司法書士ジャーナル
橋本司法書士事務所ブログ

7月 04 2011

裁判所の特徴① 一般論

一般の人は同じ種類の事件ならば、全国どこの裁判所でも同じ判決が出るんだろうと思いがちですが(私も法律家になる前は、そう思っていました)、ところが実態は全く違います。裁判所とは極めて特殊な役所で同じ種類の事件でも裁判所によって、もっと正確に言うと一人一人の裁判官によって異なる判決が出ることが珍しくありません。(信じられないかもしれませんが同じ裁判所であっても、異なる裁判官に当たると違う判決が出たりする訳です)

裁判所の、この特徴が一般の人にはなかなか分かりにくいらしく相談の時に、「この事件の結果を保証できますか。」という質問になりやすいのです。

しかしながら、この質問には、法律的な争点(法律的な解釈において相手方と意見が違うこと。例えば「借金を完済しているかどうか」で争いになった場合は、事実が正しいかどうかという問題なので、法律的な争点とは言いません)のありそうな事件の場合は、「保証はできません」というのが真実なのです。何故なら、先ほども説明したように、裁判官によって判断が異なるのが珍しくないのが裁判というものだからです。

もっとも、極めて単純で法律的な争点があまりなく、証拠が完璧に揃っている場合は、どこの裁判所でも、だいたい同じ判決が出ると考えて良いでしょう。代表的なのは、借主の署名・押印のある借用証書が存在している場合の貸金請求訴訟などです。これはもう圧倒的に貸している側が勝ちます。(だからこそ、借金の時には貸主は借用書を作るのです)

では法律的な争点が存在する単純ではない事件にもかかわらず、割と結果が予測できる事件とは何かと言うと最高裁判所で争点について判決が出たものと同じ種類の事件ということになります。最高裁判所の判断には全国の裁判所が影響を受けますので、割と正確な回答ができます。

実は過払金請求事件も最高裁判所で判決が出るまでは必ず勝てるとは言えない裁判でした。「みなし弁済」が成立するか、しないかは大きな争点だったのです。従って、その頃は過払金請求などを行なう法律家は少数派だったのです。(私の事務所では、その頃から過払金請求を扱っていましたが、当時は扱っている事務所は本当に少なかったです)

ところが最高裁判所で貸金業法43条の「みなし弁済」を一切認めないという判決が出るや否や、過払金訴訟は出せば必ず勝てる裁判になり、その後、雨後のたけのこのように過払金を取り扱う事務所が増加していったのは、ご存知のとおりです。

ここで言いたいのは、最高裁判所の判断が出ていない法律的な争点がある事件に関しては、いかなる腕利きの弁護士や司法書士といえども、裁判の結果を保証することは出来ないということです。(もし保証している法律家がいたとしたら、それは非常に怪しいと考えて良いでしょう) この部分は一般の人には非常に理解しにくいようなので繰り返し伝えたいと思います。

また一つ一つの裁判所が独立事業体のようになっているのも他の役所と大きく異なっている部分です。要は、裁判所によって、いろいろな事務の取り扱いが異なっているのが珍しくないのです。事務の取り扱いなど統一した方が効率的ではないかと私などは思うのですが、実際には驚くほど独自のルールで運用されているのが実状です。それこそ、同じ過払金請求訴訟でありながら使用する切手の金額が裁判所によって違っていたりするのです。

従って、裁判所の特徴やクセのようなものが存在するので、そういうことに詳しい法律家に依頼することも選択する場合の重要な決め手になるでしょう。