司法書士ジャーナル<相続>
橋本司法書士事務所ブログ

2015年7月

7月 10 2015

登記識別情報のシールはがれ、紛失の対処法(相続登記④)

登記識別情報の失効という手続

登記識別情報の目隠しシールが気づかないうちにはがれていた、あるいは登記識別情報の記載された紙を紛失してしまった、というような場合、どうしたら良いでしょうか。

こんな場合に備えて、登記識別情報には「失効」という手続が用意されています。
登記識別情報を失効した場合、そのパスワードは登記には使えなくなります。
ようするに無効になるのです。
クレジットカードを失くした時の「紛失の届出」のようなものだと言えば分かり易いでしょうか。

登記識別情報の再発行はありません!

しかし、クレジットカードとは異なる点が一つあります。
それは再発行が出来ないということです。どんな理由であれ、法務局は登記識別情報の再発行を認めていません。

これは恐らく、もし再発行を認めてしまったら、大きなトラブルになるからでしょう。
免許証などを偽造して本人になりすまして再発行を申請してきた場合に、法務局が「なりすまし」を見抜けなかったら大変です。
何しろ、不動産ですから金額も高額になりますので、謝って済む問題ではなくなります。

失効後、次に登記するには?

では失効させた場合、次に登記をする時には、どうすれば良いのでしょうか。

これについても対策が用意されています。
司法書士に「本人確認情報」というものを作成してもらうのです。
これが添付されていれば、「登記の専門家である司法書士が間違いなく本人確認をした」ということで、法務局は登記手続を受け付けてくれます。

しかし、本人確認情報は司法書士にもリスクがあります。
登記識別情報を持っていない人に対して、不動産の権利者であることを保証する訳ですから、もし間違っていたら当然、司法書士の責任になります。

ですから、本人確認情報を作成する場合、追加の費用を頂くのが通常です。
これは責任が重い立場なので、ご理解頂きたいと思います。
また、登記識別情報よりも慎重な審査が法務局でされますので、通常よりも時間がかかることも覚悟しておいて下さい。

例え時間と費用が余分にかかったとしても、他人に見られた可能性がある登記識別情報を放置しておくことは、おすすめできません。
不動産という高額の財産を安全に維持する為にも、心配だと思ったら迷わず失効手続をしましょう。

>>>相続登記について、詳しく知りたい方は<<<

7月 09 2015

登記識別情報とは? 昔の権利証との違い(相続登記③)

不動産登記法が改正されてから、新しく登記を行うと、従来の「権利証」とは異なり「登記識別情報」というものが発行されます。
今回は、まだ見慣れない人も多いと思われる登記識別情報について説明しましょう。

権利証から登記識別情報へ

長らく日本の不動産登記では、所有権を証明する重要書類として「権利証」が使われてきました。
権利証とは正式名称を「登記済証」と呼び、不動産を譲ることを「権利証を譲る」と表現する場合もあり、金庫などに大切に保管していた人も多かったのです。
(厳密には、権利証を持っているだけでは所有権の証明にはなりませんが、一般的にはそのように考えられていますね。)

ところが長く親しまれていた権利証が、不動産登記法の改正により発行されなくなりました。
その後は、新しく「登記識別情報」という名前の1枚の紙が発行されるようになりました。

実は、この登記識別情報は、従来の権利証とは大きく性質が異なっています。では何が違うのでしょうか。

その違いを理解するためには、まず何故、権利証が重要な書類なのかの説明をする必要があります。

売買、借入時の必要添付書類としての権利証

不動産の権利を売買で他人に移転する場合、所有権移転という登記手続が必要です。
金融機関から金を借りて不動産を担保に入れる場合も、抵当権設定という登記手続が必要です。
その手続をする際に、申請する法務局に対し必ず権利証を添付書類として提出しなければなりません。
権利証が添付されていなければ、登記は却下されてしまいます。

権利証を持っていなければ、他人に売ることができない、金を借りて担保に入れることも出来ません。だからこそ権利証は重要書類だったのです。

これが登記識別情報になった場合、どのように変わるのでしょうか。

登記識別情報の注意点!重要なのは、紙ではない!

登記識別情報とは「紙に書かれた12桁のパスワード」です。重要なのは発行された紙ではなくて、パスワードそのものなのです。

従って、売買による所有権移転登記や、担保に入れるための抵当権設定登記の際に必要なのは、パスワードであって紙ではありません。
ここが最も大事なところです。

ようするに、登記識別情報の場合は、紙が手元に置いてあっても、そこに書かれていたパスワードを他人に知られてしまったら、取られたのと同じことになってしまうのです。

「何と恐ろしいことだ」と思った人も多いでしょう。
しかし、一応、予防策があります。
それは、発行された紙には、パスワードが書かれた部分に特殊なシールが貼ってあって読めないようになっています。

そのシールは一度はがすと、二度と貼れないように特殊な加工がしてあります。
従って、次に登記手続をするまでは貼ったままにしておけば、見られる心配はなくなります。
もし、はがれていれば、それは誰かが見たということが分かるようになっているのです。

では、万が一、はがれていたのを見つけたら、どうしたら良いのでしょう。それは、次回に説明したいと思います。

>>>関連記事は こちら<<<

7月 07 2015

2次相続の相続登記は、遺産分割協議書の工夫が必要(相続登記②)

2次相続とは、手続前に相続人が亡くなってしまうことです。
これが発生すると、非常にややこしいことになる可能性があります。
しかし、そんな場合でも例外はあります。ご紹介しましょう。

私の事務所で受けた相談です。
父親が亡くなった後、名義変更をしないで放っておいた不動産がありました。
そのうちに母親も亡くなってしまって、「さすがにまずいかな」と思って名義変更の相談に来た人がいました。

この場合、本来ならば、

    一旦、父親の相続登記をする
    その後、母親の相続登記をする

というのが、自然な流れです。
ただし、このやり方だと手間も時間も費用もかかります。

しかし、今回紹介した事例の場合、ある条件を満たすと、1回の相続登記で手続が済んでしまうことがあるのです。
もし1回でできれば、時間も早いし費用も安いですから、その方が良いですよね。

ただし、通常の相続登記とは異なり、遺産分割協議書にちょっとした工夫が必要です。
定型的な協議書のままでは法務局の審査は通りません。

また、添付書類に関しても、取得すべき戸籍の量が増えます。
ただでさえ、相続登記は添付する戸籍の量が多い手続です。
それに加えて、母親の「出生から死亡までの全ての戸籍」が必要になります。

本来、2回で行うべき手続を1回で行う訳ですから、特殊な手続には違いありません。
確かに時間と費用は節約できますが、ある程度の手間はかかるということは知っておいて下さい。

条件に合わなかった場合は、当然、2回で行うことになります。
余分に時間や費用もかかることになります。
条件に合うかどうかは、偶然に左右されます。

ごくまれに、故意に相続登記を遅らせることを考えている人がいます。
それはリスクが大きいのでおすすめしません。
リスクを避けるためにも、名義人が亡くなったら出来るだけ早めに相続登記をしましょう。

>>>相続登記について、詳しく知りたい方は<<<

7月 07 2015

相続放棄申述受理通知書と相続放棄申述受理証明書(相続放棄④)

相続放棄のふたごの書類「通知書」と「証明書」

相続放棄には、非常に似通った名前の二つの書類があります。
「相続放棄申述受理通知書」「相続放棄申述受理証明書」です。
以下、長いので前者を「通知書」、後者を「証明書」と呼びます。

名前だけではなくて、書類自体の見かけも非常に似ています。
「こんなの名前がちょっと違うだけで、ほとんど同じじゃないか」と思うでしょう。

通知書と証明書の効果の違いは?

しかし、法的には、この二つの書類は明らかに効果が違います。
「通知書」の方は公的な証明としては使えないことが多いのです。

相続放棄の手続が終了すると、放っておいても家庭裁判所から送られてくるのが「通知書」です。
裁判所から届いたのだから、そのまま相続放棄の証明として使えるんだろうと普通の人なら思ってしまいます。
(実は私も始めは、そう思っていました。)

ところが、「通知書」をコピーしてローンの債権者に送ると、
「これではダメです。証明書を送って下さい」と言われることが多いのです。
また、不動産の相続登記(名義変更)で法務局に提出しても、
「改めて証明書を出して下さい」と言われます。

ようするに「通知書」とは、単に相続放棄の手続が完了したという、家裁からのお知らせなのです。
(その割には「証明書」とあまり違いの無い書類なのですが。)

一方「証明書」は、相続放棄をしましたということを、家庭裁判所が証明してくれている書類です。
必要なときは、添付書類と申請書と手数料をそろえて家裁に申請しなくてはなりません。

「通知書」は相続放棄をした人に送られるお知らせなので、一通しか発行されないのが普通です。
複数必要な時はコピーを取って使用することになります。

「証明書」は何通でも申請できます。
債権者や法務局に出す時は、コピーではなく原本が必要ですから、提出したい分の通数を申請することになります。

「証明書」の原本が、文字通り相続放棄の事実を公的に証明した書類になります。そのためには、手続が終了した後も一手間かかるということを覚えておきましょう。

>>>相続放棄について、もっと詳しく知りたい方は<<<

7月 03 2015

相続放棄の「照会書」って何?(相続放棄③)

実際に相続放棄の手続をした人でないと、なかなかお目にかからない書類が「照会書」と呼ばれるものです。
これは、家庭裁判所に相続放棄の申立をしたあと、最初の審査が終わるころに、送られてくる書類です。
相続放棄をする相続人にむけての書類なのです。

相続放棄における「照会書」の内容は?

中には、いくつか質問事項が書かれています。
質問の内容は主に、以下の2つです。

    本人確認
    本人の意思確認

ですから、この照会書に関しては、本人が直接答えなくては意味がありません。

たとえ、書類の送達先(郵送先のことです)を司法書士事務所にしていても、照会書だけは放棄をする相続人の住所に郵送されます。

相続放棄の照会書は、間違うと取り返しがつかない

家裁は、照会書の回答を、重要視していて、回答によっては相続放棄を認めないこともあります。
これだけ厳しい対応をするのは、相続放棄の効果が非常に大きく、間違った相続放棄を家裁が認めてしまったら後で取り返しがつかない、と考えているからでしょう。

従って、私の事務所では、相続放棄の依頼を受けた場合、照会書が自宅に届いたら必ず連絡をして頂くように前もって伝えておきます。
万が一、不適切な回答をして返送してしまったら、放棄が認められなくなる可能性があるからです。
連絡を受けたら、どのような回答をすべきか、注意点は何かを詳しく説明して、審査が通るような状態で返送して頂きます。

ここまでしないで、本人にお任せにしてしまう事務所もあるようです。
しかし、照会書は家裁が重要視している書類ですから、申立書と同じくらい神経を使うべきです。

照会書は、家裁によって書式も質問の内容も違います。
ある家裁で質問されたことが、別の家裁では質問されない、あるいはその逆のこともあるのです。

従って、あまり遠くの事務所に依頼すると、管轄の家裁の照会書については詳しく知らないということも考えられます。
相続放棄に関しては、近隣の事務所に依頼された方が良いでしょう。

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7月 02 2015

相続放棄は結構大変で時間がかかります(相続放棄②)

相続放棄の申立書を提出してから、1週間以上待たされる

相続放棄の手続は、どの程度の時間がかかるのでしょうか?

この答えは、「想像よりも時間がかかる」です。
ほとんどの人は、「たいして時間がかからない」と考えているのではないでしょうか。
「戸籍や住民票を取るようなものなんじゃないの」と思っている人もいるかもしれません。

実際には、必要書類を添付して申立書を家庭裁判所に提出してから、1週間以上待たされる裁判所がほとんどです。
「なんで、そんなに時間がかかるんだ」と思うかもしれませんね。

これは、相続放棄が、重大な権利変更の効果をもたらすので、慎重に審査をしていると考えるべきでしょう。なにしろ相続の権利を完全に無くしてしまう訳ですから。間違っていたら大変なことです。

相続放棄の審査は1回だけではない

しかも、審査は1回だけではありません。

1回目の審査が終了した後で、相続放棄をする相続人に家庭裁判所から、書類が郵送されます。
「照会書」という質問書です。
この書類に書かれた質問に答えて家裁に返送すると、今度は2回目の審査になります。
ちなみに、この質問の答え方や印鑑の種類によっては、相続放棄が認められないケースもありますので注意が必要です。

2回目の審査は、1回目の審査よりは若干早いですが、それでも翌日ということはありません。
ここでも数日の時間がかかります。
審査の結果、問題無ければ「相続放棄申述受理通知書」という書類が家裁から送られてきます。
これでようやく相続放棄が完了したことになります。

しかし、実務の面では、これで終わりにはなりません。
債権者である金融機関に相続放棄を証明する書類を送る必要があります。
また、不動産の名義変更をするために法務局へ提出する場合も同様の書類が必要になります。

この為には改めて家裁に証明書の発行を申請しなくてはなりません。
これがまた、添付書類等が必要になりますので、戸籍や住民票を取るようにはいかないのです。

このように、相続放棄の手続は、全て終了するまでを考えると結構大変で時間がかかります。
「簡単に終わるんじゃないか」というイメージを持っていた人は注意しましょう。

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