司法書士ジャーナル
橋本司法書士事務所ブログ

9月 12th, 2011

9月 12 2011

民事訴訟の基本① 原告と被告

最近は法廷に行くと、いかにも素人に見える人が原告席に座って裁判官の質問に答えている姿を目にすることがあります。やり取りを聞いていると、そのほとんどが過払金の訴訟だと思われますが、素人の人達にも訴訟に関する関心を高めたという効果も過払金訴訟にはあったのかもしれません。

以前は素人が法廷に来る場合は、ほとんどが被告席での登場でした。原告は貸金業者、クレジット会社、携帯電話会社などで、未払いの返済金や電話料金などを請求されて放っておいたら自宅に訴状が届き驚いて法廷に来たというパターンです。従って、原告側に素人が座っているというのは本当に珍しいケースだったのです。

民事訴訟の場合、訴えた方を原告といい、訴えられた方を被告といいます。この被告というのは刑事裁判での被告人と間違われることが多いのですが中身は全然違います。

被告人は犯罪に対する容疑者ですが、被告は単に訴えれただけの存在です。日本の裁判では刑事裁判の場合、90%以上の確率で被告人は有罪になります(これはこれで民主主義国家としては問題だと思いますが)ので、何となく日本人は被告人というと悪い人のイメージを持ってしまいます。

本当は刑事裁判で有罪になるまでは被告人といえども犯人扱いしてはいけないという原則があるのですが、実際にはマスコミも犯人であるかのように報道しているケースもしばしばあります。

この被告人のイメージに引っ張られて民事裁判の被告も悪いイメージでとらえてしまう人が多いのですが、こちらは犯罪とは関係ありません(もちろん刑事裁判の被告人に対して新たに民事の損害賠償を起こした場合は、同一人物が被告人であると同時に被告になるケースもあります)。

法廷では原告が裁判官席に向かって左側に、向かって右側に被告が座ります。原告は自分の要求を訴状に書いて、その要求がどういう法律に基づいて請求できるか、また当てはまる法律の要件を満たす事実が存在していることを明らかにしなければなりません。(これが結構、専門知識がいるので原告側に座る素人が少ない理由になっていると思われます)

更に被告が反対してきた時に、事実が存在していることを証拠によって証明するのは原告の役目です。厳密に言うと被告が証明しなくてはならない事実もありますが、ややこしくなるので今は置いておきましょう。とりあえず、最初に証明しなくてはならないのは原告の方だと考えておいて下さい。だからこそ、世の中のあらゆる契約の場面で契約書が作成されるのです。何の為に契約書を書くのかと言えば、後で裁判になった時に原告は契約があったことを証明しなくてはならないからです。

裏を返せば、もし原告が契約書を持っていなかったら、分かりやすい例で言えば金を貸した原告が借用書を持っていなかったらどうなるか考えてみましょう。

裁判になった時に被告が、「私は金なんか借りてない、原告はウソをついている」と言ったとしましょう。この時に金を貸したことの証明は原告の役目です。その時に最も強力な証拠は契約書です。印鑑が押された契約書が出てくればウソをついているのは被告の方だと裁判所は判断するでしょう。でも原告が貸し借りの事実を証明できなかったら、裁判で負けるのは原告の方なのです。

ここで、おかしいなと思われた人がいるかもしれません。例え原告が証明できなくても、ウソをついているのは原告とは限りません。どちらがウソをついているか分からない状態のはずです。では何故、原告が負けるのかと言うと、それが民事裁判のルールだからです。これを立証責任と言います。

この点については長くなりますので、またいつか説明しましょう。