司法書士ジャーナル<相続>
橋本司法書士事務所ブログ

遺産分割

8月 19 2025

法定相続より多くを希望する場合は、家庭裁判所は好ましくない 遺産分割⑮

家庭裁判所に持ち込んでも希望通りになるとは限らない

相続人同士で遺産分割が決まらない場合、すぐに家庭裁判所に持ち込もうと考える相続人がいます。

しかし、ちょっと待ってください。家庭裁判所に持ち込んだからと言って希望通りになるとは限らないのです。むしろ希望通りにならないケースが非常に多いという事実を知っておきましょう。

家庭裁判所は法定相続を好む

家庭裁判所の遺産分割調停を経験していくと分かってくるのですが、家庭裁判所は非常に法定相続を好みます。よほどのことが無い限り法定相続で決着させようとしてきます。

ですから法定相続になったら話し合いの時よりも得をする相続人には、遺産分割調停はメリットがあります。

法定相続よりも多くを希望する相続人は話し合いでの決着を目指そう

逆に法定相続よりも多くの相続分を希望している相続人は、家庭裁判所に持ち込まれると不利になるということは覚えておくべきです。

いくら自分で説得力のある理由があると思っていても、家庭裁判所の対応は恐ろしく冷たいものになる可能性が高いです。ですから法定相続よりも多くを希望するなら、できるだけ話し合いで解決するべきなのです。

不動産があるならば代償分割を考える

相続で揉めるのが多いのは不動産がある場合です。遠方の相続人は不動産をもらっても仕方が無く、住み続ける相続人がいると売ることもできないので揉めやすいと言えます。なまじ不動産に価値があると、住み続ける相続人が財産価値としては多くもらうことになってしまいます。

このような場合は、代償分割を提案しましょう。これは不動産をもらう相続人が代わりに金銭を払うことで、他の相続人とのバランスを取る方法で広く使われています。

バランスを取る方法も嫌ならば遺言を残してもらうしかない

先ほどのバランスを取る方法でも納得できず、どうしても法定相続よりも余分にもらいたい事情があるのならば、生前に遺言を残してもらうか、信託契約を結んでもらうしかないでしょう。(もちろん他の相続人が承知しているならば、どんな方法でも分割は可能です)

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12月 05 2024

法定相続人の意思は必ず確認しよう 遺産分割⑭

最近多くなっている相続人トラブル

最近多くなっているトラブルに、法定相続人全員の同意があるかの確認が取れていないケースがあります。

例えば、夫が亡くなって妻と長男が同居していて実家を長男に相続させようとする場合を考えてみましょう。次男や長女などの他の兄弟姉妹にきちんと確認をとらずに、「同居しているんだから次男や長女も当然に同意するだろう」と思い込んで相談に来られる人が多いのです。

実際には次男や長女にもそれぞれの事情があって、手続を始めようとすると「長男の単独相続には同意できない」ということが発覚するというケースが増えています。

法定相続分での不動産の共有

不動産を法定相続分で複数の相続人が共有する場合は、法定相続人全員の同意は不要です。

ただしその場合、上記の例でいうと「妻6分の3、長男6分の1、次男6分の1、長女6分の1」で一つの不動産を共有することになります。

もし売却する時には共有者全員の同意が必要になり、極めて売りにくい不動産となります。こうなることを嫌って現実には共有にするケースは少ないです。

特定の相続人が不動産を単独相続するためには遺産分割協議書が必要

特定の相続人が不動産を単独で相続したい場合(今回の事例だと長男)、必ず遺産分割協議書が必要となります。

遺産分割協議書には法定相続人全員の署名押印が条件となっています。一人でも欠けてはいけません。また押印は必ず実印で印鑑証明書の添付も必須です。

このように厳しい条件が付けられていますので、同意していない相続人がいる限り単独相続は難しいことになります。

遺産分割協議書を不要にするには遺言書を書きましょう

法定相続分と異なる相続を希望する場合は、相続人全員が遺産分割協議で合意するか、それでなければ生前に遺言書を書いてもらうしかありません。遺産分割協議で揉めないためにも遺言書はできるだけ書いておいた方が良いと思います。

ただし相続人が配偶者や子の場合は遺留分がありますので、遺言書で特定の相続人に単独で渡せるかは分かりません(遺言で指定されていない相続人が遺留分請求をするかどうかは分からないので)。

一方、遺言者に子どもがいない場合は兄弟姉妹甥姪が相続人になるケースが多くなります。兄弟姉妹や甥姪には遺留分がありませんので、遺言に書かれたとおりに相続が実現する可能性が高くなります。子どもがいない人ほど遺言は絶対に残すべきだと言えます。

遺言が残されていない時は相続人全員に必ず意思確認しよう

現実には遺言を残さないまま亡くなられる方のほうが多いです。その場合は法定相続分どおりに分けるか、誰かに単独相続させたい時は相続人全員の同意を取るしかありません。
どうしても同意してくれない相続人がいる場合は、代償分割と言う方法をとるしかないでしょう。

代償分割とは

代償分割とは、「不動産の単独相続を認めてもらう代わりに金銭で支払う」という方法です。かなり広く行われている遺産分割の方法となります。

相続財産に預貯金が多くある場合は、不動産をもらわない相続人は預貯金の相続分を多くするという方が簡単でしょう。相続財産のほとんどが不動産の場合は(トラブルになり易いのはこの場合)、不動産を単独相続する相続人が自腹で他の相続人に金銭を支払うことになります。

換価分割

相続財産が不動産しかなく、単独相続したい相続人が金銭を自腹では支払えない場合、換価分割しか方法がなくなります。
換価分割は、不動産を売却して金銭に換えて売却代金を法定相続分で分ける方法です。法定相続分通りに分けることができるので法的なトラブルが起きにくい方法だと言えます。ただし元々住んでいた相続人が引っ越さなくてはならなくなりますので、感情的なトラブルになる恐れはあります。

遺産分割は甘くない

色々と説明しましたが、この仕事をしていると遺産分割で揉めるケースは驚くほど多いというのを痛感します。なぜか皆さんその時が訪れるまで甘く考える傾向があります。

裁判にまで持ち込まれるケースも非常に多く、そうなると時間と費用を多大に使い精神的にも負担が大きくなります。
トラブルを防ぐためには法定相続人との連絡はできるだけとり、相続についてはどのような考えを持っているかを把握しておくことが重要です。

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11月 15 2024

養子縁組前に出生した子に代襲相続を認めない 遺産分割⑬

養子縁組前に出生した子に相続権はあるか

被相続人に子がいなくて、両親も祖父母も先に亡くなっていた場合、兄弟姉妹甥姪が相続人となります。

その場合、養子縁組により兄弟姉妹になった相続人がいて、その人が亡くなっていた時、その人の子どもで縁組前に出生した人が代わりに相続人となれるかが裁判で争われていました。

最高裁判決は「相続権は無い」

今月12日に最高裁第三小法廷が判決を出しました。結論は「縁組前に出生した子に代襲相続権は無い」と決まりました。4人の裁判官が全員一致の判断で、その前に出た高等裁判所の判決が覆ることになりました。

最高裁の判決ですから最終判断で、今後のルールとなります。

二転三転した判決

1審の横浜地裁では「相続権が無い」との判断で、2審の東京高裁では一転して「相続権がある」と言う判断に変わりました。最高裁で1審の結論に戻ったと言えます。

個人的には、民法を素直に読むと1審と最高裁の判決の結論になるので、2審の東京高裁の判決が苦しい解釈だなと思いました。

孫の場合は結論が出ていた

被相続人の子が先に亡くなって孫が代襲相続をする場合は民法に規定があります。民法には「被相続人の直系卑属でない者は代襲相続人にはなれない」と規定されています。従って被相続人と子が養子縁組をする前に出生した孫は、被相続人の直系卑属にはならないので代襲相続人にはなりません。

今回の裁判では兄弟姉妹の子だったので判断が分かれたのでしょう。ただ最高裁の判断は民法の規定を素直に読んで、「民法の規定は、血族関係が生じない養子縁組前に生まれた子は、代襲相続人になれないと定めている」と指摘しています。孫のケースから応用したら、この結論になるのが妥当でしょう。東京高裁の判断は無理があると思いますね。

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1月 19 2021

配偶者居住権とは 遺産分割⑫

今回は、民法の改正で新しく認められた「配偶者居住権」について解説します。

配偶者居住権とは?

配偶者居住権とは、民法の改正により令和2年4月1日以降に開始した相続から新しく認められるようになった権利のことです。法律の条文では以下のように書かれています。

「相続の際、被相続人の配偶者が被相続人の財産に属した建物について取得する権利であり、その配偶者が相続開始の時に当該建物に居住していた場合において、その全部について無償で使用および収益をすることができる権利(民法1028条1項)」(下線については筆者が記載しました)

ようするに、相続が開始した後に、配偶者が他の相続人から「その不動産を売却して分配したいから出て行ってくれ」と言われないために設けられた制度だと考えて頂ければ分かり易いかと思います。

配偶者居住権が成立するための条件

残された配偶者にとっては大変ありがたい配偶者居住権ですが、無条件に認められる訳ではありません。以下のいずれかの条件を満たす必要があります。

  1. 遺言に書かれていること
  2. 配偶者居住権が認められる最も確実な方法は、被相続人(故人)が生前に遺言に書いておくことです。配偶者が住み慣れた家に住み続けられるように、遺言を残しておきましょう。
    ちなみに、配偶者居住権を遺言に書く場合の書き方には、ちょっとした注意がいります。発生原因を「相続」ではなく「遺贈」にしなくてはいけません(このように法律で決められています)。この部分は専門的な話になりますので、遺言を書く時には専門家に相談されることをオススメします。

  3. 遺産分割協議で認められること
  4. 配偶者居住権の取得について遺言が残されていない場合、遺産分割協議によって認めてもらわなければなりません。遺言に比べると一気にハードルが上がります。
    そもそも他の相続人から「売却したいから出て行ってくれ」と言われる可能性があるから新設された制度なので、売却したい相続人がいた場合、遺産分割協議が進まない恐れがあります。

  5. 家庭裁判所で認められること
  6. 遺言が残されていなくて、遺産分割協議もまとまらなかった場合、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることになります。その結果、家庭裁判所で認めてもらえれば、配偶者居住権は成立します。ただし、これには時間と費用が余分にかかります。

これら3つの条件を比べた場合、やはり最も確実で手続が早いのは遺言が書かれていた場合です。残された配偶者のためにも、できるだけ遺言を残してあげたいものです。

配偶者居住権の特徴①「登記が第三者対抗要件」

配偶者居住権の取得が決まった場合、登記をしないと第三者に主張することができません。従って、登記は必ずした方が良いと言えます。その時の注意点として、配偶者居住権設定の登記の前には、相続登記がされている必要があります。覚えておきましょう。

配偶者居住権の特徴②「譲渡することはできない」

配偶者居住権は残された配偶者にのみ認められた権利です。従って、他の人に譲渡することはできません。

配偶者居住権の特徴③「賃貸に出すことができる」

配偶者居住権を持ったままで、その建物を賃貸に出して賃貸料をもらうことが可能です。
「建物に住み続けることが目的の権利なのに、それはおかしいのでは?」と思った方がいるかもしれません。しかし、次のような場合を考えてみてください。
「2階建ての家で、1階で夫婦で飲食店を営んでいて2階に住んでいた。夫が亡くなって1階の飲食店を止めてしまったが、スペースがもったいないので他に飲食店をやりたい人に貸して賃料をもらいたい」
というようなケースが考えられます。

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遺産分割

4月 02 2020

遺産分割調停の当日の様子 遺産分割⑪

遺産分割調停では待合が別室になる

遺産分割調停では、「申立人」「相手方」で待合室が別室になります。調停を申し立てるくらいですから、申立人と相手方は争っている状態と考えられ、その人たちを同じ待合室にしてしまったら、調停が始まる前からケンカが始まってしまうだろう、ということで別室にしているのです。家庭裁判所の配慮と言えます。

初日は出頭時間もバラバラにしている

遺産分割調停の初日は、申立人と相手方それぞれから順番に言い分を聞くことになります。相続人全員で顔を合わせるのは、調停委員が「妥協できそうだ」という感触を得てからになります。

初日は最も感情的な対立が激しいので、家庭裁判所に出頭する時間もずらしてあるのが一般的です。

遺産分割調停は法定相続が基本

遺産分割調停では遺産の範囲を争うことはできません(遺産分割⑨のブログ参照)調停で話し合われるのは遺産の分け方です。そして、ほとんどの場合、法定相続分を元にして進められていきます。

従って、法定相続分よりも多い遺産を取得しようと思って遺産分割調停に参加すると、期待を裏切られることになるので注意が必要です。

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3月 18 2020

不動産の遺産分割審判 遺産分割⑩

遺産分割審判とは

遺産分割協議が相続人の間でまとまらない場合、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることになります。しかし、遺産分割調停をしてもなお、話がまとまらない場合もあります。

このような時に裁判官が相続人の話を聞いて最終的な判断を下すことを審判と呼びます。

不動産の遺産分割がまとまらない場合

家庭裁判所で遺産分割調停を行っても分割方法が決まらない場合、遺産分割審判に移行しますが、不動産の場合は少し注意が必要です。なぜなら、不動産は換価分割されることが多いからです。

換価分割とは

不動産の場合、残したまま分割しようと思ったら共有持ち分にするしかありません。しかし、住むつもりが無い相続人にとっては共有持ち分でもらっても、あまり意味がありません。
そこで、不動産を売却してお金に換えて、そのお金を各相続人に分配するのが換価分割という方法です。

審判は換価分割になることが多い

不動産の遺産分割でもめている場合、特定の相続人がまとまったお金が欲しいというケースが多いです。

例えば、A、B、Cと相続人がいて、Aが自分が住むために不動産を相続したいという希望を持っていたとすると、調停の段階では、AがBとCに金銭を渡して調整するという方法が取られることが一般的です(この方法を代償分割と言います)。

しかし、AがBとCに渡せる金銭が無い場合、話し合いがまとまりません。このような時に審判になることが多いので、審判では換価分割になることが多いのです。

審判では不動産は競売になることが多い

審判になるということは調停で話し合いがつかなかった、ようするに喧嘩している状態が続いている、ということです。こうなると、不動産の任意売却は難しくなります。なぜなら任意売却は相続人全員の同意が無いとできないからです。

すると、残された手段は裁判所による競売しかなくなります。ただし不動産の競売は一般的に任意売却の7割くらいの評価でしか売れないと言われています。

不動産がある場合は、調停で決着をつけた方が得

「任意売却の方が得になるなら、相続人全員が同意するのが普通なのでは」と思った人も多いかもしれません。しかし、そのような合理的な判断で納得できるようならば調停の段階で話がまとまっているはずなのです。

遺産分割の争いというのは得てして感情的なもので、だからこそ長引いていることが多いのです。だから「一見、損になるのになぜ」と思われるのに審判では競売になってしまうケースが珍しくありません。

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3月 11 2020

遺産の使い込みを取り戻したいケース 遺産分割⑨


相続では割と良くあるトラブルです。
他の相続人が遺産を使い込んでしまったというものです。
「その分を返せ」と請求したところ、相手が聞く耳を持たなかったので、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てるべきか、という相談を受けることがあります。

「遺産の使い込み」は遺産分割調停では解決しない

意外と思われる方も多いと思いますが、実は「財産の使い込みは遺産分割調停の範囲外である」、というのが家庭裁判所の見解です。
使い込みは遺産分割の前提条件についてのトラブルで、遺産分割そのもののトラブルではないと考えられているのです。

分かりやすく言うと、
「そもそも財産がどれだけあるかが決まってなければ遺産分割は始まらないのだから、財産の範囲を決めてから調停を申し立ててくれ。」

と裁判所は言っているのです。
遺産分割調停は決まっている財産の分け方を話し合う場所であって、財産の範囲を決める場所ではないということになります。

「遺産の使い込み」を解決する方法は?

遺産分割調停では解決しないとすると、遺産の使い込みを解決する方法は何があるのでしょうか。
もちろん、使い込んだ相続人が認めて自主的に返還してくれるなら問題ありません。しかし、多くの場合、素直には返還に応じないでしょう。

そのような時は、民事訴訟になります。
訴訟の種類は不当利得返還請求訴訟になる場合が多いようです。
使い込みをされた相続人が原告となり、使い込んだ相続人を被告として訴訟を起こす訳です。この訴訟で決着をつけて遺産の金額を確定させて、それから初めて遺産分割協議が始まることになります。

遺産分割のみを対象とした訴訟は無い

これも意外に思う人が多いかもしれませんが、実は遺産分割のみを対象にした訴訟というのは存在しません。遺産分割訴訟というのは無いのです。

相続人と相続財産が確定した後に分割方法で争いが起こった場合は、裁判としては家庭裁判所の遺産分割調停しかありません。いきなり遺産分割審判を申し立てることも制度上はできますが、現実の裁判所の対応では、例え審判を先に申し立てても裁判官の判断で調停にされてしまうケースがほとんどです。
この点は誤解されている方も多いので覚えておきましょう。

遺産分割審判の後に訴訟はできない

遺産分割調停でも話し合いがまとまらなかった場合は、遺産分割審判になります。審判は家庭裁判所の裁判官が最終的な分割方法の判断を下すものです。では審判で決まった後に改めて訴訟を起こすことはできるのでしょうか。

結論から言うとできません。離婚の裁判に詳しい方は意外に思うかもしれません。離婚の場合は離婚調停でまとまらない場合は離婚訴訟を起こすことは可能です。しかし遺産分割の場合は、このような仕組みにはなっていないのです。

従って遺産分割の争いは、遺産分割審判が確定してしまったら、それが最終決着となります。

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10月 23 2019

調停調書は自動的には相手方に送達されないので注意 遺産分割⑧

調停調書とは

遺産分割調停が決着すると、その内容を正式な書面に残すために、家庭裁判所が調停調書を作成します。これは、通常の訴訟が行われた時に、和解で決着した場合に和解調書が作られるのと状況は似ています。

調停調書は裁判所のお墨付きのある公的な書面で、大変に強力な効果を持っています。

調停調書の効果とは

調停調書の一番の効果は、相手方が調書の内容を守らなかった場合に、強制執行が出来るという点にあります。

強制執行とは差押のことです。相手方の財産を裁判所の力で強制的に差押えてもらえるのです。

ですから調停調書を甘く見てはいけません。裁判所で決着した以上、例え話し合いの結果だったとしても、訴訟における判決と同様の効果を持つのです。

強制執行の条件

もし相手方が調停の内容を守らなくて強制執行をする段階になったら、条件として調停調書が相手方に送達されていなければなりません(送達とは裁判所が郵送で送ることを言います)。

相手方が受け取っていなければ効果は発揮されないのです。
これは裁判全体に共通する重要なポイントです。

調停調書は自動的に送達されるのか

これは非常に誤解が多いのですが、調停調書は何もしないと送達してくれません。この辺り、裁判所にサービスを期待してはいけません。

送ってもらうためには送達申請が必要です。送達申請とは、申立人と相手方に郵送してもらうように裁判所に申請することです。

調停調書の送達申請は忘れないように

相手方に調停調書が送達されていないと、いざと言う時の強制執行が出来ません。
送達申請は後からでも可能ですが、もし相手方が引っ越して住所が変わっていたり、結婚して氏名が変わっていたりしたら、変更を証明するための手続が新たに必要となり、時間と費用が余分にかかります。

従って、送達申請は必ず調停調書が作成された直後にしておくようにしましょう。

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10月 21 2019

遺産分割調停の書類は相手方に送られるのか 遺産分割⑦

遺産分割調停における申立の実情

名古屋家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる場合、申立書とは別に「申立の実情」という書類を提出します。

これは、相続人間の争いの原因などを具体的に記載する書面です。
家裁が前もって、争いの内容が分かっていた方が、調停にスムーズに望めるという趣旨で提出を求められます。

申立の実情は相手方には送付されない

申立書は調停が始まる前に、家裁から相手方(申立人以外の相続人)に呼出状と一緒に送付されます。しかし、「申立の実情」は相手方に送付されません。

ですから、申立人は相手方のことを気にすることなく、正直に争いの原因や経緯を書きましょう。

ただし、ウソはいけません。どのみち調停が始まれば、相手方の意見も聞くことになりますので、明らかに矛盾していれば気付かれます。
間違っているのが申立人の方だと判断された場合、調停が不利に進むことになりますから注意しましょう。

不動産がある場合の書類

不動産が遺産に含まれている場合、登記事項証明書の原本と、固定資産評価証明書の原本を提出します。これらの書類は相手方には送付されません。遺産に何があるかは申立書類に記載され相手方に送付されるので、それで充分という判断なのでしょう。

この時、例えば相続登記の場合は、固定資産評価証明書の代わりに毎年送られてくる固定資産通知書を出しても、法務局は受け付けてくれますが、家庭裁判所は受け付けてくれないので注意しましょう。

内容としては同じことが書いてあり、発行元も同じなので、なぜ家裁でダメなのかは正直良く分かりません。個人的には理不尽な感じがしますが、従わないと調停が始まりませんので、仕方が無いでしょう。

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10月 18 2019

家裁に出す残高証明書は死亡時ではなく申立時 遺産分割⑥

遺産分割調停における必要書類

法定相続人の間で相続分の話し合いが難しくなった場合、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てるのが、一般的な解決法です。

その時に家裁に提出する必要書類の中に、相続財産の証明書類があります。
不動産ならば固定資産評価証明書等、預貯金ならば残高証明書や通帳のコピーなどです。

相続税の申告に使う残高証明書とは異なる点に注意

相続税の基礎控除を超えていて、相続税の申告が必要な場合に添付する預貯金の残高証明書は、死亡時の金額が記載されているものです。相続税は死亡時の財産に対して、かかってくるものだからです。

しかし、遺産分割調停は現在ある相続財産の分け方を決めるものなので、残高証明書の金額は、家裁への申立直前の日付のものが求められます。
一般的に残高証明書というと死亡時の金額を記載したものが多いので、この点は注意が必要です。

なぜ遺産分割調停の残高証明書は申立時の金額なのか

遺産分割調停は、あくまで存在している相続財産の分け方を決める制度だからです。

このように説明すると、「それならば、調停になる前に先に引きだして使ってしまった相続人が有利になるのでは」と思う人がいるでしょう。しかし、それは誤解です。

遺産分割調停の席では、「先に引き出して使った人がいたら、そのことも含めてバランスを取るには、現在の預貯金をどのように分けるべきか」ということも考慮に入れて話し合うことは可能です。

遺産分割調停では、きちんと自分の意見を主張しよう

遺産分割調停が始まったら、調停委員は法定相続人全員の意見を聞きます。調停委員にとっては、参加者とは始めて会う訳ですから、話してくれない限り事情は分かりません。話さなかったことは、無かったこととして扱われます。

ですから調停委員には、きちんと情報を伝えなくてはいけません。もし先に余分に使ってしまった相続人がいるならば、はっきりと伝えましょう。
(ただし先に使われた財産が、亡くなられた人のために使われた正当なものならば、それは分け方に影響がありません。覚えておきましょう。)

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