司法書士ジャーナル
橋本司法書士事務所ブログ

2月 15th, 2011

2月 15 2011

SF・ライフ・ヴァラモスの移送申立(後編)

 前回の続きです。本日は移送申立に対する対抗手段について、お話ししましょう。

 まず、移送申立が出されたら放っておいてはいけません。放っておけば移送が認められてしまいます。前回も説明したとおり、移送が認められてしまえば事実上、過払請求を諦めることになりかねません。これだけは避けなければなりません。

そこで、移送申立に対しては「移送申立に対する意見書」というものを裁判所に提出します。これは裁判所に対して「移送を認めないでくれ」と理由を付けて反論する書面です。ほとんどの場合、移送申立の根拠は前回に説明した合意管轄条項によるものです。従って、この条項に対して反論していくことになります。

具体的には、以下のような反論が考えられます。

1 そもそも契約書に、そんな条項が書かれていること自体、知らなかったし説明も受けていない。合意とは双方が認識していて始めて成立するものであるから、管轄の合意など成立していない。

2 契約書に書かれた管轄の合意には過払金返還請求訴訟は含まれていない。何故なら、契約書を交わした当時に貸し手と借り手が認識していた将来の紛争とは貸金業者の行う貸金請求訴訟のことであり、双方ともに過払金に関しての訴訟が将来起こることなど想定していない。

3 付加的管轄の合意である。(契約書に専属的という言葉が無い場合)。専属的とは、契約書に書かれた裁判所以外は一切、認めないという意味です。この言葉が書かれていない条項なら、これを逆手にとって、「専属的と書かれていないんだから他の裁判所も認める余地がある」と反論するのです。この反論を付加的管轄の合意と言います。

4 民事訴訟法17条による移送の却下を求める。民事訴訟法17条に「当事者の衡平を考えて裁判所は事件を別の裁判所に移送できる」と書かれています。これを逆に解釈すると、「当事者の衡平を考えて移送を却下することが出来る」と読むことも出来ます。もちろん、このとおりの意味に解釈してくれるかどうかは裁判官にかかっていますが、裁判とは言える反論は、とりあえず何でも言っておくのが正しいやり方なのです。(この点、普段の日本人の考え方とは、かなり違います)

5 消費者契約法10条により無効だと主張する。消費者契約法10条には「消費者の利益を一方的に害するものは無効とする」と定めています。借りた人が法人や事業主でなければ消費者です。また、契約書に書かれた合意管轄条項は貸金業者に一方的に有利なものであり、借り手である消費者にとって利益になることは何もありません。従って、この法律を根拠にして、「契約書の合意管轄条項は消費者契約法10条により無効であり、故に移送申立は却下されるべきである」と反論する訳です。

 以上の反論が認められて、めでたく移送申立が却下されたとしても安心は出来ません。中には、即時抗告という手段を使って更に争ってくる場合もあるのです。私の経験ではSFコーポレーションが、よく即時抗告を申し立ててきます。

即時抗告とは移送申立が却下された時に、その却下が不満な相手方(この場合は貸金業者)が、「もう一度、別の裁判所で判断してくれ」と言って申し立てるものです。簡易裁判所で却下された場合は地方裁判所に、地方裁判所で却下された場合は高等裁判所に申し立てることになります。

即時抗告の反論の仕方は基本的に前と同じです。ただ、仮に却下を勝ち取ったとしても、時間がかかるという点において、過払請求者にとっては非常に痛いことは確かです。実は移送が認められる確率は高くありません。もちろん、100%勝てる訳ではないので油断は禁物ですが、確率としては却下の方が多い訳です。では何故、一部の貸金業者は移送申立を行うかと言えば、「時間かせぎ」をする為です。

訴状を出すと第1回口頭弁論期日が約1ヵ月後くらいに決められます。そして、移送を出すような業者は、この第1回期日に狙いを定めて期日直前(ひどい時には前日)に移送申立を出してきます。そうすると、移送の審査の為に第一回期日は取り消しとなり、そこから移送の審査、却下、即時抗告、もう一度審査、却下と2ヶ月近くの時間を費やします。例え、却下されたとしても業者から見れば「時間の引き延ばし」の効果は充分にある訳です。だからこそ、この手を使う業者は、たちが悪いのです。

 さて、理解の無い裁判官に当たって、万が一、移送が認められてしまった場合は、諦めるしかないのでしょうか。実は簡易裁判所の場合は、何とかする方法があります。それは簡易裁判所の特則を使う方法です。

簡易裁判所の特則とは色々ありますが、その中に「本人が出頭しなくても書面で反論や主張が出来る」というものがあります。これを使えば、遠方の裁判所に移送されてしまった場合でも、戦う方法はあります。

こう書くと、「何だ、そんな方法があるのなら、始めからそれを使えば良いじゃないか」と考えそうですが、実は、そう簡単なことではないのです。

一応、この特則はありますが、では現実に使われているかというと、あまり使われていません。何故かと言えば、やはり裁判官も人間であり、実際に出頭してきた生の声の方を信頼する傾向があるからです。書面だけ出して来ない人には「真剣に訴訟をしようと思っていない」と判断されてしまう危険性があるのです。故に、この特則は移送が認められてしまった場合などの、やむを得ない時にのみ使うのが得策です。むやみやたらに使うのは、控えた方が良いでしょう。

 では次回は、クレジット会社のライフの最近の状況についてです。