司法書士ジャーナル
橋本司法書士事務所ブログ

2008年6月

6月 23 2008

シリーズ 個人再生②

 さて、今回は個人再生が、「どんな人に向いているのか」 の続きです。

 個人再生を選択する人で圧倒的に多いのが住宅ローンを抱えているサラリーマン・OLです。そもそも個人再生の主要な目的の一つに、「破産では自宅を取られてしまう人を何とか出来ないか」というのがあります。ですから、「住宅ローンを維持しながら他の債務を減額できる」のは個人再生の売りの一つと言えます。もちろん、シリーズ①で示した条件に当てはまっていることが前提です。

住宅ローンを維持する為には住宅ローン特則という手続きを使います。これを使う場合も、いろいろ条件があります。例えば、「自分の住まいとして使用している住宅に限る」という規定です。要は投資目的で購入した不動産まで保護する必要は無いという考え方です。ただ、サラリーマンが家族を残して単身赴任している場合は特則が使えますので安心して下さい。もともと住まいとして購入したのに会社の都合で他で暮らしている訳ですから、こういうケースは保護しようという訳です。

あと、住宅ローン以外の抵当権が住宅に設定されている場合は特則が使えません。分かり易く説明すると、住宅ローン以外の目的で借り入れた借金があって、住宅をその借金の担保に入れている場合です。個人再生で除外できるのは住宅ローンだけなので、他の借金は減額されてしまいます。そうすると、減額された債権者は担保の競売をしてきますので、住宅ローン特則を認めても意味が無いというのが理由です。

このケースに当てはまって住宅ローン特則が使えなかったというのは、自営業の人に多く見られます。自営業だと事業資金の担保に自宅を入れているケースが多いからです。

 次に検討したいのは、「何らかの理由で破産が出来ない人」です。本来、多額の借金があって目ぼしい財産も無い場合は破産が適切なのですが、破産が出来ない事情を抱えているケースです。

例えば、明らかな免責不許可事由がある場合です。借金の9割以上がギャンブルとか投資の失敗で出来てしまったような場合がこれに当たります。こういう場合、免責が認められない可能性があるからです。(破産で借金がチャラになることを免責と言います) 

他には、破産による職業制限に該当する職業に就いている場合です。代表的なのは、警備員・保険外交員・資格を持ってやる仕事(ただし、破産でも出来る資格もあるので調べる必要あり)などです。

ただ、免責不許可事由や職業制限に該当するからと言って、現実に支払能力が無い場合は個人再生は選択できません。では、そういう人は助からないのかと言うと実際には、裁判所は結構融通をきかせてくれます。裁量免責という制度があるからです。これは裁判官の裁量で本来免責が認められないケースでも認めてよろしいという規定なのです。

再生も出来ないし破産も出来ないでは、その人は助かる方法が無くなってしまいますから、現実には裁量免責が、かなり幅広く認められています。(裁量免責の中には一部免責と言って、全額チャラにはせずに一部だけ支払わせるという場合もあります)

一方、個人再生では支払能力審査は、かなり厳格にやられますから、支払能力が足りなければ無理して個人再生を申し立てるのは得策ではありません。個人再生を受け付ける裁判所にとっては、「自分たちが拒否しても、まだ破産が残っている」と考えていますから、容赦なく拒否できる訳です。

 

 

 

 

 

6月 19 2008

シリーズ 個人再生①

 さて、今回からは新シリーズとして、個人再生を取り上げたいと思います。債務整理の中では最も複雑で、素人には難しい手続だと言われています。

例えば、専門家に頼まずに破産を申し立てる人は、数は非常に少ないですが一応存在します。(ちなみに東京地裁では、個人の破産申立を認めていませんので必ず弁護士をつけるように勧められます。ただ、この取扱は憲法の「裁判を受ける権利」に抵触するのではないかと問題にはなっています) あと、任意整理は専門家にしか出来ませんが、その代わりに素人が出来る特定調停が用意されています。

これらの手続きと比べて個人再生は、その複雑さ故に、素人が専門家の助けを借りずに最初から最後までやり遂げたという話を、少なくとも私は聞いたことがありません。私自身も、個人再生に関しては素人が自分で進めていくのは難しいだろうと思っています。従って、このシリーズでは、専門家に依頼する時に知っておいた方が良いことを伝えたいと思います。

では、「どんな人に個人再生は向いているか」、というテーマで考えてみましょう。

まず、大前提として任意整理や特定調停で処理できる人は対象外だと思います。任意整理や特定調停の方が自由度が高いので、これらの手続きで充分に債務が減額できるならば、わざわざ厳格な手続である個人再生を選択するメリットが無いからです。もちろん、過払いになっているような人は、そもそも債務が残っていない訳ですから、他の手続を考える余地はありません。このことから、任意整理や特定調停では充分に債務が減らない人が、当てはまる最初の条件でしょう。取引の年数が短い人と言い換えることも出来ます。

次に支払能力の問題があります。上の条件に当てはまって、尚、支払能力が無い場合(例えば失業中とか)は破産を選択するしかありません。ただ、次の仕事が決まっていて内定ももらっていると言う場合は認められる可能性があります。私が依頼を受けた人の中で、このような人がいましたが、裁判所の認可をもらうことが出来ました。

支払能力に関しては特定調停と同じで、裁判所は非常に厳しくチェックしてきます。では、どの程度の支払能力があれば良いのかを簡単に説明しましょう。

個人再生では、申立人の債務の総額が500万円以下ならば一律100万円に債務が減額します。500万円を超えた場合は5分の1に減額されます。例えば、債務総額が400万円なら支払額は100万円、600万円なら支払額は120万円になるということです。実は、これ以外にも1500万円を超えた場合の規定があるのですが、ほとんどの人が当てはまりませんから、ややこしくなるので無視して下さい。

次に個人再生特有の清算価値というルールがあります。これは財産の総額と言い換えた方が分かりやすいでしょう。要は、その人が持っている主要な財産を金銭に換算して合計したものです。裁判所が考える主要な財産には、不動産・生命保険・自動車・退職金などがあります。細かい評価額の出し方については後ほど説明します。今、覚えておいて欲しいのは清算価値の総額と、前に出した支払額とを比べて清算価値の方が高かったら、支払額は清算価値の金額になるということです。例えば債務総額が400万円なら支払額は100万円ですが、清算価値が150万あったら支払額は150万円にアップするということになります。ここで注意して頂きたいのは、財産を換価する(売却してお金に換える)必要は無いということです。あくまで、清算価値と同じだけの金額を毎月の収入から支払っていけばよいのです。

以上のようにして算出した支払額を3年間で払うことになります。従って、支払額を36回に分割すれば一月の支払額が出ます。この支払額ぎりぎりだと裁判所も難色を示しますから、だいたい2万から3万上回るくらいの支払能力があれば、裁判所の要求に答えられる可能性が高いでしょう。

ここまで読んでいかがでしたか。難しかったかもしれないですね。最終的には専門家に依頼されると思いますから全部分かる必要はありません。ただ、専門家を判断する材料にも使えますので、知っておいて損は無いと思います。

それでは次回ですが、「どんな人に向いているか」の論点がまだ残っていますので、続きを書く予定です。

 

 

 

 

 

6月 06 2008

シリーズ 特定調停⑤

 特定調停シリーズの最後になります。今回のテーマは「2回目以降の期日」です。

 第1回の期日が無事に切り抜けられたら、いよいよ業者との調停になります。しかし、あまり怖がる必要はありません。前回も話したとおり、調停で一番の難関は1回目の調停委員との面談ですから、これが通過できたら、2回目以降はスムーズに運ぶことがほとんどです。

 業者との調停では、建前は業者と申立人と調停委員の3者面談ということになっていますが、現実には9割がたの業者は裁判所に出てきません。では、どうやって進めるのかと言うと、調停室には電話が備え付けてあって、調停委員が申立人の目の前で、業者に電話をかけてくれます。後は調停委員に任せておけば、1回目の期日で確認した申立人の支払能力に合わせたプランで、分割払いの調停をまとめてくれます。(まともな調停委員に当たれば、このように進むはずです)

 ごくたまに調停に出てくる業者もいます。出てきたからと言って、調停の進み方に違いはありません。調停委員がまともであれば、業者と交渉して分割払いのプランをまとめてくれるでしょう。

 非常にまれですが、一部の大変わがままな業者が調停のルールに従うことを拒否する場合があります。調停は、あくまで話し合いが前提なので、強硬に拒否されると不成立となって、その業者に関しては元の状態に戻ってしまいます。

 こういう業者がいる場合、「17条決定」と言う方法で、裁判所の判断で調停の条件を決めてしまうことも出来ますが、業者が異議を出してきた場合は「17条決定」の効力も無くなってしまいます。

 しかし、実際にそのような場面に出くわしたら、「17条決定」を出してもらうように調停委員を説得しましょう。いざ、「17条決定」が出されると、異議を出さずに決定に従う業者も少なからずいるからです。最初からあきらめてはいけません。可能性がある限り、「17条決定」は出してもらいましょう。

 まあ、このような悪質な業者はごく一部です。大半の業者は調停のルールには従いますので、あまり心配しない方が良いでしょう。ただ、不動産担保を取られているような場合は、普段はルールに従う業者でも不動産担保を盾にして調停を蹴ってくることが多いので、気をつけましょう。

 最後に、もし調停の最中に過払いが発生していることが発覚した場合は、必ず調停調書(17条決定の場合は「調停に代わる決定書」)には、「債務無し」と記載してもらいましょう。

 この場合、あまり詳しくない調停委員に当たると「債権債務無し」と記載されるケースがあります。こう書かれてしまうと、後で過払請求をすることが出来なくなってしまいます。(過払請求権は債権になるので、債権が無いと書かれると過払いを放棄したとみなされてしまうのです) 後で気付いて泣かない為にも注意が必要です。