司法書士ジャーナル
橋本司法書士事務所ブログ

時効

2月 14 2024

れいわクレジットの民事訴訟 時効(122)

れいわクレジットとは

正式名称がれいわクレジット管理株式会社という業者があります。

三菱UFJニコスの事業の一部を承継したMUニコス・クレジットという会社があり、その会社が社名を変更した結果、れいわクレジット管理株式会社になりました。従って、ニコスの未払い債権の請求を多く扱っています。

※時効になるような古い債権を請求してくるような業者は、このような複雑な経緯をたどっている場合が多いです。

れいわクレジットが民事訴訟をしてくるようになった

以前は、れいわクレジットは請求の際に裁判を利用してくることは、ほとんどありませんでした。しかし、最近は裁判をしてくるケースも見られるようになりました。

この傾向は回収業者全体に言えることです。時効援用通知を送られるよりも前に判決を取っておこうと考える業者が増えたということでしょう。

れいわクレジットの訴状は東京簡易裁判所から届く

民事訴訟をする場合、回収業者の本社所在地の裁判所で起こすのが普通です。れいわクレジットの本社は東京なので、東京簡易裁判所から訴状が届くことになります。

れいわクレジットからの訴状は放置してはいけない

裁判の訴状は特別送達という書留のようなもので届くので、受け取らなければ戻っていきます。

しかし、受け取らないで放置をしていても、付郵便送達や公示送達と言う方法で裁判を進める方法は存在します。ですから放置は非常に危険なのです。知らないうちに負け判決が出てしまい、しばらくすると給料や銀行口座が差し押さえられることが最近、非常に増えています。

差押をされてから相談をされても民事訴訟の場合は時効にはなりません(支払督促の場合は時効になる可能性があります)。支払うか破産かの選択になってしまいます。

放置しないで適切な反論をする

れいわクレジットから訴状が届いたら必ず受け取って、口頭弁論期日に間に合うように適切な反論する必要があります。5年以上取引が無いならば、適切な反論をすれば裁判に勝つことができます。反論の仕方を間違えると裁判に負けてしまう可能性があるので、出来るだけ早く時効に詳しい専門家に相談するべきです。

れいわクレジットについて、より詳しい情報が知りたい場合は以下をクリック

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2月 05 2024

オリンポス債権回収の支払督促は時効で解決できる 時効(121)

オリンポス債権回収は支払督促を多く利用する

オリンポス債権回収は長期間放置された債権を回収する時に支払督促という手段を使うことが比較的多い業者です。支払督促は裁判費用が安く事務処理も少なくて済むというメリットがありますので、このような対応をしているのでしょう。

オリンポス債権回収の支払督促の欠点

しかし支払督促には「既判力が無い」という大きな欠点があります。この欠点を嫌って絶対に支払督促での請求はしない業者もあるほどです。

既判力とは「一度裁判で決着がついたことはひっくり返せない」というルールのことです。ですから民事訴訟での判決で負けが確定した場合は既判力があるので、ひっくり返すことができません。

一方、支払督促の場合は既判力が無いので、同じ内容について再び争うことが可能です。オリンポスの請求を放置している間に支払督促をされてしまった人には朗報となります。

時効期間経過後にされたオリンポスの支払督促はひっくり返せる

貸金業者の借金の時効は5年です。最後の取引から5年以上経過してからされた支払督促ならば、既判力がないので時効援用が可能となります。これについては見逃している法律家もたまにいるので注意が必要です。

最後の取引から5年以内にされた支払督促は時効が中断する

一方、最後の取引から5年以内に支払督促をされた場合は事情が異なります。時効期間が経過する前に支払督促をされた場合は、時効の中断(改正法では更新)となります。

この場合は時効期間が振り出しに戻り、更に時効期間が10年に延長されます。5年以内か5年経過後かで結果がかなり違うのです。

オリンポス債権回収の支払督促は時効期間経過後が多い

オリンポス債権回収は債権回収業者ですから、他の貸金業者が貸した債権を譲り受けて回収するのが仕事です。ほとんどの場合、オリンポスに債権を譲る時点でかなりの年数が経過していることが多いです。

従って、オリンポス債権回収が支払督促をする時は、時効期間経過後であることが多くなります。オリンポス債権回収に支払督促をされていたとしても、時効の可能性を検討してみるべきでしょう。

オリンポス債権回収について、より詳しい情報が知りたい場合はオリンポス債権回収のページをクリック

12月 25 2023

時効中断の基準日 時効(120)

時効の中断(更新)になる場合

時効が中断(改正法では更新)するのは、時効期間が満了する前に債務者が支払ってしまった場合が最も多く、あとは支払いが無くても支払いの約束をしてしまった場合、他には裁判で請求されてしまった場合などがあります。

裁判が最も判断が難しい

実際に支払ったか、支払いの約束をしてしまったかは、債務者は結構覚えていることが多いです。だから判断は難しくありません。難しいのは裁判をされているかどうかです。

裁判所から届く郵便は手渡しなので、不在の時は不在配達票が入ります。不在配達票を中身を読まずに捨ててしまったり、面倒で取りにいかなかったりする人は珍しくなく、そうなると裁判をされたことに気づかないこともあります。

あるいは引っ越しをして実家に届いていた裁判の書類を、家族が捨ててしまうこともあります。

裁判をされたのは、いつが基準になるか

金融業者との取引の時効期間は通常は5年です。支払いの場合は5年以内に支払ったらダメというのは分かり易いですね。しかし裁判の場合は、どうでしょう。裁判の基準日を誤解している人は結構いますので、説明しましょう。

良くある誤解が「口頭弁論呼出状に書かれている第一回口頭弁論期日」が基準日だと思っている場合です。口頭弁論とは原告と被告が法廷に呼び出される日のことです。この口頭弁論期日が5年を超えていれば時効になると思っている方は珍しくありません。

時効の基準日は債権者が裁判所に書類を提出した時

裁判をされた日(裁判の基準日)というのは、債権者(金融業者)が裁判所に訴えの書類を提出した時です。裁判所が書類を受け付けた日が5年以内ならば、時効は中断(更新)します。

このルールがあるため、裁判所では休日でも書類の受け付けは行っています。時効期間が明日に満了するという急ぎの場合でも、書類は出せるようになっているのです。

例え時効が中断していなくても放置すれば負ける

もう一つ非常に重要なことがあります。もし相手が書類を裁判所に出したのが5年以上経ってからだったとしても、裁判は放置すれば負けます。負け判決が確定してしまったらひっくり返すことはできません。せっかく時効が成立していたのに支払わなくてはいけないのです。このような人は結構多いので是非、注意してください。

ただし同じ裁判でも支払督促の場合は別です。5年以上経ってから支払督促をされた場合は、終わった後でもひっくり返すことは可能です。覚えておきましょう。

このように裁判をされている場合は素人では判断が難しいことが多いと思います。時効の専門家に相談されることをオススメします。

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11月 30 2023

差押の取下による時効の中断(更新)

時効の中断(更新)とは

時効の中断(改正法では更新)とは、今まで進行してきた時効期間がゼロに戻り、再びスタートすることを言います。

裁判上の請求や差押、債務承認(支払または支払の約束)などが代表的な中断の理由になります。

差押が空振りになった場合、時効は中断するのか

では差押をしたものの空振りに終わって取下げになった場合は、時効は中断するのでしょうか。実はこれは非常に難しい問題で結論が出ていません。

裁判では、「中断する」と言う判決と「中断しない」と言う判決が両方出ていて、明確になっていないのです。法律家としては、この質問を受けた場合、「はっきりしていません」と答えるしかない状況です。

取下げの効力について

例えば預貯金の差押をして口座に残高が無かった場合、取下げをします。いわゆる差押の空振りです。法律上は取下げの効力は「最初から無かったものとみなす」なので、単純に考えれば差押をしなかったことになると思えます。

ちなみに私はこの考え方を支持していて、取り下げた場合は差押は無かったことになり時効は中断しないのではないかと考えています。

時効は中断するという判決

では時効は中断するという判決はなぜ出てくるのかについて説明しましょう。

そもそも時効と言うのは、「債権者が取立などの行為を何もせずに放置していた場合、放置するような債権者を保護する必要は無い」という考え方に基づいています。法律では「権利の上に眠るものは保護しない」という言い方をします。

しかし、債権者が差押と言う行為をした場合、たまたま空振りになったとしても、「債権者は権利の上に眠っていたわけではない。そのような債権者は保護するべきである」と考える裁判官もいるのです。

その結果、差押が空振りになり取り下げたとしても時効は中断する、という判決も存在することになります。

結論は出ていない

このように判決が分かれている場合、法律家としては非常に困ります。争った時に勝てる保証が無いからです。法律家個人の見解で「私はこう考える」というのはありますが、実務では決着は付いていない訳ですから保証はできません。

この論点については最高裁判所まで争われたことが今まで無いので、あいまいなままです。早いうちに最高裁判所が決着をつけてくれることを期待したいと思います。

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11月 14 2023

ギルドの差押 時効(118)

ギルドからの差押

最近ギルドから差押を受けたという相談が非常に増えています。

「ギルドという業者から給料または銀行口座などの差押えを受けた。どうしたら良いか」という内容です。

差押は、いきなりはできない

これらの相談を受けて思うのが、多くの方が大きな誤解をしていることです。

それは「差押をいきなりすることはできない」という点です。差押をするには必ず事前に裁判をする必要があります。裁判には訴訟支払督促などがありますが、ギルドの場合はほとんどが大阪簡裁での訴訟になります。従って、差押の前には必ず大阪簡裁から訴状が届いているはずなのです。

ギルドの訴訟を放置してはいけない

この大阪簡裁からの訴状を何もしないで放置すると、しばらくすると判決が届きます。判決を受け取ってから2週間が経過すると確定します。こうなるともう手遅れです。裁判での判決が確定した後では、もうひっくり返すことはできません。何か反論がしたいのならば、判決が確定する前にしなくてはいけません。

ギルドの相談の半分以上が手遅れになってから

そして特徴的なのが、ギルドの相談は他の業者に比べて手遅れになってからの相談が極端に多いのです。他の業者の場合、裁判所から訴状や支払督促が届いた段階で相談されることが多いので反論ができます。

しかし、ギルドの場合は判決が確定して差押が来た段階での相談が多いのです。

こうなるともう手遅れで、残された手段は自己破産するか支払うかの選択しかなくなります。

ギルドは一括払いを要求してくる

ギルドは分割払いの交渉が非常に難しい業者です。ほとんどの場合、分割払いを希望しても担当者は聞く耳を持ちません。通常、貸金業者は破産されるくらいならば分割払いの方がマシと言う判断で、分割払いに応じるケースが圧倒的に多いのですが、ギルドは例外です。

担当者自らが債務者に対して、「ウチは一括しか認めないから、支払えないなら自己破産してください」と伝えてきたケースもあります。実際にギルドで手遅れになったことで自己破産の依頼を受けるケースが増えています。

ギルドの対策

ギルドは最初の大阪簡裁での訴訟の段階で相談されたら、ほとんどのケースが時効で処理できます。差押をされて手遅れになってしまった方も内容を確認すると、訴訟の段階で連絡してくれれば、ほとんどが時効で解決できています。こういう方の中には、「自分は知らなかったんだから何とかならないのか」とか「自分は悪くない。悪いのはギルドだ」と文句を言う人が一部います。しかしどれだけ文句を言っても法的にはどうにもなりません。

私が言えることは、「裁判所から何か届いたら絶対に放置しないで専門家に相談する」ということです。最初の訴状が届いた段階で、これを徹底していれば恐らく解決しているからです。自分の身を守るためにも良く覚えておきましょう。

ギルドについて、より詳しい情報が知りたい場合は ギルドのページをクリック

10月 10 2023

保証人の消滅時効 時効(116)

保証人は時効援用できるのか

保証人は時効の援用をできるかというのは、なかなか複雑な問題です。なぜなら様々なパターンがあり、そのパターンによって時効援用できる場合とできない場合に分かれるからです。今回はパターンごとの時効援用の可否を詳しく見ていきたいと思います。

※尚、ここで言う保証人とは連帯保証人のことです。日本の取引の現場では連帯ではない保証人が登場することはまずありませんので、保証人と言えば連帯保証人のことだと考えてください。

説明の前提

ここでは債権者をA、債務者(主債務者)をB、保証人(連帯保証人)をCとして説明します。また、時効が途中で止まって振り出しに戻ることを専門用語で「中断」と言います。

尚、法律が改正されて最近の契約では「更新」と呼ぶように変わりました。ただし、時効になるような古い契約では改正前の「中断」が今でも使われます。「更新」が主流になるのは、もう少し時間が経ってからになりますね。従って、今回の説明では時効が途中で止まることを「中断」と呼ぶことにします。

さて、借りた相手が会社の場合、時効が中断するのは最終取引日から5年が経った日になります。(より正確には期限の利益喪失日から5年になりますが、話を分かり易くするために、ここでは最終取引日からとします)

保証人が時効援用できる条件

保証人であっても時効の援用ができる場合があります。基本的には以下の2つの場合です。

  1. 主債務の時効が完成した
  2. 保障債務の時効が完成した

主債務とはAとBとの契約で発生した債務のことです。大元の貸し借りのことだと思ってください。

一方、保証債務とはAとCの契約で発生した債務のことです。誤解している人が多いですが、BとCの間には契約関係はありません。

法律上は主債務と保証債務は別の債務です。ゆえに主債務と保証債務の時効は別々に進行します。

保証人が支払っていなければ保証債務の時効は進むのか

主債務と保証債務が別ならば、Cがずっと支払っていなければ保証債務は5年で時効になるのか、と言う問題です。これも誤解が多いポイントです。

契約は別と言っても無関係ということではありません。主債務が存在しなければ保証債務は存在しません。分かり易く言うと「主債務あっての保証債務」ということになります。これを専門用語で附従性と言います。

従って、Bが支払いを続けているのに、保証債務だけが単独で時効になることはありません。つまり、Bが支払いをしている場合は、保証債務の時効が進むことは無いということです。

時効期間が経過しているのに債務者Bが時効援用をしない時

民事の時効の最大の特徴は、時効援用の主張をしない限り、例え時効期間が経過していても時効にはならない、と言う点です(一方、刑事事件の時効は時間が経てば勝手に成立します)。

時効期間が経過しているのにBがAに対して時効援用をしなかったら、Cはいつもで経っても時効の恩恵に預かれません。そこでCがBに連絡しないで単独で時効援用することはできるのか、と言う問題です。

これに対する回答は「Cは単独で時効援用できる」になります。Bに時効を援用するようにお願いする必要は無い、ということです。

時効期間経過前に債務者Bが支払ってしまったら

時効期間経過前に支払った場合は「中断」と言って、時効期間が振り出しに戻って再びゼロからのスタートになります。では、Bが時効期間経過前に支払った場合、その効果はCに及ぶのでしょうか。

回答は、「効果はCにも及ぶ」です。ですからBが支払って時効が中断すると、Cの保証債務も振り出しに戻ります。

時効期間経過後に債務者Bが支払ってしまったら

時効期間経過後に支払うことを「時効の利益の放棄」と言い、やはり時効は振り出しに戻ります。ただ中断とは効果が異なる部分があります。

Bが時効期間経過後に支払った場合、時効の利益の放棄となりBの主債務は時効ではなくなり振り出しに戻ります。しかしこの場合、Cは保証債務の時効援用ができるのです。

つまりBが支払うのが時効期間の経過前なのか経過後なのかで、Cが時効援用できるかどうかが異なるということです。これは非常にややこしく間違えやすいポイントとなっています。

保証人Cが保証債務を支払った場合

CがAから請求されて支払った場合、Cの保証債務は当然に時効中断して振り出しに戻ります。その時、Bの主債務はどうなるのでしょうか。

回答は、「Bの主債務は中断しない」です。従って、Bの時効期間はそのまま進行します。この場合、保証債務だけ中断するので、Bの主債務の方が先に時効期間が経過することになります。

ここでマニアックな問題があります。先に時効期間が経過したBの主債務をCが時効援用できるかという問題です。

回答は「できる」です。何とCの保証債務の時効期間が経過していないにもかかわらず、Cは先に時効期間が経過したBの債務の時効援用ができるのです。是非、覚えておきましょう。

一方Aの立場から考えた場合、Cに支払ってもらってもBの時効は止まらないのに、Bに支払ってもらったらCの時効も中断しますから、Bに支払能力がある限りBに請求した方が良いということになります。

債権者Aが債務者Bに対して裁判を起こした場合

AがBに対して裁判を起こして判決を取った場合、時効期間が判決確定から10年に延長されます。この効果は保証人に対して影響があるのでしょうか。

回答は「保証人にも影響がある」です。

例えCが裁判をされていなくても、Cの債務の時効期間も判決確定から10年に延長されます。Bの裁判のことなど知らなかった、では済まされないので注意が必要です。

債務者Bが時効期間経過後に時効援用した場合

Bが時効期間経過後に時効の援用をした場合、Bは支払いを免れることができます。では、その効果は保証人に及ぶのでしょうか。

回答は「保証人にも効果が及ぶ」です

Bの債務がBの時効援用により消滅した場合、Cの債務も消滅します。「主債務が消滅すると附従性により保証債務も消滅する」という法律効果になります。もう少し分かり易く言うと、主債務あっての保証債務なので、主債務が消滅した後に保証債務だけ残っているのはおかしい、と言う考え方です。

今回は主債務と保証債務の消滅時効の効果について、様々な事例で説明してみました。相当にややこしい問題なので、疑問に思ったら専門家に相談された方が良いでしょう。

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7月 31 2023

破産して免責された債権の時効 時効(115)

破産して免責された債権は時効にかからない

破産により免責された債権は時効により消滅することがありません(最高裁平成11年11月9日判決)。ようするに免責債権は、いつまで経っても消えない債権ということになります。

こう言うと「破産して免責されたのだから、その時に債権は消えているのでは?」と考える人も多いでしょう。実はこれは法的には間違いです。

正確には、免責債権は法的に請求できない債権であって、消滅するわけではないのです。ですから、よく言われる「破産で借金がチャラになる」という表現は法的には正しくありません。請求することができないだけで存在はしている債権ということになります。

免責債権は債権者が取り立てることはできないが、時効にもかからないので、永久にそのままの状態で残り続ける不思議な債権なのです。(取り立てができないので、債務者から見たら消えたように感じます)。

なぜそうなるのかと言う法的な説明は長くなりますので、ここでは省略します。そうなるという結果だけ知っておいてください。

免責債権が時効にならないのは何が問題なのか

免責債権は取り立てができません。もちろん差押もできません。ならば時効にならなくても何も問題ないのでは、と思われる人も多いでしょう。確かにほとんどの場合は問題になりません。ただし非常に稀に問題になることがあるのです。

それは免責債権に抵当権が付いている場合です。

抵当権の被担保債権が免責されていた場合

例えば以下のような事例を考えてみましょう。

親から相続した不動産の登記簿を見たら抵当権が付いていました。調べてみると友人の借金の担保として親の不動産に抵当権が付けられていたことが分かりました(このようなケースを物上保証と言います)。親の友人に確認したところ、何とその友人は10年以上前に自己破産をして免責許可を受けていたのです。

そこで相続人は「破産しているのだから債権は消滅しているのだろう」と考えて抵当権を抹消しようとしたら、「債権は消えていないので抹消できない」ことが分かりました。

更に「10年以上経っているので時効で消えているのでは」と考えて抹消しようとしたら、「免責債権は時効にはならない」ということも分かりました。

では、この抵当権はどうやって消したら良いのか、と途方にくれてしまいました。

抵当権を抹消する方法

では、どうすることもできないのでしょうか。実は方法があります。

それは、債権ではなく抵当権自体の時効を援用する方法です。債権とは別に抵当権自体も時効消滅するのです。その時効期間は20年となっています。改正民法166条2項では、「債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から二十年間行使しないときは、時効によって消滅する。」と書かれています。

抵当権は「所有権以外の財産権」に当たりますので20年で時効消滅します。債権の時効で消せないのならば、抵当権の時効で消せば良いという考え方です。

この方法は通常は使われることはありません。理由は2つあります。

  1. 債権の時効の方が時効期間が短いので、通常は債権の時効を使った方が早く消すことができるから
  2. 民法396条に、「抵当権は被担保債権と同時でなければ時効によって消滅しない」という規定があるから

2については説明が必要です。条文通りならば、免責債権は時効消滅しないので抵当権も時効消滅しないと読めます。これでは困ってしまいますね。今回のようなケースで抵当権を消す方法が無くなってしまいます。そこで以下のような最高裁判決が出されました。(最高裁平成30年2月23日判決)

「抵当権の被担保債権が免責許可決定の効力を受ける場合には、民法396条は適用されず、当該抵当権自体が20年の消滅時効にかかると解するのが相当である」

裁判所には疑問を感じる判決も時々ありますが、この最高裁判決は非常にまともで納得できる内容です。法律が予想していなかった欠陥を、裁判所が判決で補ったという理想的な事例だと思います。

結論

他人の物上保証人になっている場合は、その他人が破産免責を得ている場合は被担保債権の消滅時効を主張することができず、通常の方法では抵当権を消すことができません。

そこで、抵当権自体の消滅時効を主張して抵当権を消す方法を紹介しました。通常は使うことが無い相当レアな方法ですが、いざと言う時のために知っておいても損はないでしょう。

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1月 12 2023

消滅時効と裁判 時効(114)

時効と裁判について

最近は以前のように放置せずに、積極的に裁判をしかけてくる業者が増えてきています。時効援用通知が出されるケースが増加して、業者も対策を立てざるを得なくなったのでしょう。時効の相談も裁判に関するものが増えています。

そこで、時効と裁判について整理してみたいと思います。

最近、訴えられたケース

まずは最近に訴えられて、まだ裁判が終わっていないケースです。

この場合、最初に検討するのは過去5年以内に取引があるかどうかです。取引とは借入または返済です。

過去5年以内に取引があれば、時効で裁判に勝つことはできません。支払うか、または自己破産などを検討することになります。

一方、訴えられた時点で5年以上取引が無い場合は、裁判に勝つことが可能です。裁判が終わる前に専門家に相談しましょう。

裁判が終わってしまったケース・・・通常訴訟の場合

では訴えられても放置して裁判が終わってしまった場合は、どうなるのでしょうか。実は、これに当てはまる相談が昨年から非常に増えています。複雑なので一つ一つ順を追って説明していきましょう。

まずは裁判が通常訴訟の場合を検討します。通常訴訟はタイトルが「訴状」と書かれた書面が届きます。事件番号に書かれた記号が(ハ)になっているのが特徴です。

通常訴訟は裁判が終わると「判決書」が届きます。判決書を受け取ってから2週間以上が経ってしまうと判決が確定します。

確定とは「判決の内容をひっくり返すことができなくなる」ことだと考えてください。従って判決が確定したら支払うか自己破産を検討することになります。

ただし判決が確定してから10年経過すると再び時効になります。裁判後は時効期間が10年に延長されるからです。

一方、判決書を受け取ってから2週間以内ならば勝てる可能性はあります。控訴と言って、もう一度裁判をすることができるからです。

訴えられた日付から過去にさかのぼって5年以上取引が無い場合は、2回目の裁判で時効の主張をして裁判をひっくり返せる見込みがあります(実際にひっくり返して勝ったことが何回かあります)。ただし2週間しか時間が無いので急ぐことが重要となります。

裁判が終わってしまったケース・・・支払督促の場合

次に裁判が終わってしまった場合で、支払督促だったケースを考えてみましょう。支払督促は届いた書類のタイトルが「支払督促」と書かれています。事件番号の記号は(ロ)になります。

支払督促は通常訴訟の場合とは異なり、結果に既判力がありません。既判力とは法律用語ですが、「同じ内容では再び裁判をすることが許されない」というルールのことです。

通常訴訟の判決は既判力がありますので、確定したら再び裁判で争うことはできません。一方、支払督促は既判力が無いので、結果が出た後でもひっくり返すことが可能です。

従って支払督促の場合は、申し立てられた日付から過去にさかのぼって5年以上取引が無い場合は、例え裁判が終わっていても消滅時効で解決することが可能です。ただし裁判に慣れていない司法書士だと、このことに気づかないケースがありますので注意しましょう。

差押をされた場合

「預貯金や給料の差押(強制執行)をされてしまった」という相談が最近増えています。まず覚えておいて頂きたいのは、「差押の前に必ず裁判をされている」という事実です。

よく「いきなり差押をされた」とか「裁判をされた記憶が無い」という相談がありますが、法律では「差押をするには、まず裁判をしなければならない」というルールがあります。

(例外として執行証書がありますが、貸金業者が執行証書を取るケースは、今まで聞いたことがありませんから無視して良いと思います)

ですから、たとえ気づいていなくても差押の前に裁判はされていると思ってください。

差押の前に通常訴訟をされていた場合

差押えの前に通常訴訟をされていた時は、判決が確定した後と考えて、ほぼ間違いないでしょう。この場合は裁判のやり直しはできませんので、判決どおりに支払うか、自己破産を検討することになります。

見分ける方法としては、裁判所から届いた強制執行の書類の中に「請求債権目録」と言う書面がありますので見つけてください。そこに請求の原因となっている裁判の事件番号が書かれています。その事件番号の記号が(ハ)ならば通常訴訟になります。

あと事件番号の年数が10年以上前だった場合は、再び時効になっている可能性がありますので、その時は時効援用通知の発送を検討しましょう。

差押の前に支払督促をされていた場合

差押の前に支払督促をされていた時は、先ほど説明したように支払督促には既判力がありませんので、時効で解決できる可能性があります。ただし、支払督促の申立日から過去にさかのぼって5年以上取引が無い場合に限ります。

あと支払督促の事件番号の年数が10年以上前だった場合も、時効になっている可能性があります。

専門家の判断

消滅時効と裁判の関係を説明してきましたが色々なパターンがあり、かなり複雑です。どれに当てはまるかを正確に判断するのは難しいので、やはり専門家に判断してもらうのが安全でしょう。

時効の可能性がある場合の判断表

訴状
事件番号(ハ)
支払督促
事件番号(ロ)
最近訴えられて裁判中過去5年以内に取引が無い過去5年以内に取引が無い
過去に訴えられて裁判が終了判決書を受け取って2週間以内で、申し立てられた日付から過去5年以内に取引が無い申し立てられた日付から過去5年以内に取引が無い
訴えられた後、差押を受けた判決通り支払うか、自己破産などを検討
(判決確定後、10年経過で再び時効の可能性有)
支払督促の申立日から過去5年以内に取引が無い

※上記の表以外にも、いろいろなケースがあります。詳しい判断は、専門家に相談してください。

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12月 19 2022

リンク債権回収の「返済の意思が無いものと判断します」 時効(113)

リンク債権回収から届く「返済の意思が無いものと判断します」

リンク債権回収からの請求を放置していると「返済の意思が無いものと判断します」というタイトルの書面が届くことがあります。書かれているのは、だいたい以下のような内容です。

「再三の請求にもかかわらず未だに解決していません。よって裁判所への提訴や資産への差押、自宅への訪問を開始する予定です。」

「お困りの場合は、下記期日までに連絡してください。連絡してくれれば利息の減額や免除、分割での支払いも検討いたします。」

「〇年〇月〇日〇〇時迄」

「返済の意思が無いものと判断します」と言う書面が届いた時の対処法

リンク債権回収は時効の可能性が高い業者です。

だからこそ、裁判・訴訟・差押・財産調査などの脅し文句や、利息の減免や分割を認めるような甘い言葉を多用した書面を送って何とか連絡させようとしてきます。債務者が脅し文句や甘い言葉につられて連絡してきたら、支払いの約束をするように誘導して時効の可能性をつぶそうとするわけです。

最後の取引が5年以上前ならば決して連絡しないで、まずは専門家に相談しましょう。

リンク債権回収について、より詳しい情報が知りたい場合は以下をクリック

司法書士ジャーナル » リンク債権回収の不当請求 時効(71) (hashiho.com)

消滅時効について、より詳しい情報が知りたい場合は消滅時効のページをクリック

12月 05 2022

リンク債権回収の財産調査開始予告通知 時効(112)

リンク債権回収から届く財産調査開始予告通知

リンク債権回収からの請求を放置していると「財産調査開始予告通知」というタイトルの書面が届くことがあります。書かれているのは、だいたい以下のような内容です。

「このまま放置される場合は、訴訟や差押などの法的手続きを検討せざるを得ない。法的手続きを開始するために貴殿の勤務先、動産不動産、預貯金等の調査を開始する」

「支払う意思のあるお客様や、支払いが困難な事情があるお客様は、下記期日までにご連絡ください」

「〇年〇月〇日〇〇時迄に必ずお電話ください」

財産調査開始予告通知が届いた時の対処法

リンク債権回収は、このブログで紹介している他の業者と同様に、時効の可能性が高い業者です。だからこそ、裁判・訴訟・差押・財産調査などの脅し文句を多用した書面を送って何とか連絡させようとしてきます。債務者が脅し文句につられて連絡してきたら、支払いの約束をするように誘導して時効の可能性をつぶそうとするわけです。

最後の取引が5年以上前ならば決して連絡しないで、まずは専門家に相談しましょう。

リンク債権回収について、より詳しい情報が知りたい場合は以下をクリック

司法書士ジャーナル » リンク債権回収の不当請求 時効(71) (hashiho.com)

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