司法書士ジャーナル<相続>
橋本司法書士事務所ブログ

相続放棄

9月 12 2025

生前の相続放棄はできない 相続放棄㉔

Q 生前に相続放棄はできますか?

A できません。実は「親族が亡くなる前に相続放棄をしたいのだけど」という相談は結構多いです。それだけ相続については誤解が多いという証拠でもあります。生前の相続放棄は法的に認められておらず、家庭裁判所に持ち込んでも却下されます。

Q 生前に、相続を放棄する念書や覚書などを書いてもできないのでしょうか?

A 相続放棄は家庭裁判所で認めてもらうもので、生前には家庭裁判所が受け付けないので、できません。例え署名押印のある念書や覚書などを残したとしても、法的には相続放棄の効果はなく、普通に遺産分割協議に参加して相続権を主張することができます。

Q なぜ生前の相続放棄はできないのでしょうか?

A 理由としては、「推定相続人に対して相続放棄をするように圧力をかけるのを防ぐため」と言われています。生前の相続放棄を認めてしまうと、圧力をかけたり、かけられたりということが、どうしても起こってしまうだろうという考えの元に決められているルールなのです。

Q どうしても遺産を渡したくない相続人がいる場合は、どうしたら良いですか?

A 遺言を残しておくか、家族信託契約をしておくか、生前贈与をするか、などの方法になるでしょう。ただし、遺言や家族信託の場合は遺留分を無視することができません。生前贈与の場合は高額の税金がかかってしまいます。それぞれ注意点がありますので専門家に相談して決めた方が良いでしょう。

Q 遺言の遺留分を無くす方法はありますか?

A 普通に遺言を残すだけでは遺留分は無くなりません。唯一できるのは「遺留分の放棄」と言う方法です。これは家庭裁判所の許可があれば例え生前でも遺留分を放棄できるという制度です。ただし相続権が無くなる訳では無いので、遺言を残さずに亡くなってしまったら無効になります。例え遺留分を放棄していても遺言が残っていなければ、普通に遺産分割協議に参加できます。

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相続放棄

3月 21 2024

数次相続の相続放棄 相続放棄㉓

数次相続とは

数次相続とは、相続が発生した時に遺産分割協議をせずに放置しておいたら、法定相続人が死亡してしまい次の相続が発生してしまったことを言います。

平均寿命が伸びて高齢で亡くなる人が増えたため、相続が発生した時には法定相続人も高齢になっている場合が多く、数次相続の機会は増えていると思われます。

数次相続の相続放棄のパターン

数次相続の相続放棄には、いくつかのパターンがあります。

分かり易くするために、祖父から父の相続を1次相続、父から子の相続を2次相続として、子が相続するかどうかを決めるという事例で説明しましょう。尚、放棄せずに相続することを単純承認と呼びます。

  1. 1次相続を放棄して、2次相続を単純承認する
  2. 1次相続を単純承認して、2次相続を放棄する
  3. 1次相続も2次相続も両方とも放棄する

これらのパターンごとに可能かどうかを見ていきましょう

1次相続を放棄して、2次相続を単純承認する場合

1次相続を放棄して、2次相続を単純承認することは可能です。事例で言うと祖父の相続は放棄して、父の相続を承認することはできるということになります。

ただしこの場合の注意点としては、1次相続はかなり前に発生しているケースが多いと考えられるので、相続放棄の熟慮期間を過ぎていないかどうかを検討する必要があります。ほとんどの場合で、「1次相続の事実を知ったのが最近だった」、または「借金があることを知ったのが最近だった」という理由で相続放棄をすることになるでしょう。

1次相続を単純承認して、2次相続を放棄する場合

1次相続を単純承認して、2次相続を放棄することはできません。2次相続を放棄することで1次相続の相続権も失うと考えられるからです。事例で言うと、父の相続を放棄したら、祖父の財産の相続はできないということになります。

1次相続も2次相続も両方とも放棄する場合

1次相続も2次相続も両方とも放棄することはできます。ただし、このパターンを実務上、利用する機会があるかどうかは疑問です。なぜなら、2次相続を放棄した時点で1次相続をする可能性はなくなるからです。少なくとも私は必要だと感じた事例は今のところありません。

実務で最も使われるパターン

実務で最も登場する機会があるのが、①の「1次相続を放棄して、2次相続を単純承認する」パターンでしょう。祖父母世代には借金があるが、父母世代には借金が無いので、祖父母の借金は相続放棄して、父母の財産は受け取りたいというケースです。
これが成功するには、「祖父母が亡くなったことを知った時から3ヶ月以内」であるか「祖父母に借金があることを知ってから3ヶ月以内」であることが条件になります。条件を満たしているならば、積極的に利用する価値はあるでしょう。

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相続放棄

2月 07 2024

葬祭費、埋葬料は受け取っても相続放棄できる 相続放棄㉒

葬祭費と埋葬料の違い

いずれも遺族に支払われる費用ですが、葬祭費は個人事業主などが加入する国民健康保険加入者へ、埋葬料はサラリーマンなどの健康保険加入者への支払いになります。

葬祭費と埋葬料は相続財産になるのか

葬祭費と埋葬料は被相続人の財産ではなく、相続人の財産と考えられています。相続財産ではない以上、受け取っても相続放棄はできます。この相談は割と多いので覚えておくと良いでしょう。

未支給年金も受け取れる

以前のブログでも取り上げましたが、老齢年金や障害年金の未支給分も相続財産ではないとされています。

未支給年金を具体的に説明すると、例えば2月分と3月分の年金を4月15日に支給予定であったが、4月5日に死亡したとします。この時、本来は支給すべき2月分と3月分の年金が支給されていない状態となります。このような年金のことを未支給年金と呼びます。

被相続人は2月と3月は生きていたのですから、一見、未支給年金は相続財産であるかのように思えます(私も最初聞いた時は、そのように思いました)。

しかし、この問題については最高裁判所の判断が出ていて、「未支給年金は相続財産として扱わない」ということになっています。国税庁も「未支給年金は相続税の課税対象にならない」と発信しています。従って、未支給年金を受け取っても相続放棄はできます。

生命保険は受け取れるか

生命保険についても、よく質問されます。契約者と被保険者が被相続人で、受取人が相続人という一般的なパターンの場合、死亡保険金は相続財産ではなく受取人固有の財産とされます。従って、死亡保険金を受け取っても相続放棄は可能です。

この理屈だと保険金には相続税がかからないように思えますが、それだと相続税を逃れるために多額の生命保険を掛ける人が出てきてしまうので、税法では一定額を超える死亡保険金に対しては相続税をかけることにしています。

葬儀費用を相続財産から払えるのか

悩ましい問題として故人の葬儀費用を故人の財産から払っても良いのか、というのがあります。これについては裁判所は、「葬儀代が不相当な額ではなく、社会通念上相当な範囲であれば、相続放棄をすることは可能」と言っています。

しかし、「社会通念上相当な範囲」というのが具体的にどの程度の額なのかは、はっきりと明言されていないため、いくらまでなら許されるのかは判然としません。それこそ裁判官個人のその時の裁量(個人的な見解)で決められてしまう可能性が大きいです。

故に、あまり大丈夫とは思わない方が良いというのが専門家としての意見になります。
どうしても故人の財産から出すというのならば、その時の世間の相場よりも確実に安いと言い切れる額に留めておくべきでしょう。

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相続放棄

1月 30 2024

遺産分割協議書に「放棄する」と書いても相続放棄はできない 相続放棄㉑

遺産分割協議書についての大きな誤解

遺産分割協議書は、あくまでプラスの財産の分け方について記載するものです。ですからマイナスの財産について記載しても法的な効果はありません。

分かり易く言うと、借金を請求してきた債権者に遺産分割協議書を見せても、請求を止めることはできません。遺産分割協議で借金を免れることはできないのです。
これは多くの人が誤解していることなので、よく覚えておきましょう。

相続放棄は遺産分割協議書に書くことではない

相続放棄をしたいという相談を受けた時、放棄について書かれた遺産分割協議書を作って欲しいと言われることがあります。しかし、上記でも説明したとおり、遺産分割協議で相続放棄をすることはできません。相続放棄は家庭裁判所に申し立てて認めてもらうものです。このことについて説明すると驚かれる方もいます。

相続放棄は単独でできる

遺産分割協議は法定相続人全員が参加していなければ無効になります。従って、遺産分割協議書には法定相続人全員の署名と実印による押印と印鑑証明書の添付が必須となります。

一方、相続放棄は相続人の一人から単独で行うことができます。他の相続人に知らせる義務もありません(通常は知らせることが多いとは思いますが)。相続放棄をすると法定相続人ではなくなりますから、遺産分割協議の参加資格が無くなります。

ただし、預貯金や不動産の相続手続を行う時には、相続放棄をした相続人がいることを銀行や法務局に証明しなくてはならないので、家庭裁判所が発行する相続放棄申述受理通知書を添付する必要はあります。

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相続放棄

1月 19 2024

親族の死亡後に見つかった借金、消滅時効か相続放棄か 相続放棄⑳

死亡後に見つかった借金の請求書

親族が死亡した後に借金の請求書が見つかる、これは珍しいことではありません。このような相談を受けることは実際によくあります。その借金が、かなり前のものだった場合、時効で解決するか相続放棄にするか悩ましい選択になります。

まずは相続放棄を検討しよう

自分の借金ならば何社から借りていたかは把握している場合が多いでしょう。しかし、親族といえども他人の借金の場合、見つかった請求書で全部かどうかは分かりません。ひょっとしたら遅れて他の請求書が届くかもしれません。

この不安を解消するためには相続放棄の方が適していると言えるでしょう。相続放棄ならば1回認められれば、後から届いた借金にも通用します。ですからまずは相続放棄ができないかを検討するべきでしょう。

相続放棄では難しい場合

しかし相続放棄は難しい場合があります。代表的なのはプラスの財産が、そこそこある場合です。相続放棄はプラスの財産も含めて放棄しなければなりません。どうしても相続したい財産がある時は相続放棄は利用できないことになります。

もう一つは死亡してから3ヶ月以上経過している時です。相続放棄は3ヶ月という期限があるので、これを過ぎている場合は検討する必要があります。ただし3ヶ月を過ぎていても正当な理由があれば認められることも多いので、プラスの財産がある場合に比べれば利用できないとは言い切れません。判断が難しいケースなので相続放棄に詳しい専門家に相談した方が良いでしょう。

消滅時効で解決する場合

相続放棄が利用できない時は、次に消滅時効での解決を考えましょう。消滅時効は届いた業者ごとに通知を出す必要ありますので、他に借金が見つかった場合は、その都度手続をすることになります。この点は相続放棄よりも手間がかかりますね。あと全ての借金が時効になっているとは限りませんので、時効になっていない借金については支払わなくてはなりません。

他に重要な注意点としては、「時効援用通知は相続人の数だけ出す必要がある」という点です。例えば相続人が3人だったとすると、3人それぞれから通知を出さないと、出さなかった相続人には借金の請求が行くことになります。これは誤解されている方が多いので覚えておきましょう。

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相続放棄

10月 05 2023

陳述書による相続放棄 相続放棄⑲

死亡から3カ月を超えた相続放棄

被相続人の死亡から3カ月を超えてしまった場合、裁判所は簡単には相続放棄を認めてくれません。法律には「知った時から」と書かれていますが、いつ知ったのかを客観的に証明する必要が出てくるからです。

後から知らなかった借金の請求が来た場合

この時、後から知らなかった借金の請求が来た場合は、比較的証明がしやすいケースです。日付の入った借金の請求書が有力な証拠となるからです。

しかし、相続放棄したい理由が借金ではなく、例えば田舎の壊れかけた不動産を解体費用が売却価格を上回るから相続したくないという理由だったらどうでしょう。3ヶ月を超えてしまった場合、知った時を証明するのが難しいとは思いませんか。

知らせてくれた人の陳述書を提出する

このような事例で、被相続人の死亡を知らせてくれた人の陳述書を提出して、家庭裁判所の審査を通したことがあります。もちろん死亡を知らせてもらってから3ヶ月以内だったケースです(死亡日からは3カ月を過ぎていた)。

陳述書とは当事者または関係者が該当する事件について知っていることを書き記した書面のことです。法律専門家が関与している事件では、専門家が聞き取ってその内容を整理して記述するのが一般的です。

他に「知った時」を証明する証拠が無かったので、陳述書と言う証拠を使いました。しかし、陳述書は主観的なものなので、客観的な証拠に比べると弱い部分があります。正直、審査が通るかどうかは賭けでした。結果的に成功しましたが、もし客観的な証拠があるならば、そちらを優先して使うべきだと思います。

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相続放棄

9月 04 2023

亡くなった親族の税金の通知が届いたら 相続放棄⑱

亡くなった親族の税金の通知

亡くなった親族名義の税金の通知が役所から届くことがあります。だいたい2つのパターンがあって一つは住民税などの未払い分の請求、もう一つは固定資産税の今後の支払い先を決める通知です。

未払いの税金があるということは、生活が苦しかったことが想像されます。従って他にも借金がある可能性を考えるべきでしょう。気になる場合は相続放棄を検討するケースです。

一方、固定資産税の支払先を決める通知ですが、他にも優先順位の高い相続人がいたにもかかわらず届いた場合は注意が必要です。なぜなら通常は相続する不動産を相続しなかったことになるからです。恐らく優先順位の高い相続人が相続放棄を既にしている可能性が高いでしょう。そして相続放棄をしたということは不動産価値を上回る借金があったと考えるのが自然でしょう。これも相続放棄を検討する有力なケースです。

注意すべきは兄弟姉妹や甥姪

上記のようなケースで注意すべきなのは、亡くなった親族から見て兄弟姉妹や甥姪に通知が届いた場合です。この場合ほとんど連絡を取っていなくて、亡くなった親族の状況がまるで分らないというケースが珍しくないからです。
特に警戒すべきなのは子供がいるのに届いた場合です。子供は法定相続の第一順位ですから、順当に相続すれば兄弟姉妹や甥姪に通知が届くことはありません。届いた時点で、「借金の方が多くて子供が相続放棄をしたのだろう」と考えるべきでしょう。

離婚した親が亡くなった場合も注意

例えば、離婚後に母親に引き取られて暮らしていた時に、父親が亡くなって子供に通知が届くケースも要注意です。
離婚していると疎遠になって相手の状況が全く分からないということも珍しくありません(実際にそのような相談は少なくないです)。特に離婚の原因が借金だったりすると危険性は一気に増します。
親が離婚していても親子関係は切れません。離れてしまった親が借金を残して亡くなった時には子供が相続してしまう危険性があるのです。この場合も相続放棄を検討すべきでしょう。

相続放棄はいつまでにすべきか

相続放棄は3ヶ月以内とされています。しかし上記のようなケースだと、亡くなった親族の財産状況は分からないことが多いです。離れて暮らしている場合、家庭裁判所は割と広く期間を考えてくれる傾向があります(もちろん、きちんとした説明を裁判所にしていく必要はありますが)。
このような場合、税金の通知に記載されている日付から3ヶ月以内ならば認められる可能性が高いと思います。

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https://www.hashiho.com/inherit/renounce

1月 13 2023

未成年の相続放棄 相続放棄⑰

借金の相続人が未成年だった場合

親が借金を残して亡くなった時、子どもが未成年だった場合はどうなるのでしょうか。まずは相続放棄を検討することになるでしょう。

しかし未成年の相続放棄は通常の相続放棄とは異なる点がいくつかあります。そこで今回は未成年の相続放棄について説明したいと思います。

親が法定代理人になれるとは限らない

未成年は法律行為を単独ですることはできません。法定代理人が必要になります。そして、通常は親が未成年の子の法定代理人になります。

しかし、相続放棄の場合は親が法定代理人になれるとは限りません。例えば以下のようなケースでは親が未成年の子の法定代理人になることができません。

・父と母と子1人の家族で、子が未成年のうちに父が亡くなった。この時に子だけが相続放棄をして、母が相続放棄をしない場合

このケースで母親が法定代理人になれない理由は、母と子の関係が利益相反になっているからです。

利益相反とは

利益相反について先ほどの例で説明しましょう。もし母親が子の法定代理人になったとすると、母親が子の相続権を故意に放棄させて、母親自身の相続分を増やそうとする恐れがあります。このように利害がぶつかる関係のことを法律用語で利益相反と呼びます。

ここで一つ次のような疑問が生まれます。「相続放棄をするからには借金の方が多いのだろう。だったら、母親が子の代理で相続放棄をしても母親の借金が増えるだけで利益相反にはならないのでは」という疑問です。

確かにこれは納得できる疑問ですが、利益相反には「実質ではなく外見で決める」というルールがあるのです。例え実質は借金であっても、外見上、子を代理することによって母親の相続分を増やしているのは間違いないので、法律上は禁止されているのです。

親が代理できる場合

では先ほどの例で母親が代理できるのは、どのような場合でしょうか。それは以下のような場合です。

・まず母親が相続放棄をして、それが終了してから子の相続放棄をする
母親が先に相続放棄をすれば相続人ではなくなります。その後なら利益相反にはなりません。

・母親と子が同時に相続放棄をする
相続放棄の申述書を母親と子が同時に家庭裁判所に出せば、利益相反の問題は起こりません。

親が離婚していた場合

先ほどの例で親が離婚していた場合は、どうなるのでしょう。これは、どちらの親が親権を持っているかで、やり方が変わります。

母親が親権を持っていた場合
離婚しているので母親は相続人ではありません。よって利益相反の問題は起こりません。親権に従って母親が子の法定代理人となって相続放棄をすることになります。

父親が親権を持っていた場合
これは少しややこしくなります。父親が親権を持っていた場合、亡くなったからと言って自動的に母親に親権が移ることはありません。

しかし、それだと未成年の子の代理人がいなくなってしまいます。このような時のために設けられた制度が「親権者変更の申立」です。この制度によって正式に親権者を母親に移してから母親が代理人になって子の相続放棄をします。

ただ、親権者の変更が必ず認められる訳ではありません。認められない場合は未成年後見人という制度があります。未成年後見人を家庭裁判所に選任してもらって、子の代理人として相続放棄をすることになります。

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8月 24 2020

富山家裁は回答書が不要 相続放棄⑯

相続放棄の回答書とは

相続放棄の申立てをすると、一般的には申立て後しばらくすると回答書という書類が家庭裁判所から郵送されてきます。これは本人の最終意思を確認するという目的で送られるもので、本人が直筆で回答して署名押印してから家裁に返送するというスタイルになっています。

相続放棄の回答書が送られる理由

相続放棄はやり直しがきかない手続です。相続放棄をした後で「気が変わったので、やっぱりやめます」とは言えません。相続放棄の撤回は法律上、認められていないのです。
例外的に取り消しが認められる場合もありますが、極めてハードルが高く非常に難しいのが現実です。
ですから、回答書で再び本人の意思確認をして、「本当に相続放棄をして大丈夫ですね」と念を押しているのです。

回答書の内容

回答書の質問事項は家庭裁判所によって異なります。よくある質問としては以下のようなものがあります。

    「あなたは自分の意志で相続放棄の申立てをしたのか」
    誰かに強制されて相続放棄をしたのではないという確認ですね。
    「あなたが被相続人の死亡を知ったのはいつか」
    熟慮期間(3カ月)をいつから計算するかに関する質問です。この日付が死亡日から3カ月以上経っていた場合は、別途説明が求められます。
    「あなたは、どういう理由で相続放棄をしたのか」
    債務超過と言う理由が圧倒的に多いと思いますが、亡くなった親族と疎遠でもらうつもりが無いという回答もあります。

これらが代表的な質問ですが、家裁によって質問が多いところや少ないところ色々です。

(マメ知識)
債務超過とは、マイナスの財産(借金)の方がプラスの財産よりも多い状態のことを言います。相続放棄のほとんどの理由は債務超過でしょう。

ほとんどの家裁で回答書が届く

私の事務所でも全国色々な家庭裁判所に相続放棄の申立てをしましたが、ほとんどの家裁で回答書は郵送されてきます(質問の内容は異なりますが)。
しかし、富山家庭裁判所高岡支部に相続放棄の申立てをしたところ、回答書が郵送されずに、いきなり相続放棄申述受理通知書が届きました。ようするに他の家裁よりも短期間に手続が終了するのです。

(マメ知識)
相続放棄の申立(申述)は被相続人(故人)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出しなければなりません。相続人の住所地ではないので注意しましょう。

富山家裁高岡支部は例外的だと思う

相続放棄の回答書は、後で撤回ができない手続なので最終の意思確認として送っているという理由があります。従って、「回答書を送らない」という富山家裁高岡支部の取り扱いは例外的で珍しいと言えます。
早くに手続が終了するというメリットはありますが、やり直しがきかない手続きであるため、より慎重になる必要があります。
しかし、どこの家裁に出すかは法律で決まっているので、富山家裁高岡支部管轄の地域で亡くなった方の相続人の相続放棄には、こういう特徴があると覚えておいた方が良いでしょう。

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相続放棄

6月 26 2020

アパートの家財道具の処分を大家に頼まれたら 相続放棄⑮

亡くなった親族が賃貸アパートに住んでいた場合、その親族が部屋に残してあった家財道具(専門用語で残置物と言います)の処分を大家さんに頼まれることがよくあります。
しかし、相続人が相続放棄を考えている時は処分について注意が必要です。詳しく説明しましょう。

相続放棄をするには、全ての財産について相続してはいけない

相続放棄は借金を相続しないための手段として使われることが多い手続です。そのため借金にばかり焦点があたりがちですが、プラスの財産も相続することができません。もしプラスの財産を相続してしまったら「単純承認」とみなされ、後で相続放棄をすることができなくなります。(単純承認とは、プラスもマイナスも含めた全ての財産を相続することです。)

一度、単純承認すると後から撤回できない

ここで重要なのが「一度、単純承認してしまうと後から撤回することができない」ということです。例えば、プラスの財産を一旦相続してから、後で相続した財産と同じ金額を返還したとしても、単純承認した事実は変わらないということです。
少しでも借金の方が多くなる可能性があるならば、単純承認しないように気を付ける必要があります。

家財道具(残置物)はプラスの財産になるのか

では亡くなった親族が賃貸アパートに残した家財道具はプラスの財産になるのか、という点が問題になります。これを判断するのに重要なのが、家財道具に価値があるのかどうかです。例え低額でも価値がある場合はプラスの財産になると考えられます。

交換価値がある家財道具(残置物)は処分できない

注意すべきポイントは、「捨ててしまうのなら相続にはならないんじゃないか」という思い込みについてです。非常に多くの人が誤解していますが、価値のあるものは相続しないと処分できません。つまり「捨てる(処分する)」という行為は、価値があるものについては相続したことと同じになってしまうのです。そうなれば単純承認とみなされ相続放棄ができなくなる可能性があります。

一括で廃品業者に引き取ってもらうのは危険

大家さんに「残った家財道具を片付けてくれ」と頼まれて、廃品業者に一括で引き取ってもらうというのは誰もが考える方法だと思いますが、相続放棄を検討している場合は気を付けなければなりません。もし、その中に低額でも価値があるものが含まれていた場合、処分行為イコール単純承認とみなされてしまうかもしれません。

これを防ぐためには、処分する前に全ての家財道具について、きちんと査定してもらって、「価値が無い」という証明書を取っておくことです。価値が無ければゴミと同じですから処分しても単純承認にはなりません。

価値があるものが含まれている場合

残された家財道具の中に価値があるものが含まれている場合は難しい対応になります。価値があるものは処分できませんから、相続人の家に引き取るか、倉庫でも借りて保管することになります。
相続放棄をしない相続人がいる場合は、その相続人に後の処理は全て任せるのが正解です。相続放棄をする相続人は、なるべくかかわらないようにするべきです。

相続財産管理人を選任してもらう

未払いの賃料がある時で、相続人が保管することもできないし、全ての相続人が相続放棄をする場合は、大家さんに「相続財産管理人を家庭裁判所で選任してもらってください」と言うしかないでしょう。
全ての相続人が相続放棄をして相続人がいなくなった場合、債権者(未払い賃料がある場合は大家さんも債権者の一人です)は家庭裁判所に相続財産管理人を選任してもらうことができます。
相続財産管理人に残された家財道具を処分してもらえば最も合法的な対応になります。

ただし、この方法にも欠点があります。それは費用と時間がものすごくかかるということです。この負担を大家さんが嫌がって話が進まないということは良くあります。

放置するしかない場合もある

相続人全員が相続放棄をして、誰も保管する人がいなくて、更に大家さんも「片付けてくれ」と言うだけで何もしない場合、放置するしかない時もあります。

もちろん心情的には「放置するのは悪い気がする」と感じる人は多いでしょう。しかし、下手にかかわることで相続放棄ができなくなったら、それこそ大変です。

相続放棄の法的効果は「最初から相続人ではなかったものとみなす」ですから、「私は相続放棄をする(あるいはした)ので、処分行為にあたる家財道具の片づけはできません」と断るしかないでしょう。大家さんとの関係は悪くなるかもしれませんが、法律で決められている以上、仕方がありません。

亡くなった親族の残された財産には気を付けよう

このように相続放棄を考えている場合は、亡くなった親族の残された財産には気を付ける必要があります。家財道具以外でも、例えば自動車があった場合は、勝手に廃車にするのは危険です。必ず事前に査定をして、値段が付くようならば家財道具と同様の選択になります。

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