9月
27
2011
差押の中で給料の次に、よく行なわれるのが銀行口座の差押です。何故、給料や銀行口座が狙われるのかと言うと、換金の必要が無いからです。
給料や口座を押さえてしまえば、直接、現金を獲得することが出来ます。しかし、不動産や動産に対する差押の場合は、不動産や動産を現金に換金する作業が必要になります。換金作業では、時期による価格の変動もありますし換金による手数料も発生します。最悪の場合は二束三文で換金できないという可能性もある訳です。
このように有利な点が多い銀行口座の差押ですが、給料に比べて人気が劣るのは、給料よりも確実性が低いからです。
給料の場合は勤め先が分かれば、ほとんど成功します。時間はかかっても、いつかは回収できます。ところが、口座の場合は差し押さえた時点で残高が無ければ空振りになってしまうのです。
裁判で負けた相手は、ちょっと法律の知識があれば次には差押の危険があることを知っています。そうすると、銀行口座から現金を引き出してしまうという行動に出ます。これを事前にやられると口座の差押は、お手上げになってしまうのです。(この点、給料の場合は分かっていても防ぐ方法がありません。強いて言えば会社を辞めるしかないことになります)
ちなみに銀行口座を知られていないから大丈夫と思っている人は大きな間違いです。口座の差押は銀行名と支店名が書かれていれば裁判所は受け付けます(口座番号は不要です)。また、複数の銀行や支店が書かれていても構いません(費用は余分にかかりますが)。だから、裁判で負けた相手の近所の銀行の支店を片っ端から差押をするということも可能なのです。その中の一つでも当たっていれば成功です。
はずれた支店に口座自体が無かったとしても、それは手続的な問題にはなりません。そもそも差押とは、そういうものなのです。だから、確実でない情報をもとに、予想をして差押をすることは許されているのです。
あと相手が会社であれば取引銀行が分かっていれば(会社のパンフレットやホームページに取引銀行が書かれていることが多いです)、目ぼしい支店に一斉に差押をかけるという手段もあります。
このように銀行口座の差押は、一種、賭けのような部分が存在します。うまく残高がある口座にヒットすれば丸ごと回収できますが、残高が無ければ全くの無駄骨に終わる可能性もあるのです。この辺りが給料に比べて優先順位が低い原因だと思います。
9月
21
2011
地方裁判所は都道府県に一箇所ですが、面積が広い都道府県の場合は一箇所だと不便になってしまうので、支部というのを設けている場合が多いです。
支部は名称からのイメージでは子会社のように思われるかもしれませんが、実際には独立した裁判所として機能しています。従って、支部と本庁で全く取り扱いが違うということも普通に起こります。
名古屋地裁岡崎支部は西三河と呼ばれる地域を管轄する地方裁判所ですが、名古屋地裁本庁(名古屋市の中心部にあります)とは色々な意味で異なる裁判所となっています。
債務整理を申し立てる人にとって最も大きな違いは個人再生の取り扱いでしょう。
個人再生を申し立てる場合、本庁では、かなりの確率で再生委員が付きます。この為、申立費用が約8万円ほど高くなってしまいます。もともと再生を申し立てる人は生活が苦しい訳ですから、この金額の差は大きいです。
他にも岡崎支部の個人再生では裁判所に呼び出されることがありません。書面審査だけで進んでいきますので、申立人の負担が非常に軽いのです。それに対して本庁では最低でも1回、再生委員が付いた場合は2回も裁判所に呼び出されます。
これだけ大きな違いがあるにもかかわらず、本庁の管轄地域と岡崎支部の管轄地域は隣あっているのです。私の昔の事務所は日進市にありましたが、その頃はちょうど双方の管轄の中間に近い地域で、両方の依頼人が多く訪れていました。そうすると同じ個人再生という手続をやっているのに費用や時間が大幅に異なることに強い疑問を持つようになりました。正直なところ、本庁管轄の人が申し立てる場合は一時的に岡崎支部の管轄に引っ越した方が良いのではないかと思う時もありました。
これ以外にも、最近、本庁で流行っている過払金訴訟の調停移行の問題でも大きな違いがあります。はっきり言って岡崎支部では調停に強制的に移されることはありません。通常訴訟として申し立てれば、そのまま訴訟として扱ってくれます。
これらの違いは何を意味しているかというと、ようするに弁護士が余っている地域か、そうでないかの違いなのです。
本庁の個人再生の費用が高いのも呼び出しが多くあるのも全ては再生委員が付くからです。再生委員のほとんどが弁護士です。また、本庁の過払訴訟が調停に回された時に調停委員に登場するのも、やはりほとんどが弁護士なのです。ようは弁護士が多くいる地域にある裁判所と、弁護士があまりいない裁判所の違いが明確に現れているという訳です。読者の皆さんは、この事実を知って、どのように感じられるでしょうか。
9月
12
2011
最近は法廷に行くと、いかにも素人に見える人が原告席に座って裁判官の質問に答えている姿を目にすることがあります。やり取りを聞いていると、そのほとんどが過払金の訴訟だと思われますが、素人の人達にも訴訟に関する関心を高めたという効果も過払金訴訟にはあったのかもしれません。
以前は素人が法廷に来る場合は、ほとんどが被告席での登場でした。原告は貸金業者、クレジット会社、携帯電話会社などで、未払いの返済金や電話料金などを請求されて放っておいたら自宅に訴状が届き驚いて法廷に来たというパターンです。従って、原告側に素人が座っているというのは本当に珍しいケースだったのです。
民事訴訟の場合、訴えた方を原告といい、訴えられた方を被告といいます。この被告というのは刑事裁判での被告人と間違われることが多いのですが中身は全然違います。
被告人は犯罪に対する容疑者ですが、被告は単に訴えれただけの存在です。日本の裁判では刑事裁判の場合、90%以上の確率で被告人は有罪になります(これはこれで民主主義国家としては問題だと思いますが)ので、何となく日本人は被告人というと悪い人のイメージを持ってしまいます。
本当は刑事裁判で有罪になるまでは被告人といえども犯人扱いしてはいけないという原則があるのですが、実際にはマスコミも犯人であるかのように報道しているケースもしばしばあります。
この被告人のイメージに引っ張られて民事裁判の被告も悪いイメージでとらえてしまう人が多いのですが、こちらは犯罪とは関係ありません(もちろん刑事裁判の被告人に対して新たに民事の損害賠償を起こした場合は、同一人物が被告人であると同時に被告になるケースもあります)。
法廷では原告が裁判官席に向かって左側に、向かって右側に被告が座ります。原告は自分の要求を訴状に書いて、その要求がどういう法律に基づいて請求できるか、また当てはまる法律の要件を満たす事実が存在していることを明らかにしなければなりません。(これが結構、専門知識がいるので原告側に座る素人が少ない理由になっていると思われます)
更に被告が反対してきた時に、事実が存在していることを証拠によって証明するのは原告の役目です。厳密に言うと被告が証明しなくてはならない事実もありますが、ややこしくなるので今は置いておきましょう。とりあえず、最初に証明しなくてはならないのは原告の方だと考えておいて下さい。だからこそ、世の中のあらゆる契約の場面で契約書が作成されるのです。何の為に契約書を書くのかと言えば、後で裁判になった時に原告は契約があったことを証明しなくてはならないからです。
裏を返せば、もし原告が契約書を持っていなかったら、分かりやすい例で言えば金を貸した原告が借用書を持っていなかったらどうなるか考えてみましょう。
裁判になった時に被告が、「私は金なんか借りてない、原告はウソをついている」と言ったとしましょう。この時に金を貸したことの証明は原告の役目です。その時に最も強力な証拠は契約書です。印鑑が押された契約書が出てくればウソをついているのは被告の方だと裁判所は判断するでしょう。でも原告が貸し借りの事実を証明できなかったら、裁判で負けるのは原告の方なのです。
ここで、おかしいなと思われた人がいるかもしれません。例え原告が証明できなくても、ウソをついているのは原告とは限りません。どちらがウソをついているか分からない状態のはずです。では何故、原告が負けるのかと言うと、それが民事裁判のルールだからです。これを立証責任と言います。
この点については長くなりますので、またいつか説明しましょう。
9月
06
2011
差押の中で最も良く使われるのが給料の差押です。何故、良く使われるのかと言えば最も成功率が高いからです。
差押①でも書きましたが、差押とは実際には成功率が高くありません。(理由は差押①をご覧下さい) そんな中で給料の差押は数少ない非常に成功率の高い方法なのです。何故なら給料は貯金と違って、会社が本人に渡す前に差し押さえてしまえば、隠すことも使ってしまうことも出来ないからです。差し押さえる側にとって、これほど有利な条件はありません。(逆に裁判で負けた側にとっては給料の差押は最も注意しなければならないものです)
貸金業者は、お金を貸す時に必ず勤め先を聞いて書類に記入させます。これは、いざと言う時に給料の差押を可能にする為です。会社名と住所が特定されていれば(最悪、会社名さえ分かれば住所は調べられますが)、給料の差押が可能になるのです。そして契約書には、たいていの場合、「勤め先に変更があった場合は必ず知らせること」という条項が書かれています。これは勤め先が分からなくなると給料の差押ができなくなってしまうからです。
そうは言っても給料を差し押さえられたら生活が出来なくなってしまうと思われた人もいるでしょう。しかし、そこは法律も考えていて給料全額の差押は禁止されています。その額は毎月の給料の4分の1と定められています。ようするに差し押さえられるのは給料の4分の1までで、4分の3は受け取ることが出来るということになります。もっとも、高額の給料を受け取っている場合は法律の例外として、4分の1以上の差押が認められています。しかし、高額の給料を受け取っている人は、そもそも裁判で負ける前に支払ってしまう場合が多いでしょうから、現実には4分の1が適用されると考えておいて、ほとんど問題ないでしょう。
給料の差押が実行された場合、まず裁判所から会社に(公務員の場合は国や地方自治体に)差押の通知が届きます。本人に届くのは、その後です。通知を受け取った会社は毎月の給料から4分の1を差し引いて本人に渡すことになります。
4分の1だと、給料によっては、かなりの回数を重ねないと請求されている金額に届かない時もあります。しかし、法律の規定で差押を1回すれば請求金額に届くまで、ずっと差押の効力は持続することになっています。ようは1回差し押さえれば、全額回収するまで会社は毎月、4分の1を差し引き続けることになるのです。
一見、長時間かかるので効率が悪いように見えますが、それでも、あらゆる差押の中で最も良く使われるのは何と言っても回収が確実だからです。相手の会社が倒産するか、本人が退社でもしない限り必ず、いつかは回収できることになります。
最初に書きましたように差押は、もともと、あまり成功率が高くありませんから確実に回収できるというメリットは非常に大きいということです。
8月
29
2011
消費者金融の倒産ラッシュが続いています。今回は、8月26日東京地方裁判所にてSFコーポレーション(旧三和ファイナンス)が破産開始決定を受けました。
最近では、消費者金融の倒産は珍しくありませんが、今回の特徴は破産であることです。今までは、クレディア・丸和商事の民事再生、武富士・ロプロの会社更生など倒産したといっても、会社を存続させる手続でした。しかし破産となると話は別です。SFコーポレーションという会社は解散して消滅することになります。
実はSFと言う会社は非常に悪質だった為に、今までに何度も債権者破産の申立をされていました。債権者破産とは会社ではなくて、会社に債権を持っている側(SFの場合は過払請求者)が、「この会社は債権(過払金)を払わないのだから既に破綻している」という理由で破産を申し立てることです。
ところが破産を申し立てられたSFは、その度に、どこからか金銭の都合をつけてきて一時的に過払金を払うことによって破産を免れていました。そして、ほとぼりが冷めた頃には、再び払わなくなるということを繰り返していたのです。(全く、あきれるほど、ケシカラン会社です) それが、ついに自ら破産を申し立てて開始決定が出された訳です。
破産となると、スポンサーを見つけて会社を存続させる民事再生や会社更生と違って、今あるSFの資産を処分して配当金を払うことになります。当然、配当金は微々たるもので、ほとんど期待できないと考えた方が良いでしょう。(その代わりSFという悪質な会社は、この世からなくなりますが)
まだ情報が入ってきたばかりなので、詳細なことが分かるまでに、しばらくかかるでしょう。追って、このブログでも報告していきます。
8月
24
2011
ホームページを大幅に追加・更新しましたので、お知らせします。より充実した内容になりましたので、どうぞ、ご覧下さい。細かい更新も加えると、ほぼ全てのページに渡っていますが、特に大きく更新されたのが、以下のページとなります。
1 Q&A
Q&Aの数を大幅に増加しました。債務整理に関することでは、かなりの疑問に答えていると思います。増加に伴って、分野別に目次を分けて検索しやすいようにしました。知りたい項目に、すぐにたどりつけるようになっていると思います。
2 最近の業者の状況
過払金返還請求における最近の業者の対応について新規にページを追加しました。過払金返還請求のページからボタンをクリックして参照して下さい。各業者の対応の違いは興味を持たれている人も多いのではないでしょうか。参考にして頂ければ幸いです。
3 ブラックリスト
債務整理を考える時に、どうしても気になるのがブラックリストに関することだという人は多いと思います。こんな人達の疑問に答える為にブラックリストに関しても新規でページを設けました。トップページの上部のボタンで閲覧できます。ブラックリストに関しての知識を深めて下さい。
4 家計相談
不景気が長引いています。家計が厳しい家庭も多くなっていると思います。こんな時に必要なのが家計の管理です。健全な家計に近づけるには、どうしたら良いのか。そんな疑問に、お答えする為に新しく家計相談の業務を始めました。ファイナンシャルプランナーの資格を持った専門家が、あなたの家計を診断して解決方法を探ります。詳しい内容はトップページの上部のボタンをクリックして参照して下さい。
他にも細かい改定をしておりますので、一度、ご覧になったページでも、もう一度、読んで頂ければ、きっと新しい発見があるでしょう。
8月
17
2011
地方裁判所は訴額が140万円を超えた場合の第一審の裁判所ですが、他にも簡易裁判所の判決に不服な場合に第2審として裁判をするところでもあります。
名古屋地裁は大都市に置かれていますので、かなりの数の裁判官が配置されていて部署もたくさんあります。部署のことを名古屋簡裁では係と呼びましたが名古屋地裁では部と呼びます。この部が名古屋地裁の場合、民事だけで10部もあります。(民事2部は執行専門なので、通常訴訟は扱いません)
しかも簡裁と違うところは、この部が更にイ、ロ、ハなどと呼ばれる係に分かれており、それぞれに裁判官が違うのです。また、これらの係が更に担当する書記官によってA、B、Cと分かれています。ですから、名古屋地裁の係属先を表す場合は、民事3部イA係などと宛先を書くことになります。(とても、ややこしいですね)
これだけ部署や係が、たくさんあると簡裁以上に係属する部署によって取り扱いにばらつきがあります。特に最近、問題があると思えるのは過払調停に関してです。名古屋地裁の場合、係属する部署によって半強制的に過払金請求が調停に回されてしまうのです。(もちろん普通に通常訴訟で受けてくれる部署もあります。しかし、前にもお話したとおり、こちらで部署を選ぶことが出来ません)
過払調停は特定調停とは違います(読者の方は勘違いしないで下さい。特定調停では過払請求は出来ません)。これは訴訟をするつもりで過払金返還の訴状を出したにもかかわらず、裁判所の意向で半強制的に調停に回されてしまう制度のことです。この制度に関しては私の回りにいる法律家で評価している人は、ほとんどいません。みな早急に止めるべきだという意見が大半です。
何故、これほど評判が悪いのかというと、最近の業者の状況を全く反映していないからです。例えば、今やかなりの数の業者が判決を取らないと回収が困難になっています。だとすると、そのような業者相手では話し合いを前提にしている調停では全く解決することは出来ません。結局、調停が不成立に終わって通常訴訟に戻されることになります。それなら、調停を行う意味は全く無く、むしろ時間の無駄ということになります。
もっと深刻な問題も起こっていて、調停が不成立に終わることを嫌がる調停委員が一部いて、そのような調停委員に当たった場合、訴訟になったら回収できる想定金額よりも、かなり低い金額で調停を結ばされてしまうというケースも報告されています。
では何故こんな評判の悪い制度を続けているのかと言うと、過払金請求が増えすぎた為に裁判所の負担が大きくなり、少しでも裁判所の負担を減らす為、というのが表向きの理由です。(仮に、この理由が本当だったとしても、国家機関が忙しいからという理由で国民の意向を制限することが許されるのでしょうか。そんなことを言ったら警察が忙しいことを理由にして捜査をしないことが許されることになってしまいかねません)
私は、これ以外にも、調停委員の多くは弁護士がやっていますので、裁判所による弁護士の仕事の斡旋という側面があるのではないかと疑っています。(もし、そうだとしたら、過払金請求者の負担によって、仕事を斡旋していることになりますから許せませんね)
そもそも国民の裁判を受ける権利は憲法によって保障されている権利です。国民が訴訟でやってくれと訴状を出しているのに、裁判所が国民の意向を無視して半強制的に調停に回してしまうのは明らかに問題があるでしょう。この点、名古屋簡裁の方が、まだ良心的で、簡裁では事前に調停を拒否した場合は最初から通常訴訟で進めてくれます。しかし、考えてみれば、簡裁の取り扱いは、ある意味、当然で、訴状を出した人が通常訴訟で進めて欲しいと希望を出しても聞きもせずに強引に調停に回してしまう、一部の名古屋地裁の裁判官の方が常識に反しているのです。
こういう問題がありますから、名古屋地裁に過払訴状を出す場合は、どこの部署に係属するかで非常に大きな影響を受けることになります。このような差は、本来あってはならないことですから、一刻も早く、過払調停制度は廃止されるべきだと思います。少なくとも名古屋簡裁のように当事者が拒否した場合は通常訴訟で行われるように改めるべきでしょう。
8月
08
2011
武富士の会社更生手続の中で最も注目を浴びていた弁済率が先月発表されました。何とたったの3.3%です。かなり低いだろうと噂はされていましたが、現実に発表されると各方面で衝撃を与えているようです。(もっとも衝撃を受けたのは過払金請求者ですが)
この発表を受けて先月末頃から弁護士事務所や司法書士事務所、または個人で請求された人は個人の住所宛てに、続々と投票用紙が郵送されてきています。
この投票用紙に武富士の会社更生に対して賛成か反対か(厳密には投票用紙の記載は同意か不同意)を書いて返送することになります。そして、金額ベースで反対(不同意)が過半数になると武富士の会社更生は失敗に終わることになります。(反対した人の頭数ではないようです)
もし失敗になった場合、武富士に残された選択は破産しかなくなります。ようは武富士という会社自体が解散により消滅するということです。武富士が会社更生を申し立てたのは会社を存続させる為ですから、破産になるのは何としても避けたいでしょう。
ということで、投票用紙が送られてきてから間髪いれずに、武富士から各事務所に(恐らく個人にも)電話攻勢がかけられています。中身は、「破産になったら3.3%も受け取れなくなりますから、賛成に(同意)投票して下さい」というものです。また、投票用紙と一緒に同封されている書き方の見本にも同意の方に丸がうってあるという念の入れようです。(もっとも、この見本については弁護士有志からもクレームがついているようですが)
私の事務所にも複数の投票用紙が送られてきて、それぞれ依頼人に対し、「少しでも良いから回収したいのであれば賛成に、こんな低い金額なら武富士を懲らしめてやらなくては気が済まないという考えなら反対に、というのが投票の目安ではないでしょうか」と説明しました。
私は依頼人の回答は賛成の方が多いのではないかと予想したところ、見事に予想ははずれて何と9割以上の人達は反対と回答してきたのです。いかに武富士という会社が顧客から嫌われていたのかが、今回の投票で明らかになったような気がします。顧客との信頼関係を維持するような経営をしていたら、これだけ反対する人が多くはならなかったでしょう。
もっとも会社更生が決まるかどうかは金額の過半数だそうですから、今頃、武富士は高額の過払請求者にターゲットを絞って集中的に電話を架けていることでしょう。個人で請求している人は武富士からの電話に説得されてしまう人もいるかもしれませんので、最終的な結果に関しては未知数です。
武富士の結果は他の消費者金融も固唾を呑んで観察しているものと思われます。もし、成功した場合は、こんな低い弁済率で会社が存続できるのならと、追随する業者が出てくる可能性が高いでしょう。業者の倒産ラッシュに拍車がかかる恐れがあります。
一方、反対多数により武富士が破産に移行した場合は、他の業者も倒産手続に対して慎重になることでしょう。今後の貸金業界の動向に大きな影響を与える武富士の会社更生ですが果たしてどうなりますか、決定は秋頃の予定です。
8月
01
2011
過払金請求に限らず、貸金請求や売買代金請求などの金銭を請求する訴訟を起こして勝訴判決を得たとしても、残念ながら全ての債務者(この場合、判決で負けた方を債務者と言います)が、おとなしく支払ってくれる訳ではありません。
多くの人は判決で勝ったら負けた方は支払うのが当たり前だと思っています。もちろん理屈では、その通りです。しかし、ここでちょっと考えてみて下さい。そもそも裁判になったということは、請求された側に素直に支払う気持ちが無いからこそ裁判にまでなったのです。それが判決で負けたからと言って、とたんに心変わりして素直に支払うようになるでしょうか。実際には、かなりの人が判決で負けた後も支払わないのです。
では、負けた方が支払わない場合、どうしたら良いのでしょうか。残念ながら警察が犯人を取り締まるように裁判所が負けた人から、お金を取って勝った人に支払ってくれる訳ではありません。判決で勝っただけでは裁判所は何もしてくれないのです。このまま放っておいたら泣き寝入りをしてしまうことになります。それを防ぐ為に強制執行、いわゆる差押という制度が用意されています。
判決で負けた人が支払わなかった場合、勝った人は裁判所に対して差押を申し立てることが出来ます。もちろん訴訟とは別の手続ですから新しく申立書などを書いて裁判所に手数料も納めなくてはなりません。しかし、この手続をすることによって負けた人の財産を合法的に差し押さえることが出来るのです。
それなら全ての人が判決を取って差押をすれば良いではないかと思った人もいることでしょう。実は、ここで多くの人が勘違いをしている重要なポイントがあります。それは、何を差し押さえるのかは裁判所は一切、考えてくれないし、探してもくれないということです。
もし、負けた人の住所と氏名だけを書いて差押の申立書を裁判所に出したら、裁判所から次のように質問されます。「この人の何を差し押さえるのですか」と。
要するに相手の財産の調査は判決で勝った人が自分で行う必要がある訳です。(調査に費用がかかったとしても、それはもちろん自腹です)ということは相手が、どこに財産を持っているかが分からない場合は、差押が出来ないことになります。こういう場合は、予測を立てて(簡単に言えば勘で)成功するかどうかは、やってみなければ分からないという前提で差押をすることも、よくあります。
ですから差押の成功率は決して高いとは言えません。裁判の多くが判決までいかず、和解で決着する最大の理由がここにあるのです。例え勝訴判決を取っても相手から全額を取れるかどうか分からない、それなら多少なりとも減額しても和解で終わらせようと考える訳です。裏を返せば、相手の財産が確実に分かっていて、いざとなったら、そこを差し押さえれば絶対に回収できると分かっている場合は、判決を取りにいっても良いということです。
差押の中で、よく使われるのが給料、銀行口座、売掛金などの債権執行と呼ばれるものです。一方、あまり使われないのが不動産執行、動産執行です。何故、そうなのかの説明は次にいたしましょう。
7月
25
2011
名古屋簡易裁判所は大規模簡裁と呼ばれています。簡易裁判所の、ほとんどは裁判官が一人ないし二人で全ての事件の処理をしている小規模な裁判所です。それに対して、東京・大阪・名古屋などの大都市の場合、事件数が多いので通常の規模では、とても処理が出来ません。それで特別に規模の大きい簡易裁判所が設置されている訳です。
名古屋簡裁の場合、民事裁判を担当する裁判官の数は8人です。それぞれ係に分かれていて、名古屋簡裁に訴状を出すと1係から8係までの、どれかの係に係属することになります。
よく依頼人に質問されることで、「先生の経験上、債務者有利の判決を書いてくれそうな係に出したいのですが」というのがあります。残念ながら、この質問の回答は「無理です。こちらから係を選ぶことは出来ません」となります。
私としても係を選ぶことが可能ならば、過去に有利な判決をもらったところに出したいのは、やまやまですが、どの係に係属するかは全くの運になります。(係属した係が分かった段階で、喜んだり、がっかりしたりということは法律家ならば誰でも経験があることでしょう)
また前にも書いたことがありますが、係によって違うのは法律的な判断だけではありません。何と細かい事務手続まで違っていることがあります。
例えば、過払訴訟の最中に和解が成立した場合、過払金の入金日が次回の弁論期日の後だった場合、弁論期日を入金日の後にずらしてもらう(これを期日の変更と言います)という手続があります。これを簡単に認めてくれる係と、入金日が離れていると認めてくれない係があったりします。
認めてくれない係に当たった場合は、裁判所に出掛けていって和解決定という手続を取らなければなりません。この辺の事情は完全に事務手続の問題なので統一してもらいたいというのが私の強い希望でもあります。(このような事務的なことが、同じ裁判所の中の係によって違っているというのは、一般人からすれば結構、驚きなのではないでしょうか)
しかも、面白いことに(我々、法律家からしたら大変なことに)、人事異動で係の担当裁判官が変わると、また事務手続の処理方針が変わったりするのです。
先ほどの例で言うと、今まで期日変更が出来なかった係が、裁判官が異動した途端に出来るようになったというようなことが珍しくないのです。(もちろん裁判官が異動になった後も方針が変わらないこともあります)
従って、法律家に負担がかかる処理方針の係の場合、法律家同士で酒を飲みながら、「早く、あの係の裁判官、異動にならないかな」などという話題で盛り上がることになります。
ここまで読んできて、読者の方にも裁判所における裁判官の影響力の強さというものが分かって頂けたかと思います。(言い方は悪いかもしれませんが、ほとんど独裁者と呼んでも、当たらずとも遠からずというほどの力を裁判所に対して持っているということです)
ただ実を言うと、名古屋のような大規模簡裁の管轄の場合は、まだマシなのです。これが裁判官が一人しかいない簡裁(ほとんどの簡裁が一人です)の場合、その管轄区域で訴状を出したら必ず、その裁判官に当たってしまう訳です。避けることは出来ません。ということは債務者に厳しい方針の裁判官がいた場合、その裁判官が異動になるまでは、その簡裁に出された訴訟は他の簡裁よりも不利になることが現実にありえるのです。これは非常に困った問題です。(逆に貸金業者にとっては喜ばしい裁判所ということになります)
名古屋の場合は裁判官が多勢いますので少なくとも、いつも必ず不利になるということはありません。この点は大規模簡裁の良いところだと思います。