司法書士ジャーナル
橋本司法書士事務所ブログ

2016年3月

3月 31 2016

裁判所から書類が届いたら絶対に放置してはいけません

よく悪徳商法の撃退法を紹介するテレビ番組などを見ていると、「知らない業者からの請求は無視して返事をしないように」とアドバイスをしていることがあります。もちろん普通の請求ならば、これも真実なのですが、場合によっては大変なことになってしまうこともあります。例えば、以下のような事例です。

ある日、Aさんに裁判所から書類が届いた。原告の欄を見ると、全く覚えの無い業者の名前が書いてある。そう言えば、身に覚えの無い業者から請求されたら無視しろと、テレビで言ってたのを思い出した。それで放置したら、しばらくしたら判決書が届いた。そこには原告の請求を全て認める内容が書かれていた。その後、業者から電話がかかってきて、「Aさん、支払ってくれないと、判決に基づいて給料の差押をしますよ」と言われた。一体、どうしてこんなことになったのだろう。

以上は実際に相談された事例に基づいて書いたものです。Aさんは何が間違っていたのでしょうか。

まず、「債権は債権譲渡されることがある」、ということがあります。
債権譲渡とは、最初Bという業者からお金を借りていても、BがCという業者に自身の債権を売却してしまい、その後は、債権者がCに代わってしまうことを言います。

この際、「BがCに債権を売った」という情報は、お金を借りている債務者に必ず通知されます。しかし、この通知書を良く読まないで、うっかり捨ててしまう人がいるのです(あるいはポストに入ったまま引っ越してしまったとか)。こうなると、AさんはCと言う業者の名前に覚えが無いということになってしまいます。例えCから訴えられたとしても、「知らない業者だから無視しても構わない」という認識になりかねません。

裁判では、放置すれば必ず負けるような仕組みになっています(民事訴訟法に、そのように規定されています)。民事訴訟においては、「何も反論しない場合は相手の主張を全面的に認めたものとみなす」という規定があるのです。従って、裁判所から届いた書類を無視してしまうと、相手の勝ち判決が出てしまいます。勝ち判決が出れば、相手は給料や銀行口座の差押をすることが出来るのです。

従って、裁判所から書類が届いたら、例え身に覚えの無い業者からであっても、絶対に放置してはいけません。放置すれば、あなたは裁判で負けてしまいます。

裁判には特有のルールなどがあって、対応を間違えると取り返しがつかない部分もありますから、裁判所から書類が届いたら、出来るだけ早くに専門家に相談に行かれた方が良いでしょう。

(ご注意)
通常の民事訴訟(書類のタイトルが「訴状」となっているもの)の場合は、反論までの期間が1カ月くらいあるのが普通ですが、書類のタイトルが「支払督促」となっているものが届いたら注意が必要です。支払督促は反論までの期間が民事訴訟よりも短く2週間しかありません。支払督促と書かれた書類が届いたら、一刻も早く専門家に相談に行きましょう。

3月 17 2016

任意整理を活用しよう

一口に債務整理と言っても、「任意整理」「個人再生」「自己破産」「過払金請求」といろいろ種類があります。その中で任意整理は唯一、裁判所が全く関係しない手続です。

よく任意整理と債務整理を混同している人がいますが、正確には、債務整理は上記4種類の手続の総称で、任意整理はその中の一つ手続の名称です。

任意整理とは、業者と司法書士が直接に交渉することによって、減額や分割払いを実現し、その結果を和解契約書に残すことによって手続が終了するというのが一般的です。

裁判所が関与しないので、用意する書類等がほとんど必要なく、他の手続と比較すると割と手軽に依頼できるのが特徴です。その為、依頼人の希望も高く、「出来れば任意整理で解決して欲しい」と言って相談に来る人も多いです。

司法書士が任意整理を引き受けた場合、以下のような効果があります。

(1)利息制限法違反の利率(違法利息)の取引をしていた期間がある場合、支払った違法利息は元金に充当して減額する

(2)交渉で確定した残金に対しては利息を付けないで(将来利息と呼びます)、元金のみ支払う

(3)だいたい1年から3年を目途に分割払いにすることが出来る。

(4)依頼してから、和解契約書を交わして支払いがスタートするまでの間(平均して約2、3カ月)、合法的に支払いを止めることが出来る。

(5)依頼してから解決するまでの間、業者からの連絡が全て司法書士事務所に来るようになる。(この間、業者は依頼人との交渉や接触を法的に禁じられる)

最近は利率の高い消費者金融の相談が減少傾向にあり、代わりに銀行系カードローンや、クレジットのキャッシングやショッピングなどが増加しています。これらの取引は、消費者金融に比べて利率が低い場合が多く、(1)の効果はあまり期待できません。しかし、(2)・(3)・(4)・(5)の効果はありますので、これでも充分に債務者にとっては得になります。

たまに(1)の効果のみをクローズアップして紹介して、「(1)の効果が無ければ、やっても意味が無い」ようなことを言う人がいますが、実際の経験からしても、そんなことはありません。(1)の効果が無いケースで任意整理を選択して、うまく解決して感謝の言葉を頂いたことは結構あります。

このように任意整理には様々な効果があります。現在、借金の返済で悩んでいる方は、一度、任意整理が可能かどうか、専門家の相談を受けることをおすすめします。

3月 16 2016

どうしても自己破産はしたくない人へ

「借金が高額になって返すあてがない。もう、司法書士や弁護士に相談するしかない。でも、自己破産だけは、どうしてもしたくない。自己破産をすすめられるかもしれないので、相談に行く勇気がわかない。」こんな風に悩んでいる人は大勢いるかもしれません。

私は、このような人に対して、「個人再生が可能かどうかを確かめてから決断しても遅くないですよ」と言いたいです。

債務整理をうたっている多くの事務所で、個人再生も可能であるにもかかわらず選択肢として提示せず、自己破産や任意整理を提案されているケースが非常に多いという現実があります。これには以下のような理由があると思われます。

(1)自己破産や任意整理の方が手間がかからない
債務整理の中で個人再生が最も手間がかかります。出さなくてはならない書類も多いですし、手続期間も長めです。大量の案件を抱えて短時間で効率的な処理をしたい事務所にとっては、出来れば個人再生は避けたい手続なのです。

(2)そもそも経験が少ないので手続に慣れていない
上記のような理由で個人再生が避けられているからかもしれませんが、個人再生の件数は自己破産の10分の1以下です。実際には破産には無いメリットがあるにもかかわらず、この少なさは異常だと私は思います。結果として、経験者が少ないという現実があります。債務整理を売りにしている事務所でも、実際には個人再生の経験は非常に少ないのです。経験が少ない手続は、やりたがらない傾向があるのは、ご想像のとおりです。(医者でも、経験の少ない治療法はやりたがらないものです。法律家も同じです)

(3)個人再生に偏見がある
私は一部の司法書士や弁護士から、「個人再生などやっても意味が無い」、「何故、破産を選ばないのか理解に苦しむ」、「任意整理でダメなら、破産をすすめるのが正しいやり方だ」という発言を聞いたことがあります。特にひどいと思ったのが、個人再生最大のメリットである「住宅を維持したまま他の借金を減額できる」という部分に対してさえも、「例え住宅ローンを抱えていても、住宅をあきらめて売却して破産するようにすすめるのが、債務者の為になる」と真顔で言っていた人もいることです。私は今まで何件も個人再生を手がけてきて感謝の言葉を頂いているので、このような発想の方がむしろ理解できません。

これらの理由により、個人再生という選択肢があるにもかかわらず、その存在すら知らされずに人生における重要な決断を下してしまっている人が多いのが現実です。もちろん条件に合わずに個人再生が利用できない人もいます。しかし、条件に合っていて自己破産を避けたいという希望を持っている人がいたら、これは説明すべきでしょう。

もし今、借金の返済に行き詰まっていて、自己破産はどうしても嫌だと思っている人がいたら、一度、個人再生が可能かどうかを検討してから判断することをおすすめします。

3月 15 2016

残業代請求 解決事例⑥

20代男性 小規模企業
未払い残業代 約40万円

従業員が10人未満の小規模な会社で、タイムカードも機械式では無く手書きで毎日記入するタイプでした。本人は、過去2年分のタイムカードを全て保管していたので、推定計算をする必要はありませんでした。

ただ、小規模な会社にありがちな、労働基準法に従ったルールが未整備で、正直、いい加減に運営されていました。こういうタイプの会社は、いざ争いになった時に、法律による合理的な説得が通じないことが多々あります。ようは、「今まで当然のようにやってきたことだから何が悪い」という態度です。この会社も例外ではありませんでした。

まず内容証明で請求しましたが、通常なら、例え強引であっても一応は法律に基づいた反論が返ってくるものですが、ここの場合は、「早朝出勤は確かにあったが、そんなものはどこでもやってる、だから残業ではない」とか、「残業代は、賞与に含めて支払っているから、未払いは無い」とか、「就業規則に書いていないけど、みなし残業代は認められる」とか、もう法的には無茶苦茶な反論が返送されてきました。正直、先が思いやられるなと感じました。

このケースでは、タイムカードが全てそろっていたので、労働審判ではなく民事訴訟を選択しました。民事訴訟は労働審判のように3回以内という制限が無いので、長引く可能性がありますが、一方で、話し合いが前提の労働審判と違って、例え和解になっても解決金の割合が高い傾向があります。

民事訴訟を提起して、相手方から答弁書が送られてきました。見ると、内容証明の後の反論書とたいして変わらない内容だったので、「まあ、これなら裁判では通用しないだろうから有利に進むだろう」と思いました。ただ、唯一気になる点は、小規模会社の社長にたまにあるのですが、どれだけ不利になろうが、どれだけ長引こうが、絶対に自分の主張を引っ込めずに、しつこく争ってくる場合があることです。(なまじ法律の知識が無いだけに、合理的に不利だという判断が出来ないのでしょう)。

今回の場合は、幸いなことに、相手は初回から金額交渉のテーブルにつきました。内容証明の段階では1円も払おうとしなかった訳ですから、大進歩でしょう。裁判所も「法的には労働者側の主張の方が筋が通っている」というスタンスで社長に説明していたのが大きかったのでしょう。それでも、最初に社長がしぶしぶ提示した金額は低かったので、こちらは「その金額では合意できません」と裁判官に伝えました。

最終的には、2週間以内という早期の支払いを条件にして合意できる金額で決着しました。それにしても、金額交渉する気があるのなら、内容証明の段階で連絡して欲しいものです。通常は、内容証明の後に金額交渉が無い会社は、裁判になっても強硬姿勢を貫いてくる場合が多いのです。私は長引く覚悟をしていましたので、正直、拍子抜けした部分もあります。

結果的には満足のいく決着となりました。民事訴訟で解決した事例です。

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