司法書士ジャーナル<相続>
橋本司法書士事務所ブログ

2015年12月

12月 04 2015

後見制度支援信託の実際の手続は?(成年後見③)

被後見人の財産の確定

後見制度支援信託の実際の手続について見ていきましょう。

まずは被後見人の財産の中から、

    未払いで支払うべきもの
    回収するもの
    現金に換価すべきもの

を判断して分類します。

以下は私の経験で例を挙げます。
未払いで支払うべきものとしては、

    滞納施設費用
    滞納入院費・治療費
    相続が発生した後の相続分の分配
    滞納葬儀費用(被後見人の母親が亡くなったケースでした)
    永代供養に伴う墓石の撤去費用

などです。

回収するものとしては、被後見人が相続人になった時の相続分の回収、がありました。
これ以外には、被後見人が貸していたお金の回収などが考えられます。
私は経験していません。

現金に換価するものとしては、今後利用する可能性の無い不動産の売却、株や証券の売却、などです。

以上の分類が終わったら、支払うべきものは支払い、回収するものは回収し、換価すべきものは売却して現金にします。
これらを全て処理した上で、最終的な被後見人の財産の総額を確定します。

ここまででも、手続はまぁまぁ煩雑ですね。

金融機関への後見制度支援信託手続の届出

さらに、上記の手続と並行して、金融機関への届出と集約の手続をします。

届出とは、金融機関に新しく成年後見人になったことを報告して窓口に届け出ることを言います。
実際にやったことがある人は分かると思いますが、これがなかなか大変です。
特に金融機関の数が多い場合は丸一日かけても終わらないときもあります。

何故、大変かと言うと、届出の仕方が各金融機関によってバラバラだからです。
(正直、もっと統一して欲しいと強く願います)。
用紙も違えば記入方法も違い、必要書類も異なります。
しかも、後見人本人が記入して、後見人本人が窓口に出向く必要がありますので、事務員に任せることも出来ません。

金融機関の集約

これは、信託手続をする為の準備と言えるものです。

信託では手元に残す財産は一部で、残りは全て信託銀行に預けてしまいます。
通常、金融機関は一か所だけ残して他は全て解約してしまいます。
(各種引き落としや年金の振込などの関係で2か所残す場合もあります)

解約した金融機関から、残すべき金融機関に解約金を直接振り込みます。
証拠を残す為に、解約したその場で全額を直接振り込むのが原則です。
これにより、現金が残すべき金融機関に集約していきます。

それなら、先ほどの届出は一か所か二か所で済むのではないかと思った人もいるかもしれません。
残念ながらそうではないのです。
通常、解約する為には、その前提として成年後見人の届出をしなくてはならないようになっています。
たまに、届出をせずに解約できる金融機関もありますが、圧倒的に少数派です。
(今後、多数派になってくれるとうれしいですね)

後見制度支援信託の指示書の申請

準備が整ったら、家庭裁判所に信託の指示書の申請をします。
信託指示書が送られて来たら、記載された日付から3週間以内に信託手続を終了させる必要があります。
具体的には、信託銀行に申込書類を送り、信託契約書に署名押印して、信託金を振り込むことになります。

信託金の振込が終わったら、しばらくすると信託銀行から通帳と信託契約書が送られてきます。
これで全て終了です。
専門職は後見人を辞任して、親族に財産を引き継ぐことになります。
ここまで大体半年くらいです。(4カ月くらいで終わる場合もあります)

いかがでしょうか。結構、大変なことをやっていると分かって頂けたでしょうか。では、次回は信託銀行の種類と定期交付金について説明しましょう。

>>>成年後見について、もっと詳しく知りたい方は<<<

12月 03 2015

持っている財産で決まる?後見制度支援信託の現状(成年後見②)

最近、全国の家庭裁判所で強力に推し進められているのが、「後見制度支援信託」と呼ばれる制度です。

この制度は、そんなに古い制度ではありません。
最近になって急に増加しました。

自分が関わった時に、どうして良いのか分からないという人も多いのが実情です。
そこで、詳しく説明しようと思います。

後見制度支援信託の概略

後見制度支援信託とはどういうものなのでしょう。

被後見人さんの、財産はどのくらいありますか?
一定額以上の財産をお持ちの場合、財産の一部を手元に残して、残りを信託銀行に預けるよう、家庭裁判所から指示が出ることがあります。
信託銀行からのお金の引き出しに関しては家庭裁判所の指示書が必要となります。

家庭裁判所が、被後見人さんのお金の管理に関して、より積極的に関わる制度ということです。

一定額とは、いくら位なのかと気になりますよね。
これは各家庭裁判所によって異なるようです。

ちなみに、名古屋家庭裁判所の場合は、1000~1200万円以上あると、この制度の対象となるケースが多いようです。

では手元に残る一部の財産とは、いくら位なのでしょう。
これも名古屋家裁の場合ですが、だいたい200万から300万の間というのが相場のようです。

後見制度支援信託の2つのパターン

①複数後見方式
既に親族後見人が付いていて、その上で更に、司法書士や弁護士などの専門職が二人目の後見人として選任されます。

この場合、権限分掌が行われることが多いです。
権限分掌とは、親族後見人が身上監護、専門職後見人が財産管理というように権限が分かれていることを言います。

そして、専門職後見人が信託手続を進めて、信託が終了した段階で後見人を辞任して、全ての権限を再び親族後見人一人に戻すというパターンです。

②リレー方式
バトンタッチするパターンです。
誰から誰にバトンタッチするのでしょうか。

専門職後見人から、後見人候補者(親族の場合が多い)にです。

新規に成年後見の申立がされた時に、先ほどの一定額以上の財産があることが確認できた場合、まずは専門職後見人一人を選任します。
そして信託手続を任せて、信託が終了した段階で専門職後見人は辞任して、後見人候補者
にバトンタッチするのです。

後見制度支援信託2つのパターンの現状

現状では、①のパターンが圧倒的に多いです。
しかし、①のパターンは徐々に少なくなっていくと思われます。
それは、②のパターンが同時に行われているからです。

そのうち、一定額以上の財産がある人は、ほとんどが新規申立の時点で信託が終了している状態になります。
名古屋家裁の予想では、①パターンのピークは2016から2017年ごろです。

では次回は、具体的な手続について、お話をしたいと思います。

>>>成年後見について、もっと詳しく知りたい方は<<<

12月 03 2015

兄弟姉妹の相続登記は、書類収集が大変!(相続登記⑥)

被相続人(亡くなった人)には、配偶者は既に亡くなり、子どももいませんでした。
そこで被相続人の兄弟姉妹が、相続をすることになりました。
手続はどうなるのでしょうか。
簡単にはいきません。
証明しなくてはならないことが、たくさんあるからです。

兄弟姉妹が相続人になる場合

日本の民法では、相続順は以下のようになっています。
まず配偶者は生きていれば必ず相続人になります。
それ以外には、

(1)第一順位  子供
(2)第二順位  直系尊属
(3)第三順位  兄弟姉妹

となっています。

上記の例の場合では、第三順位の兄弟姉妹が相続人となります。
そのためには第一順位と第二順位が全て生存していないことを証明しなくてはなりません。
主に戸籍で証明します。
他の相続人のときとは異なり、膨大な量の戸籍の収集が必要となります。
正直なところ、司法書士ですら、兄弟姉妹の相続の資料を集めるのは相当に大変な作業です。

では具体的に何が大変なのかを説明していきましょう。

①兄弟姉妹が何人いるかの証明

これを証明する為には、被相続人の父親と母親、双方の出生から死亡までの全ての戸籍の収集が必要となります。
なぜ必要なのでしょうか。

被相続人の父親または母親に、過去のどこかの時点で生まれた、被相続人の把握していない子が存在するかもしれないですよね。
だから、必要になるのです。

実際に、ありますよ。
「うちはそんなこと、一度も聞いたことがないから大丈夫」
調べてみると、母親が若い頃、誰かと結婚していて子どもを1人産んでいたということは、珍しくありません。

わたしは何度も、目にしています。

それに、そもそも父母の戸籍自体が、集めるのに時間がかかることもあります。
よくお引越しをされている方は注意が必要です。
本籍も動いていたりすると、特に面倒なことになりやすいですよ。

②直系尊属がいないことの証明

まずは、両親が既に亡くなっていることの証明が必要です。
しかし、これだけでは済みません。

祖父母が亡くなっていることの証明も必要になります。
祖父母は、父方、母方と双方いますので、合計4名分の証明が必要となります。

ちなみに、祖父母が生年月日から110歳を超えていることが明らかな場合は、生年月日の証明だけで良いということになっています。
これは、法務局が、110歳を超えていれば亡くなっていると推定してくれる取り扱いになっているからです。

裏を返せば、110歳を超えていないことが明らかな場合は、祖父母の上の世代の証明も必要となります。
(若くして亡くなられた場合の相続では、可能性がありますね)

③兄弟姉妹で既に亡くなられた方がいる場合は?

兄弟姉妹は被相続人と年齢が近い場合が多いですね。
そうすると、被相続人が亡くなられたときには、兄弟姉妹の中にも亡くなられた人がいるケースが多くなります。

その場合、親に代わって兄弟姉妹の子供に相続権が発生します。

これを民法では代襲相続と呼びます。

兄弟姉妹の相続の場合は、代襲相続が発生しているケースが珍しくありません。
そのときは、亡くなった兄弟姉妹の出生から死亡までの全ての戸籍を収集する必要があります。
子どもが何人いるのかを調べる為です。

終わりに

いかがでしょうか。
ここまで読んできて、うんざりしてきた方も多いのではないでしょうか。
兄弟姉妹の相続登記は、一筋縄ではいきません。
あれも足りない、これも足りないと、何度もあとから取る必要が出てくることもよくあります。
法律に詳しい方でも途中であきらめしまうのも、うなづけますね。
多少のお金で解決するなら、司法書士に依頼するのも1つの方法です。
貴重な時間の節約にもなりますよ。

>>>相続登記について、詳しく知りたい方は<<<

12月 02 2015

「敷地権の無い区分建物」の登記事項証明書の取得方法(相続登記⑤)

敷地権の無い区分建物とは、どういうものでしょう。
その登記はどうなっているのでしょうか。
登記事項証明書を取得するときの注意事項もあります。
見ていきましょう。

マンションで、敷地権の表示がある場合

マンションのことを不動産登記法では区分建物と呼んでいます。
区分建物の場合、登記の仕方が一戸建てとは異なり、登記事項証明書(登記簿)を見れば、すぐに分かるようになっています。

具体的には、「専有部分の建物の表示」という項目があり、全体の中の一部を所有していることが表示されているのです。
(一戸建てには、この表示はありません)

更に、区分建物の場合、「敷地権の表示」がある場合があります。
これは必ずある訳ではありません。

敷地権の表示がある場合は、一戸建てのように土地と建物に登記が分かれていません。
土地が建物にくっつく形で、建物の登記に土地の登記も含まれているのです。
従って、建物の登記事項証明書を取れば、土地の登記事項証明書は不要となります。
(不動産登記法では、「敷地権付区分建物」と呼びます)

マンションで敷地権の表示が無い場合

一方、区分建物であっても敷地権の表示が無い場合は、土地と建物の両方の登記事項証明書を取得する必要があります。
この時に、ちょっと、ややこしいことが起こります。

区分建物の土地の場合、当然、マンションの住人全員が、その土地の所有者となっています。
この状態を「共有」と呼び、共有している人を「共有者」と呼びます。
大規模マンションの場合は、かなりの人数の共有者がいることになります。

敷地権の表示の無い区分建物の土地の登記事項証明書を、何の指定もせずに取得すると、これらの共有者全員分の情報が記載されたものが出てきてしまいます。
大規模マンションの場合は相当に分厚い束になり驚く人も多いようです。

中身は共有者全員の住所・氏名、いつ購入したか、購入した時の借入金額、担保を付けている金融機関の名称などです。

ここまで読んで「そんなの個人情報の流出じゃないか」と思った人は、残念ながら早合点です。
上記の情報は公開が義務付けられた情報なのです。
不動産登記法では、「登記事項証明書は誰でも取得することが出来る」と規定されているからです。

もともと、不動産登記とは、買主が不良物件をつかませられないように、購入する前に不動産の情報を入手する為に整えられたものです。
不動産は高額な商品ですから、何かあったら取り返しがつきません。
それで常に情報を公開して安心して取引できるようにしたのです。

必要な部分だけ登記事項証明書を取得する方法

司法書士が敷地権の無い区分建物の登記を引き受けた時は、通常、依頼者以外の部分は記載されていない土地の登記事項証明書を取得して渡します。

例え公開が義務付けられていると言っても、わざわざ第三者の情報が満載されたものを渡すのには抵抗があります。
また、何ページにもなる分厚い書類だと依頼者の情報を探すのも一苦労で、分かりにくいというのもあります。
窓口で特定の所有者を指定して取得するのは可能なのです。

そこで問題になるのが、最近、増加してきたオンライン申請です。
オンライン申請は費用も安く窓口に出向く必要も無いので非常に便利です。
しかし、欠点もあります。
それが、「敷地権の無い区分建物の土地の登記事項証明書を取る時に特定の所有者の指定が出来ない」というものです。
つまり、オンラインで取ると必ず共有者全員分が記載されたものが届いてしまう
のです。

従って、特定の所有者のものだけを取ろうと思ったら、窓口で申請するか、郵送申請するか、しかありません。
しかし、どちらもオンライン申請よりも100円高くなります。

情報が少ない薄い方が高いなんておかしいと思った方もいるかもしれません。
発行する側からすれば、一人だけ抜き出す方が事務作業としては手間がかかる訳です。

法務省は、いずれオンライン申請でも、特定の所有者を抜き出して申請できるようにしたいとは言っていますが、目途はたっていません。
今のところは、窓口か郵送の申請で取得するしかないのが実情です。

>>>相続登記について、詳しく知りたい方は<<<