司法書士ジャーナル
橋本司法書士事務所ブログ

2009年9月

9月 24 2009

臨時ニュース アイフル私的整理

 さて、世の中がシルバーウイークで浮かれている真っ最中に、何とアイフルが事業再生ADRを実施すると発表しました。今日は、この話題を取り上げます。

 そもそも事業再生ADRとは何でしょうか。聞きなれない言葉です。ADR自体が比較的新しい言葉ですから無理もありません。まあ、強いて分かりやすい言葉に当てはめると調停が最も近いでしょうか。要するに話し合いで事業再生を進めていきましょうということです。私的な会社の債務整理ということになります。(正直なところ、私も完全に分かっている訳ではありません。恐らく完全に理解している人は法律家の中でも、ごく一部だと思われます。その位、珍しい手続です)

私的な整理と言うと、個人では任意整理が挙げられますが、同じように会社の借金を債権者に頼み込んで、カットしてもらったり、繰り延べしてもらったりすることになるのでしょう。問題は、この会社の借金の中に恐らく過払金が含まれるであろうということです。

私的整理ですから、法的な拘束力はありません。過払訴訟で判決を取れば、法的にはアイフルは支払う他はないはずです。しかしながら、私的整理を行なうと宣言している以上、「今、会社には金が無いから支払えない」と開き直られた時に説得力が出てきます。通常の営業をしている場合は、「金が無いなんてウソだろう」と言い返すことも出来ますが、これからはウソだとは言いにくくなる訳です。当然、アイフルの過払金の支払いは相当に悪くなる可能性が高いと考えておかなければなりません。

 それにしても、今まで中堅または小規模の貸金業者の破綻はありましたが、全国展開している主要業者の破綻は今回のアイフルが初のケースとなりました。いよいよ貸金業界の景気悪化も最終段階に入ったと言って良いでしょう。アイフルは顧客数も貸付残高も営業地域の広さも、今まで破綻した業者とは桁違いです。その影響力の大きさは、相当なものになると思われます。

 今回のアイフルの破綻から、主要業者の中でも独立系の業者が苦しいということが、はっきりしました。例えば、アコムやプロミスやレイク(新生フィナンシャル)などはバックに銀行がついていますから、破綻しにくいと言われていました。それに対して武富士とアイフルのような銀行の系列に入っていない独立系が危ないと言われていたのですが、今回は、この意見が正しいことが証明された形になりました。ということは、主要業者で次に危ないのは武富士ということになります。

 武富士と長く取引をしていて、過払いの可能性が高い人は、出来るだけ早く過払請求をしておかないとアイフルの二の舞になるかもしれません。決断の時期かもしれません。

 

 

9月 15 2009

シリーズ 過払金⑥ 取引の分断(4)

 今回は、最高裁の取り上げた、分断を判断する上での7つのポイントについて、どういう場合に債務者側に有利に働くかを説明します。

1 「第一取引の期間の長さ」に関しては、これは長い方が有利です。長く取引していれば、例え完済したとしても、そう簡単に取引を止めるはずがない、次にまた借りる可能性は高いと考えられるからです。しかし具体的に、どの程度なら長いと言えるのかについては個々の裁判官に任されているのが現状です。(要は、はっきりしていないということになります)

2 「第一取引の完済から第二取引開始までの期間の長さ」に関しては、短ければ短いほど有利と言えます。期間が短ければ、完済した時に、次の借り入れを考えていたと判断されやすい訳です。これも具体的な期間について、よく問題になりますが、はっきりとは決まっていません。まあ私の経験では1年以内なら短いと言って良いように思います。ただ、1年を超えていても裁判所が一連計算を認めてくれることもありますので、諦める必要はありません。もちろん長くなるほど認められる確率は低くなっていきます。

3 「第一取引の契約書の返還はあったか」に関しては、返還を受けていない方が有利です。返還を受けたということは、その時点で契約を終わらせるつもりだったと判断されやすいのです。これは期間の長さと違って判断しやすいポイントですね。

4 「第一取引のカードの失効手続はあったか」に関しては、失効手続が無い方が有利です。同じカードを第二取引でも使用していたら、連続した取引だと主張する為の有力な証拠になります。このことからクレジットカードのキャッシングについては、ほとんど債務者有利の一連計算が認められています。(ちなみにカードの更新は失効とは違います。クレジットカードが定期的に新しいカードが送られてくるのは更新です。これは有効期限が延長しただけの前と同じカードですから、同一カードとみなされます)

5 「空白期間の貸主と借主の接触状況」に関しては、接触が頻繁にあった方が有利になります。よく主張するのが、業者が完済した後の空白期間に債務者に対して再借り入れの為の勧誘を行っていた場合です。この勧誘が多ければ多いほど、業者自身が取引を終わらせるつもりが無かったということになり、一連計算が認められやすくなります。

6 「第二取引が契約された時の事情」に関しては、例えば審査がほとんど無かったとか、最初から借り入れ枠が高額だったとか、本人確認が甘かったとか、いうことがあれば有利になります。これは、業者が前の取引の情報を引き続き利用していて、取引を終わらせるつもりが無かったという判断になりやすいからです。

7 「第一取引と第二取引で契約内容に違いがあるか」に関しては、違いが無い方が有利です。ただ、私の経験では、このポイントは前の6つのポイントに比べると裁判所は重視していないように感じています。

 さて、ざっと説明しましたが、難しいのは、この中のいくつが有利だったら裁判所は一連計算を認めてくれるのか、ということに関しては、「裁判官によって違う」という回答になってしまうことです。裁判では、判断が分かれている事件に関しては絶対はありません。一生懸命に主張しても負けることもあるということを、常に頭に置いて下さい。

もちろん、戦わずして負けるのは良くありません。判断が難しいというのは裏を返せば、「勝つこともある」わけですから、とりあえずは主張してみましょう。その際に今日のブログを参考にして頂ければ良いでしょう。

 では、次回はクレジットカードの取引の分断について取り上げます。

 

 

9月 02 2009

シリーズ 過払金⑤ 取引の分断(3)

 今回は、取引の分断について判断するポイントは何かを説明します。

 この問題について考える時に最も影響を与えている判決があります。それは最高裁平成20年1月18日判決です。現状では、全国の裁判所が「分断か、連続した取引か」を判断する際に、この最高裁判決を参考にしていると思われます。

では、この最高裁判決は何と言っているかというと、取引の連続性を判断する際に7つのポイントをあげています。このポイントについて検証してみましょう。話を分かりやすくする為に、途中の空白は1回のみで、前半の取引を第一取引、後半の取引を第二取引として、次からの説明を読んで下さい。

1 第一取引の期間の長さ

2 第一取引を完済してから、第二取引を再び始めるまでの期間の長さ

3 第一取引の契約書を返還されたかどうか

4 第一取引がカードを使用した取引だった場合、第二取引が始まる前にカードの失効手続があったかどうか(失効とはカードを使えない状態にすることです)

5 第一取引を完済してから第二取引が始まるまでの間の、貸主と借主の接触状況(例えば、業者が再び借りるように何度も勧誘したかどうかです)

6 第二取引が契約された時の事情(例えば、勧誘されて契約したのか、あるいは、もう借りるつもりが無かった借主が急に、お金に困って借りに来たのかなどです)

7 第一取引と第二取引を比較して契約内容に違いがあるか(最高裁は特に利率をポイントにあげています)

以上が最高裁の取り上げた7つのポイントです。もちろん、これ以外にも判断材料はあると思いますが、何しろ最高裁が判決で書いているものなので、他の材料よりも裁判官が重くみる傾向があるのは間違いありません。従って、過払金を請求する側としては、いかに、このポイントを有利に主張していくかを検討することになります。

 では次回は、ポイントごとに、どういう場合に有利になるかを説明します。