司法書士ジャーナル
橋本司法書士事務所ブログ

11月 17th, 2011

11月 17 2011

民事訴訟の基本② 要件事実

基本と言いながら「要件事実」という専門用語のタイトルで面食らった人もいるかもしれません。しかし、この要件事実だけは例え専門用語を使っても民事訴訟にとって避けては通れない部分なのです。

民事訴訟の訴状は要件事実に従って作成されます。要件事実が、きちんと書かれているかどうかで訴状の良し悪しが決まります。素人が訴状を書くのが困難な理由は、この要件事実が、よく分かっていないからである場合が、ほとんどです。裏を返せば要件事実を、きちんと理解できれば素人でも、そこそこの訴状を書くことは可能です。(もちろん、そんなに簡単なことではありません。だからこそ、法律家というものが存在するわけです)

ある出来事を訴状に書く場合、どのような法律を適用すべきかを考え、更に適用する法律が決まったら現実の出来事を法律に置き換えると、どのように表すことが出来るかを考えます。

その際、各法律によって、どのような事実があると権利が発生するかを表したものが要件事実と言います。

恐らく、抽象的で分かりにくかったと思いますので、具体的に、お金の貸し借りを例にして説明してみましょう。

お金の貸し借りのことを金銭消費貸借契約と言います(略して金消契約と言います)。よく銀行のローン契約書に金銭消費貸借契約書と書かれていますので、ご存知の方も多いと思います。金消契約は民法587条に記載されていますので、請求する根拠は、この法律になります。

では金消契約が成立する為の要件事実は何かと言うと、次の2つになります。

1 返還の約束が当事者の間にあったこと。

2 金銭が相手方に交付されたこと

何だ当たり前じゃないかと思われた方がいるかもしれませんが、これが実は当たり前ではありません。例えば売買契約の場合は、2番目の目的物の交付は要件事実にはなっていません。従って、売買契約の訴状を書くときは目的物を相手に渡したかどうかは訴状に書かなくても良いということになります。(相手方の反論を防ぐ為に書いておいても構いません。しかし、絶対に必要な訳ではないということです)

しかし、金消契約の場合は2番目の金銭の交付が訴状に書かれていなかったら、そもそも権利が発生する根拠が無いと裁判所に判断されて、門前払いの可能性が高いでしょう。

このように要件事実とは各法律によって異なっています。それぞれの法律に照らし合わせて適切な要件事実を見つけ出して、不足の無いように訴状に書いていく必要がある訳です。

そして、以前のブログにも書きましたが、要件事実が確かにあったということは、原告に立証責任があります。ここが非常に重要なことです。裏を返せば、要件事実以外のことは証明できなくても裁判の直接の負けの原因にはならないということです。

この立証責任があるからこそ、何が要件事実で、何がそうでないかを確実に把握しておく必要があるのです。

要件事実の立証に失敗した場合(証拠が足りなくて証明できなかった場合)、裁判は原告の負けとなります。この場合、被告は裁判所で否定するだけで構いません。要件事実に関しては原告に立証責任がある訳ですから、被告はただ否定しているだけでいいのです。だから、原告に充分な証拠が無いと分かっている裁判の場合、被告の立場は非常に楽なのです。

ただし、原告が証拠無しでも勝てるケースが少しだけあります。それは、被告が裁判に欠席した場合と、裁判所に出席しても被告が何も反論しなかった場合、あとは答弁書という被告の提出する反論の書面を出さずに放っておいた場合です。

このように被告が何も反論する気持ちが無いという態度を示した場合は、原告の請求を全て認めたものとみなされてしまいます(擬制自白と言います)。刑事裁判では自白が証拠にならない場合もありますが、民事裁判における自白は絶対です。自白をしたら自動的に認めたものとして判決が書かれてしまいます。だから、民事裁判では被告は絶対に放っておいてはいけません。必ず反論しなければならないのです。(放っておいたら、例え架空請求であっても原告勝利で判決が出ます)

さて要件事実と立証責任については分かってきたでしょうか。次は訴えられた場合の被告の対応について考えてみましょう。