司法書士ジャーナル
橋本司法書士事務所ブログ

2009年10月

10月 26 2009

シリーズ 過払金⑧ 悪意受益者の利息(1)

 さて本日からテーマを変えて、「悪意受益者の利息」について説明しましょう。

 悪意受益者の利息とは、過払金の発生時から付加される年率5%の利息のことです。たかが5%などと思ってはいけません。取引が長い時には利息だけで何十万円というケースもあるのです。以前は利率が5%か6%かで争いがありましたが、現在は5%で決着がついています。むしろ今、問題になっているのは利息の発生時期に関してです。

悪意受益者の「悪意」とは一般的な意味での悪意とは違います。悪い意思という意味ではありません。法律用語で「悪意」と言った場合、それは「知っていた」という意味になります。要するに「知っていて承知の上で行った」という場合に悪意という表現を使います。

とすると悪意受益者の利息の発生時期は、貸金業者が過払いであることを知っていたのは、いつかということになる訳です。ここで読者の皆さんは、「そんなの過払いになった時点で業者は知ってたに決まってる」と考えるでしょう。当然、法律家も同じように考えて今まで業務を行ってきました。ところが、最近、業者は「請求されるまでは知らなかった」という主張をしてきているのです。

 比較検討する為に業者の主張を紹介しましょう。彼らの言い分は以下のとおりです。

貸金業法が改正されるまでは、43条によって「みなし弁済」が認められていた。従って、利息制限法を超える利率であっても適法だと認識していたのであって悪意ではない。

さて、ここで「みなし弁済」という言葉が出てきましたが、これについて説明しましょう。「みなし弁済」とは、旧貸金業規制法43条で特別に認められたもので、ある条件を満たした場合は利息制限法を超えても、その弁済を有効と認めるという規定のことです。

古くから債務整理に関わる法律家は長年この「みなし弁済」規定と戦ってきました。そして平成18年1月13日に画期的な最高裁判決が出て「基本的に、みなし弁済は認められない」ということが、ほぼ確定したのです。(この判決が出て以降、過払いバブルと呼ばれる状況が出現しました) しかし貸金業者は、これを逆手にとって、上記の判決が出る前には「みなし弁済」が認められる可能性があったのだから、判決以前から取引がある場合は悪意とは言えない、という主張をしている訳です。

 最近は貸金業者も経営状態が悪化していて、過払金を減らせるならば、どんな主張もするという態度に出ています。では、次回は、この業者の主張に反論する為に、「みなし弁済」が認められる時の条件について取り上げます。

10月 15 2009

シリーズ 過払金? 取引の分断(5)

 さて、本日はクレジットカードの場合の取引の分断についてです。

 今まで取引の分断は業者が非常に争ってくる部分であり、「分断している」と判断された場合は債務者に不利になるという話をしてきました。しかしながら、クレジットカードの場合は上記のような心配をする必要が、ほとんどありません。要するに取引の分断に関しては、クレジットカードの方が対処しやすいということになります。以下、理由を説明しましょう。

 取引の分断で争いになるポイントは、空白期間の前の契約(第1契約)と、後の契約(第2契約)が共通の1本の契約であるかどうかという点にあります(詳しくは過去のブログをご覧下さい)。消費者金融の場合は、この点を証明するのに苦労する訳ですが、クレジットカードの場合は証明が非常に容易なのです。むしろ、クレジット会社の方が、「1本の契約ではない」と主張するのが難しいのです。

具体的に説明しましょう。クレジットカードは消費者金融のカードとは違って、更新することはあっても再発行することは、まずありません(失くした場合は別です)。これが非常に重要なのです。例えば、クレジットのキャッシングで完済して空白期間があったからと言って、次に借りる時には前と全く同じカードを使用しています。もちろん有効期限が切れてカードが更新されている場合はありますが、更新されて送られてくるカードは有効期限が延長されているだけで以前のカードと同じものです。更新の時点で窓口に訪れて新たに審査をしたり、免許証で本人確認をしたり、申込書や契約書を新たに書いたりすることは、まずありません。従って、例え空白期間があっても、1本の契約が続いていると主張しやすくなる訳です。裁判所もクレジットカードの場合は、基本的に1本の連続した契約であると判断する場合が、ほとんどです。クレジット側が、この判断を覆すことは非常に困難でしょう。

 しかし、だからと言ってクレジット会社が黙って1本の契約を認めてくるとは限りません。相手が素人だったり、経験の浅い司法書士や弁護士だったりしたら、分断を強硬に主張してくる可能性は充分にあります。この辺りは専門家の経験のレベルを計るのには良い材料かもしれません。

いずれにしてもクレジットカードの取引に関しては空白期間があっても過払いが認められやすくなっている訳ですから、キャッシングの取引が長い方は過払いの可能性を探ってみた方が良いでしょう。消費者金融の影に隠れてクレジットの過払いを見逃している方は結構います。一度、確かめてみて下さい。

 では次回は、「悪意受益者の利息」について説明します。