司法書士ジャーナル<相続>
橋本司法書士事務所ブログ

2月 13 2024

相続登記を放置したために売却ができなくなったケース 相続登記㉞

実際にあった事例

今回お話しするのは実際にあった事例です。まずは概要を説明します。
息子さんからの相続不動産の売却の相談です。

数年前に不動産の名義人である母親が既に亡くなっていましたが、その時は相続登記をせずに放置していました。その後、父親が亡くなって財産を調べたところ、父親名義の多額の借金があることが分かりました。

そこで借金を相続しないように父親の財産については相続放棄をされたそうです。その後で母親の名義の不動産を売却できないかという相談に来られました。

相続人不在の持分がある不動産

この事例の何が問題かと言うと、不動産の一部が相続人不在になってしまったことです。そうなった原因は以下のとおりです。

母親が亡くなった時に相続登記を放置していたため、不動産は法定相続分で父親と息子が共有している状態でした。この時までは遅れて遺産分割協議をすることは可能でした。

ところが父親が亡くなって2次相続が発生しました。しかも父親に借金があったために息子は相続放棄を選択しました。これにより不動産の一部が相続人不在になってしまったのです。

なぜ相続人不在になったのか

母親が亡くなった時点で、法定相続人は父親と息子の二人です。この状態で父親が亡くなると、父親の持っていた不動産共有持分の権利は通常は息子に相続されます。ところが息子が相続放棄してしまったので、父親の共有持分の権利が宙に浮いた状態になってしまったのです。

遺産分割協議が開けないので所有者が決まらない

父親に両親や兄弟姉妹などの他の相続人がいれば、その人と母親の不動産について遺産分割協議を開くことができますが、残念ながら他の相続人はいませんでした。そうすると通常の遺産分割協議を開くことができません。母親名義の不動産の所有者を決めることができないのです。

この場合に考えられる方法は、家庭裁判所に相続財産管理人を選任してもらうことです。しかし相続財産管理人の選任には多額の費用と大きな手間がかかります。
※相続財産管理人の選任の際に裁判所に納める費用は数十万円と言われています。

相続財産管理人から持分を買い取る

しかも父親の不動産共有持分を手に入れるためには相続財産管理人から買い取る必要があります。タダでは手に入らないのです。

こうなる理由は相続財産管理人に借金の清算義務があるからです。相続財産管理人は父親の財産から借金を返さなくてはなりません。そのために父親が母親から相続した不動産持分を売却して換金する必要があります。この場合、もう一人の共有者が息子になりますから、息子が買いたいと言えば問題なく売ってくれるでしょう。相続財産管理人にとっても息子にとっても都合の良い結果ではあります。

ただし相場よりも安く買うことはできないと思った方が良いです。なぜなら相手は家庭裁判所から選任された相続財産管理人ですから、原理原則どおりに行動するからです。民間の不動産業者のような値引き交渉は通用しないと考えるべきです。

結果および結論

これらのことについて説明したところ、相続財産管理人選任の費用や、その後の共有持分の買取費用を考えるとメリットが少ないということで、売却はあきらめて放置という選択をされました。ただし今年の4月から相続登記が義務化されますので、ずっと放置しておくことはできなくなります。

今回の事例では、どうすれば良かったのかというと母親が亡くなった時点で速やかに遺産分割協議を開いて、不動産を全て息子さんが相続すると決めた上で、息子さん名義の相続登記をしておけば問題は無かったのです。

父親が亡くなった時には既に息子さんの名義になっているので、父親の相続放棄をしても問題なく不動産を売却することができました。相続登記を先延ばしにしたことで、手痛い失敗をしたという事例でした。

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