司法書士ジャーナル
橋本司法書士事務所ブログ

2009年7月

7月 30 2009

シリーズ 過払金② 完済した後の過払いとは

 今回は、質問の多い「完済した取引の過払い」について、説明します。

 今回、取り上げるのは完済した後、もう取引をしていない状態です。昔、完済したけど、その後、再び借り入れて、現在も取引中という場合は省きます。

実は結構、これも勘違いされている方が多く、完済後に再び取引しているケースも「完済した取引」だと思って相談に来る人もいるのです。今まで間違った情報を信じていた方は、是非、このブログで正しい情報を仕入れて下さい。

 さて、「完済した取引」の最大の特徴は、ほぼ100%過払いになっているということです。

「ほぼ」という言葉を使ったのは、利率が最初から利息制限法以内の場合(10万円以上100万円未満の場合は18%以内)は過払いにはならないからです。この場合、最初からというのが肝心です。途中で18%に下がった場合は、やはり過払いになっていますから。(一部のクレジットカードに最初から利率の低いものがあります。数は少ないです)

 前回の説明で、過払いになるかどうかは取引によって違うと言いました。ところが、完済している場合は、そのように悩む必要はありません。ほぼ過払いであることは間違いないからです。従って、依頼者の立場からすlれば、通常の取引よりも決断がしやすいというメリットがあります。

また、完済した取引の場合は、費用も安く設定している事務所が多いのも、決断しやすい理由の一つでしょう。例えば、私の事務所の場合は、完済した取引の場合は着手金を無料にしています。成功報酬だけなので、依頼人が直接支払う分はありませんから、依頼がしやすくなっています。

 このように完済した取引はメリットが多いのですが、請求をせずに放っておくと、取り戻せなくなる場合がありますので注意が必要です。

それは時効による消滅と言う規定があるからです。過払請求権は10年で時効により消滅します。要するに10年たつと請求できなくなってしまうのです。

では、10年とは、いつから数えるのでしょうか。これが時効の起算点と呼ばれる問題です。具体的には完済した取引の場合は、「完済した時から」と考えるのが一般的です。従って、完済した取引がある人は、10年以内に請求することを忘れないで下さい。

 あと、以外に忘れがちなのが、クレジットのキャッシングの完済です。クレジットカードは、そのまま持っているので取引が終わったという実感はありません。(中にはカード自体を解約している場合もあります。この場合は完済の実感が起こりやすいですね。) 

例えば、昔、クレジットのキャッシングをしていたけど、今はしていない。しかし、カードは持っているというケースです。結構、いるんじゃないでしょうか。

この場合もキャッシングに関しては完済した取引と同じなので、過払金が発生しています。しかし、ショッピングをしていた場合は、ショッピングの残高よりもキャッシングの過払金の方が額が大きいことが前提になります。

もちろん、ショッピングをしていない場合は、ほぼ間違いなく過払金が発生しています。(冒頭で説明したように、クレジットの場合は最初から利率が低いカードが一部ありますので、それは除外して下さい。)

ただ、この場合の問題点は、過払いを請求した時点でクレジットカードは使えなくなるということです。この先使う予定の無いカードならば、請求した方が良いでしょう。

ただし、使う予定があっても、過払金の金額によっては、請求した方が良い場合もあります。こういう時は、自分でクレジット会社に取引履歴を請求して、利息の計算を事務所に頼むと良いでしょう。そうすればカードを取り上げられることなく、自分の過払金の額を知ることが出来ます。請求するかどうかは金額を知ってからの方が後で後悔せずに済むと思います。(実際に金額を確かめた後で心変わりして請求した方もいます)

私の事務所では、このような利息計算サービスもやっていますが、全ての事務所がやっているとは限りません。事前に確認してみて下さい。

 もう一つ注意して欲しいことがあります。それは最近の貸金業者の経営状況です。倒産する業者も増えていますし、倒産しないまでも過払金が全く支払えない業者や、一部しか支払えない業者が次々と出てきています。ということは、完済したまま放っておくと、例え10年以内であっても、業者の経営状況によって取り戻せなくなる可能性が高くなってきているのです。これは知っておいて欲しい重要な情報です。

 ここまで読んでこられた方は納得されたと思いますが、完済した取引というのは、ある意味、預金と同じです。しかし、時効になったり、業者が経営破綻したりすると、その預金が引き出せなくなってしまうのです。銀行の預金が引き出せなくなると聞いたら大抵の人はあわてて銀行に走るでしょう。ところが同じようなことが起こっているのに、過払金の場合は実感が伴わないせいか、放置している人がまだ大勢いると思われます。引き出せなくなる前に専門家の扉をたたくことを、おすすめします。

7月 23 2009

シリーズ 過払金① 過払いになる取引とは

 さて、今回からは過払金について説明していきましょう。

過払金は今、一番ホットな話題と言ってもよいでしょう。債務者に有利な最高裁判決が立て続けに出た結果、3年ほど前から空前の過払金ブームと呼ばれる現象が起きました。相談で最も件数の多いのも過払金に関することです。

しかし、あまりにも加熱したブームになった結果、ちまたでは怪しい情報も同時に増えてしまったのも事実です。素人の方には怪しい情報かどうかの区別がつかない場合も多いので、相談を受けていると、全く間違ったことを信じている人も大勢いるという状態になっています。

そこで、まずは過払金に対する正しい情報を、このブログで知ってもらおうと思います。これを読んだ皆さんは、今後は怪しい情報に惑わされないで下さい。また、怪しい情報に惑わされている知り合いがいたら、是非、教えてあげて下さい。

 それでは、まず過払いとは、どんな場合に発生するのか、ということです。

かなり有名になって、今では知っている人も増えてきましたが、過払いとは「出資法」と「利息制限法」という二つの法律の制限利率が異なっていることから発生します。

具体的には現状の出資法の制限利率は29.2%ですが、一般的な貸付金額である10万円以上100万円未満の取引の場合の利息制限法の制限利率は18%です。(利率は全て年利です)

この二つは一体、何が違うのかと言うと、出資法に違反すると刑事罰になりますが、利息制限法に違反しただけでは民事上無効になるだけだということです。

もう少し分かりやすく言うと、出資法に違反した業者は警察の捜査の対象になります。そもそも存在自体が違法な業者であって、正規の貸金業者とは呼べません。故に、出資法違反の業者のことを「ヤミ金」と呼びます。(ちなみに広告では出資法以内の利率をうたっておきながら、実際に借りてみると出資法をオーバーしていたという業者もいます。もちろん、これも「ヤミ金」です。)

では、利息制限法の利率をオーバーしているけど、出資法の利率は越えていない業者(消費者金融とクレジットは、ほとんどがこのパターンです)は、どうなるのでしょうか。

これが、いわゆるグレーゾーン金利と呼ばれているものです。消費者金融やクレジットは、このグレーゾーン金利で今まで稼いできた訳です。

先ほど利息制限法の利率を超えると民事上無効になると言いましたが、この意味を分かりやすく説明しましょう。

これは、裁判で争った場合、あるいは法律家が介入した場合は、超えた部分の利息は認められませんよ、ということです。

 では、超えた利息(以下、超過利息と呼びます)は実際に支払われている訳ですが、無効になったら既に支払った超過利息は、どうなるのでしょうか。この答えは、超過利息は利息ではなく元本を支払ったものとみなすのです。

するとどうなるか。超過利息を1回払えば、その時の元本がその分減ります。次の利息は減った元本に対してかかりますから、利率の超過分と減った元本分の両方の効果で2回目の超過利息は相乗効果で更に大きくなります。

2回目の超過利息も元本を支払ったことになりますから、更に元本が減ります。そして、3回目の支払いでは2回目で減った元本に対して利息がかかるので更に、、、、、という具合に相乗効果で元本が減っていく訳です。

 従って、上記のような計算をしていくと、支払い年数が長ければ長いほど元本は急カーブを描いて減っていきます。そこで長い取引の場合、ある時、元本が0円になる時が訪れます。この時が過払いなるかどうかの分岐点です。

元本が0円になっても、まだ取引が続いていた場合、その後の支払いは過払いとなります。要するに支払い超過となっている訳で、その分を取り戻せますよ、というのが過払金の根拠なのです。

元本0円になってからの支払いが長ければ長いほど、過払金の額も大きくなります。だから、過払いの相談を受けると法律家が、「取引年数は何年くらいですか」と真っ先に尋ねるのは、そういう理由があるからです。

ただし、過払いが発生した後も、過払金を打ち消すくらいの大きな額の借入をした場合は、過払いは消滅して、また元本が残ってしまいます。

例えば、10万円の過払いが発生している時に、30万円の借入をしてしまった場合は、差し引き20万円の元本が残ってしまいます。こうなると、また同じように、次の支払いの超過利息で元本を減らしていくことになります。元本が0円になるまでは、しばらく過払いは発生しません。

このように過払金の発生には、各人の取引傾向が強く影響を与えますので、一口に、「何年以上は過払いだ」とは言えないのです。まさに、5年で過払いになる人もいれば、10年でも過払いになっていない人もいます。

従って、あまり断定的に、「〇年以上は必ず過払いだ」などという広告を見つけたら、その事務所は信用しない方が良いでしょう。

 もちろん、断定的でなく、大体の傾向として取引が長い方が過払いになりやすいというのは、あるでしょう。

以下、私の経験で大体の傾向を述べると、5年未満で過払いになっている人は、ほとんどいません。非常に少ないと思います。

5年~7年で、たまに過払いの人が出てきます。でも、この取引年数だと割合としては半分以下です。

7年を超えてくると、一転して過払いの人の割合の方が多くなります。半分以上が過払いだと思います。

10年以上になると、今度は、ほとんどの人が過払いです。過払いにならない人は非常に少数になります。でも、少数でも一応、いるということは覚えておいて下さい。決して100%ではないのです。

 相談をしていると、2年か3年くらいの取引で、「過払いを取り戻して欲しい」と言ってくる人がいます。決して珍しくありません。こういう相談を受けていると、「ああ、間違った情報が氾濫しているんだなあ」と痛感します。その為にも、このブログで正しい情報を獲得して下さい。

 では次回は、「完済している取引について」です。

 

7月 16 2009

シリーズ 自己破産⑪ 破産申立その後(後半)

 さて、今回は破産開始決定後の流れについて説明しましょう。

 開始決定が出ると開始決定書が郵送されてきます。この時、免責期日呼出状という書面が同封されています。免責期日とは、免責審尋が行われる期日のことです。

では、免責審尋とは何でしょうか。これは、債務者の借金を帳消しにしてもよいか(厳密には借金の支払義務を無くしてもよいか)を裁判所が判断する為に、債務者を裁判所に呼び出して面談することを言います。

こう言うと、前に出てきた、開始決定前に1割くらい呼ばれることがある破産審問と何が違うのかと思われる人もいるでしょう。

まず、破産審問は全員が呼ばれる訳ではありません。裁判官の任意です。しかし、名古屋の場合、免責審尋は破産を申し立てた人は全員が呼ばれます。(もちろん開始決定まで、たどり着けなかった人は呼ばれません。当然ですね)

あと、破産審問の場合、呼ばれた時は裁判官と1対1の面談になりますので、かなり緊張します。しかし、免責審尋は名古屋の場合は集団面談です。たいていは10人から20人が呼ばれています。従って、裁判官から質問されるのは、その中の数人です。質問の内容も、ごく簡単なことで終わってしまいます。免責審尋で返答に困ったケースを私は今のところ知りません。

要するに免責審尋とは出席さえすれば、ほとんど問題無い手続だということです。だからこそ、絶対に遅刻や欠席はしないようにしましょう。

 ちなみに人口の少ない地方の裁判所だと、免責審尋をやらない裁判所もあるようです。その代わり破産審問に呼ばれる場合もあるので、どちらが良いかは何とも言えません。(人口が少ないと裁判官が1対1の面談をやる余裕があるということなのでしょう) 

 免責審尋に、きちんと出席して、しばらくすると免責決定という書面が送られてきます。これが借金の支払義務を帳消しにしてくれる証明書です。これで事実上、破産手続は終了です。(これも厳密に言うと、法律上の終了は免責決定が確定してからになりますが、破産の場合、免責決定が出た後に文句を言ってくるケースは、まずありませんので、事実上、終了と考えて良いでしょう)

 これが同時廃止における破産手続の大体の流れです。管財事件の場合は、もっと複雑で期間も長くなります。

 さて、次回からは新シリーズとして過払金返還請求について説明していきましょう。

 

7月 07 2009

シリーズ 自己破産⑩ 破産申立その後(中半)

 さて、前回からの続きです。

 破産申立後の審査の結果の二つ目は、追加書類の提出です。

このケースは実は最も多いパターンです。全体の6割~7割くらいを占めていると思われます。良く追加書類の提出を命じられて不安になる人がいますが、心配することはありません。命じられる確率の方が高いのですから。しかも、このケースでは、きちんと追加書類を提出できれば、その後すんなりと開始決定が出る場合がほとんどなのです。

では、具体的に、どのような追加書類の提出を命じられるかと言うと、実は裁判官によって様々なので特定するのは難しいのです。また、同じ裁判官であっても、いつも同じものを要求するとは限りませんので、こればかりは審査結果が送られてからでないと分からないというのが正直なところです。

それでも、比較的に確率が高いものをあげると反省文になります。これは債務者の直筆が条件になっていますので、司法書士が代筆することは出来ません。こればかりは債務者に書いてもらうより仕方がありません。(そもそも反省文を他人が書いたら反省にならないですから)。

内容は何故、今回、破産しなければならないほどの借金を背負ってしまったかを振り返って、今後、同じことにならないように何に気をつけていくかなどを書いてもらうことになります。あまり短いと印象が悪いので、A4なら3枚以上くらいは書いた方が良いというのが私の感想です。

 次に審査結果の三つ目ですが、最初の段階から裁判所に債務者が呼び出された場合が、これに当たります。これを破産審問と呼びます。

こうなった場合、最も厳しい結果になったと考えて良いでしょう。

通常、破産(同時廃止)の場合は裁判所に債務者は最低1回行くことになります。免責審尋と呼ばれるものです。しかし、三つ目の審査結果になった場合は、破産審問と免責審尋の2回、裁判所に行くことになるのです。

これも全体の1割~2割の珍しいケースです。でも誤解しないで下さい。別に破産が出来なくなる訳ではありません。裁判所は基本的には出来る限り破産は認める方向で審査をしますので、破産審問で裁判官が納得すれば、開始決定は出してくれます。破産審問は裁判官との1対1の面談なので債務者がドキドキするのは仕方がありませんが、極度に悲観的になる必要はありません。

 以上、申立後は3つのパターンがあることを説明しました。どのパターンになっても、クリアした後は破産開始決定というものが出されます。これで破産の第一段階が終了したことになります。しかし、まだ終わりではありません。

前回も話しましたが、開始決定は「支払うべき財産が無い」ということを裁判所が認めてくれた段階です。まだ、借金の支払義務は残っています。

では、次回は開始決定の後の流れについて説明しましょう。