司法書士ジャーナル
橋本司法書士事務所ブログ

5月 28th, 2012

5月 28 2012

自己破産と特定調停

専門家の立場から判断した場合、どう見ても自己破産しか解決方法が無い、という人がいます(自己破産なら助かるという意味でもあります)。しかし、本人が、どうしても納得しない場合があります。このような時、どうすれば良いのでしょうか。

世間体を気にしている場合は、「戸籍には載らない」とか、「会社にも知られない」、「選挙権も失わない」などを説明することによって、気持ちが変わることも多いのですが、問題なのは、現時点で支払能力が全く無いにもかかわらず、個人再生や任意整理などの分割払いの方法を強く希望される人がいることです。

上記のようなケースは決して珍しくなく昔からあります。このような場合、私は特定調停をすすめることにしています。何故なら、支払えないということを本人に納得してもらう以外に方法が無いからです。

特定調停を自分でやることによって、支払能力が足りないことを自覚してもらうのが目的です。まともな調停委員に当たれば、1回目の期日で、本人の支払能力に対して説明した上で却下してくれることが多いでしょう。本人も、裁判所が無理だと言っているので、納得しやすいのです。やるだけのことをやってみたけど、ダメだったというのも納得するには重要なことです。

特定調停の場合、例え却下されても費用は数千円で済みますし、本人が不充分な気持ちのままで、専門家が破産を強制することと比べたら、安いものではないでしょうか。

また、調停委員が甘い人で、普通に考えたら無理な分割払いを認めてしまった場合は、どうするのかという指摘がありそうですが、実は、これもあまり問題にはなりません。

そもそも、無理な分割払いを認めた調停委員が一番の責任を取るべきですが、仮にそういうことがあっても、一度、分割払いを始めてみて、それでも、やっぱり支払えなかったという現実に直面することで、本人が、「ああ、あの時、司法書士さんが言ってたことは本当だった。やっぱり自分には支払いは無理だった。」と納得することが出来ます。それから、自己破産することも可能なのです。むしろ、ぎりぎりまで支払の努力はしたということで、裁判所の破産係の印象も良くなると思われます。

実際に、特に専門家の相談を受けずに特定調停を始めた人が、途中で支払が出来なくなって、その時点で始めて専門家の相談を受けに来るという事例は思ったよりも多いです。従って、特定調停をやった後に結果的に破産に至るのは、全国単位で見れば、かなりの数にのぼっていると思われます。それでも特に不都合は無く、破産が認められています。

債務整理の相談というのは、どれだけ法律的に正当であっても、むりやり強制するのは正しい解決方法ではないと私は思います。もちろん、専門家の立場で説得するのは必要でしょう。しかし、それでも納得できないと言う人は、少数ながら、どうしても存在します。そのような人には上記のような柔軟な対応も時には必要ではないでしょうか。