司法書士ジャーナル
橋本司法書士事務所ブログ

2011年10月

10月 31 2011

差押④ 動産の差押

差押には大きく分けて、債権、不動産、動産があります。

債権とは請求権のことで、代表的には給料(従業員から会社への請求権)・売掛金(売主から買主への請求権)・銀行口座(預金者から銀行への請求権)などがあります。

不動産は説明が不要でしょう。いわゆる、土地・建物のことです。

これらに対して動産とは、簡単に説明すると、債権でも不動産でもないものと考えると分かりやすいでしょう。具体的には家財道具・持ち物は全て動産に含まれます。

以上3つの差押のうち、動産の差押は最も人気がありません。よく、映画やドラマではイメージが分かり易いせいか、動産の差押のシーンが登場します。家中の家財道具に赤い紙を貼っていく例のシーンです。ところが現実の実務では、あんなことはめったに行われないのです。

その理由の最大のものは、回収率が非常に悪いという一点につきます。そもそも換金して価値のある動産など、ほとんどの人が持っていないというのが現実だからです。(そんなものを持っている人は大抵、資産家ですから、そもそも差押の対象になることが少ないです)

皆さんも自分のこととして思い返してみれば、自分の持ち物で換金して、まとまったお金になりそうなものは、なかなか思い浮かばないのではないでしょうか。(今は金が上がっていますから、女性なら金を使ったアクセサリーぐらいでしょうか)

もちろん、金庫やタンスに現金がある人は、現金は動産になりますから差押の対象になります。しかし、まとまった現金を持っている人が差押の対象になることが少ないのは、換金して価値のある動産の時と同じことです。

また、もし、以上のような現金や価値のある動産を持っていたとしても、どこか分からないところに隠されてしまった場合、動産の差押で見つけ出すことは、ほとんど不可能です。

恐らく知らない人のイメージだと差押の執行官は税務署員のような人だと思われているのではないでしょうか。実は私も差押の現場に付き添うまでは、そのように思っていました。税務署員のように徹底的に隠し財産を調べ上げて時間をかけて追求していくのだろうというイメージです。

ところが、実際の動産の執行官は、ざっと建物の中を見渡したら、一言、二言、住人に聞いて、一応、押入れや戸棚や引き出しの中を開けさせて確認はしますが、奥までひっくり返して全て調べるようなことは基本的にしません。非常に表面的で事務的なのです。

これは、税務署員と執行官の勤務評価にかかわっていると私は思っています。

税務署員は文字通り、隠し財産を見つけて税金を余分に取ったら、それは税務署員の成績になります。ようは勤務評定に反映される訳です。おのずと彼らは頑張って探そうとする訳です。

一方、執行官の方は見つかっても見つからなくても一切、評価には関係ないと聞いています。こうなると、人間あまり一生懸命やらなくなるのは当然で、一通り調べて見つからなければ、それで終了となってしまいます。

以上、動産の差押が何故、人気がないのかを説明しましたが、一つだけ意味があるとすれば、それは相手に対する嫌がらせの効果です。

動産の差押は、債務名義(差押の根拠となる書類)を持っている人が裁判所に申し立てれば必ず始まります。見つからなくても何回も申し立てることは一応、可能です。

いくら見つからなくても、裁判所の執行官が何回も家に来て見回られるのは誰だって嫌なものです。しかも、裁判所は、いつ調査に来るかを事前に教えてくれる訳ではありません。(これは当然ですね、教えたら差押の意味がありません)

ある日突然、執行官がやってきて調査を始める訳ですから、税務署に比べて大雑把であっても、何回もやられたらプレッシャーになるでしょう。

まして、相手が事業主であった場合、仕事場に突然、現れるので、仕事の支障になる可能性があります。お客さんがいるところに来たら、相手にはかなりの重圧になるでしょう。

このような方法で相手にプレッシャーを与えて支払を約束させるというやり方もある訳です。(他の方法に比べて遠まわりで面倒ではありますが)

 

10月 24 2011

個人再生における自動車ローンの扱い

久々に個人再生の話題です。

平成22年6月4日の最高裁判決の影響で個人再生における自動車ローンの扱いが変化した裁判所があるようなので注意が必要になりました。(まだ全国の裁判所に広がっているのかどうかは不明です)

注意すべきケースは車検証の所有者の欄にディーラー(販売店)が書かれている場合です。

理屈から考えるとローンが払い終わっていない場合、自動車の所有権はローンの担保としてクレジット会社に留保されている状態です。従って、多くのケースでは車検証の所有者の欄はクレジット会社になっているでしょう。

ところが、ローン未払いの時の車の引き上げや売却の関係で、この所有者欄がディーラーになっている場合も少なくないのです。これが問題をややこしくしています。何故なら、クレジット会社はローンを組んでいる以上、正統な所有権を主張する権利がありますが、ディーラーには無いからです。所有者欄がディーラーになっている法的な根拠を問われても、ディーラーは回答に困ってしまうでしょう。要は事務手続上の問題に過ぎないからです。

しかし、裁判所は法律を厳格に解釈して以下のような判断をくだす可能性があるのです。(実際に名古屋地裁本庁の再生係で、下された判断のようです)

その判断とは、車検証の上でディーラーが所有者となっている以上、クレジット会社に自動車の引き上げや、換金の権限は無い。従って、個人再生の際、クレジット会社が自動車を引き上げて換金するのは、特定の債権者に対する偏頗弁済(一部の債権者に対して多く弁済すること)となり違法である。もし、これを行うならば、クレジット会社が換金して返済された分を清算価値として計上(財産に加えて支払額を増やせということです)するべき、というものです。

このとおり処理すれば、換金された自動車の時価相当額は丸ごと清算価値に上乗せされることになり、自動車の価格によっては支払額の大幅アップに、つながりかねません。

以前の処理では、換金されても清算価値の増加は無く、クレジット会社のローン残額も減って、何の問題もありませんでした。今でも車検証の所有者欄がクレジット会社になっていれば問題なく、この処理が行なわれます。

要は、車検証の所有者欄がディーラーになっているか、クレジット会社になっているかで、やっている処理自体は同じなのにもかかわらず、著しく依頼人に不利になるケースが出てきた訳です。

ただし、清算価値は100万円までは支払額に影響を与えませんので、自動車の時価と、その他の財産を合わせても100万円に届かない場合は心配する必要はありません。今までと変わりがないと考えて良いでしょう。要は安い自動車に乗っている人は、あまり心配いらないということになります。(自分は軽自動車だから大丈夫とは思わないで下さい。軽自動車は最近、人気なので意外に時価は高かったりするので事前に調べた方が良いでしょう)

それにしても、単に引き上げ売却の際の都合で習慣化していた制度を、厳格に解釈して依頼人の経済的再生を、やりにくくしてしまっている裁判所の判断は疑問を感じます。今後、処理を重ねていくと多くの矛盾が出てくると思われますので、その中で少しでも改善されていくことを期待したいと思います。

より詳しい情報を知りたい方は以下をクリック

http://www.hashiho.com/debt/kojinsaisei/

10月 18 2011

臨時ニュース 武富士その後⑤

武富士の更生管財人(会社更生を取り仕切る役目のこと)が、武富士の元役員と大株主を相手に損害賠償請求訴訟を起こしたようです。

これは表向きは、武富士の元役員や大株主にも会社倒産の責任を負わせるというものですが、素直に、そのように評価してよいかは疑問が残ります。

何故かというと、今まで武富士の更生管財人は、過払金債権者よりも武富士に味方していると見られていて、過払金債権者側の弁護士達からは批判の対象になっていたからです。

そのように見られていた更生管財人が一転して武富士の責任を追及する訴訟を提起した訳ですから、「これは何か裏があるのではないか」と勘ぐってしまうのも無理はありません。

予想できることとしては、武富士の会社更生を成功させる為には過半数の賛成票を集めなければなりませんので、賛成票を投じてもらう為にパフォーマンスとして武富士に責任追及をしているという疑いです。

この予想どおりだと仮定すると、管財人は真面目に武富士を追求する気はなく、適当なところで訴訟を終わらせてしまう可能性があるということになります。あるいは非常に低い金額で決着を図るかもしれません。(私は個人的には、予想どおりである可能性が高いのではないかと考えています)

もし予想が当たっていたとしたら、腹立たしい反面、そこまで武富士は賛成票集めに苦労しているのか、という見方もできます。

前回の丸和商事の件でも書きましたが、武富士の会社更生が成功するかどうかは、全ての消費者金融が注目しています。武富士の過払金逃れが、うまくいけば、今後、畳み掛けるように消費者金融の倒産が次々と起こってくるでしょう。(何しろ過払金をカットして会社が存続するのですから)

従って、繰り返しになりますが、武富士の会社更生は、丸和商事の民事再生と同じく、失敗することが好ましいと考える訳です。

 

10月 12 2011

臨時ニュース 丸和商事倒産 その4

民事再生を申し立てていた丸和商事(ニコニコクレジット)ですが、最近、弁済率が発表されたようです。何と武富士をも下回る割合で司法書士・弁護士の間に衝撃が走っています。

具体的には1000万円までの過払金に対しては1.65%、1000万円を超える過払金に対しては1.32%というものです。ほとんどの過払金債権者が1000万円以下だと思われますので、弁済率は1.65%だと考えて良いでしょう。

この弁済率だと仮に100万円の過払金があったとしても、丸和商事からの配当金は、わずか1万6500円ということになります。衝撃が走ったのも当然でしょう。いくらなんでも武富士を下回るとは多くの人は予想していなかったのではないでしょうか。

同じ静岡県のクレディア(現フロックス)の民事再生の時は弁済率が4割だった訳ですから、まさに天と地の差があります。(クレディアは内心、失敗したと思ってるんじゃないでしょうか。もう少し粘っていれば、相当、弁済率を下げられたのではないかと思っていても不思議はないです)

問題は、この非常識な弁済率の再生計画案が果たして認可されるかどうかです。しばらくすると、計画案に賛成か反対かを決める投票用紙が過払金債権者のところに送られてきます。

私の意見は、やはり、この計画案は反対多数で不認可に追い込むべきだと考えます。今回の弁済率が非常識になったのは、やはり武富士の影響が大きかったと思います。武富士の前例が無かったら、丸和商事も、これほど大胆な弁済率は提示できなかったでしょう。

もし、これが簡単に認可されてしまったら、消費者金融各社は倒産すれば過払金から開放されて再出発できると考えてしまうことになります(丸和商事には銀行のスポンサーが決定していて、認可されたら会社は存続します)。

そうなったら、次から次への倒産ラッシュが起こり、収拾がつかなくなるかもしれません。過払金債権者は大打撃を受けることになります。

どこかで負の連鎖を断ち切る必要があります。武富士、丸和商事のどちらか(願わくは両方とも)が、倒産手続に失敗するという前例を作らなければなりません。そうすれば、他の消費者金融も安易な倒産をためらうようになるでしょう。

丸和商事への過払金債権者の皆さん、反対しましょう。こんな不当な倒産を許すべきではありません。

10月 04 2011

臨時ニュース プロミスが銀行の完全子会社に

消費者金融業者の中でプロミス・アコム・新生は比較的安全だと今まで説明してきました。これは、これらの業者には銀行がバックについているからです。しかし、裏を返せば万が一、銀行が見放したら一気に経営が傾く可能性もありました。

最近の消費者金融の経営状態の悪化は世間でも評判になっていて、このまま悪化が止まらなければ銀行が提携を解消してしまうのではないかという噂も流れていました。(こういう時に銀行が容赦ない対応をすることは皆さんも良くご存知でしょう)

ところが最近、プロミスの親会社である三井住友銀行が今までの出資比率(確か22%だったと思います)を大幅に引き上げて100%子会社にすることが発表されました。

これは事実上、プロミスに関しては三井住友銀行が責任を持つと宣言したようなものです。これでプロミスが倒産する危険性は限りなく低くなったと言えるでしょう。過払金請求を考えている人には朗報です。

武富士以来、どこの業者が倒産してもおかしくないという疑心暗鬼の状態が続いてきましたが、ようやく安心して請求できる業者が出来たということになります。

今まで過払金の支払時期が延びる傾向にあったプロミスですが、これを機会に支払時期も短縮してくれることを期待したいです。

今まで銀行が消費者金融に対して、もっとも懸念していたのが、いつまで続くか分からない過払金請求のことでした。ところが今回、三井住友銀行は「過払金請求はピークを過ぎた。今後は減少していくだろう。」と見通したと言われています(だからこそ100%子会社にしたのでしょう)。

実際に過払金請求の絶対数も武富士倒産以来、減少傾向にあるようです。しかし一部の司法書士や弁護士の中には、「まだ、完済してしまって、そのまま放ったらかしにしている人が、かなりいるはず。その人達が10年以内に請求してくれば、また増加する可能性はある」と言っている人もいます。

果たして、どちらが正しいのかは分かりません。しかし、一時期の膨大な過払金請求であふれかえったようなピークは過ぎたのは、確かではないかと私は思います。