司法書士ジャーナル<相続>
橋本司法書士事務所ブログ

2024年6月

6月 25 2024

遺言執行者の不動産の売却 遺言㉙

相続財産に不動産がある場合

相続財産に不動産があると、複数の相続人が存在する時は相続が難しくなる場合があります。なぜなら不動産を相続人の共有にしたとしても、その不動産を利用しない相続人にとっては意味が無いからです。

このような時は通常は相続不動産を売却してから、売却代金を相続分で分配することになります。この方が公平に分配することができるからです。(その不動産に住み続ける相続人がいる場合は、この方法は選択できません)

相続不動産の売却には2段階の登記申請が必要

相続不動産を売却するためには、相続人の名義にしておく必要があります。これを相続登記と言います。たまに素人のサイトや動画で「相続登記をしないで売却した方が、登録免許税などの費用を節約できる。」などと説明しているものを見かけますが、これは法的に全くの間違いです。相続登記をしないで相続不動産を売却することはできません。

もしこれを真に受けて売買契約をしたら(まともな不動産業者ならば、そもそも契約を引き受けないと思いますが)、買主の名義にするために法務局に申請した時点で「相続登記がされていないので、この申請は受け付けられない」と言われて却下されるでしょう。

相続不動産の売却には通常は相続人全員の協力が必要

第一段階の相続登記は、法定相続分の登記ならば相続人のうちの一人から申請できます。しかし第二段階の売買の登記は、売主である相続人全員が参加しなくては出来ません。相続人のうち一人でも売却に協力しない人がいるできないのです。これを防ぐためには遺言が最も有効な解決手段です。

清算型遺言

遺言を残して、遺言の中で「売却して換金してから分配すること」を記載した上で、遺言執行者を指定しておくという方法があります。これを清算型遺言と言います。清算型遺言ならば、売却に協力しない相続人がいたとしても無視して売却を進めることができます。

清算型遺言が相続人の協力を必要としない根拠

なぜ通常はできないはずの不動産登記ができるのか、その根拠は以下の2つの先例の存在です。先例とは法務省民事局による通達や質疑応答のことを言います。先例は全国の法務局に対して効力を持ちます。

  1. 登記研究質疑応答822・189頁
  2. 「清算型遺贈の旨がある遺言に基づき、遺言執行が不動産を売却して、買主名義に所有権移転登記を申請する場合には、その前提となる相続登記については登記実務上、中間省略できないものであって遺言執行者は相続人の法定代理人として、単独で相続登記申請が可能である」

  3. 昭和52年2月5日民三第773号回答
  4. 遺言執行者の単独申請により被相続人名義から相続人名義に相続による所有権移転登記を経由した上で、遺言執行者と買主との共同申請により相続人名義から買主名義への所有権移転登記をすべきである」

先例により遺言執行者の単独申請が可能

上記の先例により清算型遺言の場合には、不動産登記に相続人の協力は不要で、相続登記は遺言執行者が単独で申請することができ、売買登記は遺言執行者と買主で申請することができます。

これは遺言の内容を実現することが遺言執行者の仕事であり、清算型遺言の場合は不動産を売却して分配するまでが仕事に含まれると考えられるからです。

相続不動産の売却についての結論

今回ご紹介したようなルールがある以上、不動産を売却して相続人に分配する時には、しっかりとその旨を遺言に残しておくことが重要です。よく覚えておきましょう。

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