司法書士ジャーナル
橋本司法書士事務所ブログ

2009年5月

5月 27 2009

シリーズ 自己破産⑥ 破産しても残る財産(前半)

 今回の話題は「破産しても残る財産」です。これも結構大きなテーマなので、前半と後半に分けて取り上げます。

 まず、覚えて欲しいのが破産には大きく分けて2種類あるということです。

 一つは管財事件と言い、破産管財人が裁判所から選任されて、破産者の財産を調査して、生活に必要な最低限の物を残して、換価できる財産を金銭に換えて債権者に分配します。この間、破産者は引っ越しの制限を受けたり、郵便物を管財人に点検されたりと、いろいろと制約があります。また、破産を申し立てるにあたって裁判所に納める予納金も約40万と、かなり高額になっています。(最近は少額管財と言って20万くらいで済む場合もありますが、それでも結構な額ですね)

二つ目は、同時廃止事件と言い、破産者の財産が総額で40万未満の場合(名古屋地裁の基準です)、管財人は選任されず、破産者の財産の換価も行われないで破産手続きが進んでいきます。要するに40万未満の財産はまるまる残るということになります。これは管財事件の予納金が約40万なので、予納金を支払ったら破産者に財産が残らない場合は管財人を選任しても仕方が無いからです。ちなみに同時廃止事件の予納金は約1万5000円です。管財事件とは随分と違いますね。

では、申立比率はどうなっているかというと、圧倒的に同時廃止事件が多くて、9割近くを占めています。管財事件になる人の大半が事業主や法人なので、個人の破産と言えば、ほとんどが同時廃止と言っても過言ではありません。

 このような事情を踏まえて、本日の話題も同時廃止事件についての説明になります。では、どのような基準で同時廃止と認められるのでしょうか。(以下は名古屋地裁の基準です)

 まず、財産の総額が40万を超えないことです。これは先ほど説明しましたね。でも基準は、これだけではないんです。

 次に単品で30万を超えないことです。ようするに財産が単品で39万だった場合は同時廃止とは認められないことになります。ちなみに保険31万と預金8万でもダメです。保険29万と預金10万ならOKということになりますね。あと、この場合の単品とは一つの項目という意味になります。例えば生命保険に3本入っていて、15万と10万と10万の返戻金があったとしたら、生命保険単品で35万と判断されてしまいます。

 次に退職金ですが、これはすぐに受け取れる財産ではありませんので特例が設けられています。具体的には申立時に自己都合で退職したと仮定した時の退職金の8分の1が財産とみなされます。(もちろん実際に退職する必要はありません)

 次に車ですが、ローンが残っていない車が財産評価の対象になります。何故かと言うと、ローンが残っている場合はローン会社が車を引き揚げてしまう場合が、ほとんどなので、手元に車が残らないからです。ではローンの終わった車に関しては、国産車であれば、普通乗用車は5年、軽自動車は4年を経過していれば無価値と判断されます。要するに財産に含まれませんから車は残るということです。上記以内の年数であったり、年数に関係なく外国車の場合は、車の査定をしてもらって、その査定額が財産となります。

 さて、長くなりましたので本日は、ここまでと致しましょう。この続きは次回に回します。

 

 

 

 

5月 21 2009

シリーズ 自己破産⑤ 破産を決意した時に必要なもの(後半)

 本日は前回からの続きです。

「銀行預金通帳・郵便貯金通帳」 本人名義のものは全て必要です。過去1年分の記帳が条件なので、1冊で足りない時は古い通帳も必要です。よく、記帳しないで放っておく人がいますが、そうすると破産の為に久しぶりに記帳した時に「オマトメ」と表示されて途中の記帳が省略されてしまうことがあります。この場合は、銀行に行って省略分のコピーを受け取ってこなければなりません。(結構、面倒です。こまめに記帳しましょう)

「車検証」 首都圏の人は別にして、地方の場合は車の所持率は非常に高いと思われます。車が無いと生活できないという場合も多いでしょう。従って、車検証の提出は必須です。登録年度や所有者、ローンが終わっているかどうかなどを判断する為の資料となります。ちなみに同居人が車を持っている場合も必要になりますので、ご注意ください。(もちろん同居人が車を取られる訳ではありません。誰の名義かを裁判所が確かめる為です)

「退職金見込額証明書」 派遣やパートや契約社員の場合は不要です。当然ですね。正社員で退職金が無い場合は、無いことを証明する書類の提出を求められます。ある場合は金額を計算して計算の根拠を示す書類(多くの場合、就業規則になるでしょう)を提出することになります。

「保険証券」 本人が契約者となっているものは全て必要です。よく忘れるのが自動車保険と子供にかけている学資保険ですね。あと、親が支払っているけど契約者は本人だったというケースも提出義務はありますので注意が必要です。

「保険解約返戻金証明書」 良く勘違いされますが、保険を解約する必要はありません。保険を継続したまま、現在貯まっている返戻金だけを知ることが出来るのです。保険会社に電話して、現時点での返戻金証明が欲しいと言えば、送ってくれます。明らかに返戻金が無いタイプの県民共済とか、損害保険などは不要です。

「診断書」 必須ではありませんが、病気やケガが借金の原因に含まれている人は提出した方が良い書面です。提出されれば裁判所が破産に理解を示してくれる可能性が高くなると思われます。

「パスポート」 借金の原因とは関係なく、海外旅行経験がある人は出すことになっています。出して問題になった経験は私はありません。何故、出すのか私にも不明ですね。

「税金・社会保険料の滞納額証明書」 税金や社会保険料を滞納している人は金額が分かるものを出さなくてはなりません。督促状が来ているはずなので、それを出せばよいでしょう。督促状を無くしてしまった人は覚悟を決めて、税務署や社会保険事務所に電話しましょう。ちなみに税金や社会保険料は破産できません。(正確には破産しても支払義務は残ります)

 以上が主だった破産に必要な書類です。結構、たくさんありますね。でも、借金が全額、帳消しになる訳ですから、この位の大変さは我慢しましょう。

では、次回は破産しても残る財産について説明しましょう。 

 

 

5月 15 2009

シリーズ 自己破産④ 破産を決意した時に必要なもの(前半)

 ご無沙汰しておりました。本日は、「破産を決意した時に必要なもの」をテーマに、お話ししましょう。種類が多いので前半と後半に2回に分けて紹介します。では、今回は前半です。

 まずは、市区町村役場で取得できるものから説明しましょう。

「戸籍謄本」 抄本ではなく謄本が必要です。謄本とは家族全員が記載されているものです。

「住民票」 これも世帯全員が記載されているものが必要です。注意すべきなのは、例え一人暮らしでも世帯全員分で申請する必要がある点です。そうしないと住民票の下部に「この住民票は世帯全員分である」という一筆が入らないからです。この一文が入らないと裁判所は他に同居人がいるのではないかと判断する可能性があります。あとは本籍と続柄の記載を必ず入れることも忘れないで下さい。入れないで申請すると裁判所から取り直しを命じられることになります。

「公的手当取得証明書」 代表的なものは児童手当ですが、他にも受け取っている場合は金額が分かる証明書が必要になります。

「所得証明書」 通常は、給与明細などを添付しますが、失業している人は所得が無いことの証明として必要です。

 次は、法務局で取得できるものです。

「登記簿謄本(登記事項証明書)」 賃貸以外に住んでいる場合は、誰の名義かを明らかにする為に必要です。

 あとは役所以外で集めてくる書類です。(自分で作成するものも含みます)

「家計簿」 これは自分で作成するものですね。つけていない人がほとんどでしょうが、裁判所に提出する為に新たにつける必要があります。自分の状況を把握する為にも今後は習慣にしましょう。

「本人の給料明細」 破産申立前2~3ヶ月分が必要です。自営業の場合は確定申告書が必要です。給与明細で注意すべきなのは、控除の部分に会社借り入れや、積立などの項目が挙がっている場合です。会社借り入れは新たな破産債権者として会社が加わることを意味します(会社の借金だけ支払うことは破産法では許されていません)。また積立は、新たな財産があることを意味しますので裁判所に報告しなければなりません。これらの項目は本人が気がついていないことも多いので注意が必要なのです。

「源泉徴収票」 直近のものが必要です。無くされている場合は会社に再請求することになります。

「同居人の収入証明」 給与明細や所得証明、あるいは年金受給証明などが必要です。よく、家族が破産に巻き込まれると心配される方がいますが、そのようなことはありませんので、安心して下さい。

「賃貸借契約書」 賃貸に住まわれている方は必要です。社宅として賃料が給与天引きの場合は不要です。(この場合、契約書は会社が持ってますから)

 だいぶ多くなってきましたが、まだまだありますので、前半はこの位にしておきましょう。では、次回は後半として続きの書類を取り上げます。

 

5月 01 2009

シリーズ 自己破産③ 破産にまつわる間違った噂

 今回は、一般に浸透している間違った噂についてです。

 第一回でも簡単に取り上げましたが、破産には間違った噂が非常に多く、しかも結構、信じられているので影響力を持っています。以下、順番に検証していきましょう。

噂① 「戸籍に記載される」 

 これは破産に関する噂でもトップクラスに広まっているようで、相談者の中でも信じている人が非常に多いです。結論を言えば、戸籍に記載されることはありません。もちろん住民票に記載されることもありません。

噂② 「選挙権が制限される」

 戸籍ほどではありませんが、たまに気にされる方がいます。そんなに選挙に熱心に行くのかなと不思議な感じがしますが、地方の人だと頼まれて断れないケースも多いのかもしれません。これについても、選挙権に影響は全くありませんので、ご心配なく。

噂③ 「賃貸住宅を追い出される」

 これに関しては、根本的には間違っていますが、間接的に影響が出る場合があります。まず、手渡しや銀行振込、引落しなどで家賃を支払っている方は影響ありません。金融の事故情報を不動産屋が見ることは出来ませんから。しかし、不動産屋によってはクレジットカードで家賃を支払わせるところがあり、これについては影響が出る場合があります。これは破産をするとクレジットカードが使えなくなる可能性があるからです。こういう場合は、現金払いや銀行振込に変更が可能かどうか事前に聞いておいた方が良いでしょう。

噂④ 「家族全員がブラックリストになる」

 これは全くのウソです。ブラックリストに載るのは本人だけです。しかし、金融機関の中には、同居の家族を含めて審査をする業者もあります。例えば、夫が破産して、妻がローンを申し込んだ場合、妻本人が審査をクリアしたとしても、業者が夫まで審査の対象を広げた場合、審査が通らない可能性があるということです。これについては各業者によって対応が違いますので、通るかどうかは運ということになります。

噂⑤ 「ブラックリストは一生、消えない」

 これも、たまに信じていて怖がっている人がいますが、全くのウソです。現状では、長くて7~8年だと言われています。それにブラックリストに載っていても途中で収入が好転した為に、クレジットが組めるようになったという人もいます。あくまで状況次第、業者次第ということでしょうか。

噂⑥ 「手持ちの財産は全て没収される」

 これは結構、強烈な印象で信じられている場合があります。よく、ドラマや漫画などで、家の中の家具全部に片っ端から赤紙を貼っていくシーンがあります。恐らく、若い頃に見た、こういうシーンが記憶されていて、噂を信じてしまうのでしょう。しかし、ご心配なく、破産法は鬼ではありません。生活必需品は残してくれるように法律で決まっています。実際には普通の生活をしている人なら、家具や電化製品で取られるものは、ほとんどありません。

噂⑦ 「今、勤めている会社を辞めなくてはならない」

 これも、ほとんどの場合、間違っています。破産法で規定されている一部の職業、例えば、警備、保険外交員、あと資格に基づいて行う仕事(弁護士、司法書士、税理士、公認会計士など)などに関しては職業制限がありますので、一定期間、出来なくなる場合があります。あと、金融機関は自社の社員がブラックリストになっていることが判明すると退職を求められる可能性が高いでしょう。しかし、これらに当てはまらない大半の職業に関しては、全く問題なく、皆さん勤めています。

 以上、代表的な間違った噂に関して検証してみました。破産は思ったほど怖くないと思って頂けたのではないでしょうか。これらの噂に惑わされることなく、適切な決断をして頂きたいと思います。

 では次回は「破産を決意した時に必要なもの」について話しましょう。