司法書士ジャーナル
橋本司法書士事務所ブログ

債務整理一般

11月 21 2011

裁判所の特徴⑥ 名古屋地方裁判所民事第2部

前に名古屋地方裁判所は、いくつかの部に分かれているという話をしました。しかし今回、取り上げる民事第2部は他の部とは明らかに異なっています。それで単独でタイトルをつけて説明することにしました。

民事第2部は別名、民事執行部とも言います。他の民事部は訴訟を担当する部なので裁判官の考え方のクセのようなもので多少の違いはありますが、やっていることは訴訟の進行ということで共通しています。ところが、民事第2部に関しては、そもそも訴訟を取り扱っていないのです。

第2部で扱っているのは、強制執行に関する業務(差押のことです)と、あとは破産や民事再生に関する業務です。従って、債務整理に関わっている司法書士にとって民事第2部は非常に良く訪れる場所だということになります。

そして、民事第2部は、他の民事部とは建物自体が別棟になっています。これは、全く系統の違う仕事をしているのが一つの理由で、あとは他の民事部よりも取り扱っている事務の量が膨大であることも理由になっているでしょう。(職員も多勢います)

私の知る限りでは東京地裁と大阪地裁も同じように民事執行部が独立して他の建物になっています。名古屋は同じ敷地内の別棟ですが、東京や大阪は全く別の住所の建物に入っています。従って、東京や大阪で破産や差押の書類を持って、地方裁判所を探して行ってみたら、全然別の場所を指示されたということがありうる訳です。(もちろん、きちんと検索すれば、ちゃんとホームページに載っていますが、最初から同じ場所にあると思い込んでしまう人も当然いるでしょう)

ただ、名古屋でも建物が独立して別になっているのは本庁だけです。支部になると訴訟と同じ建物の中にあるのが普通です。

本庁の第2部の建物の最上階に破産係と再生係が入っています。仕切りを一つ挟んでいるだけなのですが、驚くほど交流がありません。情報交換のようなことも、ほとんど行われていないようです。

ですから似たようなケースでありながら破産係と再生係で取り扱いが違ったりします。(例えば、賃貸住宅の敷金が破産係では財産には含まれないのに、再生係では財産に含まれるとか) この辺りが、いかにも役所の縦割りという感じで、融通が利かないなあと思います。

 

11月 17 2011

民事訴訟の基本② 要件事実

基本と言いながら「要件事実」という専門用語のタイトルで面食らった人もいるかもしれません。しかし、この要件事実だけは例え専門用語を使っても民事訴訟にとって避けては通れない部分なのです。

民事訴訟の訴状は要件事実に従って作成されます。要件事実が、きちんと書かれているかどうかで訴状の良し悪しが決まります。素人が訴状を書くのが困難な理由は、この要件事実が、よく分かっていないからである場合が、ほとんどです。裏を返せば要件事実を、きちんと理解できれば素人でも、そこそこの訴状を書くことは可能です。(もちろん、そんなに簡単なことではありません。だからこそ、法律家というものが存在するわけです)

ある出来事を訴状に書く場合、どのような法律を適用すべきかを考え、更に適用する法律が決まったら現実の出来事を法律に置き換えると、どのように表すことが出来るかを考えます。

その際、各法律によって、どのような事実があると権利が発生するかを表したものが要件事実と言います。

恐らく、抽象的で分かりにくかったと思いますので、具体的に、お金の貸し借りを例にして説明してみましょう。

お金の貸し借りのことを金銭消費貸借契約と言います(略して金消契約と言います)。よく銀行のローン契約書に金銭消費貸借契約書と書かれていますので、ご存知の方も多いと思います。金消契約は民法587条に記載されていますので、請求する根拠は、この法律になります。

では金消契約が成立する為の要件事実は何かと言うと、次の2つになります。

1 返還の約束が当事者の間にあったこと。

2 金銭が相手方に交付されたこと

何だ当たり前じゃないかと思われた方がいるかもしれませんが、これが実は当たり前ではありません。例えば売買契約の場合は、2番目の目的物の交付は要件事実にはなっていません。従って、売買契約の訴状を書くときは目的物を相手に渡したかどうかは訴状に書かなくても良いということになります。(相手方の反論を防ぐ為に書いておいても構いません。しかし、絶対に必要な訳ではないということです)

しかし、金消契約の場合は2番目の金銭の交付が訴状に書かれていなかったら、そもそも権利が発生する根拠が無いと裁判所に判断されて、門前払いの可能性が高いでしょう。

このように要件事実とは各法律によって異なっています。それぞれの法律に照らし合わせて適切な要件事実を見つけ出して、不足の無いように訴状に書いていく必要がある訳です。

そして、以前のブログにも書きましたが、要件事実が確かにあったということは、原告に立証責任があります。ここが非常に重要なことです。裏を返せば、要件事実以外のことは証明できなくても裁判の直接の負けの原因にはならないということです。

この立証責任があるからこそ、何が要件事実で、何がそうでないかを確実に把握しておく必要があるのです。

要件事実の立証に失敗した場合(証拠が足りなくて証明できなかった場合)、裁判は原告の負けとなります。この場合、被告は裁判所で否定するだけで構いません。要件事実に関しては原告に立証責任がある訳ですから、被告はただ否定しているだけでいいのです。だから、原告に充分な証拠が無いと分かっている裁判の場合、被告の立場は非常に楽なのです。

ただし、原告が証拠無しでも勝てるケースが少しだけあります。それは、被告が裁判に欠席した場合と、裁判所に出席しても被告が何も反論しなかった場合、あとは答弁書という被告の提出する反論の書面を出さずに放っておいた場合です。

このように被告が何も反論する気持ちが無いという態度を示した場合は、原告の請求を全て認めたものとみなされてしまいます(擬制自白と言います)。刑事裁判では自白が証拠にならない場合もありますが、民事裁判における自白は絶対です。自白をしたら自動的に認めたものとして判決が書かれてしまいます。だから、民事裁判では被告は絶対に放っておいてはいけません。必ず反論しなければならないのです。(放っておいたら、例え架空請求であっても原告勝利で判決が出ます)

さて要件事実と立証責任については分かってきたでしょうか。次は訴えられた場合の被告の対応について考えてみましょう。

11月 07 2011

臨時ニュース 武富士その後⑥

ついに武富士の会社更生に対する投票結果が発表されました。残念ながら結果は、「会社更生認可決定」となりました。非常に落胆しております。これで3.3%という信じがたい配当率が決定されてしまいました。

発表によると、過払債権者の同意率(賛成した割合)は何と88.07%となっています。これは、弁護士・司法書士が代理人となった案件とは、かけ離れた数字となっております。

私の知り合いの同業者に問い合わせても、ほとんどが反対票の方が多く(別に強制した訳ではありません。普通に説明した結果、反対の方が自然に多くなるのです)、むしろ数多くの一般債権者(弁護士・司法書士に依頼しないで武富士に申請した人達)が、武富士からの電話等による強烈な説得を受けた結果であろうと容易に推測できるわけです。(武富士は投票にあたって、かなりの電話攻勢をかけていたと聞いております。恐らく、一般債権者などに焦点をしぼって電話をしていたのでしょう)

私の事務所でも9割の人が反対を表明してきて、むしろ私自身は意外な結果だと受け止めていたくらいです。要は普通に武富士の立場や条件を説明して意見を聞くと、自然に反対の方が多くなる訳です。

まあ、直接、担当者と話して、低姿勢に泣き落としでもされると転んでしまう日本人の性質もあるのでしょう。こういう性質は時には人情深くて良い場合もありますが、反対に物事の本質を見失う結論を出してしまう恐れもあり、諸刃の剣と言えるでしょう。

他には会社更生が失敗して破産になると配当は0円になると担当者が説得していた例もあると聞いています。これが本当なら虚偽の説明です。破産になった場合でも会社の財産調査をして(恐らく破産の方が徹底的な調査をされるでしょう)、明らかになった財産から分配はされる訳です。もちろんスポンサー企業が存在しない分、少なくなる可能性もありますが、0円になるとは限りません。

なにしろ元が低い金額ですから、少なくなったとしても、たかが知れていると考えることもできます。それなら武富士を破産させて、きっちり責任を取らせたいと考える人が実際には、もっと多かったであろうと考えるのが自然ではないでしょうか

今回の認可決定により、傍観していた他の消費者金融は、「武富士は、うまいことをやった。我々も同じ手口で過払金をカットできるのではないか」と考え始めることは火を見るより明らかでしょう。今後、続々と会社更生や民事再生のラッシュが起こるのではないかと心配になります。

特に気になるのが、銀行の支援を受けていない大型消費者金融であるアイフルの動向です。以前から武富士の次はアイフルと噂が絶えなかったので、武富士が会社更生で生き残ったという知らせは、アイフルにとって大きかったのではないでしょうか。

皆さんは、アイフルのカウントダウンの声が聞こえてきたような気がしませんか。

10月 31 2011

差押④ 動産の差押

差押には大きく分けて、債権、不動産、動産があります。

債権とは請求権のことで、代表的には給料(従業員から会社への請求権)・売掛金(売主から買主への請求権)・銀行口座(預金者から銀行への請求権)などがあります。

不動産は説明が不要でしょう。いわゆる、土地・建物のことです。

これらに対して動産とは、簡単に説明すると、債権でも不動産でもないものと考えると分かりやすいでしょう。具体的には家財道具・持ち物は全て動産に含まれます。

以上3つの差押のうち、動産の差押は最も人気がありません。よく、映画やドラマではイメージが分かり易いせいか、動産の差押のシーンが登場します。家中の家財道具に赤い紙を貼っていく例のシーンです。ところが現実の実務では、あんなことはめったに行われないのです。

その理由の最大のものは、回収率が非常に悪いという一点につきます。そもそも換金して価値のある動産など、ほとんどの人が持っていないというのが現実だからです。(そんなものを持っている人は大抵、資産家ですから、そもそも差押の対象になることが少ないです)

皆さんも自分のこととして思い返してみれば、自分の持ち物で換金して、まとまったお金になりそうなものは、なかなか思い浮かばないのではないでしょうか。(今は金が上がっていますから、女性なら金を使ったアクセサリーぐらいでしょうか)

もちろん、金庫やタンスに現金がある人は、現金は動産になりますから差押の対象になります。しかし、まとまった現金を持っている人が差押の対象になることが少ないのは、換金して価値のある動産の時と同じことです。

また、もし、以上のような現金や価値のある動産を持っていたとしても、どこか分からないところに隠されてしまった場合、動産の差押で見つけ出すことは、ほとんど不可能です。

恐らく知らない人のイメージだと差押の執行官は税務署員のような人だと思われているのではないでしょうか。実は私も差押の現場に付き添うまでは、そのように思っていました。税務署員のように徹底的に隠し財産を調べ上げて時間をかけて追求していくのだろうというイメージです。

ところが、実際の動産の執行官は、ざっと建物の中を見渡したら、一言、二言、住人に聞いて、一応、押入れや戸棚や引き出しの中を開けさせて確認はしますが、奥までひっくり返して全て調べるようなことは基本的にしません。非常に表面的で事務的なのです。

これは、税務署員と執行官の勤務評価にかかわっていると私は思っています。

税務署員は文字通り、隠し財産を見つけて税金を余分に取ったら、それは税務署員の成績になります。ようは勤務評定に反映される訳です。おのずと彼らは頑張って探そうとする訳です。

一方、執行官の方は見つかっても見つからなくても一切、評価には関係ないと聞いています。こうなると、人間あまり一生懸命やらなくなるのは当然で、一通り調べて見つからなければ、それで終了となってしまいます。

以上、動産の差押が何故、人気がないのかを説明しましたが、一つだけ意味があるとすれば、それは相手に対する嫌がらせの効果です。

動産の差押は、債務名義(差押の根拠となる書類)を持っている人が裁判所に申し立てれば必ず始まります。見つからなくても何回も申し立てることは一応、可能です。

いくら見つからなくても、裁判所の執行官が何回も家に来て見回られるのは誰だって嫌なものです。しかも、裁判所は、いつ調査に来るかを事前に教えてくれる訳ではありません。(これは当然ですね、教えたら差押の意味がありません)

ある日突然、執行官がやってきて調査を始める訳ですから、税務署に比べて大雑把であっても、何回もやられたらプレッシャーになるでしょう。

まして、相手が事業主であった場合、仕事場に突然、現れるので、仕事の支障になる可能性があります。お客さんがいるところに来たら、相手にはかなりの重圧になるでしょう。

このような方法で相手にプレッシャーを与えて支払を約束させるというやり方もある訳です。(他の方法に比べて遠まわりで面倒ではありますが)

 

10月 18 2011

臨時ニュース 武富士その後⑤

武富士の更生管財人(会社更生を取り仕切る役目のこと)が、武富士の元役員と大株主を相手に損害賠償請求訴訟を起こしたようです。

これは表向きは、武富士の元役員や大株主にも会社倒産の責任を負わせるというものですが、素直に、そのように評価してよいかは疑問が残ります。

何故かというと、今まで武富士の更生管財人は、過払金債権者よりも武富士に味方していると見られていて、過払金債権者側の弁護士達からは批判の対象になっていたからです。

そのように見られていた更生管財人が一転して武富士の責任を追及する訴訟を提起した訳ですから、「これは何か裏があるのではないか」と勘ぐってしまうのも無理はありません。

予想できることとしては、武富士の会社更生を成功させる為には過半数の賛成票を集めなければなりませんので、賛成票を投じてもらう為にパフォーマンスとして武富士に責任追及をしているという疑いです。

この予想どおりだと仮定すると、管財人は真面目に武富士を追求する気はなく、適当なところで訴訟を終わらせてしまう可能性があるということになります。あるいは非常に低い金額で決着を図るかもしれません。(私は個人的には、予想どおりである可能性が高いのではないかと考えています)

もし予想が当たっていたとしたら、腹立たしい反面、そこまで武富士は賛成票集めに苦労しているのか、という見方もできます。

前回の丸和商事の件でも書きましたが、武富士の会社更生が成功するかどうかは、全ての消費者金融が注目しています。武富士の過払金逃れが、うまくいけば、今後、畳み掛けるように消費者金融の倒産が次々と起こってくるでしょう。(何しろ過払金をカットして会社が存続するのですから)

従って、繰り返しになりますが、武富士の会社更生は、丸和商事の民事再生と同じく、失敗することが好ましいと考える訳です。

 

9月 27 2011

差押③ 銀行口座の差押

差押の中で給料の次に、よく行なわれるのが銀行口座の差押です。何故、給料や銀行口座が狙われるのかと言うと、換金の必要が無いからです。

給料や口座を押さえてしまえば、直接、現金を獲得することが出来ます。しかし、不動産や動産に対する差押の場合は、不動産や動産を現金に換金する作業が必要になります。換金作業では、時期による価格の変動もありますし換金による手数料も発生します。最悪の場合は二束三文で換金できないという可能性もある訳です。

このように有利な点が多い銀行口座の差押ですが、給料に比べて人気が劣るのは、給料よりも確実性が低いからです。

給料の場合は勤め先が分かれば、ほとんど成功します。時間はかかっても、いつかは回収できます。ところが、口座の場合は差し押さえた時点で残高が無ければ空振りになってしまうのです。

裁判で負けた相手は、ちょっと法律の知識があれば次には差押の危険があることを知っています。そうすると、銀行口座から現金を引き出してしまうという行動に出ます。これを事前にやられると口座の差押は、お手上げになってしまうのです。(この点、給料の場合は分かっていても防ぐ方法がありません。強いて言えば会社を辞めるしかないことになります)

ちなみに銀行口座を知られていないから大丈夫と思っている人は大きな間違いです。口座の差押は銀行名と支店名が書かれていれば裁判所は受け付けます(口座番号は不要です)。また、複数の銀行や支店が書かれていても構いません(費用は余分にかかりますが)。だから、裁判で負けた相手の近所の銀行の支店を片っ端から差押をするということも可能なのです。その中の一つでも当たっていれば成功です。

はずれた支店に口座自体が無かったとしても、それは手続的な問題にはなりません。そもそも差押とは、そういうものなのです。だから、確実でない情報をもとに、予想をして差押をすることは許されているのです。

あと相手が会社であれば取引銀行が分かっていれば(会社のパンフレットやホームページに取引銀行が書かれていることが多いです)、目ぼしい支店に一斉に差押をかけるという手段もあります。

このように銀行口座の差押は、一種、賭けのような部分が存在します。うまく残高がある口座にヒットすれば丸ごと回収できますが、残高が無ければ全くの無駄骨に終わる可能性もあるのです。この辺りが給料に比べて優先順位が低い原因だと思います。

9月 21 2011

裁判所の特徴⑤ 名古屋地方裁判所岡崎支部

地方裁判所は都道府県に一箇所ですが、面積が広い都道府県の場合は一箇所だと不便になってしまうので、支部というのを設けている場合が多いです。

支部は名称からのイメージでは子会社のように思われるかもしれませんが、実際には独立した裁判所として機能しています。従って、支部と本庁で全く取り扱いが違うということも普通に起こります。

名古屋地裁岡崎支部は西三河と呼ばれる地域を管轄する地方裁判所ですが、名古屋地裁本庁(名古屋市の中心部にあります)とは色々な意味で異なる裁判所となっています。

債務整理を申し立てる人にとって最も大きな違いは個人再生の取り扱いでしょう。

個人再生を申し立てる場合、本庁では、かなりの確率で再生委員が付きます。この為、申立費用が約8万円ほど高くなってしまいます。もともと再生を申し立てる人は生活が苦しい訳ですから、この金額の差は大きいです。

他にも岡崎支部の個人再生では裁判所に呼び出されることがありません。書面審査だけで進んでいきますので、申立人の負担が非常に軽いのです。それに対して本庁では最低でも1回、再生委員が付いた場合は2回も裁判所に呼び出されます。

これだけ大きな違いがあるにもかかわらず、本庁の管轄地域と岡崎支部の管轄地域は隣あっているのです。私の昔の事務所は日進市にありましたが、その頃はちょうど双方の管轄の中間に近い地域で、両方の依頼人が多く訪れていました。そうすると同じ個人再生という手続をやっているのに費用や時間が大幅に異なることに強い疑問を持つようになりました。正直なところ、本庁管轄の人が申し立てる場合は一時的に岡崎支部の管轄に引っ越した方が良いのではないかと思う時もありました。

これ以外にも、最近、本庁で流行っている過払金訴訟の調停移行の問題でも大きな違いがあります。はっきり言って岡崎支部では調停に強制的に移されることはありません。通常訴訟として申し立てれば、そのまま訴訟として扱ってくれます。

これらの違いは何を意味しているかというと、ようするに弁護士が余っている地域か、そうでないかの違いなのです。

本庁の個人再生の費用が高いのも呼び出しが多くあるのも全ては再生委員が付くからです。再生委員のほとんどが弁護士です。また、本庁の過払訴訟が調停に回された時に調停委員に登場するのも、やはりほとんどが弁護士なのです。ようは弁護士が多くいる地域にある裁判所と、弁護士があまりいない裁判所の違いが明確に現れているという訳です。読者の皆さんは、この事実を知って、どのように感じられるでしょうか。

9月 12 2011

民事訴訟の基本① 原告と被告

最近は法廷に行くと、いかにも素人に見える人が原告席に座って裁判官の質問に答えている姿を目にすることがあります。やり取りを聞いていると、そのほとんどが過払金の訴訟だと思われますが、素人の人達にも訴訟に関する関心を高めたという効果も過払金訴訟にはあったのかもしれません。

以前は素人が法廷に来る場合は、ほとんどが被告席での登場でした。原告は貸金業者、クレジット会社、携帯電話会社などで、未払いの返済金や電話料金などを請求されて放っておいたら自宅に訴状が届き驚いて法廷に来たというパターンです。従って、原告側に素人が座っているというのは本当に珍しいケースだったのです。

民事訴訟の場合、訴えた方を原告といい、訴えられた方を被告といいます。この被告というのは刑事裁判での被告人と間違われることが多いのですが中身は全然違います。

被告人は犯罪に対する容疑者ですが、被告は単に訴えれただけの存在です。日本の裁判では刑事裁判の場合、90%以上の確率で被告人は有罪になります(これはこれで民主主義国家としては問題だと思いますが)ので、何となく日本人は被告人というと悪い人のイメージを持ってしまいます。

本当は刑事裁判で有罪になるまでは被告人といえども犯人扱いしてはいけないという原則があるのですが、実際にはマスコミも犯人であるかのように報道しているケースもしばしばあります。

この被告人のイメージに引っ張られて民事裁判の被告も悪いイメージでとらえてしまう人が多いのですが、こちらは犯罪とは関係ありません(もちろん刑事裁判の被告人に対して新たに民事の損害賠償を起こした場合は、同一人物が被告人であると同時に被告になるケースもあります)。

法廷では原告が裁判官席に向かって左側に、向かって右側に被告が座ります。原告は自分の要求を訴状に書いて、その要求がどういう法律に基づいて請求できるか、また当てはまる法律の要件を満たす事実が存在していることを明らかにしなければなりません。(これが結構、専門知識がいるので原告側に座る素人が少ない理由になっていると思われます)

更に被告が反対してきた時に、事実が存在していることを証拠によって証明するのは原告の役目です。厳密に言うと被告が証明しなくてはならない事実もありますが、ややこしくなるので今は置いておきましょう。とりあえず、最初に証明しなくてはならないのは原告の方だと考えておいて下さい。だからこそ、世の中のあらゆる契約の場面で契約書が作成されるのです。何の為に契約書を書くのかと言えば、後で裁判になった時に原告は契約があったことを証明しなくてはならないからです。

裏を返せば、もし原告が契約書を持っていなかったら、分かりやすい例で言えば金を貸した原告が借用書を持っていなかったらどうなるか考えてみましょう。

裁判になった時に被告が、「私は金なんか借りてない、原告はウソをついている」と言ったとしましょう。この時に金を貸したことの証明は原告の役目です。その時に最も強力な証拠は契約書です。印鑑が押された契約書が出てくればウソをついているのは被告の方だと裁判所は判断するでしょう。でも原告が貸し借りの事実を証明できなかったら、裁判で負けるのは原告の方なのです。

ここで、おかしいなと思われた人がいるかもしれません。例え原告が証明できなくても、ウソをついているのは原告とは限りません。どちらがウソをついているか分からない状態のはずです。では何故、原告が負けるのかと言うと、それが民事裁判のルールだからです。これを立証責任と言います。

この点については長くなりますので、またいつか説明しましょう。

 

9月 06 2011

差押② 給料の差押

差押の中で最も良く使われるのが給料の差押です。何故、良く使われるのかと言えば最も成功率が高いからです。

差押①でも書きましたが、差押とは実際には成功率が高くありません。(理由は差押①をご覧下さい) そんな中で給料の差押は数少ない非常に成功率の高い方法なのです。何故なら給料は貯金と違って、会社が本人に渡す前に差し押さえてしまえば、隠すことも使ってしまうことも出来ないからです。差し押さえる側にとって、これほど有利な条件はありません。(逆に裁判で負けた側にとっては給料の差押は最も注意しなければならないものです)

貸金業者は、お金を貸す時に必ず勤め先を聞いて書類に記入させます。これは、いざと言う時に給料の差押を可能にする為です。会社名と住所が特定されていれば(最悪、会社名さえ分かれば住所は調べられますが)、給料の差押が可能になるのです。そして契約書には、たいていの場合、「勤め先に変更があった場合は必ず知らせること」という条項が書かれています。これは勤め先が分からなくなると給料の差押ができなくなってしまうからです。

そうは言っても給料を差し押さえられたら生活が出来なくなってしまうと思われた人もいるでしょう。しかし、そこは法律も考えていて給料全額の差押は禁止されています。その額は毎月の給料の4分の1と定められています。ようするに差し押さえられるのは給料の4分の1までで、4分の3は受け取ることが出来るということになります。もっとも、高額の給料を受け取っている場合は法律の例外として、4分の1以上の差押が認められています。しかし、高額の給料を受け取っている人は、そもそも裁判で負ける前に支払ってしまう場合が多いでしょうから、現実には4分の1が適用されると考えておいて、ほとんど問題ないでしょう。

給料の差押が実行された場合、まず裁判所から会社に(公務員の場合は国や地方自治体に)差押の通知が届きます。本人に届くのは、その後です。通知を受け取った会社は毎月の給料から4分の1を差し引いて本人に渡すことになります。

4分の1だと、給料によっては、かなりの回数を重ねないと請求されている金額に届かない時もあります。しかし、法律の規定で差押を1回すれば請求金額に届くまで、ずっと差押の効力は持続することになっています。ようは1回差し押さえれば、全額回収するまで会社は毎月、4分の1を差し引き続けることになるのです。

一見、長時間かかるので効率が悪いように見えますが、それでも、あらゆる差押の中で最も良く使われるのは何と言っても回収が確実だからです。相手の会社が倒産するか、本人が退社でもしない限り必ず、いつかは回収できることになります。

最初に書きましたように差押は、もともと、あまり成功率が高くありませんから確実に回収できるというメリットは非常に大きいということです。

8月 29 2011

臨時ニュース SFコーポレーション倒産

消費者金融の倒産ラッシュが続いています。今回は、8月26日東京地方裁判所にてSFコーポレーション(旧三和ファイナンス)が破産開始決定を受けました。

最近では、消費者金融の倒産は珍しくありませんが、今回の特徴は破産であることです。今までは、クレディア・丸和商事の民事再生、武富士・ロプロの会社更生など倒産したといっても、会社を存続させる手続でした。しかし破産となると話は別です。SFコーポレーションという会社は解散して消滅することになります。

実はSFと言う会社は非常に悪質だった為に、今までに何度も債権者破産の申立をされていました。債権者破産とは会社ではなくて、会社に債権を持っている側(SFの場合は過払請求者)が、「この会社は債権(過払金)を払わないのだから既に破綻している」という理由で破産を申し立てることです。

ところが破産を申し立てられたSFは、その度に、どこからか金銭の都合をつけてきて一時的に過払金を払うことによって破産を免れていました。そして、ほとぼりが冷めた頃には、再び払わなくなるということを繰り返していたのです。(全く、あきれるほど、ケシカラン会社です) それが、ついに自ら破産を申し立てて開始決定が出された訳です。

破産となると、スポンサーを見つけて会社を存続させる民事再生や会社更生と違って、今あるSFの資産を処分して配当金を払うことになります。当然、配当金は微々たるもので、ほとんど期待できないと考えた方が良いでしょう。(その代わりSFという悪質な会社は、この世からなくなりますが)

まだ情報が入ってきたばかりなので、詳細なことが分かるまでに、しばらくかかるでしょう。追って、このブログでも報告していきます。

« Prev - Next »