司法書士ジャーナル<相続>
橋本司法書士事務所ブログ

9月 27th, 2021

9月 27 2021

認知症患者の口座からの親族による引き出し 成年後見⑨

認知症の最大の問題は口座の凍結

家族が認知症になった時、最も大きな問題は、認知症になった家族の名義の口座が凍結されてしまうことです。

凍結されると預貯金が全く引き出せなくなってしまいます。昨年(令和2年)までは認知症患者の親族であっても引き出せず大きな問題となっていました。どうしても引き出したい場合は、家庭裁判所で成年後見人を選任するしかないという状況でした。

しかし今年(令和3年)に入って、この仕組みが変わることになりました。この記事では何が今までと違うのかについて詳しく説明していきたいと思います。

成年後見人の問題点

実は成年後見制度には様々な問題点があり、利用をためらう親族が多いのが現状なのです。例えば以下のような問題点があります。

  1. 選任手続に費用と手間がかかる
  2. 家庭裁判所で成年後見人を選任してもらうのに費用と手間がかかります。手間を省くために専門家に選任手続を依頼した場合、追加費用がかかります。

  3. 親族が成年後見人になれないケースが多い
  4. 従来の取り扱いでは、候補者に親族の氏名を書いても専門家が選任されるケースが多かったです。ただし、この取り扱いが利用を妨げているという反省があり、今後は親族を積極的に成年後見人に選任するという方向に変えると最高裁判所から発表がありました。

  5. 選任後に専門家の報酬がかかる
  6. 誰を成年後見人に選任するかは裁判所が決めるので、親族が選任されない可能性は常にあります。その場合、専門家が選任されますが、そうなると毎月の専門家の報酬が発生します。
    専門家の報酬は認知症患者の財産から支払われますので、財産が毎月減っていくことになります。成年後見人の任期は認知症患者が亡くなるまで続きますので、合計すると相当な金額が財産から支払われる可能性があります。

  7. 一度決まった成年後見人は変更できない
  8. 成年後見人には変更の仕組みが基本的にありません。一度、家庭裁判所で決まったら、どれだけ親族が気に入らなくても変えてもらうことはできないのです。そして、認知症患者が亡くなるまで選任は続きます。最近は親族が選ばれる確率が高くはなりましたが、それでも100%ではありません。全然知らない専門家が選ばれるリスクは常にあるのです。

全国銀行協会の新たな指針

このように家族が認知症になってしまったが、様々な問題があるために成年後見制度は利用したくないという人が増えた結果、口座が凍結されたままになっているケースが増えてしまいました。銀行としても凍結されたままの口座が増加するのは好ましくありません。そこで全国銀行協会が今年(令和3年)2月に新たな指針を発表しました。これが画期的な内容だったので話題になったのです。

その内容とは「親族でも認知症患者の預貯金の引き出しを可能にする」というものです。ただし可能にするには、いくつかの条件があります。

また、条件ではありませんが、銀行としては前提として「親族に対して成年後見制度の利用を、まずはお願いする」というスタンスであることは知っておいてください。引き出しを希望する親族は、成年後見制度を使いたくない事情等を説明してから引き出しを依頼することになるでしょう。

親族が預金を引き出せる条件とは

  1. 医師の診断書の提出
  2. まずは口座名義人が認知症であることの公的な証明書として、医師の診断書が必要とされています。

  3. 使いみちが限定される
  4. どんな目的でも引き出せる訳ではありません。使いみちは「口座名義人の医療費・介護費・生活費など」に限定されます。名義人本人にとって必要な目的以外は認められないということです。

  5. 投資商品などの解約は難しい
  6. 投資信託などの金融商品の引き出し・解約については、より慎重な対応が必要とされています。銀行の預貯金口座に比べると、これらの口座の親族による引き出しは簡単ではないと考えた方が良いでしょう。

家族信託契約の利用

銀行から上記のような条件の審査を受けることなく、迅速に繰り返し預貯金の引き出しを行いたい場合は、前もって家族信託契約を結んでおく方法が考えられます。

家族信託契約とは、高齢者が認知症になる前に自分の財産の管理を任せたい人と信託契約を結んでおくことで、認知症になってしまった時に備えておく契約です(認知症になった後では信託契約を結ぶことはできません)。
公正証書で信託契約を結んでおけば、口座名義人が認知症になった後でも、任された人はスムーズに預貯金を引き出すことが可能になります。また、不動産の管理を任せたい場合にも信託契約は有効です。
特に不動産の処分(売ってお金に換える)を考えている場合は、信託契約を結んでおく必要性が高いでしょう。もし処分する前に認知症になってしまった場合、例え家庭裁判所で成年後見人を選任しても処分するのは難しいからです。

結論

親が認知症になってしまった場合、残された親族は介護費用や入院費用や施設入居費用などを調達しなければなりません。しかし、親の口座から現金を引き出すには前述したように様々な条件を満たした上で銀行の審査を受ける必要があります。しかも、引き出すたびに繰り返しです。他にも親の不動産を処分して介護費用や施設入居費用に充てようとしても、名義人が認知症である場合は売却が非常に困難であることに皆さん驚くことになります。

このようなことにならないためにも、親が認知症になる前に家族信託契約などを積極的に活用して対策を取っておくことが大切です。

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