司法書士ジャーナル
橋本司法書士事務所ブログ

2023年7月

7月 31 2023

破産して免責された債権の時効 時効(115)

破産して免責された債権は時効にかからない

破産により免責された債権は時効により消滅することがありません(最高裁平成11年11月9日判決)。ようするに免責債権は、いつまで経っても消えない債権ということになります。

こう言うと「破産して免責されたのだから、その時に債権は消えているのでは?」と考える人も多いでしょう。実はこれは法的には間違いです。

正確には、免責債権は法的に請求できない債権であって、消滅するわけではないのです。ですから、よく言われる「破産で借金がチャラになる」という表現は法的には正しくありません。請求することができないだけで存在はしている債権ということになります。

免責債権は債権者が取り立てることはできないが、時効にもかからないので、永久にそのままの状態で残り続ける不思議な債権なのです。(取り立てができないので、債務者から見たら消えたように感じます)。

なぜそうなるのかと言う法的な説明は長くなりますので、ここでは省略します。そうなるという結果だけ知っておいてください。

免責債権が時効にならないのは何が問題なのか

免責債権は取り立てができません。もちろん差押もできません。ならば時効にならなくても何も問題ないのでは、と思われる人も多いでしょう。確かにほとんどの場合は問題になりません。ただし非常に稀に問題になることがあるのです。

それは免責債権に抵当権が付いている場合です。

抵当権の被担保債権が免責されていた場合

例えば以下のような事例を考えてみましょう。

親から相続した不動産の登記簿を見たら抵当権が付いていました。調べてみると友人の借金の担保として親の不動産に抵当権が付けられていたことが分かりました(このようなケースを物上保証と言います)。親の友人に確認したところ、何とその友人は10年以上前に自己破産をして免責許可を受けていたのです。

そこで相続人は「破産しているのだから債権は消滅しているのだろう」と考えて抵当権を抹消しようとしたら、「債権は消えていないので抹消できない」ことが分かりました。

更に「10年以上経っているので時効で消えているのでは」と考えて抹消しようとしたら、「免責債権は時効にはならない」ということも分かりました。

では、この抵当権はどうやって消したら良いのか、と途方にくれてしまいました。

抵当権を抹消する方法

では、どうすることもできないのでしょうか。実は方法があります。

それは、債権ではなく抵当権自体の時効を援用する方法です。債権とは別に抵当権自体も時効消滅するのです。その時効期間は20年となっています。改正民法166条2項では、「債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から二十年間行使しないときは、時効によって消滅する。」と書かれています。

抵当権は「所有権以外の財産権」に当たりますので20年で時効消滅します。債権の時効で消せないのならば、抵当権の時効で消せば良いという考え方です。

この方法は通常は使われることはありません。理由は2つあります。

  1. 債権の時効の方が時効期間が短いので、通常は債権の時効を使った方が早く消すことができるから
  2. 民法396条に、「抵当権は被担保債権と同時でなければ時効によって消滅しない」という規定があるから

2については説明が必要です。条文通りならば、免責債権は時効消滅しないので抵当権も時効消滅しないと読めます。これでは困ってしまいますね。今回のようなケースで抵当権を消す方法が無くなってしまいます。そこで以下のような最高裁判決が出されました。(最高裁平成30年2月23日判決)

「抵当権の被担保債権が免責許可決定の効力を受ける場合には、民法396条は適用されず、当該抵当権自体が20年の消滅時効にかかると解するのが相当である」

裁判所には疑問を感じる判決も時々ありますが、この最高裁判決は非常にまともで納得できる内容です。法律が予想していなかった欠陥を、裁判所が判決で補ったという理想的な事例だと思います。

結論

他人の物上保証人になっている場合は、その他人が破産免責を得ている場合は被担保債権の消滅時効を主張することができず、通常の方法では抵当権を消すことができません。

そこで、抵当権自体の消滅時効を主張して抵当権を消す方法を紹介しました。通常は使うことが無い相当レアな方法ですが、いざと言う時のために知っておいても損はないでしょう。

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