司法書士ジャーナル
橋本司法書士事務所ブログ

2008年7月

7月 29 2008

シリーズ 個人再生⑥

 6回目は、いよいよ個人再生申立以降の実際の流れについて説明しましょう。今回も名古屋地裁を例にして話をすすめます。

 申立の際に必要なのが、申立書類一式(家計簿・財産目録・陳述書・債権者一覧表・清算価値算出シート・住宅特則を利用する人は弁済許可申立書)、証拠書類(第5回で説明した各種書類のこと)、債権者宛名シール(裁判所が債権者に郵便を送る時の為に提出)、債権者一覧表のコピーを債権者数分(開始決定が出た後で裁判所が各債権者に送る為に提出)、予納郵券(切手の事です)、収入印紙、予納金になります。

この中で予納金は、金額が大幅に変わる可能性があります。通常、名古屋地裁では再生委員という役職が選任されることになっていますが、この再生委員の費用が高い為に、予納金が10万円近くかかってしまいます。(と言っても首都圏よりは、これでも安い方です。いかに首都圏の費用が高いかが分かります)

しかし、事件の内容が複雑でない場合、再生委員が選任されない時があります。こうなると、予納金は3万円以下になりますので、ぐっと安くすみます。では、事件の内容が複雑でない場合とは、どのような場合かが当然、気になるところですが、残念ながら明確な基準はありません。その時、その時で裁判官が個別に判断しますので、出してみなければ分からないというのが現実です。まあ、あまり期待するとダメだった時にがっかりしますから、通常は再生委員がつくものだと考えておいた方が良いでしょう。

ここでちょっと補足しておきますが、郊外の支部裁判所や大都市圏以外の裁判所においては再生委員が選任されないのが普通です。何故かと言うと、再生委員にはたいてい地元の弁護士が選任されることになりますが、大都市圏以外は弁護士の数が少ない為、再生委員のなり手がいないからです。従って、上記の裁判所においては申立費用は大都市圏よりも安くなります。弁護士の都市偏在が理由で申立費用に10万円近い差が生じる訳ですから、これは大変に不公平な制度ではないかと私は考えています。

 以上で申立は終了です。後は、裁判所が申立書類と証拠書類を審査します。名古屋地裁の場合だと1~2週間で審査の回答が送られてきます。郊外の支部裁判所だと審査期間はもっと短くて、早いところだと翌日のこともあります。

審査の結果、追加書類を求められたら追加書類を出すことになります。それで特に問題無いということになったら、いよいよ第一回の面談になります。

 では、この後の話は次回に譲りましょう。お楽しみに。

 

より詳しい情報を知りたい方は以下をクリック

http://www.hashiho.com/debt/kojinsaisei/

7月 22 2008

シリーズ 個人再生⑤

 さて今回は、個人再生を裁判所に申し立てる際に最低限、必要になる書類について説明します。名古屋地裁の場合で説明しますが、三重県や岐阜県で申し立てた時の経験によると、それほど大きな違いはありませんでした。従って、他の裁判所の場合でも充分に参考になると思います。

 まずは、市町村役場で取得する書類からです。

①戸籍謄本

②住民票(世帯全員分が必要。本籍と続柄の記載が必要)

③課税証明書(最近2年分が必要。税務課で取得)

④公的手当証明書(児童手当等を受け取っている人は必要)

⑤固定資産税評価額証明書(不動産を所有している人は必要。土地と建物の両方。税務課で取得)

 次に他の役所で取得する書類です。

①不動産登記事項証明書(不動産を所有している人と、賃貸以外で他人の不動産に居住している人が必要。法務局で取得)☆例えば親の家に住んでいる人は、その家が自分の所有では無いということを証明する為に必要です。

②税金の滞納証明(滞納がある人は必要。税務署または県税事務所等で取得)

 次は役所以外で取得する書類です。

①給料明細と源泉徴収票(給料明細は最近3か月分、源泉徴収票は最近2年分です)

②同居人の収入証明(給料明細や年金給付証明などです)☆支払いの責任があるのかと勘違いされる人がいますが、同居人に支払義務はありませんので、ご心配なく。裁判所から同居人に通知が来ることもありません。

③不動産の時価証明(不動産を所有している人は必要。不動産業者の見積書を2通出す)

④住宅ローン返済表(住宅ローン特則を使う人は必要)

⑤賃貸借契約書(賃貸に住んでいる人は必要)

⑥本人名義の銀行預金通帳、郵便貯金通帳(過去1年分が必要。おまとめ一括記帳がある場合は、その分の明細が必要)

⑦自動車の車検証コピー(複数ある場合は、本人と同居人の両方が必要)

⑧自動車の時価証明(登録後5年以内の国産車で、かつローンが残っていない場合に必要。外国者の場合は5年以上でも必要)

⑨退職金見込額証明書(退職金規定及び、それに基づいて自分で計算した試算表でも可)

⑩本人名義の保険証券(失くした場合は再発行可能)

⑪保険の解約返戻金証明書(保険会社に請求)

 自分で作成して提出する書類

①家計簿(裁判所の書式に従って書く必要あり。基本的に手続終了まで毎月提出)

 以上が最低限必要な書類のリストです。あくまで最低限なので、後から裁判所が追加書類の提出を求めてくることがありますので、ご注意下さい。

☆最低限と言っても、相当多いと思われたのではないでしょうか。実は私もそう思います。しかし、裁判所が要求している以上、愚痴を言っても始まりません。頑張って集めましょう。

 

7月 11 2008

シリーズ 個人再生④

 本日は清算価値の続きです。私の地元である名古屋地裁の場合を例にして説明します。

 まず自動車について検討します。地方だと自動車が無くては生活できないし仕事にも行けないという場合も結構あるので、なかなか悩ましい問題なのです。清算価値としては不動産の次に裁判所が注目する部分でもあります。

自動車もローンを組んでいる場合が多いので、このローンが問題になります。はっきり言うとローンが残っている場合、自動車はローン会社に引き揚げられてしまいます。住宅ローンのような特則は認められていないので、こればかりはどうしようもありません。自営業の方で仕事で使っている場合に特例が認められる時がありますが、必ずという訳ではありません。引き揚げられた後、ローンの残債から売却価格を引いた金額がローン会社の債権となり、個人再生の債権者の一つとなります。(自動車ローンの場合、車の残存価値がローンの残債を上回ることがほとんどないので、だいたい上記のような流れになります)

ローンが無い場合の自動車は、時価で清算価値に加えられます。民間業者で見積書を取って添付します。ただし、国産車の場合は特例があって、登録から5年以上経過していれば無価値とされ、見積書の提出は不要です。(軽自動車の場合は4年で無価値となります)従って、ローン会社に車が引き揚げられてしまった人は、生活にどうしても車が必要な場合は、5年以上の国産中古車を購入して頂くと良いかもしれません。(だからと言って高価な中古車を購入するのは、裁判所も黙っていないと思いますので注意して下さい。あくまで安い中古車を購入されることをおすすめします)

 次に証券について検討します。これは、一部上場企業などに勤めている人に多いのですが、会社の持ち株が社員に割り当てられている場合が珍しくないのです。積立と同じように本人が気付いていないこともありますが、やはり給料明細に表れることが多いです。この場合、申立直前の株価を基準にして清算価値を算出することになります。

 次に賃貸住宅の場合の敷金について検討します。破産の場合、敷金は部屋を出て行かない限り返還されない金銭と言うことで財産には含まれませんが、個人再生の場合は敷金も清算価値に含みます。注意すべきポイントです。

 最後に退職金について検討します。退職金は「申立直前に自己都合で退職した場合」を想定して換算します。しかし、全額が対象になる訳ではありません。8分の1が清算価値になります。

 以上が裁判所が注目する主な清算価値になります。気になる人は自分で計算してみましょう。

 

7月 08 2008

シリーズ 個人再生③

 個人再生の3回目は清算価値について説明します。

清算価値とは個人再生独特の表現で、債務者の持っている財産の総額のことを指します。前回までのシリーズで、「清算価値が、債務額の5分の1または100万円よりも高ければ、個人再生で支払う額は清算価値の額になる」と言う話をしました。従って、清算価値がいくらになるかは支払額を決定する上で非常に重要です。清算価値を計算するには独特のルールがありますので、今回はそのルールを説明しましょう。

 まず代表的なのは現金と預貯金ですが、これは単純に残っている金額になります。注意すべきは給料からの天引きで積み立てている場合です。天引きなので本人が忘れている時があるのです。給料明細を見ればすぐに分かりますから、依頼した後で専門家が気付いて本人がびっくりするというケースが良くあります。天引きと言うのは確実に毎月実行されますから、意外に高額の積立が発見されたりするのです。

 次に裁判所が最も気にするのが不動産です。これは、時価からローンの残債を差し引いた金額が清算価値となります。オーバーローンの場合はマイナスになりますから清算価値は0円です。自分が住んでいる住宅にも、この法則は適用されますから、オーバーローンになっていなければ清算価値に含まれます。ちなみに時価に関しては不動産業者の見積書を2通用意して裁判所に提出しなくてはなりません。別々の業者から2通取って、その平均値を時価とします。

この時、注意するのは親の土地に子供が家を建てた場合です。このケースでは住宅ローンは家の建設資金だけですから、土地は関係ないと思ってしまう人が多いのですが、実は違うのです。何故なら例え家の建設資金であっても、住宅ローンの担保には家と土地の両方が入っているからです。家と土地はセットでなければ誰も買いませんから、銀行は必ず両方担保に入れます。その結果、清算価値を計算する時には、家と土地の時価の合計から住宅ローンの残債を差し引いて、残った金額を家と土地の時価の割合で比例配分することになります。具体的には、家の時価が500万円で土地の時価が2000万円、住宅ローンの残債が1000万円だったとします。この場合、家と土地の合計2500万円から住宅ローン1000万円を差し引いて1500万円になります。次に家と土地の時価の割合が1対4ですから、1500万円を1対4で配分した結果、家の分の清算価値は300万円になります。

このように親の土地の上に子供が家を建てた場合は清算価値が残る場合が多いので注意が必要です。

 次に生命保険について説明します。生命保険は「掛け捨て」の場合と「貯蓄型」の場合があります。当然、清算価値に含まれるのは貯蓄型の場合です。貯蓄型の生命保険には解約返戻金というものが発生します。生命保険会社に電話して解約返戻金証明書を取得して裁判所に提出する必要があります。

この時、注意して頂きたいのが、契約者貸付の有無です。契約者貸付とは貯蓄型の生命保険から一定額を借りられる制度のことです。契約者貸付がある場合は、解約返戻金から貸付分を差し引いた金額が清算価値になります。ちなみに契約者貸付は借入とはみなされないので、個人再生や自己破産の債権者には含まれません。理由はちょっと複雑なので、ここでは書きません。債権者にはならないとだけ覚えておいて下さい。

少々長くなりましたので、今回はこれで終了です。次回は引き続き清算価値について説明します。