司法書士ジャーナル<相続>
橋本司法書士事務所ブログ

2025年3月

3月 31 2025

買戻特約抹消登記が単独申請可能に 相続登記㉝

買戻特約とは

買戻特約は一般的には不動産の売買と一緒に付けられます。買戻権者は住宅供給公社や日本住宅公団(現在のUR)などの公的な機関であることが多いです。公的な機関の場合、購入の際に条件が付けられていることが多く、例えば「一定期間の転売の禁止、居住用以外の用途での使用禁止」などです。

これらに違反した場合は物件を買い戻すことができるように買戻特約が付けられているのです。期間は5年になっていることが一般的です。

買戻特約の抹消

買戻特約は登記事項証明書(登記簿)に登記されています。買取希望者が特約の存在に気付くようにしているのです。特約の登記が付いたまま買い取る人はいませんので、売却したい時は必ず買戻特約の登記は抹消しなくてはなりません。

買戻特約の抹消のタイミング①

買戻特約は一般の人はほとんど知りません。自分の不動産にそんな登記が付いていること自体を知らないケースが大半です。ですから買戻特約の抹消だけを依頼してくることはまずありません。

ではどういうタイミングで抹消の依頼が入るのかというと、まずは売却しようと思って不動産屋や司法書士などに相談に行った際に「買戻特約を抹消しないと売れません」と言われた時です。

買戻特約の抹消のタイミング②

もう一つ買戻特約を抹消するタイミングとしてよくあるのが、司法書士が相続登記の依頼を受けた時です。相続登記の相談を司法書士が受けると、買戻特約が付いていれば発見して「このままでは将来売る時に困るから、相続登記と一緒に買戻特約を抹消しておきましょう」と提案するのが普通です。

買戻特約の抹消は以前は大変だった

買戻特約の抹消登記は令和5年3月までは共同申請でなければできませんでした。不動産所有者と買戻特約を付けた公的機関の共同申請になる訳です。ところが買戻特約を付けた公的機関は組織変更などで変わってしまっているため、この手続はかなり手間がかかりました。

買戻特約の抹消が楽になった

令和5年4月から法律が改正されて、10年経過した買戻特約は単独で抹消できるようになりました。買戻特約は最近では付けられなくなったので、ほとんどがかなり古いです。ですから、この改正によって単独申請ができるようになった買戻特約は相当多いはずです。買戻特約の抹消は以前よりは楽にできるようになりました。

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3月 11 2025

信託財産責任負担債務 家族信託(民事信託)㉜

信託財産責任負担債務とは

信託法には「信託財産責任負担債務とは、受託者が信託財産に属する財産をもって履行する責任を負う債務をいう」と書かれています。分かり易く言うと「信託財産によって返済する義務がある債務」のことです。

通常は信託財産からは回収できない

受託者の債権者、例えば受託者にお金を貸している業者がいたとします。この業者は受託者が借りたお金を返済しなかったら、受託者の財産から回収する権利があります。
しかし受託者の債権者であっても、通常は受託者の預かる信託財産から回収することはできません。理由は、信託財産は法的には委託者の財産であり受託者本人の財産ではないからです。

どんな場合に信託財産から回収できるのか

しかし例外的に信託財産から回収できる場合があるのです。それが信託財産責任負担債務であり、色々ありますが最も分かり易いのが、「信託財産の有効活用のために金融機関から借り入れた債務」などです。信託財産の有効活用のためにと言う部分がポイントですね。信託財産のための借金ならば信託財産での返済義務があるという考え方になります。

信託財産に対する差押(強制執行)

信託財産責任負担債務は信託財産からの回収を認められていますので、受託者が払わなかった場合は信託財産に対して差押(強制執行)をすることも可能です。一方、通常の債務の場合は信託財産に差押をすることはできません。

受託者自身の財産も責任財産になるのが原則

信託財産責任負担債務については、信託財産だけではなく受託者の固有財産からも返済する義務があるのが原則です。信託法では「信託前に生じた委託者に対する債権に係る債務を信託財産責任負担債務とする旨の信託行為の定めがあるもの」が信託財産責任負担債務であると規定されています。

例えば該当するものとして「委託者がローンを組んでアパートを建設し、ローンが残った状態で信託する。ローンについて委託者から受託者へと債務引受をした上で、信託契約において『信託財産責任負担債務とする』旨を定める」というケースが上げられます。融資した金融機関は返済が滞った時に信託財産はもちろんのこと、受託者の固有財産からも回収が可能です。

信託財産限定責任負担債務とは

しかし例外的に信託法21条2項に定められている債務については信託財産のみで返済義務を負います。これを「信託財産限定責任負担債務」と呼びます。代表的なものとして受益債権が上げられます。受益債権とは「受益者が受託者に対して、信託財産の引き渡しや給付を求める権利のこと」を言います。

例えば「不動産から得た賃料収入は受益者に渡す」と定めていれば、受益者は受託者に受益債権を有しています。
受益債権は信託財産限定責任負担債務ですから、信託財産だけが責任財産です。受託者の固有財産からは支払いを求めることはできませんし、強制執行をすることもできません。

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3月 03 2025

相続登記の共有持分の表記 相続登記㉜

不動産の共有持分とは

不動産には共有持分という概念があります。よくあるのが夫2分の1、妻2分の1のような持分ですね。この持分は不動産の区画のことではありません。ここからここまでが夫のもので、それ以外が妻のものだと誤解している人がいますが、そうではありません。不動産の持分とは目に見える区画を持ち合うことではなく、金銭的価値を持ち合っていると考えれば分かり易いでしょう。

ですから共有持分が具体化するのは不動産を換金した時です。換金して金銭的価値に変わった時に、それぞれの持分割合で分けることになります。

不動産の共有持分の贈与

実際に起こった事例で見てましょう。Aが2分の1、Bが2分の1と不動産を共有している場合に、Aが自分の持分2分の1を3分の1ずつBとCとDに生前贈与しました。全体で考えると2分の1×3分の1で、Aは6分の1ずつ3人に贈与したことになりますね。するとBの持分は自分の持分2分の1に贈与を受けた6分の1を加えることになりますから、合計で3分の2となります。

ただしこの段階で不動産登記簿に記載されるのはAから6分の1がBとCとDに贈与されたという部分だけで、Bの合計が3分の2になったとかは記載されません。贈与された結果トータルではどうなったのかは登記簿を見る人が自分で計算しなければなりません。これが登記簿を見る時の注意点です。

贈与した後、相続が発生した場合

上記の事例で Bが亡くなって相続が発生しました。Bの配偶者は先に亡くなっていて子はE一人だったので、Bの持分の合計3分の2をEが相続することになります。この時に登記簿の持分の表記はどうなるかが今回のテーマです。

まず相続でBの持分を全て受け取ることになるので合計が表記されることになります。その合計の表記は3分の2でしょうか、あるいは6分の4でしょうか。実務的にはどちらでも申請は可能です。しかし司法書士が申請した場合は6分の4と表記する可能性が高いと言えます。その方が好ましいからです。

なぜ6分の4の方が好ましいのか

相続発生前の登記簿の記載は、贈与を原因として「持分6分の1 B」「持分6分の1 C」「持分6分の1 D」と言う記載になっています。相続発生で新たに記載されるのはEの獲得した持分だけです。その場合、CとDの持分の分母は6ですから、Eの分母も6にそろえた方が圧倒的に見やすくなります。

このような理由でプロである司法書士が申請した場合は、相続を原因として「持分6分の4 E」という記載にするのが通常のやり方になります。

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