司法書士ジャーナル
橋本司法書士事務所ブログ

過払金請求

2月 06 2010

シリーズ 過払金⑪ 最近の過払事情(2)

 さて今回は依頼する側が注意すべきポイントについて、私の意見を述べたいと思います。

 まずは古い情報に惑わされないということが重要です。前回も説明したように過払を取り巻く環境は急激に変化しています。1年前の常識が今年は通用しません。従って、過去に知り合いが行った過払請求の経験を聞いても参考にならない可能性があるということです。

特に1~3年前は過払請求が最も楽に回収できた時期なので、この時期に体験した人の話を聞くと錯覚を起こしやすいので注意が必要です。現在は、急激に支払いが悪くなっていますから。

では正しい選択をする為には何が必要かと言えば、それは最新の情報です。特に最近の過払請求では刻一刻と状況が変化していきますので、常に新しい情報に接していることが重要になってきます。

例えば、主要業者に関しては訴訟をすれば、まだ元金満額を支払う余裕は残っているようです。(もちろん、この状態が、いつまで続くかは分かりませんが)

以下、全て訴訟をした場合の対応になりますが、いくつか例を挙げて説明しましょう。

まずは、今、最も支払いが良いのが新生フィナンシャル(レイク)になります。ここは利息も含めた回収が可能であり、支払いも割と早めです。現時点では最も回収が見込める業者になります。

次に来るのが、プロミスでしょうか。ここも訴訟をすれば、元金プラス利息の半分くらいなら割と早い和解が可能です。ただし、新生に比べると支払いが遅いのが難点です。今なら3~5ヶ月後くらいの支払いになることが多いです。これより早い支払いを望むと減額になるケースが増えると思われます。

アコムは以前はプロミスと同じ状況でしたが、つい最近、会社の方針が変更になって(こういうことが普通に起こるのが最近の過払事情なんです)、急に支払いを渋るようになりました。訴訟をした後でも最初は元金の7割と言ってきます。しかし、この提案にびびらずに、根気よく訴訟を続けていくとアコムの方が折れてきて元金満額くらいでは和解できるようです(実際に和解できました)。支払いは現時点では3~4ヶ月後くらいのようです。

 さて、ちょっと長くなりましたので、残りの武富士・アイフル・CFJの最近の状況に関しては次回に話したいと思います。 

 

1月 30 2010

シリーズ 過払金⑩ 最近の過払事情(1)

 今回は司法書士事務所の面談について話をする予定でしたが、予定を変更して最近の過払事情について話をします。

 何故、予定を変更したかと言うと最近の過払金請求をめぐる情勢が以前と比べて大幅に変わってきたからです。このブログで過去に書かれた説明の中で実態と合わなくなっている部分が出てきているので、ここで最近の変化について説明しておく必要があると考えました。

まず最大の変化は各業者の支払状況が急激に(本当に急激に)悪化してきているということです。

この傾向は昨年の秋以降から顕著になってきました。まず、引き直し計算をした後の任意の和解が、ほとんど出来なくなりました。

以前は任意請求(訴訟をしないで請求すること)をしても、元金ならば満額で支払ってくる業者が、ほとんどでした。ところが、今では任意請求の段階では、元金の5割くらいしか提示されません。それでもマシな方で、ひどい場合は1割や2割と言ってくる業者も現れています。

それでも大手は大丈夫だろうと思われている方もいるかもしれませんが、今回の変化は大手も含めて起こっている現象なので事態が深刻なのです。武富士・アコム・アイフル・プロミスと軒並み任意請求の段階では以前には考えられなかった大幅な減額を主張してきます。

こうなると当然の結果として、まともな事務所ならば、過払請求のほとんどが訴訟になってしまいます。今や訴訟にならない事務所は、かなり低い金額で和解している可能性がありますので注意が必要です。

つい最近ニュースで昨年1年間の裁判所に持ち込まれた過払金請求事件が過去最高の件数になったと報道されていました。どうもマスコミ関係者は過払金の件数自体が昨年に急激に増加したと考えているようですが、これは間違いだと思います。

実は過払請求の件数は頭打ちになっています。むしろ業者の支払が悪くなっていますので、1件あたりの支払額は低下しています。要するにマスコミで騒がれているような過払金バブルは、もう峠を越しているのです。では、何故、裁判所の過払事件の件数が過去最高になったのでしょうか。

ここまで読んできた皆さんには、もうお分かりでしょう。そうです。今まで任意請求で終わっていた過払事件が、ほとんどすべて裁判所に持ち込まれるようになってしまったからです。訴えないと払わない訳ですから、まともな事務所ならば訴訟にせざるを得ません。こうして全国の司法書士・弁護士事務所から膨大な数の過払訴訟事件が裁判所に提起されました。今や、裁判所は大混雑で、口頭弁論期日が2ヵ月後、3ヵ月後になってしまうケースも出てきています(通常は1ヵ月後)。

裁判所だけ見ていると、「ああ、相変わらず過払事件は多いんだな」と思ってしまうかもしれませんが、現実はそうではありません。先ほども述べたように件数は頭打ちで、1件あたりの金額は減っているというのが真実なのです。

 では、このような状況の中で依頼する側が注意すべき点を次回は説明したいと思います。

 

11月 12 2009

シリーズ 過払金⑨ 悪意受益者の利息(2)

 今回は「みなし弁済」が、どのような時に認められるのか、という話です。(みなし弁済が何かについては、前回のブログを参照して下さい)

 法律で定められている条件は3つです。

一つは、貸金業者に対する利息の支払いであること。この場合に問題になるのは、きちんと登録された貸金業者でなければ認められないということです。例え登録していても定期的な更新をしていなければ、登録していないものとみなされます。

二つ目は、任意に支払った利息であることです。この任意の部分が否定されたのが、過払バブルを引き起こした有名な平成18年1月13日最高裁判決になります。それまでは任意かどうかには争いがあったのですが、この判決以降、期限の利益喪失特約がある契約(ほとんど全ての契約が当てはまる)については任意ではないとみなされるようになりました。逆に言うと、この判決以前の契約については任意の可能性を残していることになり、そこを貸金業者が反論してくる場合があるわけです。

三つ目は、正式な書面の交付があることです。この書面の内容は完璧を求められます。法定事項を一つでも書き漏らしていたら書面は正式なものではないとされ、みなし弁済は否定されます。

以上3つの条件が全て満たされていて初めて、みなし弁済が認められます。要するに「みなし弁済」が認められるケースとは極めて少数に限られることになります。(9割以上の取引は「みなし弁済」の条件を満たしていません)

従って業者が、平成18年以前は「みなし弁済」が成立する可能性があったのだから、過払金の利息は支払わないという主張は、まともに争ったら業者の勝ち目は薄いということになります。

 ただし、過払利息は時と場合によっては、削った方が得策の場合があります。例えば、過払金を使って他の債務を支払う場合に、債務が残っている債権者から「これ以上、待たせると訴訟を起こす」と言われた場合、過払金の利息を削っても和解して、早めに支払ってもらう方が、債務者の給料差し押さえなどの危険を回避する為には良い場合があります。他には、過払請求をしている相手の業者が近いうちに倒産の噂が流れていて、たとえ利息分を減額しても破綻する前に回収した方が得策である場合もあります。

最近は、過払金の利息について業者が争ってくる場合が多いので、利息まで取るには交渉が長期化する恐れがあります。従って、上記のように早く支払ってもらう必要がある場合には利息の減額も視野に入れておくべきでしょう。

 さて、過払金のシリーズも一旦、これで終了します。ただ、過払金はホットなテーマですから、今後も何か新しい情報があったら逐一、紹介していく予定です。では、次回からは新テーマで「司法書士事務所の見分け方」です。

10月 26 2009

シリーズ 過払金⑧ 悪意受益者の利息(1)

 さて本日からテーマを変えて、「悪意受益者の利息」について説明しましょう。

 悪意受益者の利息とは、過払金の発生時から付加される年率5%の利息のことです。たかが5%などと思ってはいけません。取引が長い時には利息だけで何十万円というケースもあるのです。以前は利率が5%か6%かで争いがありましたが、現在は5%で決着がついています。むしろ今、問題になっているのは利息の発生時期に関してです。

悪意受益者の「悪意」とは一般的な意味での悪意とは違います。悪い意思という意味ではありません。法律用語で「悪意」と言った場合、それは「知っていた」という意味になります。要するに「知っていて承知の上で行った」という場合に悪意という表現を使います。

とすると悪意受益者の利息の発生時期は、貸金業者が過払いであることを知っていたのは、いつかということになる訳です。ここで読者の皆さんは、「そんなの過払いになった時点で業者は知ってたに決まってる」と考えるでしょう。当然、法律家も同じように考えて今まで業務を行ってきました。ところが、最近、業者は「請求されるまでは知らなかった」という主張をしてきているのです。

 比較検討する為に業者の主張を紹介しましょう。彼らの言い分は以下のとおりです。

貸金業法が改正されるまでは、43条によって「みなし弁済」が認められていた。従って、利息制限法を超える利率であっても適法だと認識していたのであって悪意ではない。

さて、ここで「みなし弁済」という言葉が出てきましたが、これについて説明しましょう。「みなし弁済」とは、旧貸金業規制法43条で特別に認められたもので、ある条件を満たした場合は利息制限法を超えても、その弁済を有効と認めるという規定のことです。

古くから債務整理に関わる法律家は長年この「みなし弁済」規定と戦ってきました。そして平成18年1月13日に画期的な最高裁判決が出て「基本的に、みなし弁済は認められない」ということが、ほぼ確定したのです。(この判決が出て以降、過払いバブルと呼ばれる状況が出現しました) しかし貸金業者は、これを逆手にとって、上記の判決が出る前には「みなし弁済」が認められる可能性があったのだから、判決以前から取引がある場合は悪意とは言えない、という主張をしている訳です。

 最近は貸金業者も経営状態が悪化していて、過払金を減らせるならば、どんな主張もするという態度に出ています。では、次回は、この業者の主張に反論する為に、「みなし弁済」が認められる時の条件について取り上げます。

10月 15 2009

シリーズ 過払金? 取引の分断(5)

 さて、本日はクレジットカードの場合の取引の分断についてです。

 今まで取引の分断は業者が非常に争ってくる部分であり、「分断している」と判断された場合は債務者に不利になるという話をしてきました。しかしながら、クレジットカードの場合は上記のような心配をする必要が、ほとんどありません。要するに取引の分断に関しては、クレジットカードの方が対処しやすいということになります。以下、理由を説明しましょう。

 取引の分断で争いになるポイントは、空白期間の前の契約(第1契約)と、後の契約(第2契約)が共通の1本の契約であるかどうかという点にあります(詳しくは過去のブログをご覧下さい)。消費者金融の場合は、この点を証明するのに苦労する訳ですが、クレジットカードの場合は証明が非常に容易なのです。むしろ、クレジット会社の方が、「1本の契約ではない」と主張するのが難しいのです。

具体的に説明しましょう。クレジットカードは消費者金融のカードとは違って、更新することはあっても再発行することは、まずありません(失くした場合は別です)。これが非常に重要なのです。例えば、クレジットのキャッシングで完済して空白期間があったからと言って、次に借りる時には前と全く同じカードを使用しています。もちろん有効期限が切れてカードが更新されている場合はありますが、更新されて送られてくるカードは有効期限が延長されているだけで以前のカードと同じものです。更新の時点で窓口に訪れて新たに審査をしたり、免許証で本人確認をしたり、申込書や契約書を新たに書いたりすることは、まずありません。従って、例え空白期間があっても、1本の契約が続いていると主張しやすくなる訳です。裁判所もクレジットカードの場合は、基本的に1本の連続した契約であると判断する場合が、ほとんどです。クレジット側が、この判断を覆すことは非常に困難でしょう。

 しかし、だからと言ってクレジット会社が黙って1本の契約を認めてくるとは限りません。相手が素人だったり、経験の浅い司法書士や弁護士だったりしたら、分断を強硬に主張してくる可能性は充分にあります。この辺りは専門家の経験のレベルを計るのには良い材料かもしれません。

いずれにしてもクレジットカードの取引に関しては空白期間があっても過払いが認められやすくなっている訳ですから、キャッシングの取引が長い方は過払いの可能性を探ってみた方が良いでしょう。消費者金融の影に隠れてクレジットの過払いを見逃している方は結構います。一度、確かめてみて下さい。

 では次回は、「悪意受益者の利息」について説明します。

 

9月 24 2009

臨時ニュース アイフル私的整理

 さて、世の中がシルバーウイークで浮かれている真っ最中に、何とアイフルが事業再生ADRを実施すると発表しました。今日は、この話題を取り上げます。

 そもそも事業再生ADRとは何でしょうか。聞きなれない言葉です。ADR自体が比較的新しい言葉ですから無理もありません。まあ、強いて分かりやすい言葉に当てはめると調停が最も近いでしょうか。要するに話し合いで事業再生を進めていきましょうということです。私的な会社の債務整理ということになります。(正直なところ、私も完全に分かっている訳ではありません。恐らく完全に理解している人は法律家の中でも、ごく一部だと思われます。その位、珍しい手続です)

私的な整理と言うと、個人では任意整理が挙げられますが、同じように会社の借金を債権者に頼み込んで、カットしてもらったり、繰り延べしてもらったりすることになるのでしょう。問題は、この会社の借金の中に恐らく過払金が含まれるであろうということです。

私的整理ですから、法的な拘束力はありません。過払訴訟で判決を取れば、法的にはアイフルは支払う他はないはずです。しかしながら、私的整理を行なうと宣言している以上、「今、会社には金が無いから支払えない」と開き直られた時に説得力が出てきます。通常の営業をしている場合は、「金が無いなんてウソだろう」と言い返すことも出来ますが、これからはウソだとは言いにくくなる訳です。当然、アイフルの過払金の支払いは相当に悪くなる可能性が高いと考えておかなければなりません。

 それにしても、今まで中堅または小規模の貸金業者の破綻はありましたが、全国展開している主要業者の破綻は今回のアイフルが初のケースとなりました。いよいよ貸金業界の景気悪化も最終段階に入ったと言って良いでしょう。アイフルは顧客数も貸付残高も営業地域の広さも、今まで破綻した業者とは桁違いです。その影響力の大きさは、相当なものになると思われます。

 今回のアイフルの破綻から、主要業者の中でも独立系の業者が苦しいということが、はっきりしました。例えば、アコムやプロミスやレイク(新生フィナンシャル)などはバックに銀行がついていますから、破綻しにくいと言われていました。それに対して武富士とアイフルのような銀行の系列に入っていない独立系が危ないと言われていたのですが、今回は、この意見が正しいことが証明された形になりました。ということは、主要業者で次に危ないのは武富士ということになります。

 武富士と長く取引をしていて、過払いの可能性が高い人は、出来るだけ早く過払請求をしておかないとアイフルの二の舞になるかもしれません。決断の時期かもしれません。

 

 

9月 15 2009

シリーズ 過払金⑥ 取引の分断(4)

 今回は、最高裁の取り上げた、分断を判断する上での7つのポイントについて、どういう場合に債務者側に有利に働くかを説明します。

1 「第一取引の期間の長さ」に関しては、これは長い方が有利です。長く取引していれば、例え完済したとしても、そう簡単に取引を止めるはずがない、次にまた借りる可能性は高いと考えられるからです。しかし具体的に、どの程度なら長いと言えるのかについては個々の裁判官に任されているのが現状です。(要は、はっきりしていないということになります)

2 「第一取引の完済から第二取引開始までの期間の長さ」に関しては、短ければ短いほど有利と言えます。期間が短ければ、完済した時に、次の借り入れを考えていたと判断されやすい訳です。これも具体的な期間について、よく問題になりますが、はっきりとは決まっていません。まあ私の経験では1年以内なら短いと言って良いように思います。ただ、1年を超えていても裁判所が一連計算を認めてくれることもありますので、諦める必要はありません。もちろん長くなるほど認められる確率は低くなっていきます。

3 「第一取引の契約書の返還はあったか」に関しては、返還を受けていない方が有利です。返還を受けたということは、その時点で契約を終わらせるつもりだったと判断されやすいのです。これは期間の長さと違って判断しやすいポイントですね。

4 「第一取引のカードの失効手続はあったか」に関しては、失効手続が無い方が有利です。同じカードを第二取引でも使用していたら、連続した取引だと主張する為の有力な証拠になります。このことからクレジットカードのキャッシングについては、ほとんど債務者有利の一連計算が認められています。(ちなみにカードの更新は失効とは違います。クレジットカードが定期的に新しいカードが送られてくるのは更新です。これは有効期限が延長しただけの前と同じカードですから、同一カードとみなされます)

5 「空白期間の貸主と借主の接触状況」に関しては、接触が頻繁にあった方が有利になります。よく主張するのが、業者が完済した後の空白期間に債務者に対して再借り入れの為の勧誘を行っていた場合です。この勧誘が多ければ多いほど、業者自身が取引を終わらせるつもりが無かったということになり、一連計算が認められやすくなります。

6 「第二取引が契約された時の事情」に関しては、例えば審査がほとんど無かったとか、最初から借り入れ枠が高額だったとか、本人確認が甘かったとか、いうことがあれば有利になります。これは、業者が前の取引の情報を引き続き利用していて、取引を終わらせるつもりが無かったという判断になりやすいからです。

7 「第一取引と第二取引で契約内容に違いがあるか」に関しては、違いが無い方が有利です。ただ、私の経験では、このポイントは前の6つのポイントに比べると裁判所は重視していないように感じています。

 さて、ざっと説明しましたが、難しいのは、この中のいくつが有利だったら裁判所は一連計算を認めてくれるのか、ということに関しては、「裁判官によって違う」という回答になってしまうことです。裁判では、判断が分かれている事件に関しては絶対はありません。一生懸命に主張しても負けることもあるということを、常に頭に置いて下さい。

もちろん、戦わずして負けるのは良くありません。判断が難しいというのは裏を返せば、「勝つこともある」わけですから、とりあえずは主張してみましょう。その際に今日のブログを参考にして頂ければ良いでしょう。

 では、次回はクレジットカードの取引の分断について取り上げます。

 

 

9月 02 2009

シリーズ 過払金⑤ 取引の分断(3)

 今回は、取引の分断について判断するポイントは何かを説明します。

 この問題について考える時に最も影響を与えている判決があります。それは最高裁平成20年1月18日判決です。現状では、全国の裁判所が「分断か、連続した取引か」を判断する際に、この最高裁判決を参考にしていると思われます。

では、この最高裁判決は何と言っているかというと、取引の連続性を判断する際に7つのポイントをあげています。このポイントについて検証してみましょう。話を分かりやすくする為に、途中の空白は1回のみで、前半の取引を第一取引、後半の取引を第二取引として、次からの説明を読んで下さい。

1 第一取引の期間の長さ

2 第一取引を完済してから、第二取引を再び始めるまでの期間の長さ

3 第一取引の契約書を返還されたかどうか

4 第一取引がカードを使用した取引だった場合、第二取引が始まる前にカードの失効手続があったかどうか(失効とはカードを使えない状態にすることです)

5 第一取引を完済してから第二取引が始まるまでの間の、貸主と借主の接触状況(例えば、業者が再び借りるように何度も勧誘したかどうかです)

6 第二取引が契約された時の事情(例えば、勧誘されて契約したのか、あるいは、もう借りるつもりが無かった借主が急に、お金に困って借りに来たのかなどです)

7 第一取引と第二取引を比較して契約内容に違いがあるか(最高裁は特に利率をポイントにあげています)

以上が最高裁の取り上げた7つのポイントです。もちろん、これ以外にも判断材料はあると思いますが、何しろ最高裁が判決で書いているものなので、他の材料よりも裁判官が重くみる傾向があるのは間違いありません。従って、過払金を請求する側としては、いかに、このポイントを有利に主張していくかを検討することになります。

 では次回は、ポイントごとに、どういう場合に有利になるかを説明します。

 

 

 

8月 19 2009

シリーズ 過払金④ 取引の分断(2)

 ご無沙汰しておりました。今回は「取引の分断」の2回目です。過払請求の時に最も問題になる「分断と時効」について説明しましょう。

 さて、取引の分断が認められると、債務者側にとって、計算上、非常に不利になるという話を前回にしました。(忘れた方は前回のブログを読み直して下さい) ところが、前回に説明したよりも、もっと悪いケースがあるのです。それが、分断されて当初の取引が時効消滅してしまう場合です。

具体的に例をあげて説明してみましょう。例えば、平成3年から取引を始めて平成10年に完済したとします。3年間の空白期間があり、平成13年から現在まで取引を続けていたとしましょう。

この場合、取引が続いていたと判断された場合(分断していなかったと判断された場合)、合わせて15年間の取引があったことになり、ほぼ過払いは間違いないでしょう。過払いの金額も相当な高額になるものと思われます。

しかし、分断された取引だと判断された場合、結果は全く違ったものになります。まず最初の平成3年から10年までの取引は、完済した年が平成10年になりますので、完済してから現在まで11年たっています(今は平成21年です)。ということは、完済して10年で過払金請求権は時効消滅しますので、当初の7年間の取引は無かったことにされてしまうのです。そうすると、15年もあった取引期間は一挙に8年に短縮します。いかに影響が大きいか、お分かりになったでしょう。

15年が8年になったら、過払金の金額は激減します。それでも、まだ過払いになればマシな方です。「シリーズ 過払金①」でも書きましたが、8年だと過払いになっていない人も中にはいるのです。こんな場合、「過払いを返せ」と訴訟を起こしたら、逆に支払うハメになった、なんてことが起こりうる訳です。(実際に、こういう目にあって困っている人が全国レベルでは結構いると思います)

 要するに、取引の分断がある場合は、最初の完済は、いつだったのかは常に押さえておかなければならないポイントです。最初の完済が10年以上前の場合は、過払金の額が大幅に減るか、場合によっては過払いでなくなる時もあると覚えておきましょう。

ただ勘違いしないで下さい。完済して現在は取引をしていない場合は、金額は減っても必ず過払いにはなります。

 取引の分断について、だいぶ分かってきたんじゃないでしょうか。では次回は、どういう場合に分断と判断されてしまうのか、を説明したいと思います。

8月 06 2009

シリーズ 過払金③ 取引の分断(1)

 今回は過払金を請求する時に、今、一番の問題になっている取引の分断についてです。これは非常に大きなテーマなので、何回かに分けて説明したいと思います。

 さて、まずは「取引の分断」とは何でしょうか。これは、比較的長い取引の途中で完済したことがあって、しばらく取引の無い空白期間があり、その後、再び取引が始まった場合のことを言います。

途中の空白期間は1回だけの場合もあれば、複数回ある場合もあります。いずれの場合も取引の分断が問題となります。

 では次に、「取引の分断」は何が問題なのでしょうか。これは、もし分断した取引だと判断された場合は、過払金の計算が債務者にとって非常に不利になってしまうからです。

どのように不利になるかを、具体的に説明しましょう。説明を分かりやすくする為に、途中の空白期間を1回と仮定します。例えば次のような事例で考えてみましょう。

10年前(平成11年)から取引が始まって5年間取引を続けた後で完済しました(平成16年に完済)。その後、1年間は全く取引をせず放置していましたが、平成18年に再び同じ業者から借り入れ取引が始まりました。そして現在(平成21年)も取引をしているところで支払いが苦しくなり司法書士に相談しました。

以上の事例の場合、取引を次のように3つに分類できます。まずは平成11年から16年までの5年間が第1取引です。次に、平成17年の1年間が空白期間になります。最後に平成18年から現在までの4年間が第2取引となります。

要するに第1取引と第2取引を合わせるとトータルで9年間の取引がある訳です。シリーズ過払金①でも説明したとおり、9年の取引期間は過払いの可能性が極めて大きくなります。今回の事例でも過払いだったと仮定します。過払いの金額は60万円としておきましょう。

ところが分断した取引だと判断された場合、第1取引と第2取引は、それぞれ別の独立した取引だとみなされます。具体的には次のような計算になってしまいます。

まず、第1取引は一旦完済してますから、第1取引だけで考えると必ず過払いになっています。しかし、期間は5年しかありませんから過払いの金額は40万円としておきましょう。

一方、第2取引だけを考えると、第2取引は司法書士に依頼する直前まで取引をしていた訳ですから、完済はしていません。更に期間は4年しかありません。期間が短く完済もしていない訳ですから、第2取引は債務が残ってしまう確率が極めて高いでしょう。要は過払いになっていない訳です。ここでは、30万円の債務が残ったことにします。

ここで先ほどの第1取引の過払金40万円と第2取引の残った債務30万円を相殺します(過払金と残った債務を差し引きます)。そうすると過払金10万円が残ります。

この結果を取引の分断をしなかった場合(9年間の取引と見た場合)と比べてみて下さい。60万円と10万円ですから、かなりの金額の差になりますね。

驚かれた人も多いと思いますが、実は、これはまだ良い方なのです。例えば、第2取引で残った債務が第1取引の過払金よりも多かったら、どうでしょうか。要するに過払金が30万円で、残った債務が40万円だったとしたら、何と過払いだと思っていたのが、10万円支払わなければならなくなるのです。

今回は仮定の金額なので実際には色々なパターンがありえます。しかし、どんなパターンでも変わらないことが一つだけあります。それは、「分断をした場合は、しなかった場合に比べて必ず債務者に不利になる」という事実です。

 最近ネットを検索していると過払金請求を自分でやろうというサイトが目に付きます。そういうサイトを見ていて思うのは、この取引の分断について、あまり説明されていないということです(全く説明されていないものもあります)。このテーマは実際に請求をする時に業者が最も強く主張してくる部分です。当然、業者は自分たちに有利なように分断した計算を主張してきます。自分で請求しようと思ったら、このテーマは避けて通れないと思います。サイトを見て自分で請求しようしている人は、このことは覚えておいた方が良いでしょう。

 では業者と戦うには、どうすれば良いかは後ほど説明することにして、次回は、分断を主張された場合の最悪のケースである「時効と分断」について取り上げます。

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