司法書士ジャーナル<相続>
橋本司法書士事務所ブログ

2024年3月

3月 21 2024

数次相続の相続放棄 相続放棄㉓

数次相続とは

数次相続とは、相続が発生した時に遺産分割協議をせずに放置しておいたら、法定相続人が死亡してしまい次の相続が発生してしまったことを言います。

平均寿命が伸びて高齢で亡くなる人が増えたため、相続が発生した時には法定相続人も高齢になっている場合が多く、数次相続の機会は増えていると思われます。

数次相続の相続放棄のパターン

数次相続の相続放棄には、いくつかのパターンがあります。

分かり易くするために、祖父から父の相続を1次相続、父から子の相続を2次相続として、子が相続するかどうかを決めるという事例で説明しましょう。尚、放棄せずに相続することを単純承認と呼びます。

  1. 1次相続を放棄して、2次相続を単純承認する
  2. 1次相続を単純承認して、2次相続を放棄する
  3. 1次相続も2次相続も両方とも放棄する

これらのパターンごとに可能かどうかを見ていきましょう

1次相続を放棄して、2次相続を単純承認する場合

1次相続を放棄して、2次相続を単純承認することは可能です。事例で言うと祖父の相続は放棄して、父の相続を承認することはできるということになります。

ただしこの場合の注意点としては、1次相続はかなり前に発生しているケースが多いと考えられるので、相続放棄の熟慮期間を過ぎていないかどうかを検討する必要があります。ほとんどの場合で、「1次相続の事実を知ったのが最近だった」、または「借金があることを知ったのが最近だった」という理由で相続放棄をすることになるでしょう。

1次相続を単純承認して、2次相続を放棄する場合

1次相続を単純承認して、2次相続を放棄することはできません。2次相続を放棄することで1次相続の相続権も失うと考えられるからです。事例で言うと、父の相続を放棄したら、祖父の財産の相続はできないということになります。

1次相続も2次相続も両方とも放棄する場合

1次相続も2次相続も両方とも放棄することはできます。ただし、このパターンを実務上、利用する機会があるかどうかは疑問です。なぜなら、2次相続を放棄した時点で1次相続をする可能性はなくなるからです。少なくとも私は必要だと感じた事例は今のところありません。

実務で最も使われるパターン

実務で最も登場する機会があるのが、①の「1次相続を放棄して、2次相続を単純承認する」パターンでしょう。祖父母世代には借金があるが、父母世代には借金が無いので、祖父母の借金は相続放棄して、父母の財産は受け取りたいというケースです。
これが成功するには、「祖父母が亡くなったことを知った時から3ヶ月以内」であるか「祖父母に借金があることを知ってから3ヶ月以内」であることが条件になります。条件を満たしているならば、積極的に利用する価値はあるでしょう。

相続放棄について、より詳しい情報が知りたい場合は以下をクリック

相続放棄

3月 06 2024

遺言執行者の通知義務 遺言㉘

遺言執行者の通知

旧民法では遺言執行者が法定相続人に通知をすることは義務ではありませんでした。しかし、それでは法定相続人の知らないところで勝手に遺言執行が進んでしまうという懸念があり、改正民法では遺言執行者の通知は義務となりました。

就任承諾通知義務

遺言執行者は遺言書に記載されている場合が多いと思います。(家庭裁判所で選任される場合もある)。しかし遺言書に記載があれば自動的に就任するわけではありません。なぜなら遺言書に書く時に、就任の意向を確認する必要が無いからです。遺言書を開封して始めて、自分が遺言執行者にされていることを知ったというケースもあります。

ですから遺言執行者は遺言に記載されていても拒否する権利があります。裏を返せば、就任を承諾して始めて遺言執行者になるのです。故に、就任を承諾したかどうかは法定相続人にとって重要な情報になります。従って、就任を承諾したという事実を法定相続人に通知することが、改正民法では義務化されました。

遺言内容開示義務

また法定相続人は遺言書の内容を知る権利があると考えられ、遺言執行者には遺言書の内容を通知する義務も設けられました。
これは主に遺留分請求を迅速にするためというのが理由の一つだと考えられます。しかし改正民法では、遺留分の無い兄弟姉妹甥姪に対しても通知義務が課されています。通知の方法としては、遺言書の写しをそのまま添付すれば良いとされています。

財産目録開示義務

次に相続財産の開示義務があります。相続財産の目録を作って、それを法定相続人に通知する義務です。私が遺言執行者の実務をやっていて個人的に最も抵抗があるのが、この財産目録の通知義務です。しかし法律で義務付けられているので、やらない訳にはいきません。

なぜ抵抗があるかと言うと、送られた相続人から苦情が寄せられることがあるからです。遺言で指定されていない相続人の立場からすると、「自分がもらえない財産の詳細なんて見たくもない」というのが本音でしょう。

他には、予想よりも多い財産が書かれていた場合、「本当に本人が書いたのか」、「認知症になっていて誘導して書かせたんじゃないのか」などのクレームになり易く、弁護士に駆け込んで大掛かりな争いに発展してしまうこともあります。個人的には財産目録を通知することによって、争いの種をまいているのではないかと思うことがあります。

終了報告義務

遺言執行者は遺言の執行が終了したら終了報告をする義務があります。

このように改正民法では遺言執行者に対して様々な通知報告義務を課しています。一般の方で遺言執行者に指定された場合は、注意してください。もし通知義務に違反した場合、損害賠償責任を負わせられる可能性もありますので覚えておきましょう。

遺言について、より詳しい情報が知りたい方は以下をクリック

遺言