか。

回答は、「効果はCにも及ぶ」です。ですからBが支払って時効が中断すると、Cの保証債務も振り出しに戻ります。

時効期間経過後に債務者Bが支払ってしまったら

時効期間経過後に支払うことを「時効の利益の放棄」と言い、やはり時効は振り出しに戻ります。ただ中断とは効果が異なる部分があります。

Bが時効期間経過後に支払った場合、時効の利益の放棄となりBの主債務は時効ではなくなり振り出しに戻ります。しかしこの場合、Cは保証債務の時効援用ができるのです。

つまりBが支払うのが時効期間の経過前なのか経過後なのかで、Cが時効援用できるかどうかが異なるということです。これは非常にややこしく間違えやすいポイントとなっています。

保証人Cが保証債務を支払った場合

CがAから請求されて支払った場合、Cの保証債務は当然に時効中断して振り出しに戻ります。その時、Bの主債務はどうなるのでしょうか。

回答は、「Bの主債務は中断しない」です。従って、Bの時効期間はそのまま進行します。この場合、保証債務だけ中断するので、Bの主債務の方が先に時効期間が経過することになります。

ここでマニアックな問題があります。先に時効期間が経過したBの主債務をCが時効援用できるかという問題です。

回答は「できる」です。何とCの保証債務の時効期間が経過していないにもかかわらず、Cは先に時効期間が経過したBの債務の時効援用ができるのです。是非、覚えておきましょう。

一方Aの立場から考えた場合、Cに支払ってもらってもBの時効は止まらないのに、Bに支払ってもらったらCの時効も中断しますから、Bに支払能力がある限りBに請求した方が良いということになります。

債権者Aが債務者Bに対して裁判を起こした場合

AがBに対して裁判を起こして判決を取った場合、時効期間が判決確定から10年に延長されます。この効果は保証人に対して影響があるのでしょうか。

回答は「保証人にも影響がある」です。

例えCが裁判をされていなくても、Cの債務の時効期間も判決確定から10年に延長されます。Bの裁判のことなど知らなかった、では済まされないので注意が必要です。

債務者Bが時効期間経過後に時効援用した場合

Bが時効期間経過後に時効の援用をした場合、Bは支払いを免れることができます。では、その効果は保証人に及ぶのでしょうか。

回答は「保証人にも効果が及ぶ」です

Bの債務がBの時効援用により消滅した場合、Cの債務も消滅します。「主債務が消滅すると附従性により保証債務も消滅する」という法律効果になります。もう少し分かり易く言うと、主債務あっての保証債務なので、主債務が消滅した後に保証債務だけ残っているのはおかしい、と言う考え方です。

今回は主債務と保証債務の消滅時効の効果について、様々な事例で説明してみました。相当にややこしい問題なので、疑問に思ったら専門家に相談された方が良いでしょう。

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