司法書士ジャーナル<相続>
橋本司法書士事務所ブログ

2023年1月

1月 26 2023

相続登記の義務化 相続登記㉚ 

令和6年4月1日施行

かねてより情報を発信してきた相続登記の義務化が令和6年4月より施行されることになりました。注意点としては、施行された後は施行日以前に発生した相続についても義務化されることです。ですから既に発生した不動産の相続についても今のうちから登記しておくべきでしょう。

所有者不明土地問題

相続登記が義務化された背景には、所有者不明の土地が増加して社会問題化したことがあります。所有者不明の土地とは以下のようなものを言います。

  1. 相続登記がされないまま何代にもわたって相続が起こり所有者が分からなくなっている
  2. 所有者が分かっても住所変更登記がされていないため、連絡先が分からなくなっている

相続登記の申請義務化

法律施行日の前か後かは関係なく、「相続により不動産を取得した相続人は、取得したことを知った時から3年以内に相続登記の申請をしなければならない」こととなりました。
また、「遺産分割協議により不動産を取得した相続人は、遺産分割協議が成立した日から3年以内に相続登記の申請をしなければならない」こととされました。
なお罰則として、正当な理由が無く、これらの登記をしなかった場合は「10万円以下の過料」が科されることがありますので注意が必要です。

正当な理由とは?

罰則を免れる正当な理由とは何でしょうか。例えば以下のような事例です。

  1. 相続手続を長期間放置していたために、相続人全員の把握に時間がかかるケース
  2. 遺言の有効性や遺産の範囲について相続人の間で争いがあり、決着がついていないケース
  3. 相続人が重病等で申請義務を果たせないケース

などが考えられるでしょう。

相続人申告登記

相続人同士があまり面識がなかったり、強硬な主張をしている相続人がいて話し合いに時間がかかりそうだった場合、まずは自分だけでも相続登記の義務を果たしたいと考える相続人もいるでしょう。そんな場合に用意された新しい制度が相続人申告登記です。

遺産分割協議が終わっていなくて自分の持分が決まっていない時でも、相続人の一人が申し出ることによって相続人の氏名と住所のみが登記されます。ただし正式な登記ではないので不動産の権利を保障するものではありません。

相続人申告登記の特徴

相続人申告登記には以下のような特徴があります

  1. 相続登記申請義務の期間内に相続人申告登記をすれば、「その相続人に限り申請義務を果たした」とみなされます。従って申告登記をした相続人は罰則の対象にはなりません。
  2. 相続人申告登記をした相続人の住所と氏名は登記されるので、相続人の情報が把握しやすくなります。
  3. 正式な相続登記よりも必要書類が少なくて済みます。

相続人申告登記は終わりではない

相続人申告登記をすれば申請義務は果たしたことになりますが、それで終わりではありません。あくまで仮の登記なので相続後の不動産の所有権が保証される訳ではないのです。所有権を確実なものにするためには遺産分割協議が終わった後に正式な相続登記をする必要があります。

相続登記について、より詳しい情報が知りたい方は以下をクリック

相続登記

1月 13 2023

未成年の相続放棄 相続放棄⑰

借金の相続人が未成年だった場合

親が借金を残して亡くなった時、子どもが未成年だった場合はどうなるのでしょうか。まずは相続放棄を検討することになるでしょう。

しかし未成年の相続放棄は通常の相続放棄とは異なる点がいくつかあります。そこで今回は未成年の相続放棄について説明したいと思います。

親が法定代理人になれるとは限らない

未成年は法律行為を単独ですることはできません。法定代理人が必要になります。そして、通常は親が未成年の子の法定代理人になります。

しかし、相続放棄の場合は親が法定代理人になれるとは限りません。例えば以下のようなケースでは親が未成年の子の法定代理人になることができません。

・父と母と子1人の家族で、子が未成年のうちに父が亡くなった。この時に子だけが相続放棄をして、母が相続放棄をしない場合

このケースで母親が法定代理人になれない理由は、母と子の関係が利益相反になっているからです。

利益相反とは

利益相反について先ほどの例で説明しましょう。もし母親が子の法定代理人になったとすると、母親が子の相続権を故意に放棄させて、母親自身の相続分を増やそうとする恐れがあります。このように利害がぶつかる関係のことを法律用語で利益相反と呼びます。

ここで一つ次のような疑問が生まれます。「相続放棄をするからには借金の方が多いのだろう。だったら、母親が子の代理で相続放棄をしても母親の借金が増えるだけで利益相反にはならないのでは」という疑問です。

確かにこれは納得できる疑問ですが、利益相反には「実質ではなく外見で決める」というルールがあるのです。例え実質は借金であっても、外見上、子を代理することによって母親の相続分を増やしているのは間違いないので、法律上は禁止されているのです。

親が代理できる場合

では先ほどの例で母親が代理できるのは、どのような場合でしょうか。それは以下のような場合です。

・まず母親が相続放棄をして、それが終了してから子の相続放棄をする
母親が先に相続放棄をすれば相続人ではなくなります。その後なら利益相反にはなりません。

・母親と子が同時に相続放棄をする
相続放棄の申述書を母親と子が同時に家庭裁判所に出せば、利益相反の問題は起こりません。

親が離婚していた場合

先ほどの例で親が離婚していた場合は、どうなるのでしょう。これは、どちらの親が親権を持っているかで、やり方が変わります。

母親が親権を持っていた場合
離婚しているので母親は相続人ではありません。よって利益相反の問題は起こりません。親権に従って母親が子の法定代理人となって相続放棄をすることになります。

父親が親権を持っていた場合
これは少しややこしくなります。父親が親権を持っていた場合、亡くなったからと言って自動的に母親に親権が移ることはありません。

しかし、それだと未成年の子の代理人がいなくなってしまいます。このような時のために設けられた制度が「親権者変更の申立」です。この制度によって正式に親権者を母親に移してから母親が代理人になって子の相続放棄をします。

ただ、親権者の変更が必ず認められる訳ではありません。認められない場合は未成年後見人という制度があります。未成年後見人を家庭裁判所に選任してもらって、子の代理人として相続放棄をすることになります。

相続放棄について、より詳しい情報が知りたい方は以下をクリック

https://www.hashiho.com/inherit/renounce