司法書士ジャーナル
橋本司法書士事務所ブログ

未払い残業代請求

11月 18 2015

残業代を取り返そう④ 業務日報と推定計算

タイムカードが途中までしか無くて、その代わり「業務日報」が、たくさん残っているという相談がありました。

実際に書類を拝見すると、1年くらい勤めて、タイムカードは半年分くらい手元にあって、他には業務日報が勤務日数の8割くらい残っているという状態でした。また、業務日報には退勤時刻は書いてありましたが、出勤時刻は書かれていませんでした。

上記のような証拠でも、もちろん残業代請求は可能です。業務日報は会社が関与している書類ですから証拠能力は高いと言えます。ただ、今回の場合、出勤時刻は、どうなるのでしょうか。

この依頼人の場合、出勤時刻は、いつも同じ時刻で統一していました。そのことは半年間のタイムカードで証明できます。ですから、特に問題なく、タイムカードが無い期間も同じ時刻で計算しました。(この点で、会社側からの反論はありませんでした)

では、タイムカードも業務日報も無い日付については、どうでしょう。業務日報は8割くらいしか手元に無いので、残りの2割は証拠が無いことになります。

この場合は推定計算というものをします。証拠が残っている日付から、だいたい平均したら、この位の時刻には出退勤しているという推定をして時刻を決めるのです。

では、推定計算は、争いになった場合、どの程度、認められるのでしょうか。

例えば、証拠があまりにも少ない日数しか残っていない場合は、推定計算の確度が下がりますから、会社側も簡単には認めないでしょうし、裁判になった時も減額を求められる確率が上がるでしょう。

しかし、今回のように、証拠が8割もあって、残りの2割を推定しました、というような場合は、相当程度認められるというのが私の実感です。

実際に、このケースでは、郵便による請求のみで、会社側が支払ってきました。

どこまで推定計算が認められるかというのは、正直なところ、ケースバイケースですが、証拠が半分以上あるなら、してみる価値はあると思います。

11月 17 2015

残業代を取り返そう③ 請求金額

以前に、内容証明で支払ってくるかどうかは会社の規模によると書きましたが、それ以外にも、左右される要素があります。それは請求する残業代の金額です。

私の経験では、少額の請求の場合は、たとえ中小企業であっても、内容証明で支払ってくる確率が上がります(100%ではありません。念の為)。

逆に大企業であっても、高額の請求をすると、内容証明だけでは支払わないケースも見られます。

会社側の立場から見ると、少額の請求で争っても、時間と費用の無駄だと考えてもおかしくはないでしょう。

では、いくら位が、内容証明で支払うか、その後も争うかのラインかという問題があります。

これは、「会社によって異なる」というのが最も正確な回答です。ただ、残業代請求を何件もやっていると、だいたいの目途のようなものが経験上分かってきます。

私の経験では、100万円以内だと、内容証明で支払ってくる確率が上がると感じています。(もちろん例外もあります。あくまで確率の話です)

ただし、同じ内容証明でも、支払わなければ次は裁判が待っていると相手方に思わせなければ、上記の確率はもっと下がります。その為には、裁判まで考えている事務所に依頼することが重要だと思います。(例えば行政書士さんの場合は、裁判書類作成権限がありませんので、当然、会社に与えるプレッシャーが低くなり、上記の確率は下がる可能性があります)

6月 08 2015

残業代を取り返そう② 労働審判

内容証明だけで、会社が残業代を支払ってくれたら、それは請求する方からしたら理想的でしょう。何しろ手間がかかりませんし、訴訟費用(印紙代等)もかかりません。しかし、なかなかそうはいかないのが世の中です。

上場企業だと、裁判沙汰になること自体が会社の体裁にかかわると考える傾向があるため、意外と簡単に支払ってくることがあります。

しかし、会社の規模が小さくなるほど、裁判まで行かないと払わないケースが増えてきます。内容証明を送った段階で、ものすごく分厚い反論書などを送り返してきて、「1円も払わないぞ」という気が満々の会社もあります。

そんな時に役に立つのが労働審判です。

労働審判は訴訟ではなく、労働事件専門の調停と言ったら分かり易いでしょうか。調停とは、双方の意見を聞いて、落としどころを探りながら、和解で決着をつけるという方法です。まあ、日本人が好む解決方法と言えるかもしれません。

ただ調停の場合、一つ欠点があって、双方が合意できなかった場合、流れてしまうのです。ようは振り出しに戻ってしまう訳です。ところが、この欠点を補うような仕組みになっているのが労働審判なのです。

労働審判は、双方が合意しなかった場合でも流れない仕組みになっています。その場合は、審判官(訴訟で言う裁判官ですね)が、それまでの双方の主張を参考にして、妥当と思われる金額で判断を下します。その判断は審判書に書かれ双方に送達されます。ようするに必ず決着するようになっているのです。

しかも、労働審判には長くても3回以内に決着させるというルールもあります。従って、裁判の長期化も避けられる訳です。

ただし訴訟とは違って、白黒をはっきりつける手続ではないので、満額という訳にはいきません。あくまで合意が前提ですから、いくらか減額にはなります。合意せずに審判になった場合でも、満額と言う結果にはなりません。その辺りは覚えておきましょう。

あと、証拠が弱い場合にも労働審判は適しています。話し合いで妥協点を探る手続ですから、多少、証拠が足りない場合でも、「その分は譲って下さい」というような進め方が可能な訳です。

ここまで読んできて、労働審判に興味がわいた方は、司法書士か弁護士に相談してみて下さい。ちなみに、労働審判の依頼を受けるのは司法書士か弁護士にしか法的に認められていませんので、ご注意下さい。たまに、行政書士や社会保険労務士などが宣伝しているのを見ることがありますが、間違いなく違法です。例え書類作成のみであっても認められていませんので、気を付けましょう。

6月 08 2015

残業代を取り返そう

未払い残業代を取り返そうとする時に、ついためらってしまいがちなのが、証拠の有無です。確かにタイムカードなどの動かぬ証拠がそろっていれば、その後の展開が楽になることは確かです。しかし、全ての人が、そんな有利な状況で請求が出来る訳ではありません。それでも、取り返すことに成功している事例はあります。ここで、そんな事例を紹介しましょう。

Aさんは、いわゆるブラック企業に勤めていて、タイムカードはあるものの、会社からの圧力で打刻時刻を強制されていました。実際に出社した時刻よりも遅い時刻で打刻させられ、また、退社に関しても、実際よりも早い時刻に打刻させられていたのです。これではタイムカードは証拠にはなりません。むしろ、会社を有利にする証拠になってしまいます。

この状況でAさんは工夫しました。スマホのアプリを使って、自分が出社した時刻と退社した時刻を記録していくことにしたのです。簡単なボタン操作で出来るので、ほぼ毎日記録し続けました。私の事務所に来た時には、残業代を請求できる過去2年間を、はるかに超える期間、記録は蓄積していました。

実際に、このスマホアプリによる記録を使って請求したところ、見事、取り返すのに成功したのです。(裁判にはなりました)

毎日こまめに記録をし続けると証拠の信憑性が高まります。裁判所も証拠として評価してくれるようになります。今回は、たまたまスマホのアプリでしたが、別に紙の記録でも、こまめにつけていれば立派な証拠になります。実際に、メモ帳に毎日記録していたもので成功したケースもあるのです。

タイムカードはあるに越したことはありませんが、今回のように会社がタイムカードをコントロールすることで、全く証拠の価値が無い場合もあります。だからタイムカードが用意できなくてもあきらめるのは早いと思います。何らかの方法で、出社と退社の時刻を記録していれば、勝てる可能性は充分にあります。

12月 12 2013

本務外労働時間

本務外労働時間とは、本来の業務ではないが、労働時間に含まれると考えられる時間のことです。

例えば、通勤時間は本務外労働時間には当たりません。従って、交通費を出す会社はあっても、通勤時間分の給料を出す会社はないでしょう。そんなの当たり前だと言われるかもしれませんが、では出張の時の、出張先に行くまでの時間はどうなるでしょうか。

ちょっと悩むかもしれませんが、これも労働時間とはみなされないのが一般的な裁判所の判断です。

続いて作業開始前の準備時間についてはどうでしょう。

これについては、交代引継、機械点検などは明らかに業務に必要な行為ですから、労働時間と考えられます。

では準備行為は全て労働時間なのかと言うと、そんなに甘くはないようです。
よく問題になるのが、朝礼、ミーティング、体操などです。

裁判所の考え方は、それが業務遂行上必要であり、かつ会社から義務付けられていた場合は労働時間に当たるとしています。

この「義務付けられている」というのを客観的に証明するのは、なかなか難しいところがあります。例えば、それに参加しないと何らかの不利益な扱いを会社から受ける場合は、「義務付けられている」と判断されやすいでしょう。

11月 29 2013

来客当番・電話当番は労働時間に当たるか?

来客当番・電話当番などの待機時間は労働時間に当たるかは、今までにも裁判で問題になっています。線引きが、なかなか難しいということもあるのでしょう。ポイントとなるのは、労働者がどれほど拘束されているかという点にあります。

一般的には、電話当番などは、電話がかかってこなかった場合は一見、働いていないように見えますので、労働時間には該当しないように考えている人が多いでしょう。しかし、裁判では必ずしもそのような判断にはなっていません。

例え電話がかかってこなかったとしても、その間、労働者はその場を離れることは出来ない以上、拘束されていると言えます。拘束されている以上、それは休憩時間ではなく労働時間であるというのが裁判所の平均的な考え方です。

もちろん拘束の程度がゆるく、「外出したかったらしても良い。その時に電話が取れなくても仕方が無い」というパターンだと、休憩時間だと判断される可能性が高くなります。

実際、ある銀行で昼休みの間、「外出する時は報告して下さい。たまたま居る時にお客さんが質問等に来たら対応して下さい。」という事例で、大阪高裁は休憩時間であるという判決を出しています。

一方、すし屋の板前の見習いが、「接客の合間に適宜休憩してよい」と言われた事例は、大阪地裁が労働時間に該当すると判決を出しています。

けっこう微妙なところで判断されているので、裁判所も判断に苦労していることが見受けられます。個別の事例で判断していくしかないということになるでしょう。

8月 21 2013

入社の時に残業代は出ないと言われた場合

「ウチの会社は残業代は出ないから、勤めるならそのつもりで」とか、「この業界では残業代は出ないのが常識だから、他の社員も了解してることだから」などの理由でサービス残業が当たり前になっている会社は少なくないようです。

入社の時に確認されていて、本人も「抗議したら就職できないんじゃないか」と思って、その場では同意していたりするので、余計に後から残業代の請求がしにくくなってしまいます。

こういうケースで本人から言い出すのは、かなり勇気のいることでしょう。頑張って主張したとしても、「お前は面接の時に了解しただろう」と言い返されてしまい、たいした反論もできずに終わることになるでしょう。

法律では、事前に、会社による残業代をカットする取り決めは無効とされています。従って、たとえ了解していたとしても残業代は請求できます。残業代の支払いは会社の法的義務なのです。

このような会社の場合、そもそも会社の体制が法律に違反していることになりますので、当事務所が介入した場合は、その辺りを指摘して会社から残業代を回収していくことになるでしょう。

この事例の場合、そもそも違法行為であることを自覚していなくて、ただ業界の慣習に任せてやっているというケースもとても多いのが特徴です。こうなると、まずは違法行為であることを認識してもらうところから始まりますので、説得もなかなか大変です。今までずっと同じやり方でやってきたわけですから、素人からの説明では、なかなか納得しないでしょう。こういう時こそ法律専門家に相談しましょう。

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