司法書士ジャーナル
橋本司法書士事務所ブログ

7月 11 2011

裁判所の特徴② 簡易裁判所と地方裁判所

過払金請求訴訟などで最もよく登場するのが簡易裁判所です。でも、テレビや映画などの法廷シーンで良く見るのは地方裁判所の方でしょう。では、この違いはと言われた場合、一般の人は結構、知らないのではないでしょうか。今回は、この疑問にお答えする為、簡易裁判所と地方裁判所の違いについて取り上げます。(今回、取り上げるのは民事事件についてです)

最も簡単に言うと、簡易裁判所は金額の低い事件、地方裁判所は金額の高い事件を担当します。では、金額の高い低いは何を基準に決めるのかと言えば、一つの事件につき140万円が区分けのラインになっています。

140万円以内ならば簡易裁判所の事件、140万円を1円でも越えると地方裁判所の事件として扱われます。これは一事件あたりの金額なので、例えば過払金訴訟の場合は業者ごとに判断されます。Aさんが甲・乙・丙と3社から借りていて、3社とも過払いが発生していた場合、それぞれ3件の事件として裁判所に申し立てます。過払金が甲は50万円、乙が80万円、丙が150万円だった場合、甲と乙に対する訴訟は簡易裁判所に申し立て、丙に対する訴訟は地方裁判所に申し立てることになります。(たまに一部の弁護士が3社の合計額で判断するようなことを言っている場合がありますが、それは明らかにおかしいですね。そもそも裁判所が、そのような取り扱いをしていません)

地方裁判所は各都道府県に1箇所ずつ置かれています。支部も合わせると、もう少し多くなります。例えば、愛知県だと名古屋地方裁判所が一つあるだけですが、名古屋地裁の支部は、一宮支部、半田支部、岡崎支部、豊橋支部と4箇所ありますので、本庁と合わせると5箇所あることになります。

一方、簡易裁判所は全国に400箇所以上設置されており、非常に数が多いのが特徴です。これだけ数が多いと住んでいる場所の割と近くに一つは簡易裁判所がある計算になります。(ほとんどの人は、かかわりが無い為、近くにある簡易裁判所の存在を知らないでしょう)何故、これだけ数が多いのかと言うと、いわゆる業者事件と言われるものが、ほとんどが140万円以内だからです。

業者事件とは、裁判の中でダントツで数が多い事件で、消費者金融、クレジット会社、携帯電話会社などが滞納された未払いの貸金や商品の分割金、携帯の通話料などを請求する事件のことです。簡易裁判所に行って1日、傍聴席に座ってみれば分かりますが(傍聴は誰でも自由です)、びっくりするほど、入れ替わりたちかわり、金融業者の担当、クレジット会社の担当、携帯会社の担当が現れて原告席に座っています。

これらの業者訴訟は証拠も揃っていますし、滞納の事実も相手方が否定しませんので数は多いですが、もめることは余りありません。ただ数が多いので、事務手続きは膨大な量になるでしょう。

それに加えて最近、急激に増えてきたのが過払金訴訟です。過払金訴訟の8割から9割が簡易裁判所の管轄になりますから、地方裁判所に回る事件は少数派です。たまに過払金訴訟が増加して裁判所が人員不足で困っているということが言われますが、圧倒的に簡易裁判所に持ち込まれる数が多い訳ですから、地方裁判所が同じことを言うのは何だか違う気が私はします。

あと、債務整理に関して言えば、特定調停は簡易裁判所限定の制度です。ここは分かりにくい部分かもしれませんが、特定調停に関しては金額に関係なく簡易裁判所で行われます。300万円でも500万円でも特定調停ならば簡易裁判所になるのです。一方、過払金請求訴訟の場合は、先ほど説明したとおり、過払金の金額によって簡易裁判所か地方裁判所に分かれます。この場合の金額は過払金の元金のことで利息は含まれません。例えば、過払金元金が130万円で過払利息が20万円だとします。合計で150万円で140万円を超えてしまいますが、元金が140万円以内なので、この訴訟は簡易裁判所になります。

他には、自己破産と個人再生については金額に関係なく全て地方裁判所の扱いになります。ただし破産と再生を扱うのは地方裁判所と言っても過払金訴訟を扱うところとは違う部署になります。過払金訴訟を扱うのは民事部あるいは民事訴訟部というところですが、破産や再生は民事執行部というところが扱うのが一般的です。民事執行部は通常の民事部からは独立していることが多く(名古屋の場合は建物が別です)、専門部署のようなところです。ここは破産・再生の他、各種差押などの手続を行っています。判決を取っても過払金を支払わない業者に対して差押をしたい時なども、この部署のお世話になるわけです。