司法書士ジャーナル<相続>
橋本司法書士事務所ブログ

2月 07 2025

信託契約公正証書は代理人でもできるか 家族信託(民事信託)㉙

家族信託の委託者が高齢で代理人の相談を受けるケースが多い

家族信託の公正証書作成を検討される場合、一般的に委託者が高齢で将来の認知症などのリスクを考えてのケースが多いです。すると次に相談されるのは「委託者が高齢なので司法書士の先生が代わりに公証役場に行ってもらえないか」という頼みです。

実際に公正証書の多くは代理人でも作成可能なので、そう考えてしまう事情は分かりますが残念ながら信託契約公正証書については、この頼みには応じることができないのです。

公証人が代理人を認めないことが多い

信託契約公正証書の場合、まず公証人が代理人を認めないことが多いです。理由は「管理のための財産の移転を伴うので、本人が契約の内容を理解した上で、自分の意思で契約しようとしているかを確認する」ためです。

特に契約の当事者が高齢の場合はなおさら厳しくなります。高齢であるということは認知症のリスクがある訳ですから、本人の意思とは無関係に契約をされていないかを公証人が疑うのです。

家族信託の当事者が遠方にいる場合

家族信託の契約当事者は委託者と受託者です(受益者は契約当事者ではありません)。中には委託者と受託者の住まいが、かなり離れている場合があります。例えば、私が相談を受けた事例の中には委託者が北海道で受託者が愛知県というケースがありました。この場合、作成する公証役場は北海道にするのか愛知県にするのかという問題があります。

家族信託の委託者の出頭は必須

これだけ離れていると、当事者のどちらかを委任状による代理出頭で行うという要望も、通常よりは公証人に認めてもらいやすくなります。ただしそんな場合でも公証人は、委託者の出頭については代理を認めませんでした。委託者は自分の財産を受託者に預ける側であり、高齢であることも一般的で(事実、高齢でした)必ず本人に直接会う必要があると判断されたのです。

公証人の立場ならば納得できる言い分でした。従って、愛知県で行うことはできず、代理でやるならば北海道で作成することになります。

家族信託の委託者の代理人契約が金融機関に拒否された事例

東京地方裁判所で令和3年に次のような判決が出ました。
依頼を受けた司法書士が委託者の代理人として公証役場に出頭して信託契約公正証書を作成した後、その公正証書を信託口口座開設のために金融機関に持参したところ拒否された、と言う事例です。判決では司法書士に対してリスク説明義務違反の不法行為責任を認めています。

この事例から分かることは少なくとも委託者については、代理で信託契約公正証書を作成した場合は金融機関で信託口口座を開設できない可能性が高い、ということです。ただ私の個人的な意見としては、そもそも公証人が拒否していればこのようなことは起こらなかったのではないかということです。この事例のように考え方の甘い公証人も中にはいるようなので注意が必要です。

信託契約公正証書には遺言の機能が含まれている

依頼された信託契約のほとんどに遺言の機能が含まれています。委託者兼受益者が死亡したら信託契約が終了して、特定の相続人に信託財産を承継させるという規定を入れることで遺言書の作成が不要になるからです。つまり、信託契約公正証書を作成することは事実上、遺言公正証書を作成することと変わらないと言えます。

遺言公正証書の作成には本人が公証人に口述することは必須です。病気で公証役場に行けない時は、公証人に病院や介護施設に出張してもらって作成します。だとすると、遺言と同様の機能を持っている信託契約公正証書も当事者(特に委託者)の出頭は必須と考えるのが自然でしょう。

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