司法書士ジャーナル
橋本司法書士事務所ブログ

11月 05 2012

司法書士の代理権の範囲

土曜日に司法書士会主催の研修に行って来ました。今回の研修は、「司法書士の代理権の範囲について」というものです。平成15年から司法書士の簡裁代理権が認められ、簡易裁判所の案件に関しては弁護士と同等の権利が行使できるようになりました。それから10年あまり経って、当初は予想していなかった弁護士側からの反論が出てきたので、最近、もめているのです。(裁判で争われている事例もあります)

私の感覚では、ロースクールの登場により、弁護士が大量増員されて、「食えない弁護士」が特に首都圏や関西圏などで無視できないほどに発生した結果、自分たちの領域を守ることに弁護士側が今まで以上に敏感になっている、というのが真相ではないかと思います。(ようは、弁護士が今までと同じように食べていけていたら、恐らく問題は起きていないのではないか、という印象です)

このような動機が疑われるせいなのか、弁護士側の主張は、「ちょっと客観的に見て、強引じゃないかなあ」と思える事例が多いように感じます。私は弁護士と司法書士は敵対関係ではなくて、補完関係であるべきだと考えますので、職域の問題で司法書士を訴えてくる弁護士に対しては、少なからず疑問を感じます。

例えば、よく弁護士事務所のホームページに書かれている「司法書士は全ての債権者を含めた総額で140万円を超えたら債務整理が出来ません。だから、弁護士にお任せ下さい」という文言ですが、こんなこと言い切っていいのかなあ、と思います。

実際には、上記の基準で債務整理を行っている司法書士はいないと思います。これは、別に規則を守っていない訳ではなくて、「そんな基準は、どこにも書いていないのであって、弁護士会が勝手に言っていること」だからです。まあ、弁護士側の主張ということになります。

どこにも書かれていないからこそ、弁護士は訴訟をやってきて、判決を取って、「どうだ判決に書かれているじゃないか。だから、ダメなんだ。」とやりたい訳なんですね。まあ、最終的に弁護士が狙っているのは、最高裁判決を取って、規則自体を変えさせようということなんでしょう。(最高裁判決は法改正の圧力になりますから)

当然、司法書士側にも主張があって、債務整理の金額とは、個別の債権者ごとに判断されるべきもので、個別に140万円以内であれば問題なく司法書士の代理権の範囲であるというものです。何故なら、実際に裁判に持ち込まれた時には、裁判所は個別の債権者ごとに金額の範囲を決めるからです。現実に裁判所が、そのような取り扱いをしていて、それで司法書士が裁判所から拒否されたという事例を私は聞いたことがありません。

この総額か個別かという論争は、和歌山地裁で争われて既に判決が出ています。この和歌山地裁判決では、明確に「代理権の範囲は、個別に金額を判断するべき」と判断されました。司法書士側の主張が認められたことになりますね。

ただ、この件は大阪高裁に控訴されて再び争われています。こちらは、まだ判決は出ていません。弁護士も、しつこく争ってきますね。

ただ、大阪高裁は平成21年に、別の論点で弁護士と司法書士が争った時に、両者引き分けと呼べるような判決を下しています。簡単に説明すると、「今回の司法書士の執務は弁護士の主張から言うと違法になる可能性があるが、当の司法書士には適法だと信じるだけの理由があるので、違法とは言い切れない」というものです。

まあ、完全に適法だと言っていない点で、司法書士が勝ったとも言えないし、弁護士が勝ったとも言えないという、どちらかと言うと裁判所が判断を避けたという感じの判決でした。裁判所からしてみれば、こんな職域争いを裁判所に持ち込むなという気持ちなんじゃないかと想像していますが、いかがでしょう。

私の意見としては、誰が見ても明らかな違法行為ならともかく、裁判所が判断を避けるような微妙な問題に対してまで、こんな争いを続けるのは不毛じゃないでしょうか。もちろん弁護士側が訴えてきているものが100%なので、訴えられた以上は司法書士も対応しない訳にはいかないでしょう。ですから、この問題は、弁護士側が止めない限り今度も続く訳です。(最高裁判決が出れば終わるでしょうが、その後も、また別の論点でやってくるような気がします)

私には個人的に知り合いの弁護士もいますし、個別には司法書士に協力的な人も知っています。しかし、弁護士会という組織になってしまうと一種の圧力団体のような行動を取ってしまうようです。だとしても、せめて争う必要のないような明らかな弁護士法違反などに限定してもらいたいと、つくづく思います。