司法書士ジャーナル
橋本司法書士事務所ブログ

2015年6月

6月 08 2015

残業代を取り返そう② 労働審判

内容証明だけで、会社が残業代を支払ってくれたら、それは請求する方からしたら理想的でしょう。何しろ手間がかかりませんし、訴訟費用(印紙代等)もかかりません。しかし、なかなかそうはいかないのが世の中です。

上場企業だと、裁判沙汰になること自体が会社の体裁にかかわると考える傾向があるため、意外と簡単に支払ってくることがあります。

しかし、会社の規模が小さくなるほど、裁判まで行かないと払わないケースが増えてきます。内容証明を送った段階で、ものすごく分厚い反論書などを送り返してきて、「1円も払わないぞ」という気が満々の会社もあります。

そんな時に役に立つのが労働審判です。

労働審判は訴訟ではなく、労働事件専門の調停と言ったら分かり易いでしょうか。調停とは、双方の意見を聞いて、落としどころを探りながら、和解で決着をつけるという方法です。まあ、日本人が好む解決方法と言えるかもしれません。

ただ調停の場合、一つ欠点があって、双方が合意できなかった場合、流れてしまうのです。ようは振り出しに戻ってしまう訳です。ところが、この欠点を補うような仕組みになっているのが労働審判なのです。

労働審判は、双方が合意しなかった場合でも流れない仕組みになっています。その場合は、審判官(訴訟で言う裁判官ですね)が、それまでの双方の主張を参考にして、妥当と思われる金額で判断を下します。その判断は審判書に書かれ双方に送達されます。ようするに必ず決着するようになっているのです。

しかも、労働審判には長くても3回以内に決着させるというルールもあります。従って、裁判の長期化も避けられる訳です。

ただし訴訟とは違って、白黒をはっきりつける手続ではないので、満額という訳にはいきません。あくまで合意が前提ですから、いくらか減額にはなります。合意せずに審判になった場合でも、満額と言う結果にはなりません。その辺りは覚えておきましょう。

あと、証拠が弱い場合にも労働審判は適しています。話し合いで妥協点を探る手続ですから、多少、証拠が足りない場合でも、「その分は譲って下さい」というような進め方が可能な訳です。

ここまで読んできて、労働審判に興味がわいた方は、司法書士か弁護士に相談してみて下さい。ちなみに、労働審判の依頼を受けるのは司法書士か弁護士にしか法的に認められていませんので、ご注意下さい。たまに、行政書士や社会保険労務士などが宣伝しているのを見ることがありますが、間違いなく違法です。例え書類作成のみであっても認められていませんので、気を付けましょう。

6月 08 2015

残業代を取り返そう

未払い残業代を取り返そうとする時に、ついためらってしまいがちなのが、証拠の有無です。確かにタイムカードなどの動かぬ証拠がそろっていれば、その後の展開が楽になることは確かです。しかし、全ての人が、そんな有利な状況で請求が出来る訳ではありません。それでも、取り返すことに成功している事例はあります。ここで、そんな事例を紹介しましょう。

Aさんは、いわゆるブラック企業に勤めていて、タイムカードはあるものの、会社からの圧力で打刻時刻を強制されていました。実際に出社した時刻よりも遅い時刻で打刻させられ、また、退社に関しても、実際よりも早い時刻に打刻させられていたのです。これではタイムカードは証拠にはなりません。むしろ、会社を有利にする証拠になってしまいます。

この状況でAさんは工夫しました。スマホのアプリを使って、自分が出社した時刻と退社した時刻を記録していくことにしたのです。簡単なボタン操作で出来るので、ほぼ毎日記録し続けました。私の事務所に来た時には、残業代を請求できる過去2年間を、はるかに超える期間、記録は蓄積していました。

実際に、このスマホアプリによる記録を使って請求したところ、見事、取り返すのに成功したのです。(裁判にはなりました)

毎日こまめに記録をし続けると証拠の信憑性が高まります。裁判所も証拠として評価してくれるようになります。今回は、たまたまスマホのアプリでしたが、別に紙の記録でも、こまめにつけていれば立派な証拠になります。実際に、メモ帳に毎日記録していたもので成功したケースもあるのです。

タイムカードはあるに越したことはありませんが、今回のように会社がタイムカードをコントロールすることで、全く証拠の価値が無い場合もあります。だからタイムカードが用意できなくてもあきらめるのは早いと思います。何らかの方法で、出社と退社の時刻を記録していれば、勝てる可能性は充分にあります。