司法書士ジャーナル
橋本司法書士事務所ブログ

1月 12 2023

消滅時効と裁判 時効(114)

10:19 AM 時効

時効と裁判について

最近は以前のように放置せずに、積極的に裁判をしかけてくる業者が増えてきています。時効援用通知が出されるケースが増加して、業者も対策を立てざるを得なくなったのでしょう。時効の相談も裁判に関するものが増えています。

そこで、時効と裁判について整理してみたいと思います。

最近、訴えられたケース

まずは最近に訴えられて、まだ裁判が終わっていないケースです。

この場合、最初に検討するのは過去5年以内に取引があるかどうかです。取引とは借入または返済です。

過去5年以内に取引があれば、時効で裁判に勝つことはできません。支払うか、または自己破産などを検討することになります。

一方、訴えられた時点で5年以上取引が無い場合は、裁判に勝つことが可能です。裁判が終わる前に専門家に相談しましょう。

裁判が終わってしまったケース・・・通常訴訟の場合

では訴えられても放置して裁判が終わってしまった場合は、どうなるのでしょうか。実は、これに当てはまる相談が昨年から非常に増えています。複雑なので一つ一つ順を追って説明していきましょう。

まずは裁判が通常訴訟の場合を検討します。通常訴訟はタイトルが「訴状」と書かれた書面が届きます。事件番号に書かれた記号が(ハ)になっているのが特徴です。

通常訴訟は裁判が終わると「判決書」が届きます。判決書を受け取ってから2週間以上が経ってしまうと判決が確定します。

確定とは「判決の内容をひっくり返すことができなくなる」ことだと考えてください。従って判決が確定したら支払うか自己破産を検討することになります。

ただし判決が確定してから10年経過すると再び時効になります。裁判後は時効期間が10年に延長されるからです。

一方、判決書を受け取ってから2週間以内ならば勝てる可能性はあります。控訴と言って、もう一度裁判をすることができるからです。

訴えられた日付から過去にさかのぼって5年以上取引が無い場合は、2回目の裁判で時効の主張をして裁判をひっくり返せる見込みがあります(実際にひっくり返して勝ったことが何回かあります)。ただし2週間しか時間が無いので急ぐことが重要となります。

裁判が終わってしまったケース・・・支払督促の場合

次に裁判が終わってしまった場合で、支払督促だったケースを考えてみましょう。支払督促は届いた書類のタイトルが「支払督促」と書かれています。事件番号の記号は(ロ)になります。

支払督促は通常訴訟の場合とは異なり、結果に既判力がありません。既判力とは法律用語ですが、「同じ内容では再び裁判をすることが許されない」というルールのことです。

通常訴訟の判決は既判力がありますので、確定したら再び裁判で争うことはできません。一方、支払督促は既判力が無いので、結果が出た後でもひっくり返すことが可能です。

従って支払督促の場合は、申し立てられた日付から過去にさかのぼって5年以上取引が無い場合は、例え裁判が終わっていても消滅時効で解決することが可能です。ただし裁判に慣れていない司法書士だと、このことに気づかないケースがありますので注意しましょう。

差押をされた場合

「預貯金や給料の差押(強制執行)をされてしまった」という相談が最近増えています。まず覚えておいて頂きたいのは、「差押の前に必ず裁判をされている」という事実です。

よく「いきなり差押をされた」とか「裁判をされた記憶が無い」という相談がありますが、法律では「差押をするには、まず裁判をしなければならない」というルールがあります。

(例外として執行証書がありますが、貸金業者が執行証書を取るケースは、今まで聞いたことがありませんから無視して良いと思います)

ですから、たとえ気づいていなくても差押の前に裁判はされていると思ってください。

差押の前に通常訴訟をされていた場合

差押えの前に通常訴訟をされていた時は、判決が確定した後と考えて、ほぼ間違いないでしょう。この場合は裁判のやり直しはできませんので、判決どおりに支払うか、自己破産を検討することになります。

見分ける方法としては、裁判所から届いた強制執行の書類の中に「請求債権目録」と言う書面がありますので見つけてください。そこに請求の原因となっている裁判の事件番号が書かれています。その事件番号の記号が(ハ)ならば通常訴訟になります。

あと事件番号の年数が10年以上前だった場合は、再び時効になっている可能性がありますので、その時は時効援用通知の発送を検討しましょう。

差押の前に支払督促をされていた場合

差押の前に支払督促をされていた時は、先ほど説明したように支払督促には既判力がありませんので、時効で解決できる可能性があります。ただし、支払督促の申立日から過去にさかのぼって5年以上取引が無い場合に限ります。

あと支払督促の事件番号の年数が10年以上前だった場合も、時効になっている可能性があります。

専門家の判断

消滅時効と裁判の関係を説明してきましたが色々なパターンがあり、かなり複雑です。どれに当てはまるかを正確に判断するのは難しいので、やはり専門家に判断してもらうのが安全でしょう。

時効の可能性がある場合の判断表

訴状
事件番号(ハ)
支払督促
事件番号(ロ)
最近訴えられて裁判中過去5年以内に取引が無い過去5年以内に取引が無い
過去に訴えられて裁判が終了判決書を受け取って2週間以内で、申し立てられた日付から過去5年以内に取引が無い申し立てられた日付から過去5年以内に取引が無い
訴えられた後、差押を受けた判決通り支払うか、自己破産などを検討
(判決確定後、10年経過で再び時効の可能性有)
支払督促の申立日から過去5年以内に取引が無い

※上記の表以外にも、いろいろなケースがあります。詳しい判断は、専門家に相談してください。

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