9月
27
2011
差押の中で給料の次に、よく行なわれるのが銀行口座の差押です。何故、給料や銀行口座が狙われるのかと言うと、換金の必要が無いからです。
給料や口座を押さえてしまえば、直接、現金を獲得することが出来ます。しかし、不動産や動産に対する差押の場合は、不動産や動産を現金に換金する作業が必要になります。換金作業では、時期による価格の変動もありますし換金による手数料も発生します。最悪の場合は二束三文で換金できないという可能性もある訳です。
このように有利な点が多い銀行口座の差押ですが、給料に比べて人気が劣るのは、給料よりも確実性が低いからです。
給料の場合は勤め先が分かれば、ほとんど成功します。時間はかかっても、いつかは回収できます。ところが、口座の場合は差し押さえた時点で残高が無ければ空振りになってしまうのです。
裁判で負けた相手は、ちょっと法律の知識があれば次には差押の危険があることを知っています。そうすると、銀行口座から現金を引き出してしまうという行動に出ます。これを事前にやられると口座の差押は、お手上げになってしまうのです。(この点、給料の場合は分かっていても防ぐ方法がありません。強いて言えば会社を辞めるしかないことになります)
ちなみに銀行口座を知られていないから大丈夫と思っている人は大きな間違いです。口座の差押は銀行名と支店名が書かれていれば裁判所は受け付けます(口座番号は不要です)。また、複数の銀行や支店が書かれていても構いません(費用は余分にかかりますが)。だから、裁判で負けた相手の近所の銀行の支店を片っ端から差押をするということも可能なのです。その中の一つでも当たっていれば成功です。
はずれた支店に口座自体が無かったとしても、それは手続的な問題にはなりません。そもそも差押とは、そういうものなのです。だから、確実でない情報をもとに、予想をして差押をすることは許されているのです。
あと相手が会社であれば取引銀行が分かっていれば(会社のパンフレットやホームページに取引銀行が書かれていることが多いです)、目ぼしい支店に一斉に差押をかけるという手段もあります。
このように銀行口座の差押は、一種、賭けのような部分が存在します。うまく残高がある口座にヒットすれば丸ごと回収できますが、残高が無ければ全くの無駄骨に終わる可能性もあるのです。この辺りが給料に比べて優先順位が低い原因だと思います。
9月
21
2011
地方裁判所は都道府県に一箇所ですが、面積が広い都道府県の場合は一箇所だと不便になってしまうので、支部というのを設けている場合が多いです。
支部は名称からのイメージでは子会社のように思われるかもしれませんが、実際には独立した裁判所として機能しています。従って、支部と本庁で全く取り扱いが違うということも普通に起こります。
名古屋地裁岡崎支部は西三河と呼ばれる地域を管轄する地方裁判所ですが、名古屋地裁本庁(名古屋市の中心部にあります)とは色々な意味で異なる裁判所となっています。
債務整理を申し立てる人にとって最も大きな違いは個人再生の取り扱いでしょう。
個人再生を申し立てる場合、本庁では、かなりの確率で再生委員が付きます。この為、申立費用が約8万円ほど高くなってしまいます。もともと再生を申し立てる人は生活が苦しい訳ですから、この金額の差は大きいです。
他にも岡崎支部の個人再生では裁判所に呼び出されることがありません。書面審査だけで進んでいきますので、申立人の負担が非常に軽いのです。それに対して本庁では最低でも1回、再生委員が付いた場合は2回も裁判所に呼び出されます。
これだけ大きな違いがあるにもかかわらず、本庁の管轄地域と岡崎支部の管轄地域は隣あっているのです。私の昔の事務所は日進市にありましたが、その頃はちょうど双方の管轄の中間に近い地域で、両方の依頼人が多く訪れていました。そうすると同じ個人再生という手続をやっているのに費用や時間が大幅に異なることに強い疑問を持つようになりました。正直なところ、本庁管轄の人が申し立てる場合は一時的に岡崎支部の管轄に引っ越した方が良いのではないかと思う時もありました。
これ以外にも、最近、本庁で流行っている過払金訴訟の調停移行の問題でも大きな違いがあります。はっきり言って岡崎支部では調停に強制的に移されることはありません。通常訴訟として申し立てれば、そのまま訴訟として扱ってくれます。
これらの違いは何を意味しているかというと、ようするに弁護士が余っている地域か、そうでないかの違いなのです。
本庁の個人再生の費用が高いのも呼び出しが多くあるのも全ては再生委員が付くからです。再生委員のほとんどが弁護士です。また、本庁の過払訴訟が調停に回された時に調停委員に登場するのも、やはりほとんどが弁護士なのです。ようは弁護士が多くいる地域にある裁判所と、弁護士があまりいない裁判所の違いが明確に現れているという訳です。読者の皆さんは、この事実を知って、どのように感じられるでしょうか。
9月
12
2011
最近は法廷に行くと、いかにも素人に見える人が原告席に座って裁判官の質問に答えている姿を目にすることがあります。やり取りを聞いていると、そのほとんどが過払金の訴訟だと思われますが、素人の人達にも訴訟に関する関心を高めたという効果も過払金訴訟にはあったのかもしれません。
以前は素人が法廷に来る場合は、ほとんどが被告席での登場でした。原告は貸金業者、クレジット会社、携帯電話会社などで、未払いの返済金や電話料金などを請求されて放っておいたら自宅に訴状が届き驚いて法廷に来たというパターンです。従って、原告側に素人が座っているというのは本当に珍しいケースだったのです。
民事訴訟の場合、訴えた方を原告といい、訴えられた方を被告といいます。この被告というのは刑事裁判での被告人と間違われることが多いのですが中身は全然違います。
被告人は犯罪に対する容疑者ですが、被告は単に訴えれただけの存在です。日本の裁判では刑事裁判の場合、90%以上の確率で被告人は有罪になります(これはこれで民主主義国家としては問題だと思いますが)ので、何となく日本人は被告人というと悪い人のイメージを持ってしまいます。
本当は刑事裁判で有罪になるまでは被告人といえども犯人扱いしてはいけないという原則があるのですが、実際にはマスコミも犯人であるかのように報道しているケースもしばしばあります。
この被告人のイメージに引っ張られて民事裁判の被告も悪いイメージでとらえてしまう人が多いのですが、こちらは犯罪とは関係ありません(もちろん刑事裁判の被告人に対して新たに民事の損害賠償を起こした場合は、同一人物が被告人であると同時に被告になるケースもあります)。
法廷では原告が裁判官席に向かって左側に、向かって右側に被告が座ります。原告は自分の要求を訴状に書いて、その要求がどういう法律に基づいて請求できるか、また当てはまる法律の要件を満たす事実が存在していることを明らかにしなければなりません。(これが結構、専門知識がいるので原告側に座る素人が少ない理由になっていると思われます)
更に被告が反対してきた時に、事実が存在していることを証拠によって証明するのは原告の役目です。厳密に言うと被告が証明しなくてはならない事実もありますが、ややこしくなるので今は置いておきましょう。とりあえず、最初に証明しなくてはならないのは原告の方だと考えておいて下さい。だからこそ、世の中のあらゆる契約の場面で契約書が作成されるのです。何の為に契約書を書くのかと言えば、後で裁判になった時に原告は契約があったことを証明しなくてはならないからです。
裏を返せば、もし原告が契約書を持っていなかったら、分かりやすい例で言えば金を貸した原告が借用書を持っていなかったらどうなるか考えてみましょう。
裁判になった時に被告が、「私は金なんか借りてない、原告はウソをついている」と言ったとしましょう。この時に金を貸したことの証明は原告の役目です。その時に最も強力な証拠は契約書です。印鑑が押された契約書が出てくればウソをついているのは被告の方だと裁判所は判断するでしょう。でも原告が貸し借りの事実を証明できなかったら、裁判で負けるのは原告の方なのです。
ここで、おかしいなと思われた人がいるかもしれません。例え原告が証明できなくても、ウソをついているのは原告とは限りません。どちらがウソをついているか分からない状態のはずです。では何故、原告が負けるのかと言うと、それが民事裁判のルールだからです。これを立証責任と言います。
この点については長くなりますので、またいつか説明しましょう。
9月
06
2011
差押の中で最も良く使われるのが給料の差押です。何故、良く使われるのかと言えば最も成功率が高いからです。
差押①でも書きましたが、差押とは実際には成功率が高くありません。(理由は差押①をご覧下さい) そんな中で給料の差押は数少ない非常に成功率の高い方法なのです。何故なら給料は貯金と違って、会社が本人に渡す前に差し押さえてしまえば、隠すことも使ってしまうことも出来ないからです。差し押さえる側にとって、これほど有利な条件はありません。(逆に裁判で負けた側にとっては給料の差押は最も注意しなければならないものです)
貸金業者は、お金を貸す時に必ず勤め先を聞いて書類に記入させます。これは、いざと言う時に給料の差押を可能にする為です。会社名と住所が特定されていれば(最悪、会社名さえ分かれば住所は調べられますが)、給料の差押が可能になるのです。そして契約書には、たいていの場合、「勤め先に変更があった場合は必ず知らせること」という条項が書かれています。これは勤め先が分からなくなると給料の差押ができなくなってしまうからです。
そうは言っても給料を差し押さえられたら生活が出来なくなってしまうと思われた人もいるでしょう。しかし、そこは法律も考えていて給料全額の差押は禁止されています。その額は毎月の給料の4分の1と定められています。ようするに差し押さえられるのは給料の4分の1までで、4分の3は受け取ることが出来るということになります。もっとも、高額の給料を受け取っている場合は法律の例外として、4分の1以上の差押が認められています。しかし、高額の給料を受け取っている人は、そもそも裁判で負ける前に支払ってしまう場合が多いでしょうから、現実には4分の1が適用されると考えておいて、ほとんど問題ないでしょう。
給料の差押が実行された場合、まず裁判所から会社に(公務員の場合は国や地方自治体に)差押の通知が届きます。本人に届くのは、その後です。通知を受け取った会社は毎月の給料から4分の1を差し引いて本人に渡すことになります。
4分の1だと、給料によっては、かなりの回数を重ねないと請求されている金額に届かない時もあります。しかし、法律の規定で差押を1回すれば請求金額に届くまで、ずっと差押の効力は持続することになっています。ようは1回差し押さえれば、全額回収するまで会社は毎月、4分の1を差し引き続けることになるのです。
一見、長時間かかるので効率が悪いように見えますが、それでも、あらゆる差押の中で最も良く使われるのは何と言っても回収が確実だからです。相手の会社が倒産するか、本人が退社でもしない限り必ず、いつかは回収できることになります。
最初に書きましたように差押は、もともと、あまり成功率が高くありませんから確実に回収できるというメリットは非常に大きいということです。