司法書士ジャーナル
橋本司法書士事務所ブログ

2009年6月

6月 29 2009

シリーズ 自己破産⑨ 破産申立その後(前半)

 さて今回は、裁判所に破産を申し立てた後の流れについて説明します。例によって、名古屋地裁の流れになりますので、他の裁判所では異なる部分があるかもしれません。

 まず、申立をすると事件番号が裁判所から付与されます。具体的には平成〇〇年(フ)第〇〇〇〇号というものです。〇〇には数字が入り、その年の1月から1号と数えて年が変わったら、また1号に戻ります。だから12月の後半に申し立てると、その年の申し立てた裁判所の破産の事件数が、だいたい分かります。また、(フ)は破産の申立を意味する記号です。申し立てた事件の種類によって、記号が変わります。

事件番号が付与されたら、これを各債権者に郵便で教えてやります。実は債権者にとっては、この事件番号は何よりも知りたい情報なのです。何故かと言うと、事件番号と申立裁判所が分かると、破産された債権を経費で落とすことが可能になるのです。要するに税金対策として使える訳です。

だから、ほとんどの債権者は、「破産することになりました」と言うと、たいしてしつこく追求もせず、このように言ってきます。「早く申立をして事件番号を教えて下さい」と。実際に事件番号を教えると、その後は何の音沙汰もなくなる場合がほとんどです。債権者からしたら、「どうせ回収できないんだから、経費で落として税金を減らした方が良い」という考えになるようです。破産する債務者の方も、こういう事情は分かっていた方が良いと思います。

ただし、このように書くと誤解する方がいるかもしれませんので、一つ注意しておきます。集中的に短期間で借りて、ほとんど返済せずに破産申立をすると、さすがに債権者はクレームをつけてきます。計画破産ではないのかというクレームです。債務者や司法書士に向けて言ってくるだけなら良いのですが、裁判所に対して抗議してくる場合もあります。(これを異議申立と言います)。裁判所が、債権者の異議はもっともであるという判断をしたら、破産が出来なくなる(免責が取れなくなる)恐れもありますので気をつけましょう。

 さて、事件番号を債権者に知らせたら、後は裁判所の審査結果を、しばらく待つことになります。審査結果は大きく分けて3種類になります。

 一つは、最も良い結果になった場合で、何の指摘もなく破産開始決定と免責審尋呼出状が送られてくるケースです。非常に恵まれたケースで破産申立全体の10%くらいしかないと思いますので、あまり期待しない方が良いでしょう。

ここで予備知識として説明しておきますが、破産手続きは開始決定と免責決定の二つの決定をもらうことで終了します。よく開始決定を破産の終了だと思っている人がいますが違います。開始決定が出た段階では「支払うだけの財産が無い」という事実を裁判所が認めただけで、まだ借金の支払義務は消えていません。その次に免責決定をもらって始めて借金の支払義務が消えるのです。従って、免責決定をもらうまでは破産手続は終了していないのです。

開始決定が送られてくると、一緒に免責審尋呼出状が入っています。免責審尋とは免責を認めるかどうかを決める為に債務者を裁判所に呼び出して面談をすることです。これについては後で詳しく説明します。

 それでは、二つ目と三つ目に関しては次回に説明しましょう。

 

 

 

6月 19 2009

臨時ニュース 貸金業参入規制厳格化

 今月18日に貸金業者の参入規制が厳格化されましたので、お知らせします。

 具体的には、今までは貸金業を開業するにあたって、純資産額が500万円以上あれば良かったのですが、これからは2000万円以上必要になります。

この改正により、少ない資金で小規模の悪質業者が気軽に開業することが難しくなるものと予想されており、悪質業者の新規開業に歯止めをかけることが期待されています。

 更に新たな改正として、貸金業取扱主任者の資格試験制度が始まります。宅建業や旅行業にも同様の制度がありますが、営業所を設けるにあたって、各営業所ごとに一定数の資格試験合格者を配置しなければならないという制度です。

資格試験の合格者を営業所に配置させることによって、違法な営業に歯止めをかけることが期待されています。

6月 15 2009

シリーズ 自己破産⑧ 債務増加の経緯

 さて、今回は自己破産の提出書類の中で最も裁判所が注目すると言われている「債務増加の経緯」についてです。

 「債務増加の経緯」とは、どういう書類かと言うと、どのように借金が膨らんでいったのかを、日時を示しながら、なるべく詳しく説明していく作文です。債務者にとっては、自分の借金の歴史を振り返ることにもなります。

大抵の場合、現在の借金を返済することに集中している為に、何故、自分の借金が、ここまで大きくなってしまったのかを忘れてしまっている人も少なくありません。「債務増加の経緯」を書くことによって、改めて自分を見つめ直す良い機会になったと言う人が多いのも事実です。

 また、裁判所も非常に重要視している書類で、いい加減に少ない分量しか書かれていない場合は、書き直しを命じられる時もあります。逆に非常に詳しく日時も正確に書かれていると裁判所の印象もグッと上がって、破産の審査が順調に進む傾向があります。

何故、裁判所が重視するのかと言えば、裁判所は破産において、やはり債務者に反省を求めているからだと思います。借金を法的にチャラにする訳ですから、少しは反省してもらわなければ困るというのが裁判所の本音でしょう。

「債務増加の経緯」を書くことによって、債務者に借金について、じっくりと振り返ってもらい、どういう行動がいけなかったのかを考える、きっかけにしてもらおうというのが狙いだと思います。

 具体的な書き方としては時系列を、はっきりさせてから書き始めると良いものが書けることが多いようです。

最初に、借金が増える、きっかけになったことを、まずは片っ端から書き出して、その一つ一つの事柄に対して日時を書いていきます。それが出来たら、最後に日時の順番に事柄を並べ替えれば時系列表が完成します。あとは、もう一度、時系列表を最初から読み返して矛盾したところが無いかを探します(記憶とはあいまいなものなので、大体いくつかは矛盾点が出てくるものです)。最後に記憶を確かめながら、矛盾点を直していきます。矛盾の無い時系列表が出来たら後は、それを見ながら文章にしていけば良いのです。

 文章を書きなれていない人には大変な作業かもしれませんが、矛盾点の洗い出しには司法書士も参加してアドバイスできますし、何と言っても裁判所が注目する書類ですから、頑張って頂くしかありません。

 では、次回は「破産申立その後」と題して、申立の後の流れについて説明します。

6月 02 2009

シリーズ 自己破産? 破産しても残る財産(後半)

 さて、前回からの続きです。

 前回の最後に車の財産評価について書きましたが、車に関しては私の事務所のある愛知県では非常に破産のネックになるケースが多いです。どういうことかと言うと、ローンが残っている場合、車が引き揚げられてしまいますが、それを極端に嫌がる人が多いからです。この辺は東京を中心とした首都圏とは違う部分でしょう。(東京だと最初から車を持たない人が結構います)。

車が地方では生活に必要であるということを差し引いても、生活の為の車ならば小型の中古車でも充分なはずですから、引き揚げられた後に安い中古車を購入すれば済むはずです。裁判所も車が必要なことは分かっていますから、安い中古車ならば認めてくれます。(もちろん登録から5年以上、軽なら4年以上経っている国産車を選びます)。

ところが愛知県の人は、自分の車に強力な愛着を持っている人が多くて、手放すことを極度に嫌がるのです。その為に破産に踏み切れなくて、本来、助かる人が助からなくなるというケースが出てきます。これは、やはり本人に決断して頂くしか仕方がありません。

 次に最も問題になる不動産についてです。不動産を持っていて尚且つ、同時廃止の基準を満たす為には、以下の条件をクリアーする必要があります。

現時点での住宅ローンの残額と固定資産評価額(役所の税務課で証明書を取得できます)を比べて、建物の場合はローン残額が評価額の1.5倍以上、土地の場合はローン残額が評価額の2倍以上である場合は、不動産が無価値であると裁判所は判断してくれます。価値が無い訳ですから、上記の条件に当てはまれば同時廃止が可能になる訳です。

また、評価額が上記の条件を超えていた場合でも、もう一つ救済措置があります。それは、近隣の不動産業者2名の査定書をつけて、その査定額の平均値と住宅ローン残額を比べて、ローン残額が平均値の1.5倍以上あれば、やはり無価値と判断されます。

ただし、いずれの場合も同時廃止で処理できるというメリットはありますが、不動産は手元には残りません。当然、ローン会社によって競売にかけられるか、あるいは任意売却をして売却金をローン会社に支払い、それでも残ったローン残額を破産処理するという手続になります。(実際には、ローン全額を破産処理して、後から競売や任意売却をするケースが多いと思います)。このように不動産が手元に残らないという点が個人再生との大きな違いとなります。

 あと、賃貸住宅に住んでいる場合の敷金についてですが、破産の場合は無価値と判断されています。部屋を出ない限り本人が手にする可能性はないからでしょう。しかし、一つ不思議なことがあって、個人再生の場合は敷金も清算価値(破産の場合の財産に相当)に含まれています。この違いは何故、生じているのか未だに私は分かりません。ひょっとして名古屋地裁独特の運用なのかもしれませんが。

 最後に現金の取り扱いについてです。現金は99万円までなら財産に含まれないことになっています。こう書くと一見、現金は結構残るように思えますが、実は、この場合の現金には厳しい条件がつけられています。

その条件とは、「破産申立の半年前以降に他の財産から現金化されたものは現金に含まれない」というものです。

これは結構、厳しい条件です。ちなみに銀行預金や郵便貯金は現金とはみなされません。これが法律の世界と生活感覚の違いの最たるものですが、普通の生活感覚では預金は現金という認識ではないでしょうか。しかし、法律の世界では預金は預金者の銀行に対する債権という認識なのです。

従って、銀行預金を申立3ヶ月前に引き出して現金化した場合は、先ほどの条件に当てはまらないことになり、財産として考えなければならなくなります。(私は、この取り扱いは非常に大きな矛盾だと思っています。タンスや金庫に入れていなければ現金として認めないというのは余りにも通常の生活感覚から離れています。改めるべきではないでしょうか)。

あと、よく質問されるケースとして、財産を換金して裁判費用や司法書士費用を支払った場合はどうなるかについてです。結論を言うと、裁判所は全く問題にしません。要するに破産を行う為に使われた費用であることが明確なので構わないという判断になるようです。

従って、生命保険の解約返戻金が同時廃止の基準を超えていたけれど、そこから裁判費用と司法書士費用を支払って減らすことにより、同時廃止基準に収めるということは普通に行われています。

 では、今回のテーマは以上です。次回は「債務増加の経緯」について取り上げます。