司法書士ジャーナル<相続>
橋本司法書士事務所ブログ

3月 11th, 2025

3月 11 2025

信託財産責任負担債務 家族信託(民事信託)㉜

信託財産責任負担債務とは

信託法には「信託財産責任負担債務とは、受託者が信託財産に属する財産をもって履行する責任を負う債務をいう」と書かれています。分かり易く言うと「信託財産によって返済する義務がある債務」のことです。

通常は信託財産からは回収できない

受託者の債権者、例えば受託者にお金を貸している業者がいたとします。この業者は受託者が借りたお金を返済しなかったら、受託者の財産から回収する権利があります。
しかし受託者の債権者であっても、通常は受託者の預かる信託財産から回収することはできません。理由は、信託財産は法的には委託者の財産であり受託者本人の財産ではないからです。

どんな場合に信託財産から回収できるのか

しかし例外的に信託財産から回収できる場合があるのです。それが信託財産責任負担債務であり、色々ありますが最も分かり易いのが、「信託財産の有効活用のために金融機関から借り入れた債務」などです。信託財産の有効活用のためにと言う部分がポイントですね。信託財産のための借金ならば信託財産での返済義務があるという考え方になります。

信託財産に対する差押(強制執行)

信託財産責任負担債務は信託財産からの回収を認められていますので、受託者が払わなかった場合は信託財産に対して差押(強制執行)をすることも可能です。一方、通常の債務の場合は信託財産に差押をすることはできません。

受託者自身の財産も責任財産になるのが原則

信託財産責任負担債務については、信託財産だけではなく受託者の固有財産からも返済する義務があるのが原則です。信託法では「信託前に生じた委託者に対する債権に係る債務を信託財産責任負担債務とする旨の信託行為の定めがあるもの」が信託財産責任負担債務であると規定されています。

例えば該当するものとして「委託者がローンを組んでアパートを建設し、ローンが残った状態で信託する。ローンについて委託者から受託者へと債務引受をした上で、信託契約において『信託財産責任負担債務とする』旨を定める」というケースが上げられます。融資した金融機関は返済が滞った時に信託財産はもちろんのこと、受託者の固有財産からも回収が可能です。

信託財産限定責任負担債務とは

しかし例外的に信託法21条2項に定められている債務については信託財産のみで返済義務を負います。これを「信託財産限定責任負担債務」と呼びます。代表的なものとして受益債権が上げられます。受益債権とは「受益者が受託者に対して、信託財産の引き渡しや給付を求める権利のこと」を言います。

例えば「不動産から得た賃料収入は受益者に渡す」と定めていれば、受益者は受託者に受益債権を有しています。
受益債権は信託財産限定責任負担債務ですから、信託財産だけが責任財産です。受託者の固有財産からは支払いを求めることはできませんし、強制執行をすることもできません。

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