司法書士ジャーナル
橋本司法書士事務所ブログ

8月 17 2011

裁判所の特徴④ 名古屋地方裁判所

地方裁判所は訴額が140万円を超えた場合の第一審の裁判所ですが、他にも簡易裁判所の判決に不服な場合に第2審として裁判をするところでもあります。

名古屋地裁は大都市に置かれていますので、かなりの数の裁判官が配置されていて部署もたくさんあります。部署のことを名古屋簡裁では係と呼びましたが名古屋地裁では部と呼びます。この部が名古屋地裁の場合、民事だけで10部もあります。(民事2部は執行専門なので、通常訴訟は扱いません)

しかも簡裁と違うところは、この部が更にイ、ロ、ハなどと呼ばれる係に分かれており、それぞれに裁判官が違うのです。また、これらの係が更に担当する書記官によってA、B、Cと分かれています。ですから、名古屋地裁の係属先を表す場合は、民事3部イA係などと宛先を書くことになります。(とても、ややこしいですね)

これだけ部署や係が、たくさんあると簡裁以上に係属する部署によって取り扱いにばらつきがあります。特に最近、問題があると思えるのは過払調停に関してです。名古屋地裁の場合、係属する部署によって半強制的に過払金請求が調停に回されてしまうのです。(もちろん普通に通常訴訟で受けてくれる部署もあります。しかし、前にもお話したとおり、こちらで部署を選ぶことが出来ません)

過払調停は特定調停とは違います(読者の方は勘違いしないで下さい。特定調停では過払請求は出来ません)。これは訴訟をするつもりで過払金返還の訴状を出したにもかかわらず、裁判所の意向で半強制的に調停に回されてしまう制度のことです。この制度に関しては私の回りにいる法律家で評価している人は、ほとんどいません。みな早急に止めるべきだという意見が大半です。

何故、これほど評判が悪いのかというと、最近の業者の状況を全く反映していないからです。例えば、今やかなりの数の業者が判決を取らないと回収が困難になっています。だとすると、そのような業者相手では話し合いを前提にしている調停では全く解決することは出来ません。結局、調停が不成立に終わって通常訴訟に戻されることになります。それなら、調停を行う意味は全く無く、むしろ時間の無駄ということになります。

もっと深刻な問題も起こっていて、調停が不成立に終わることを嫌がる調停委員が一部いて、そのような調停委員に当たった場合、訴訟になったら回収できる想定金額よりも、かなり低い金額で調停を結ばされてしまうというケースも報告されています。

では何故こんな評判の悪い制度を続けているのかと言うと、過払金請求が増えすぎた為に裁判所の負担が大きくなり、少しでも裁判所の負担を減らす為、というのが表向きの理由です。(仮に、この理由が本当だったとしても、国家機関が忙しいからという理由で国民の意向を制限することが許されるのでしょうか。そんなことを言ったら警察が忙しいことを理由にして捜査をしないことが許されることになってしまいかねません)

私は、これ以外にも、調停委員の多くは弁護士がやっていますので、裁判所による弁護士の仕事の斡旋という側面があるのではないかと疑っています。(もし、そうだとしたら、過払金請求者の負担によって、仕事を斡旋していることになりますから許せませんね)

そもそも国民の裁判を受ける権利は憲法によって保障されている権利です。国民が訴訟でやってくれと訴状を出しているのに、裁判所が国民の意向を無視して半強制的に調停に回してしまうのは明らかに問題があるでしょう。この点、名古屋簡裁の方が、まだ良心的で、簡裁では事前に調停を拒否した場合は最初から通常訴訟で進めてくれます。しかし、考えてみれば、簡裁の取り扱いは、ある意味、当然で、訴状を出した人が通常訴訟で進めて欲しいと希望を出しても聞きもせずに強引に調停に回してしまう、一部の名古屋地裁の裁判官の方が常識に反しているのです。

こういう問題がありますから、名古屋地裁に過払訴状を出す場合は、どこの部署に係属するかで非常に大きな影響を受けることになります。このような差は、本来あってはならないことですから、一刻も早く、過払調停制度は廃止されるべきだと思います。少なくとも名古屋簡裁のように当事者が拒否した場合は通常訴訟で行われるように改めるべきでしょう。