司法書士ジャーナル<相続>
橋本司法書士事務所ブログ

相続放棄

7月 07 2015

相続放棄申述受理通知書と相続放棄申述受理証明書(相続放棄④)

相続放棄のふたごの書類「通知書」と「証明書」

相続放棄には、非常に似通った名前の二つの書類があります。
「相続放棄申述受理通知書」「相続放棄申述受理証明書」です。
以下、長いので前者を「通知書」、後者を「証明書」と呼びます。

名前だけではなくて、書類自体の見かけも非常に似ています。
「こんなの名前がちょっと違うだけで、ほとんど同じじゃないか」と思うでしょう。

通知書と証明書の効果の違いは?

しかし、法的には、この二つの書類は明らかに効果が違います。
「通知書」の方は公的な証明としては使えないことが多いのです。

相続放棄の手続が終了すると、放っておいても家庭裁判所から送られてくるのが「通知書」です。
裁判所から届いたのだから、そのまま相続放棄の証明として使えるんだろうと普通の人なら思ってしまいます。
(実は私も始めは、そう思っていました。)

ところが、「通知書」をコピーしてローンの債権者に送ると、
「これではダメです。証明書を送って下さい」と言われることが多いのです。
また、不動産の相続登記(名義変更)で法務局に提出しても、
「改めて証明書を出して下さい」と言われます。

ようするに「通知書」とは、単に相続放棄の手続が完了したという、家裁からのお知らせなのです。
(その割には「証明書」とあまり違いの無い書類なのですが。)

一方「証明書」は、相続放棄をしましたということを、家庭裁判所が証明してくれている書類です。
必要なときは、添付書類と申請書と手数料をそろえて家裁に申請しなくてはなりません。

「通知書」は相続放棄をした人に送られるお知らせなので、一通しか発行されないのが普通です。
複数必要な時はコピーを取って使用することになります。

「証明書」は何通でも申請できます。
債権者や法務局に出す時は、コピーではなく原本が必要ですから、提出したい分の通数を申請することになります。

「証明書」の原本が、文字通り相続放棄の事実を公的に証明した書類になります。そのためには、手続が終了した後も一手間かかるということを覚えておきましょう。

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7月 03 2015

相続放棄の「照会書」って何?(相続放棄③)

実際に相続放棄の手続をした人でないと、なかなかお目にかからない書類が「照会書」と呼ばれるものです。
これは、家庭裁判所に相続放棄の申立をしたあと、最初の審査が終わるころに、送られてくる書類です。
相続放棄をする相続人にむけての書類なのです。

相続放棄における「照会書」の内容は?

中には、いくつか質問事項が書かれています。
質問の内容は主に、以下の2つです。

    本人確認
    本人の意思確認

ですから、この照会書に関しては、本人が直接答えなくては意味がありません。

たとえ、書類の送達先(郵送先のことです)を司法書士事務所にしていても、照会書だけは放棄をする相続人の住所に郵送されます。

相続放棄の照会書は、間違うと取り返しがつかない

家裁は、照会書の回答を、重要視していて、回答によっては相続放棄を認めないこともあります。
これだけ厳しい対応をするのは、相続放棄の効果が非常に大きく、間違った相続放棄を家裁が認めてしまったら後で取り返しがつかない、と考えているからでしょう。

従って、私の事務所では、相続放棄の依頼を受けた場合、照会書が自宅に届いたら必ず連絡をして頂くように前もって伝えておきます。
万が一、不適切な回答をして返送してしまったら、放棄が認められなくなる可能性があるからです。
連絡を受けたら、どのような回答をすべきか、注意点は何かを詳しく説明して、審査が通るような状態で返送して頂きます。

ここまでしないで、本人にお任せにしてしまう事務所もあるようです。
しかし、照会書は家裁が重要視している書類ですから、申立書と同じくらい神経を使うべきです。

照会書は、家裁によって書式も質問の内容も違います。
ある家裁で質問されたことが、別の家裁では質問されない、あるいはその逆のこともあるのです。

従って、あまり遠くの事務所に依頼すると、管轄の家裁の照会書については詳しく知らないということも考えられます。
相続放棄に関しては、近隣の事務所に依頼された方が良いでしょう。

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7月 02 2015

相続放棄は結構大変で時間がかかります(相続放棄②)

相続放棄の申立書を提出してから、1週間以上待たされる

相続放棄の手続は、どの程度の時間がかかるのでしょうか?

この答えは、「想像よりも時間がかかる」です。
ほとんどの人は、「たいして時間がかからない」と考えているのではないでしょうか。
「戸籍や住民票を取るようなものなんじゃないの」と思っている人もいるかもしれません。

実際には、必要書類を添付して申立書を家庭裁判所に提出してから、1週間以上待たされる裁判所がほとんどです。
「なんで、そんなに時間がかかるんだ」と思うかもしれませんね。

これは、相続放棄が、重大な権利変更の効果をもたらすので、慎重に審査をしていると考えるべきでしょう。なにしろ相続の権利を完全に無くしてしまう訳ですから。間違っていたら大変なことです。

相続放棄の審査は1回だけではない

しかも、審査は1回だけではありません。

1回目の審査が終了した後で、相続放棄をする相続人に家庭裁判所から、書類が郵送されます。
「照会書」という質問書です。
この書類に書かれた質問に答えて家裁に返送すると、今度は2回目の審査になります。
ちなみに、この質問の答え方や印鑑の種類によっては、相続放棄が認められないケースもありますので注意が必要です。

2回目の審査は、1回目の審査よりは若干早いですが、それでも翌日ということはありません。
ここでも数日の時間がかかります。
審査の結果、問題無ければ「相続放棄申述受理通知書」という書類が家裁から送られてきます。
これでようやく相続放棄が完了したことになります。

しかし、実務の面では、これで終わりにはなりません。
債権者である金融機関に相続放棄を証明する書類を送る必要があります。
また、不動産の名義変更をするために法務局へ提出する場合も同様の書類が必要になります。

この為には改めて家裁に証明書の発行を申請しなくてはなりません。
これがまた、添付書類等が必要になりますので、戸籍や住民票を取るようにはいかないのです。

このように、相続放棄の手続は、全て終了するまでを考えると結構大変で時間がかかります。
「簡単に終わるんじゃないか」というイメージを持っていた人は注意しましょう。

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11月 19 2014

相続財産に借金が含まれていた場合のトラブル(相続放棄①)

相続した財産に、プラスとマイナスがあった!

父親が亡くなって、相続が始まりました。
相続人は父親の子ども二人(兄・弟)だけです。

父親の残した遺産が、プラスのものだけだったら?
預貯金・不動産・証券などです。
この場合、子ども二人で分ければ良いですね。

父親の残した遺産が、マイナスのもの、借金だけだったら?
子ども二人が、相続放棄をすれば、二人とも借金を背負わずに済みますね。

では、プラスもマイナスも両方あった場合はどうすれば良いのでしょうか。

遺産分割協議書で、ひと安心と思っていたら?

例えば、こんな場合です。

父親には、生前に消費者金融から借金があり、専門家に調べてもらったら、利息の払い過ぎで、300万円の過払金が取り戻せることがわかりました。
プラスの財産ですね。

一方、父親には、住宅ローンが500万円残っていて、売却価格400万円と査定されたため、住宅を売っても100万円の借金が残ることになりました。
マイナスの財産ですね。

プラスの財産300万円、マイナスの財産100万円。
200万円のプラス財産が残るように見えます。

これならば、相続放棄をしなくて済みそうに思えますね。

そこで、住宅ローンを引き続き支払っていくという条件で、兄が不動産を取得し、その代わりに過払金も兄が全額もらうという遺産分割協議がまとまりました。
遺産分割協議書が作成され、「弟は財産も借金も共に相続しない」と書かれていました。
弟も納得して実印を押しました。
これで、万事うまくいったと兄・弟は安心していました。
特に弟は、「もう自分は父の借金とは無関係だ」と思っていました。
ところが……。

借金を払わなくてはいけなくなってしまった

その後しばらくしてから、弟に対して住宅ローン会社から連絡がありました。
「お兄さんがローンを払っていないので、不動産が競売になりました。つきましては、ローンの残債の半分の50万円を支払って下さい」という内容です。

弟はびっくりしました。
「遺産分割協議で、住宅ローンは、兄が支払うことになっていますよ。」
こう答えました。

しかし、ローン会社からは、こう言われたのです。
「いいえ、あなたは相続放棄をしていませんので、残った借金の半分を支払う義務がありますよ。

どういうことがおわかりでしょうか。

借金に対する、遺産分割協議書の法的な効力

兄は、過払金を先に使ってしまっていました。

つまり、住宅ローンの支払いだけが残っていた状態だったのです。
過払金を全部使ってしまった兄は、住宅ローンが支払えなくなり、その物件は競売にかけられてしまったのです。
もともと、売却しても借金が残る物件でした。
それで、弟のところに、連絡が来たのです。

この場合、法的にはローン会社の言い分は正しいことになります。

遺産分割協議書で法的な拘束力があるのはプラスの財産のみで、マイナスの財産(借金)に関しては協議書は効力がありません。

債権者、この例で言うとローン会社は、例え協議書があっても、法定相続分に応じた割合の借金を請求する権利があるのです。
従って、弟はローン残債の半分を払わなくてはなりません。
このような展開になったら、兄の支払いにはあまり期待できませんね。

終わりに 相続放棄の大切さ

このような事例は、実務では珍しくありません。
相続財産に、プラスとマイナスの両方があった場合は、気をつけなくてはいけません。

何ももらわなかった相続人は、万が一のことに備えて、相続放棄をしておくこととおすすめします。

人生、何が起こるかわかりません。
プラスとマイナス両方の財産を引き継いだ身内が、マイナスの方を全額きちんと支払ってくれるかどうかは、最後までわからないのですから。

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