6月 02 2009
シリーズ 自己破産? 破産しても残る財産(後半)
さて、前回からの続きです。
前回の最後に車の財産評価について書きましたが、車に関しては私の事務所のある愛知県では非常に破産のネックになるケースが多いです。どういうことかと言うと、ローンが残っている場合、車が引き揚げられてしまいますが、それを極端に嫌がる人が多いからです。この辺は東京を中心とした首都圏とは違う部分でしょう。(東京だと最初から車を持たない人が結構います)。
車が地方では生活に必要であるということを差し引いても、生活の為の車ならば小型の中古車でも充分なはずですから、引き揚げられた後に安い中古車を購入すれば済むはずです。裁判所も車が必要なことは分かっていますから、安い中古車ならば認めてくれます。(もちろん登録から5年以上、軽なら4年以上経っている国産車を選びます)。
ところが愛知県の人は、自分の車に強力な愛着を持っている人が多くて、手放すことを極度に嫌がるのです。その為に破産に踏み切れなくて、本来、助かる人が助からなくなるというケースが出てきます。これは、やはり本人に決断して頂くしか仕方がありません。
次に最も問題になる不動産についてです。不動産を持っていて尚且つ、同時廃止の基準を満たす為には、以下の条件をクリアーする必要があります。
現時点での住宅ローンの残額と固定資産評価額(役所の税務課で証明書を取得できます)を比べて、建物の場合はローン残額が評価額の1.5倍以上、土地の場合はローン残額が評価額の2倍以上である場合は、不動産が無価値であると裁判所は判断してくれます。価値が無い訳ですから、上記の条件に当てはまれば同時廃止が可能になる訳です。
また、評価額が上記の条件を超えていた場合でも、もう一つ救済措置があります。それは、近隣の不動産業者2名の査定書をつけて、その査定額の平均値と住宅ローン残額を比べて、ローン残額が平均値の1.5倍以上あれば、やはり無価値と判断されます。
ただし、いずれの場合も同時廃止で処理できるというメリットはありますが、不動産は手元には残りません。当然、ローン会社によって競売にかけられるか、あるいは任意売却をして売却金をローン会社に支払い、それでも残ったローン残額を破産処理するという手続になります。(実際には、ローン全額を破産処理して、後から競売や任意売却をするケースが多いと思います)。このように不動産が手元に残らないという点が個人再生との大きな違いとなります。
あと、賃貸住宅に住んでいる場合の敷金についてですが、破産の場合は無価値と判断されています。部屋を出ない限り本人が手にする可能性はないからでしょう。しかし、一つ不思議なことがあって、個人再生の場合は敷金も清算価値(破産の場合の財産に相当)に含まれています。この違いは何故、生じているのか未だに私は分かりません。ひょっとして名古屋地裁独特の運用なのかもしれませんが。
最後に現金の取り扱いについてです。現金は99万円までなら財産に含まれないことになっています。こう書くと一見、現金は結構残るように思えますが、実は、この場合の現金には厳しい条件がつけられています。
その条件とは、「破産申立の半年前以降に他の財産から現金化されたものは現金に含まれない」というものです。
これは結構、厳しい条件です。ちなみに銀行預金や郵便貯金は現金とはみなされません。これが法律の世界と生活感覚の違いの最たるものですが、普通の生活感覚では預金は現金という認識ではないでしょうか。しかし、法律の世界では預金は預金者の銀行に対する債権という認識なのです。
従って、銀行預金を申立3ヶ月前に引き出して現金化した場合は、先ほどの条件に当てはまらないことになり、財産として考えなければならなくなります。(私は、この取り扱いは非常に大きな矛盾だと思っています。タンスや金庫に入れていなければ現金として認めないというのは余りにも通常の生活感覚から離れています。改めるべきではないでしょうか)。
あと、よく質問されるケースとして、財産を換金して裁判費用や司法書士費用を支払った場合はどうなるかについてです。結論を言うと、裁判所は全く問題にしません。要するに破産を行う為に使われた費用であることが明確なので構わないという判断になるようです。
従って、生命保険の解約返戻金が同時廃止の基準を超えていたけれど、そこから裁判費用と司法書士費用を支払って減らすことにより、同時廃止基準に収めるということは普通に行われています。
では、今回のテーマは以上です。次回は「債務増加の経緯」について取り上げます。









