司法書士ジャーナル
橋本司法書士事務所ブログ

2011年2月

2月 22 2011

臨時ニュース アイフルの怪しい和解

 本日はクレジットカードのライフについて書く予定でしたが、緊急な情報が入ってきましたので予定を変更してアイフルについて書きます。

 アイフルは武富士が倒産してからは主要消費者金融の中では最も経営が悪化していると言われている業者です。次の大型倒産はアイフルだろうというのが業界での噂となっています。

以前にも書きましたが、武富士の倒産によって、隠れ過払いだった人が自分が過払いであることに気付くことが多くなりました。理由は、武富士がコマーシャルや電話、ATMの表示などで隠れ過払いの人に債権届けの必要性を大々的に訴えたからです。これにより武富士の訴えを聞きつけた人は他の業者についても自分は過払いになっているのではないかと疑いました。当然、次のステップとして他の業者に対しても取引履歴の請求をしてみることになりました。すると、案外多くの人が他の業者についても過払いになっていることが多かったのです。これによって、本来、武富士とは関係なかったはずの業者まで大量の過払請求を受けることになった訳です。(実際に主要業者に対する取引履歴の請求件数が武富士倒産後に急増したそうです)

ところが、ここでトンデモナイ手を打ってきた業者がありました。アイフルです。アイフルは何と取引履歴の請求を受けた相手に対してゼロ和解の書面を送りつけて、相手が何も分からないうちに和解を結び過払請求を封じ込めようとしているらしいのです。

ゼロ和解とは「お互いに債権債務なし」と書かれた書面で、簡単に言うと、「アイフルも今後、請求しないから、あなたもアイフルに対して請求しないように」という約束を交わすことです。

この書面をもらった人は、「今後はアイフルからの請求は無くなるのか、良かった」と思ってしまうかもしれません。(実はアイフルに対する過払請求を封じ込められることになる訳です)

これは非常に問題があります。もし、この和解書を返送してしまったら、後で過払いであることに気付いても請求できなくなる可能性があるからです(本人が認識していた訳ではないので、裁判を起こせば勝つ可能性もありますが、絶対ではありません)。

アイフルと長期間の取引をしていて取引履歴の請求をしたら、アイフルから書面が送られてきて、それを返送してくれと言われたら、絶対に気軽に返送しないで下さい。上記のゼロ和解書面である可能性もあるので、よく読んでからにしましょう。読んでも分からない場合は、専門家に見せましょう。それから返送しても遅くはありません。

 今や消費者金融業界は、どこの業者も青息吐息です。苦しくなってくると業者もなりふり構わなくなってきます。後で後悔しないように、しっかり情報収集をすることが肝心です。

2月 15 2011

SF・ライフ・ヴァラモスの移送申立(後編)

 前回の続きです。本日は移送申立に対する対抗手段について、お話ししましょう。

 まず、移送申立が出されたら放っておいてはいけません。放っておけば移送が認められてしまいます。前回も説明したとおり、移送が認められてしまえば事実上、過払請求を諦めることになりかねません。これだけは避けなければなりません。

そこで、移送申立に対しては「移送申立に対する意見書」というものを裁判所に提出します。これは裁判所に対して「移送を認めないでくれ」と理由を付けて反論する書面です。ほとんどの場合、移送申立の根拠は前回に説明した合意管轄条項によるものです。従って、この条項に対して反論していくことになります。

具体的には、以下のような反論が考えられます。

1 そもそも契約書に、そんな条項が書かれていること自体、知らなかったし説明も受けていない。合意とは双方が認識していて始めて成立するものであるから、管轄の合意など成立していない。

2 契約書に書かれた管轄の合意には過払金返還請求訴訟は含まれていない。何故なら、契約書を交わした当時に貸し手と借り手が認識していた将来の紛争とは貸金業者の行う貸金請求訴訟のことであり、双方ともに過払金に関しての訴訟が将来起こることなど想定していない。

3 付加的管轄の合意である。(契約書に専属的という言葉が無い場合)。専属的とは、契約書に書かれた裁判所以外は一切、認めないという意味です。この言葉が書かれていない条項なら、これを逆手にとって、「専属的と書かれていないんだから他の裁判所も認める余地がある」と反論するのです。この反論を付加的管轄の合意と言います。

4 民事訴訟法17条による移送の却下を求める。民事訴訟法17条に「当事者の衡平を考えて裁判所は事件を別の裁判所に移送できる」と書かれています。これを逆に解釈すると、「当事者の衡平を考えて移送を却下することが出来る」と読むことも出来ます。もちろん、このとおりの意味に解釈してくれるかどうかは裁判官にかかっていますが、裁判とは言える反論は、とりあえず何でも言っておくのが正しいやり方なのです。(この点、普段の日本人の考え方とは、かなり違います)

5 消費者契約法10条により無効だと主張する。消費者契約法10条には「消費者の利益を一方的に害するものは無効とする」と定めています。借りた人が法人や事業主でなければ消費者です。また、契約書に書かれた合意管轄条項は貸金業者に一方的に有利なものであり、借り手である消費者にとって利益になることは何もありません。従って、この法律を根拠にして、「契約書の合意管轄条項は消費者契約法10条により無効であり、故に移送申立は却下されるべきである」と反論する訳です。

 以上の反論が認められて、めでたく移送申立が却下されたとしても安心は出来ません。中には、即時抗告という手段を使って更に争ってくる場合もあるのです。私の経験ではSFコーポレーションが、よく即時抗告を申し立ててきます。

即時抗告とは移送申立が却下された時に、その却下が不満な相手方(この場合は貸金業者)が、「もう一度、別の裁判所で判断してくれ」と言って申し立てるものです。簡易裁判所で却下された場合は地方裁判所に、地方裁判所で却下された場合は高等裁判所に申し立てることになります。

即時抗告の反論の仕方は基本的に前と同じです。ただ、仮に却下を勝ち取ったとしても、時間がかかるという点において、過払請求者にとっては非常に痛いことは確かです。実は移送が認められる確率は高くありません。もちろん、100%勝てる訳ではないので油断は禁物ですが、確率としては却下の方が多い訳です。では何故、一部の貸金業者は移送申立を行うかと言えば、「時間かせぎ」をする為です。

訴状を出すと第1回口頭弁論期日が約1ヵ月後くらいに決められます。そして、移送を出すような業者は、この第1回期日に狙いを定めて期日直前(ひどい時には前日)に移送申立を出してきます。そうすると、移送の審査の為に第一回期日は取り消しとなり、そこから移送の審査、却下、即時抗告、もう一度審査、却下と2ヶ月近くの時間を費やします。例え、却下されたとしても業者から見れば「時間の引き延ばし」の効果は充分にある訳です。だからこそ、この手を使う業者は、たちが悪いのです。

 さて、理解の無い裁判官に当たって、万が一、移送が認められてしまった場合は、諦めるしかないのでしょうか。実は簡易裁判所の場合は、何とかする方法があります。それは簡易裁判所の特則を使う方法です。

簡易裁判所の特則とは色々ありますが、その中に「本人が出頭しなくても書面で反論や主張が出来る」というものがあります。これを使えば、遠方の裁判所に移送されてしまった場合でも、戦う方法はあります。

こう書くと、「何だ、そんな方法があるのなら、始めからそれを使えば良いじゃないか」と考えそうですが、実は、そう簡単なことではないのです。

一応、この特則はありますが、では現実に使われているかというと、あまり使われていません。何故かと言えば、やはり裁判官も人間であり、実際に出頭してきた生の声の方を信頼する傾向があるからです。書面だけ出して来ない人には「真剣に訴訟をしようと思っていない」と判断されてしまう危険性があるのです。故に、この特則は移送が認められてしまった場合などの、やむを得ない時にのみ使うのが得策です。むやみやたらに使うのは、控えた方が良いでしょう。

 では次回は、クレジット会社のライフの最近の状況についてです。

2月 07 2011

SF・ライフ・ヴァラモスの移送申立(前編)

 本日はSFコーポレーション・ライフ・ヴァラモスの過払訴訟における移送申立についてです。最近は弁護士や司法書士に頼まずに自らで訴訟を行い過払請求をする人も増えてきましたが、移送申立が行われることによって、一般人が過払訴訟を行うことが以前よりも難しくなったと思います。以下、理由を説明しましょう。

 最近、貸金業者の過払請求に対する抵抗が激しくなっているのは今までにも何度か、ご紹介してきましたので、ご存知の方も多いと思います。その中でも特に激しい抵抗を示しているのが、上記の3社です。(ライフは、つい数ヶ月前までは激しい抵抗はしていませんでした。最近の過払情勢は本当に短期間で変化するという良い例だと思います)

この3社は過払訴訟を起こすと、かなりの確率で移送申立をしてきます。通常、過払訴訟は請求者の住所地にある裁判所に提起します(義務履行地と言います)。ところが貸金業者側が裁判所の場所にクレームをつけてくることがあります。これが移送申立と呼ばれるものです。

移送申立では以下のような説明がなされます。「請求者の住所地の裁判所で審理するのは正しくない、正しくは貸金業者の本店所在地の裁判所で審理されるべきである。」というものです。そして、その根拠になっているのが契約書に書かれている合意管轄と呼ばれるものです。

ほとんどの場合、貸金契約には合意管轄条項が含まれています(お金を借りる人は気が付いていないと思います)。この条項では、「もし契約上のトラブルがあった場合は貸金業者の本店所在地の裁判所で審理する」と書かれています。要は貸金業者に一方的に有利に書かれている条項なのです。

しかし、ほとんどの人が合意管轄条項の存在そのものを知りませんし、例え説明されても拒否することは事実上、不可能です。何故なら、拒否してしまったら、お金が借りられなくなってしまうからです。契約とは本来、双方の自由意志に基づいて結ばれるものですが、貸金契約の場合は借りる側は貸す側の条件を呑むしかありません。ここが問題なのです。

にもかかわらず、SF・ライフ・ヴァラモスといった業者は最近、移送申立を頻繁に出してきます。もし、こんなものが認められてしまったら、地方在住の依頼者は事実上、過払訴訟をあきらめなくてはならなくなります。何故なら、ほとんどの業者の本店は東京や関西にあり、裁判をする為には東京や関西まで出掛けていかなくてはならないからです。(弁護士や司法書士に頼んだとしても、交通費は請求されるでしょうから同じことです)

ですから、この3社を相手にする場合は、過払訴訟で絶対に移送申立を認めないように裁判所に働きかける必要があります。冒頭で一般人が訴訟をするのが難しくなったと言ったのは、これが理由です。一般人が貸金業者の移送申立に対抗するのは、なかなか大変だと思います。

 では、どのような対抗手段があるか、次回、説明しましょう。

2月 02 2011

過払調停の問題点

 本日の話題は過払調停です。

 債務整理に関心のある人は調停と言えば、一般的に特定調停を思い浮かべるでしょう。特定調停とは弁護士や司法書士の行う任意整理を裁判所を介して一般人でも行えるようにと始まった手続です。

当初は費用の安さも手伝って特定調停は非常に件数を伸ばしていましたが、ここ数年は減少傾向にあります。その最大の理由は特定調停では過払金の請求が出来ないということにありました。

特定調停が始まった頃には、まだ過払金の請求は一般的なものではありませんでした。ところが最高裁判所の判決が出てからは過払金請求が一気に広まって、過払金請求の出来ない特定調停に以前ほどの魅力がなくなってしまったのです。

 その代わりに激増したのが過払金請求訴訟です。簡易裁判所及び地方裁判所における過払金請求訴訟は増加の一途をたどり、ついには増えすぎて処理できないと裁判所が悲鳴を上げるほどになりました。

そこで裁判所が新しく考え出したのが過払調停という制度です。これは、本来は訴訟にするか調停にするかは裁判所に書類を提出する時に本人または代理人が決めることなのですが、その常識を覆して、もともと訴訟として提出された場合でも裁判所の判断で調停に変更されるというものです。(事前に電話で調停に変更して良いか聞いてくれる裁判所もあります)

 この制度の何が問題かと言うと、まず、裁判所や裁判官によっては本人の意向を無視して強引に訴訟を調停に変更してしまう場合があることです。例えば私の地元である名古屋地方裁判所で実際にあった出来事ですが、本人が「調停ではなく訴訟で進めて欲しい」という上申書を提出していたにもかかわらず認められずに調停に変更されたことがありました。(もちろん書類は訴訟で出しているのです)

では何故、過払請求は調停ではダメなのかと言うと、いくつか理由があります。その一番の理由は何と言っても和解金額が下がるケースが多いということにあります。(これは国家権力が過払金請求者の権利を侵害しているとも考えられる訳で非常に問題だと思います)

どうして金額が下がることがあるのかと言うと、率直に言って調停委員が貸金業者から甘く見られているからです。調停とは裁判所から指定された調停委員が取り仕切る手続です。調停委員は過払金請求の専門家とは限りません。我々、司法書士のように最新の貸金業者の状況や和解の適切な基準などは知らない人が圧倒的に多いのが実情です。そして調停委員が詳しくないということを相手方の貸金業者が知っているというところが問題なのです。

当然、貸金業者は司法書士や弁護士に対するよりも低い和解金額を提示する傾向があります。最近は専門家に頼まずに自分で過払訴訟を出す人も増えてきていますが、こういう人達にとっては過払調停は脅威だと思います。一般人が裁判所に行って調停委員から「この金額が妥当だから、この金額で和解しなさい」と言われたら、果たして断れるでしょうか。ほとんどの人は和解基準が、どの程度か分かりませんので承諾してしまうでしょう。

もう一つの問題点は時間が余分にかかるということです。調停になった場合、まず訴訟外で和解交渉をまとめることが難しくなります。貸金業者も調停になったら安く決着する可能性があるので、事前に交渉しなくなります(訴訟の場合は、ほとんどの業者が弁論期日前に電話をかけてきます)。

あと、調停の場合は最低でも1時間は裁判所に居なければなりません。これは最低ラインで、ひどい時には2時間以上も調停室に閉じ込められるケースがありました。調停の場合、ほとんどの業者は裁判所に出てきません。では、どうやって交渉するのかと言うと、調停委員が裁判所から直接、業者に電話をかけるのです。ですから、調停室には必ず各部屋に電話が設置されています。そして、困ったことに、この電話が非常にかかりにくい業者があるのです。例えばプロミスなどは、かけても常に話中で、つながるまでに1時間近くかかる場合があるのです。そうすると調停室に入ってから交渉が始まるまでに無駄な時間が膨大に発生することになります。

 このように、いろいろと問題点が多いのが現状の過払調停です。もし、選択することが可能な裁判所だったら調停を選択しない方が無難でしょう。強制的に調停に変更になった場合は、自分の気に入らない金額なら絶対に、まとめないという覚悟が必要でしょう。