司法書士ジャーナル<相続>
橋本司法書士事務所ブログ

2025年2月

2月 25 2025

信託口口座と信託専用口座 家族信託(民事信託)㉛

家族信託の預り金口座

家族信託契約が締結されると一つ重要な問題が発生します。受託者の個人財産と委託者から預かった財産を、どのように区別するのかという問題です。

この問題を解決するために、委託者の財産を管理するための預り金口座を受託者が開設します。預り金口座に委託者の財産を預けることで、家族信託契約で決められた管理を始めることができます。

そして受託者の預り金口座には2種類あります。信託口口座信託専用口座です。それぞれの口座のメリットやデメリットを検討してみましょう。

信託口口座のメリット

メリットの一つ目は、信託口口座は受託者個人の財産とは厳格に区別された家族信託のための口座であることです。通帳の名義も「委託者A受託者B信託口」などの一目見れば受託者個人の口座とは違うことが分かるようになっています。

メリットの二つ目は、仮に受託者が先に死亡しても凍結されないことです。通常は名義人が死亡すると銀行は口座を凍結します。しかし信託口口座は受託者の財産とは区別されているため、相続財産とはみなされないので凍結されないのです。

メリットの三つ目は、仮に受託者が破産したり差押を受けたりしても信託口口座はその影響を受けません。これも受託者の個人財産とは明確に区別されているからです。

信託口口座のデメリット

デメリットの一つ目は、信託口口座を取り扱っている銀行が非常に少ないということです。私の印象では1割位でしょうか。私が家族信託の相談を受け始めた10年ほど前は三井住友信託銀行とオリックス銀行くらいしか扱っていませんでした。現在はもう少し増えていますが、まだまだ少ないです。

デメリットの二つ目は、信託口口座の開設には、口座開設手数料や最低預り金額を設定しているところが多いことです。銀行によって異なるので、手数料がかからない代わりに最低預り金額が1000万円からだったり、預り金額の制限はない代わりに手数料が5万円ほどかかったりなど色々です。

デメリットの三つ目は、事前審査が必要なことです。口座開設を申し込む前に信託契約書案を出して審査を受けることを条件にしている銀行がほとんどです。事前審査には一般的に1週間以上かかりますので時間がかかります。

信託専用口座のメリット

信託専用口座は受託者個人名義の通常の口座を開設して、それを信託契約書に書き込むだけなので、作るのが非常に簡単です。どこの銀行でも作れますし開設の手数料も不要です。通常の口座を信託用の口座とみなして使っているというイメージですね。

信託専用口座のデメリット

デメリットの一つ目は、受託者が亡くなった場合に口座が凍結されてしまうことです。信託専用口座は銀行から見た場合、単なる受託者個人の口座ですから信託財産として区別されていません。ですから相続が発生した時は機械的に凍結されます。凍結を解除するためには相続人全員の協力を得る必要があります。

デメリットの二つ目は、受託者が破産したり差押を受けた場合も口座が凍結されるということです。これも信託専用口座が正式に受託者個人の財産と区別された口座ではないからです。解除するためには裁判所に対して証拠を提示して受託者個人の財産ではないと説得する必要があります。

信託口口座を選択すべき場合

では信託口口座を選択した方が良いのはどんな場合でしょう。それは時間や費用がかかっても信託契約を確実で安心なものにしたい場合です。
家族信託契約の本来あるべき形は、信託契約書を公正証書で作成して信託口口座で管理することです。これが最も確実で安心だからです。

信託専用口座を選択すべき場合

一つ目は、多少安心を犠牲にしても、とにかく費用を押さえたい場合です。

二つ目は、委託者の判断能力が低下していて時間をかけていられない事情がある場合です。委託者が完全に認知症になってしまうと、そもそも信託契約自体が結べなくなってしまいますから。

三つめは、近くに信託口口座を取り扱っている銀行が見つからない場合です。ただしこの理由についてはオリックス銀行などは全てネットで信託口口座を作れますので、あまり重要ではないかもしれません。

このように信託口口座も信託専用口座も、それぞれメリットとデメリットがありますので、よく検討した上で選択しましょう。

家族信託について詳しく知りたい人はこちら

2月 20 2025

オリックス銀行の信託口口座 家族信託(民事信託)㉚

信託口口座とは

家族信託の受託者が使う信託口口座は、委託者の財産を預かる口座で、受託者自身の口座とは明確に区別しておく必要があります。そのために設けられたのが信託口口座で正式な信託口口座ならば、例え受託者個人に対して差押があったとしても、信託口口座は受託者の財産ではないとして差押を受けません。

ただし、便宜上の信託専用口座の場合は正式な信託口口座ではないので差押を受けてしまいます。このように信託口口座は法的に特別な口座なので、どこの銀行でも取り扱っている訳ではありません。開設できる銀行は限られています。

オリックス銀行の信託口口座

オリックス銀行は、まだほとんどの銀行が取り扱っていなかった頃から信託口口座を始めており、信託については老舗の銀行になります。実際に信託口口座を作る場合、最も利用者が多いという印象です。早くから家族信託に力を入れていただけあって他の銀行にはないメリットがあります。

それが開設手続からその後の口座利用まで全てネットでできることです。それを可能にするために、いくつかの特徴があります。

オリックス銀行の信託口口座の特徴①

オリックス銀行は、信託契約書については司法書士や弁護士などの法律専門家作成のものしか受け付けません。信託口口座の開設には信託契約書の事前審査がありますが、事前審査の申込ができるのは司法書士や弁護士などの専門家経由だけです。一般の方が直接申し込むことはできないようになっています。

オリックス銀行の信託口口座の特徴②

オリックス銀行は信託口口座を引き受ける際に、信託の当事者を限定しています。具体的には委託者兼受益者である信託契約しか受け付けていません。実際に信託契約の8割以上が委託者兼受益者になっていますので、ようは例外的な特殊な信託契約は引き受けていないということになります。

オリックス銀行の信託口口座の特徴③

オリックス銀行は、遺留分を侵害している信託契約についても引き受けない傾向があります。信託契約が遺留分を侵害できるのかについては争いがありますが、最近ではできないという見解が優勢のようです。ようは将来的に争いの種になりそうな契約は引き受けないというスタンスだということでしょう

オリックス銀行の信託口口座の特徴④

オリックス銀行は、信託契約書の中で後任受託者の取り決めを求めてきます。後任受託者とは、当初に定めた受託者が亡くなったりした場合に、前もって契約で後任の受託者を定めておくことを言います。契約が途中で宙に浮いてしまうことを防ぐ目的です。よって後任受託者の条項が無い信託契約は引き受けてもらえません。

オリックス銀行での信託口口座の開設

司法書士や弁護士に作成を依頼して、上記の特徴を踏まえて作られた信託契約書は、基本的には公証役場に行く前にオリックス銀行の事前審査に出します。理由は、公正証書にした後で事前審査が通らなかったら再び公証役場の費用がかかってしまうからです。

もちろん公証役場でストップしてしまうのも問題ですから、通常は公証人に事前に見せて(この段階では役場の費用は発生しません)OKをもらったものをオリックス銀行の事前審査に出します。事前審査が通ったら公証役場に当事者を連れて行って公正証書にするというステップになります。

公正証書が出来上がったら信託口口座の開設の申し込みをしてもらうことになります。この段階で事前審査は通っていますから手続はスムーズに進み信託口口座が開設されます。

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2月 07 2025

信託契約公正証書は代理人でもできるか 家族信託(民事信託)㉙

家族信託の委託者が高齢で代理人の相談を受けるケースが多い

家族信託の公正証書作成を検討される場合、一般的に委託者が高齢で将来の認知症などのリスクを考えてのケースが多いです。すると次に相談されるのは「委託者が高齢なので司法書士の先生が代わりに公証役場に行ってもらえないか」という頼みです。

実際に公正証書の多くは代理人でも作成可能なので、そう考えてしまう事情は分かりますが残念ながら信託契約公正証書については、この頼みには応じることができないのです。

公証人が代理人を認めないことが多い

信託契約公正証書の場合、まず公証人が代理人を認めないことが多いです。理由は「管理のための財産の移転を伴うので、本人が契約の内容を理解した上で、自分の意思で契約しようとしているかを確認する」ためです。

特に契約の当事者が高齢の場合はなおさら厳しくなります。高齢であるということは認知症のリスクがある訳ですから、本人の意思とは無関係に契約をされていないかを公証人が疑うのです。

家族信託の当事者が遠方にいる場合

家族信託の契約当事者は委託者と受託者です(受益者は契約当事者ではありません)。中には委託者と受託者の住まいが、かなり離れている場合があります。例えば、私が相談を受けた事例の中には委託者が北海道で受託者が愛知県というケースがありました。この場合、作成する公証役場は北海道にするのか愛知県にするのかという問題があります。

家族信託の委託者の出頭は必須

これだけ離れていると、当事者のどちらかを委任状による代理出頭で行うという要望も、通常よりは公証人に認めてもらいやすくなります。ただしそんな場合でも公証人は、委託者の出頭については代理を認めませんでした。委託者は自分の財産を受託者に預ける側であり、高齢であることも一般的で(事実、高齢でした)必ず本人に直接会う必要があると判断されたのです。

公証人の立場ならば納得できる言い分でした。従って、愛知県で行うことはできず、代理でやるならば北海道で作成することになります。

家族信託の委託者の代理人契約が金融機関に拒否された事例

東京地方裁判所で令和3年に次のような判決が出ました。
依頼を受けた司法書士が委託者の代理人として公証役場に出頭して信託契約公正証書を作成した後、その公正証書を信託口口座開設のために金融機関に持参したところ拒否された、と言う事例です。判決では司法書士に対してリスク説明義務違反の不法行為責任を認めています。

この事例から分かることは少なくとも委託者については、代理で信託契約公正証書を作成した場合は金融機関で信託口口座を開設できない可能性が高い、ということです。ただ私の個人的な意見としては、そもそも公証人が拒否していればこのようなことは起こらなかったのではないかということです。この事例のように考え方の甘い公証人も中にはいるようなので注意が必要です。

信託契約公正証書には遺言の機能が含まれている

依頼された信託契約のほとんどに遺言の機能が含まれています。委託者兼受益者が死亡したら信託契約が終了して、特定の相続人に信託財産を承継させるという規定を入れることで遺言書の作成が不要になるからです。つまり、信託契約公正証書を作成することは事実上、遺言公正証書を作成することと変わらないと言えます。

遺言公正証書の作成には本人が公証人に口述することは必須です。病気で公証役場に行けない時は、公証人に病院や介護施設に出張してもらって作成します。だとすると、遺言と同様の機能を持っている信託契約公正証書も当事者(特に委託者)の出頭は必須と考えるのが自然でしょう。

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