司法書士ジャーナル<相続>
橋本司法書士事務所ブログ

家族信託(民事信託)

8月 01 2025

信託登記の登録免許税 家族信託(民事信託)㉝

不動産を信託財産にした場合

不動産を信託財産にした場合、法務局に信託登記の申請をしなければなりません。不動産が信託財産となっていることを第三者に知らせる必要があるからです。通常は信託契約書作成を担当した司法書士が申請します。

信託の登記には2種類ある

信託の不動産登記をする場合、所有権移転登記と信託登記を同時に申請します。所有権移転登記は委託者から受託者へ名義を変えるために行う名義変更登記になります。

ただし、これだけだと第三者が見た時に信託で移されたのかどうかが分かりにくいので、所有権移転登記と同時に信託登記も申請して、誰が見ても不動産が信託財産であることが分かるようにするのです。

信託による所有権移転登記は登録免許税が非課税

委託者兼受益者の信託は、名義が受託者に変わっても権利は委託者のままです。よって信託財産の名義を移しても贈与税がかかりません。不動産の登録免許税の場合も同様で、信託による『所有権移転登記』は登録免許税が非課税となっています。

一方、贈与による所有権移転登記は登録免許税が2%なので、3000万円の不動産だと登録免許税は60万円にもなってしまいます。それと比べると信託による所有権移転登記の非課税措置は非常にありがたいですね。

信託登記の登録免許税は、かかるが安い

所有権移転登記と同時に申請する『信託登記』の登録免許税は非課税ではありません。信託登記は名義の変更を表すものではなく、不動産が信託財産であることを表すものだからです。

ただし、税率は安く設定されていて固定資産評価額の1000分の4となっています。これは相続登記と同じ税率で、贈与と比べると5分の1です。
また、土地の信託登記については租税特別措置法により更に安く設定されていて1000分の3となっています。

信託登記の登録免許税は合計した後で100円未満を切り捨てる

登録免許税には100円未満を切り捨てるというルールがあります。複数の不動産がある場合は合計してから切り捨てるというルールもあります。

信託登記は土地と建物で税率が異なるので、土地と建物の税額をそれぞれ個別に計算して、端数があってもそのままで、合計してから切り捨てることになります。個別の税額が出たところで切り捨てて、その後に合計してしまうと金額が違ってしまう事があるので注意しましょう。

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3月 11 2025

信託財産責任負担債務 家族信託(民事信託)㉜

信託財産責任負担債務とは

信託法には「信託財産責任負担債務とは、受託者が信託財産に属する財産をもって履行する責任を負う債務をいう」と書かれています。分かり易く言うと「信託財産によって返済する義務がある債務」のことです。

通常は信託財産からは回収できない

受託者の債権者、例えば受託者にお金を貸している業者がいたとします。この業者は受託者が借りたお金を返済しなかったら、受託者の財産から回収する権利があります。
しかし受託者の債権者であっても、通常は受託者の預かる信託財産から回収することはできません。理由は、信託財産は法的には委託者の財産であり受託者本人の財産ではないからです。

どんな場合に信託財産から回収できるのか

しかし例外的に信託財産から回収できる場合があるのです。それが信託財産責任負担債務であり、色々ありますが最も分かり易いのが、「信託財産の有効活用のために金融機関から借り入れた債務」などです。信託財産の有効活用のためにと言う部分がポイントですね。信託財産のための借金ならば信託財産での返済義務があるという考え方になります。

信託財産に対する差押(強制執行)

信託財産責任負担債務は信託財産からの回収を認められていますので、受託者が払わなかった場合は信託財産に対して差押(強制執行)をすることも可能です。一方、通常の債務の場合は信託財産に差押をすることはできません。

受託者自身の財産も責任財産になるのが原則

信託財産責任負担債務については、信託財産だけではなく受託者の固有財産からも返済する義務があるのが原則です。信託法では「信託前に生じた委託者に対する債権に係る債務を信託財産責任負担債務とする旨の信託行為の定めがあるもの」が信託財産責任負担債務であると規定されています。

例えば該当するものとして「委託者がローンを組んでアパートを建設し、ローンが残った状態で信託する。ローンについて委託者から受託者へと債務引受をした上で、信託契約において『信託財産責任負担債務とする』旨を定める」というケースが上げられます。融資した金融機関は返済が滞った時に信託財産はもちろんのこと、受託者の固有財産からも回収が可能です。

信託財産限定責任負担債務とは

しかし例外的に信託法21条2項に定められている債務については信託財産のみで返済義務を負います。これを「信託財産限定責任負担債務」と呼びます。代表的なものとして受益債権が上げられます。受益債権とは「受益者が受託者に対して、信託財産の引き渡しや給付を求める権利のこと」を言います。

例えば「不動産から得た賃料収入は受益者に渡す」と定めていれば、受益者は受託者に受益債権を有しています。
受益債権は信託財産限定責任負担債務ですから、信託財産だけが責任財産です。受託者の固有財産からは支払いを求めることはできませんし、強制執行をすることもできません。

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2月 25 2025

信託口口座と信託専用口座 家族信託(民事信託)㉛

家族信託の預り金口座

家族信託契約が締結されると一つ重要な問題が発生します。受託者の個人財産と委託者から預かった財産を、どのように区別するのかという問題です。

この問題を解決するために、委託者の財産を管理するための預り金口座を受託者が開設します。預り金口座に委託者の財産を預けることで、家族信託契約で決められた管理を始めることができます。

そして受託者の預り金口座には2種類あります。信託口口座信託専用口座です。それぞれの口座のメリットやデメリットを検討してみましょう。

信託口口座のメリット

メリットの一つ目は、信託口口座は受託者個人の財産とは厳格に区別された家族信託のための口座であることです。通帳の名義も「委託者A受託者B信託口」などの一目見れば受託者個人の口座とは違うことが分かるようになっています。

メリットの二つ目は、仮に受託者が先に死亡しても凍結されないことです。通常は名義人が死亡すると銀行は口座を凍結します。しかし信託口口座は受託者の財産とは区別されているため、相続財産とはみなされないので凍結されないのです。

メリットの三つ目は、仮に受託者が破産したり差押を受けたりしても信託口口座はその影響を受けません。これも受託者の個人財産とは明確に区別されているからです。

信託口口座のデメリット

デメリットの一つ目は、信託口口座を取り扱っている銀行が非常に少ないということです。私の印象では1割位でしょうか。私が家族信託の相談を受け始めた10年ほど前は三井住友信託銀行とオリックス銀行くらいしか扱っていませんでした。現在はもう少し増えていますが、まだまだ少ないです。

デメリットの二つ目は、信託口口座の開設には、口座開設手数料や最低預り金額を設定しているところが多いことです。銀行によって異なるので、手数料がかからない代わりに最低預り金額が1000万円からだったり、預り金額の制限はない代わりに手数料が5万円ほどかかったりなど色々です。

デメリットの三つ目は、事前審査が必要なことです。口座開設を申し込む前に信託契約書案を出して審査を受けることを条件にしている銀行がほとんどです。事前審査には一般的に1週間以上かかりますので時間がかかります。

信託専用口座のメリット

信託専用口座は受託者個人名義の通常の口座を開設して、それを信託契約書に書き込むだけなので、作るのが非常に簡単です。どこの銀行でも作れますし開設の手数料も不要です。通常の口座を信託用の口座とみなして使っているというイメージですね。

信託専用口座のデメリット

デメリットの一つ目は、受託者が亡くなった場合に口座が凍結されてしまうことです。信託専用口座は銀行から見た場合、単なる受託者個人の口座ですから信託財産として区別されていません。ですから相続が発生した時は機械的に凍結されます。凍結を解除するためには相続人全員の協力を得る必要があります。

デメリットの二つ目は、受託者が破産したり差押を受けた場合も口座が凍結されるということです。これも信託専用口座が正式に受託者個人の財産と区別された口座ではないからです。解除するためには裁判所に対して証拠を提示して受託者個人の財産ではないと説得する必要があります。

信託口口座を選択すべき場合

では信託口口座を選択した方が良いのはどんな場合でしょう。それは時間や費用がかかっても信託契約を確実で安心なものにしたい場合です。
家族信託契約の本来あるべき形は、信託契約書を公正証書で作成して信託口口座で管理することです。これが最も確実で安心だからです。

信託専用口座を選択すべき場合

一つ目は、多少安心を犠牲にしても、とにかく費用を押さえたい場合です。

二つ目は、委託者の判断能力が低下していて時間をかけていられない事情がある場合です。委託者が完全に認知症になってしまうと、そもそも信託契約自体が結べなくなってしまいますから。

三つめは、近くに信託口口座を取り扱っている銀行が見つからない場合です。ただしこの理由についてはオリックス銀行などは全てネットで信託口口座を作れますので、あまり重要ではないかもしれません。

このように信託口口座も信託専用口座も、それぞれメリットとデメリットがありますので、よく検討した上で選択しましょう。

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2月 20 2025

オリックス銀行の信託口口座 家族信託(民事信託)㉚

信託口口座とは

家族信託の受託者が使う信託口口座は、委託者の財産を預かる口座で、受託者自身の口座とは明確に区別しておく必要があります。そのために設けられたのが信託口口座で正式な信託口口座ならば、例え受託者個人に対して差押があったとしても、信託口口座は受託者の財産ではないとして差押を受けません。

ただし、便宜上の信託専用口座の場合は正式な信託口口座ではないので差押を受けてしまいます。このように信託口口座は法的に特別な口座なので、どこの銀行でも取り扱っている訳ではありません。開設できる銀行は限られています。

オリックス銀行の信託口口座

オリックス銀行は、まだほとんどの銀行が取り扱っていなかった頃から信託口口座を始めており、信託については老舗の銀行になります。実際に信託口口座を作る場合、最も利用者が多いという印象です。早くから家族信託に力を入れていただけあって他の銀行にはないメリットがあります。

それが開設手続からその後の口座利用まで全てネットでできることです。それを可能にするために、いくつかの特徴があります。

オリックス銀行の信託口口座の特徴①

オリックス銀行は、信託契約書については司法書士や弁護士などの法律専門家作成のものしか受け付けません。信託口口座の開設には信託契約書の事前審査がありますが、事前審査の申込ができるのは司法書士や弁護士などの専門家経由だけです。一般の方が直接申し込むことはできないようになっています。

オリックス銀行の信託口口座の特徴②

オリックス銀行は信託口口座を引き受ける際に、信託の当事者を限定しています。具体的には委託者兼受益者である信託契約しか受け付けていません。実際に信託契約の8割以上が委託者兼受益者になっていますので、ようは例外的な特殊な信託契約は引き受けていないということになります。

オリックス銀行の信託口口座の特徴③

オリックス銀行は、遺留分を侵害している信託契約についても引き受けない傾向があります。信託契約が遺留分を侵害できるのかについては争いがありますが、最近ではできないという見解が優勢のようです。ようは将来的に争いの種になりそうな契約は引き受けないというスタンスだということでしょう

オリックス銀行の信託口口座の特徴④

オリックス銀行は、信託契約書の中で後任受託者の取り決めを求めてきます。後任受託者とは、当初に定めた受託者が亡くなったりした場合に、前もって契約で後任の受託者を定めておくことを言います。契約が途中で宙に浮いてしまうことを防ぐ目的です。よって後任受託者の条項が無い信託契約は引き受けてもらえません。

オリックス銀行での信託口口座の開設

司法書士や弁護士に作成を依頼して、上記の特徴を踏まえて作られた信託契約書は、基本的には公証役場に行く前にオリックス銀行の事前審査に出します。理由は、公正証書にした後で事前審査が通らなかったら再び公証役場の費用がかかってしまうからです。

もちろん公証役場でストップしてしまうのも問題ですから、通常は公証人に事前に見せて(この段階では役場の費用は発生しません)OKをもらったものをオリックス銀行の事前審査に出します。事前審査が通ったら公証役場に当事者を連れて行って公正証書にするというステップになります。

公正証書が出来上がったら信託口口座の開設の申し込みをしてもらうことになります。この段階で事前審査は通っていますから手続はスムーズに進み信託口口座が開設されます。

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2月 07 2025

信託契約公正証書は代理人でもできるか 家族信託(民事信託)㉙

家族信託の委託者が高齢で代理人の相談を受けるケースが多い

家族信託の公正証書作成を検討される場合、一般的に委託者が高齢で将来の認知症などのリスクを考えてのケースが多いです。すると次に相談されるのは「委託者が高齢なので司法書士の先生が代わりに公証役場に行ってもらえないか」という頼みです。

実際に公正証書の多くは代理人でも作成可能なので、そう考えてしまう事情は分かりますが残念ながら信託契約公正証書については、この頼みには応じることができないのです。

公証人が代理人を認めないことが多い

信託契約公正証書の場合、まず公証人が代理人を認めないことが多いです。理由は「管理のための財産の移転を伴うので、本人が契約の内容を理解した上で、自分の意思で契約しようとしているかを確認する」ためです。

特に契約の当事者が高齢の場合はなおさら厳しくなります。高齢であるということは認知症のリスクがある訳ですから、本人の意思とは無関係に契約をされていないかを公証人が疑うのです。

家族信託の当事者が遠方にいる場合

家族信託の契約当事者は委託者と受託者です(受益者は契約当事者ではありません)。中には委託者と受託者の住まいが、かなり離れている場合があります。例えば、私が相談を受けた事例の中には委託者が北海道で受託者が愛知県というケースがありました。この場合、作成する公証役場は北海道にするのか愛知県にするのかという問題があります。

家族信託の委託者の出頭は必須

これだけ離れていると、当事者のどちらかを委任状による代理出頭で行うという要望も、通常よりは公証人に認めてもらいやすくなります。ただしそんな場合でも公証人は、委託者の出頭については代理を認めませんでした。委託者は自分の財産を受託者に預ける側であり、高齢であることも一般的で(事実、高齢でした)必ず本人に直接会う必要があると判断されたのです。

公証人の立場ならば納得できる言い分でした。従って、愛知県で行うことはできず、代理でやるならば北海道で作成することになります。

家族信託の委託者の代理人契約が金融機関に拒否された事例

東京地方裁判所で令和3年に次のような判決が出ました。
依頼を受けた司法書士が委託者の代理人として公証役場に出頭して信託契約公正証書を作成した後、その公正証書を信託口口座開設のために金融機関に持参したところ拒否された、と言う事例です。判決では司法書士に対してリスク説明義務違反の不法行為責任を認めています。

この事例から分かることは少なくとも委託者については、代理で信託契約公正証書を作成した場合は金融機関で信託口口座を開設できない可能性が高い、ということです。ただ私の個人的な意見としては、そもそも公証人が拒否していればこのようなことは起こらなかったのではないかということです。この事例のように考え方の甘い公証人も中にはいるようなので注意が必要です。

信託契約公正証書には遺言の機能が含まれている

依頼された信託契約のほとんどに遺言の機能が含まれています。委託者兼受益者が死亡したら信託契約が終了して、特定の相続人に信託財産を承継させるという規定を入れることで遺言書の作成が不要になるからです。つまり、信託契約公正証書を作成することは事実上、遺言公正証書を作成することと変わらないと言えます。

遺言公正証書の作成には本人が公証人に口述することは必須です。病気で公証役場に行けない時は、公証人に病院や介護施設に出張してもらって作成します。だとすると、遺言と同様の機能を持っている信託契約公正証書も当事者(特に委託者)の出頭は必須と考えるのが自然でしょう。

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4月 10 2024

帰属権利者兼受託者の固有財産となった不動産の登記が、受託者単独申請可能になる 家族信託(民事信託)㉘

信託不動産の今までの登記手続

信託が終了した段階で、信託不動産の名義を帰属権利者兼受託者にする登記手続は、帰属権利者が相続人の一人である場合には、取り扱いが定まっていませんでした。

あいまいだったのは、「誰を登記申請の当事者にすべきか」という部分です。帰属権利者兼受託者が単独で申請できるのか、それとも受益者の相続人全員の協力が必要なのか、という二つの可能性があり、申請する法務局によって扱いが異なっているという状況でした。
(※帰属権利者兼受託者=信託が終了した後に、信託財産の権利を引き継ぐ人)

帰属権利者兼受託者の単独申請で決着

本来、登記申請の取り扱いが法務局によって異なるのは許されません。その位、異常な事態だったのです。ようやく令和6年1月10日に法務省民事局が決着を付けましたので、今回はその報告をしたいと思います。

ポイントは以下の4点です。

  1. 相続人のうち一人が帰属権利者兼受託者である場合は、受託者個人を受益者とする受益者変更登記の申請後、受託者の固有財産となった旨の登記及び信託抹消登記、を行う
  2. 受益者変更登記、受託者の固有財産となった旨の登記及び信託抹消登記、の2つの登記は、受託者による単独申請が可能である
  3. 受託者の固有財産となった旨の登記は、登録免許税法第7条第2項の要件を満たせば軽減措置の適用を受けることができる
  4. 受託者の固有財産となった旨の登記では登記識別情報が発行されない。従って、信託登記時の登記識別情報の保管が必要である

評価する点と問題点

まずは受益者の相続人全員の関与が不要になり、受託者の単独申請が可能になった点は評価すべきでしょう。法務省民事局の決定なので、今後は全国の法務局で統一された取り扱いになります。

また受託者の固有財産となった旨の登記の登録免許税が1000分の20なのか1000分の4なのかも見解が分かれていましたが、登録免許税法第7条第2項の要件を満たしている時は1000分の4と決められました。

唯一、不満があったのが新しく登記識別情報が発行されないという点です。これは登記識別情報が発行されるのは移転登記の時であって、変更登記には適用されないというルールのためです。信託登記などほとんど無かった時のルールなので、新しい仕組みに対応できていないという印象を受けます。

変更登記と言っても実質は受託者が新しい権利者になる訳ですから、発行する方が自然ではないかと私は思います。この決定によって、信託登記の時の登記識別情報を変更登記のものとして流用するということになりました。

このように一部不満な点はありますが、おおむね評価できる決定だと思います。少なくとも今後は、出して見ないと分からないということは無くなる訳ですから。

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1月 30 2018

実家売却信託の税金のメリット (家族信託(民事信託)27)

高齢の両親がそろって施設へ入所する可能性って、ありませんか?
成年後見をお引き受けしたとき、このような例が何件かありました。
両親の近くに住む子どもはいません。
皆、仕事の関係や、転勤等で遠く離れています。

子ども世帯の家計は、苦しいとまではいかないまでも、両親を良質な施設に入居させたり、その後の費用の全てを面倒みることは、難しい状況です。

そんなとき、実家売却信託が役に立つという話を家族信託25で紹介しました。
実家売却信託について

実はこの実家売却信託ですが、税制上のメリットもあります。
今回は税制上のメリットに絞って詳しく説明しましょう。

例えば以下の事例で考えてみます。

  • 実家売却代金を施設費用に充てたい
  • 父は母と一緒に数年後に高齢者施設に転居の予定です。
    父も母も、子どもたちも、実家は誰も住まなくなるので売却したいと考えています。

    父も母も最近、体も頭も衰えてきていて、売却までに認知症を発症する可能性があります。
    子どもたちは、そのことをとても気にかけています。

    認知症になった後では、成年後見人をつけない限り、売却することが不可能になりますし、入居する施設も自由に選べない可能性もあるからです。

    父母も子どもたちも、家の売却代金を、長男に譲り、施設入居やその後の資金に充てたいと考えています。
    ただ、売却代金にかかる税金のことは心配しています。

    実家の価値は
    固定資産評価額 土地1,000万円 家屋300万円
    売却代金2,000万円 取得費は不明 
    です。

    この条件で、実家を長男に贈与した場合と、信託にした場合とで税金の比較をしてみましょう。

  • 実家を贈与した場合の税金
  • 相続時精算課税制度を利用した場合
    登録免許税26万円(評価額の2%)

    不動産取得税24万円(評価額の3%・土地は1.5%)(特例措置)

    贈与の後の売却による譲渡益課税は約380万円(売却代金の20%弱)
    (長男のマイホームではないので、自宅を売ったときに比べて高額になる)

    合計430万円程度

  • 家族信託にした場合の税金
  • 登録免許税42,000円(評価額の土地0.3%・家屋0.4%)

    不動産取得税は0円(権利が移転していないから)

    譲渡益課税は0円(父のマイホームを売ったのと同じなので)

    合計42,000円程度

    比較してみると、相当大きな金額ではないでしょうか。

    家族信託で信託契約を結んだ場合、名義のみが長男に移り、長男の裁量で売却が可能です。
    税制上のメリットとしては、かかる税金は登録免許税のみで、不動産取得税は課税されず贈与税もかかりません。
    権利が移転していない、つまり、取得しているとはいえないからです。

    さらに居住用不動産を譲渡した際の3,000万円特別控除の特例を使うことが出来るため、トータルの節税効果はかなり大きくなります。

    無事、売却が完了したら、売却代金の帰属先を信託契約で長男に指定しておきます。
    すると現金の贈与になりますので不動産取得税や譲渡益課税はかかりません。

    単純に贈与税の問題だけになりますので、相続時精算課税を使うことで贈与税もかからなくなる可能性が高いです。

    長男に全てを任せてしまうことが心配な他の兄弟姉妹も出てくるでしょう。
    そういうときは、信託監督人をつけて、契約で決めた期間ごとに、資金の現状を報告するように契約で定めておけば、安心です。

    このように条件によっては税制上の大きなメリットがあるので、同様の不安を抱えている人や、興味がある人は、信託に詳しい専門家に相談してみて下さい。

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    1月 23 2018

    事業承継を考えた経営者隠居信託 (家族信託(民事信託)26)

    高齢になる前の対策は、任意後見と家族信託がありますが、家族信託がより良いケースがあります。

    企業のオーナーが子に事業を譲るときです。

    企業ならではの問題があるため、任意後見ではカバーしきれない部分があるからです。
    最も大きいのは税金問題でしょうか。

    家族信託ならば、そこを解決できますので、オーナーの皆様はぜひ一度家族信託を検討してみてください。

    贈与税と議決権

    AさんはX社のオーナー経営者で、そろそろ長男BさんにX社をまかせて隠居したいと考えているとします。

    ここでまず問題になるのが、株価です。
    中小企業では自社の株価の評価を低く見積もっていることもよくあります。
    実際にはX社の株価が高いため、長男Bに株式の贈与や譲渡をすることが、難しくなります。
    なぜかというと、贈与税の問題が発生するからです。
    贈与税でも相続税でも、この「自社株」がネックになってくることは本当に多いです。
    税金を払うために借入をすることは、珍しくありません。

    もうひとつが、議決権の問題です。
    長男Bは後継者となるには、代表取締役になるだけでは足りず、少なくとも議決権の過半数は保有しないと安心して経営ができないため、そこをクリアしなければなりません。

    身内のゴタゴタで、経営が不安定になってしまうことは、絶対に避けたいところです。

    この問題を解決するには、どうすれば良いのかというと、Aさんは長男Bを受託者兼二次受益者として、X社株式の全部または過半数を信託財産とする信託契約を締結するという対策を取れば解決します。

    信託契約の結果

    X社株式の議決権は長男Bに移るので長男は安心して経営ができます。

    信託の特性として受益権(この場合は株式配当を受ける権利)はAさんから移動していないので贈与税はかかりません。
    税金の問題は解決しますね。
    ただ、契約のとき、Aさんが1次受益者となるような信託契約を設定するということは、注意しましょう。

    また、Aさんが亡くなったら、受益権が長男Bさんに移るように信託契約を設定することにより、Aさんは生前は配当を受け取り、亡くなった後は長男Bさんが配当を受け取ることができます。

    Aさんは安心して隠居ができ、理想的な事業承継が可能となるわけです。

    事業の継承を考えると、この方法がベストな選択ではないでしょうか。
    もちろん、家族信託契約だけ行えば良いわけではありません。
    Bの他に子がいる場合は、そのための対策も打っておく必要があるでしょう。
    トータルでの対策が大切です。

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    1月 12 2018

    認知症対策としての実家売却信託 (家族信託(民事信託)25)

    高齢の親の介護をするための費用はどのように出していますか?
    いつかは施設に入所するかもしれないときの費用は、どのように出す予定ですか?

    もともと、預貯金がたくさんある人は、預貯金から出せば済みます。
    けれど、預貯金はあまりないという人もいますよね。
    いずれは、親が暮らしている家を売却して、資金を確保する必要があるかもしれません。

    ところが、いざ親が認知症になってしまったあとでは、成年後見人がついて、売却の時期や施設の選択が、思い通りにはならない可能性があります。

    >>>家族信託と成年後見の仕組みの違い<<<
    そんなときは、事前の家族信託契約が便利です。

    認知症対策として家族信託は有効な解決方法となります。

    その中でも最もメジャーで良く使われる方法が実家売却信託です。

    実家売却信託とは?
    高齢の母や一人暮らしです。長女がいますが、長女家族は長女夫の仕事の関係で母とは離れて暮らしています。
    さてこのような状況のとき、実家売却信託をどのように結ぶのでしょうか。

    母所有の不動産につき、母を委託者兼受益者、長女を受託者とする信託契約を締結して不動産の名義のみを長女に変更します。
    売却後の代金についても信託契約により長女が管理できるようにしておきます。

    これで、母が認知症になったとしても、長女の権限で実家の売却が可能になり、その代金で介護費用や施設入所費用に充てることも出来るようになります。

    もし母に成年後見人が付いたとしても、信託契約の方が優先しますので、信託された財産部分に関しては(今回の場合は実家です)、成年後見人が口をはさむことは出来ません。

    成年後見制度が非常に硬直した使い勝手の悪い制度なので、認知症対策としての家族信託は今後も増えていくでしょう。
    家族信託はオーダーメイドなので、様々な認知症対策に応用できます。
    将来の認知症のことで不安に思われた場合は検討してみましょう。

    注意することは、認知症になった後では信託契約は出来ないということです。判断能力が残っているうちに契約を結ばなければいけません。

    家族信託についてもう少し詳しくしりたい人はこちら

    1月 10 2018

    共有不動産の問題と対策(家族信託(民事信託)24)

    不動産が家族の共有になっている状態というのは普段は問題ないように思えます。
    問題になるとき、とはどういうときでしょうか。

  • 売却するとき
  • 銀行からお金を借りて抵当権をつけるとき
  • 土地を更地にして賃貸アパートを建てるとき
  • などです。

    家族全員が同じ意見なら何も問題ありません。
    しかし今売りたい人と、まだ売りたくない人、事業を起こすからお金が必要な人とそうでない人、積極的に資産を運用したい人と、守りたい人など、家族とはいえ、考え方はそれぞれですよね。

    不動産の売却その他の手続には、全員の実印や印鑑証明書が常に必要になるため、共有者が多い場合は、かなり面倒な事態になりかねません。

    それを防ぐのに有効な手段として、最近NHKのクローズアップ現代でも放送されて脚光を浴びてきている家族信託という制度があります。

    具体的な事例で考えてみましょう。

    共有による懸念事項

    登場人物は父、母、長男、長女です。
    長男長女は、それぞれ結婚して家計は独立しています。
    長男には子がいますが長女には子がいません。

    さて、このような状況で父が亡くなったらどうなるのでしょうか。

    遺言も無く遺産分割協議もしなかったとすると、不動産の名義が母2分の1、長男4分の1、長女4分の1と3者の共有になります。

    今は家族が仲が良いので問題を感じていません。
    しかし長男は常々懸念していることがありました。

    1つは母が高齢のため認知症になってしまうかもしれないこと。
    認知症になってしまった後では、不動産の売却や処分は簡単にはできません。
    成年後見人をつけるか、認知症になる前に任意後見契約を結んでおくかを考えなくてはなりません。

    また長女には子がいないので、長女が長女の夫より先に亡くなったら、長女の夫が共有者になる可能性があります。長男は長女の夫とはあまり面識がありません。
    それに、もともとは父母の不動産であるので、長女の夫やその親族が持ち主になることに、いささかの抵抗感がありました。

    何か、打開策はないのでしょうか。

    共有に対する有効な対策

    たとえば、こんな方法があります。
    3者全員が元気にうちに(特に母の意識がはっきりしているうちに)話し合いをし、母と長女の共有持分につき、長男を受託者とした信託契約を締結し、名義のみを長男に変更する。
    権利は3者のままです。

    わかりにくいかもしれませんが、信託契約については、他の記事もご覧ください。
    >>>知っておきたい家族信託と成年後見制度の違い<<<
    長男が不動産の管理・運用・処分を任されることになるので、いちいち全員の印鑑を集めなくても、随時に適切な措置を取ることが出来るようになります。

    また、契約内容を工夫することによって、長女の夫が共有者になったとしても、この状態を続けることが可能になります。
    たとえば、母より先に長女が亡くなったとします。
    長女の夫が不動産の共有者になったとき、売却して自分の持分を換金して欲しいと希望したとしても、それを拒否し、母の住み家を守ることができるわけです。

    >>>家族信託についてもう少し詳しく知りたい人はこちら<<<

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