司法書士ジャーナル<相続>
橋本司法書士事務所ブログ

2024年2月

2月 28 2024

いよいよ始まる相続登記の義務化 相続登記㉟

相続登記の義務化が始まる

今まで何度か取り上げてきた相続登記の義務化が、いよいよ4月1日から始まります。今後は相続登記を放置しているとペナルティが課せられるようになります。そこで内容について確認しておきましょう。

相続登記が義務化される理由

不動産の名義人が亡くなった時に、相続登記(名義変更)を放置することが許されなくなるのが義務化です。今まで相続税の申告には放置した場合のペナルティがありましたが、相続登記の申請にはペナルティがありませんでした。故に相続登記は放置されることが多く、特に価値が低い不動産の場合は大半が放置される傾向がありました。

これによって所有者が不明の不動産が全国で発生して大きな問題となりました。老朽化した建物を取り壊そうと思っても誰のものか分からない場合が増えてきたのです。所有者不明だと更地にすることも売却することも困難になります。これが義務化される大きな理由です。

相続登記の義務化の内容

    (1)相続(遺言も含みます。)によって不動産を取得した相続人は、その所有権の取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければなりません。
    (2)遺産分割が成立した場合には、これによって不動産を取得した相続人は、遺産分割が成立した日から3年以内に、相続登記をしなければなりません。

(1)と(2)のいずれについても、正当な理由なく義務に違反した場合は10万円以下の過料(行政上のペナルティ)の適用対象となります。

相続登記の義務化は4月1日以前に発生した相続に対しても適用される

ここで注意すべきなのは、既に発生している相続についても相続登記の義務化は適用されるということです。ようするに開始時期よりも前に発生した相続であっても漏れなく義務化の対象になるのです。相続登記をしなかった場合のペナルティも「10万円以下の過料」ですから無視できません。

やむを得ない場合の救済措置である相続人申告登記

例えば遺産分割協議をしたら法定相続人同士で揉めてしまい、なかなか決着が着かないという場合があります。そのため所有者が決まらないので相続登記ができないという場合には、相続人申告登記という制度が新たに作られました。注意すべきなのは、あくまで相続登記義務化の救済措置として設けられたものなので、正式な登記ではないということです。

相続人申告登記は通常の相続登記に比べると手間や費用を節約できるようになっています(登録免許税もかからない)。メリットは相続登記の義務を履行したとみなされることで、これをしておけば罰則(10万円以下の過料)は課されません。他の相続人に了解を得る必要もなく単独で申請できます。

ただし、第三者に対して不動産の所有権を主張できる権利は認められていないので、法定相続人同士の話し合いがついたら後から正式な相続登記をする必要はあります。
相続人申告登記については、改めてブログ記事を設けて詳しい説明をしたいと思っています。

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相続登記

2月 19 2024

法定相続情報一覧図の数次相続は分割して申請する 法定相続情報証明③

数次相続とは

相続が発生した後に相続手続をせずに放置していたら、法定相続人の一部または全部が亡くなってしまった場合、数次相続と呼びます。数次相続は、通常の相続を複数行うよりも手間がかかり費用も高くなる傾向があります。

法定相続情報一覧図には数次相続を同時に記載することはできない

数次相続が起こった時に法定相続情報一覧図を作成しようと思ったら、注意すべきことがあります。それは一度に申請することができないということです。

例えば、父と長男と長女の3人家族で先に父が亡くなり、その後、長男が亡くなったとします。長男は結婚して妻と子がいます。
この状況で法定相続情報一覧図を作成する場合、まずは父を被相続人とした一覧図を作成します。この時、既に亡くなっている長男はどうなるかと言うと、父の死亡時にはまだ生存していたので、父の一覧図では長男は生存しているものとして取り扱います。そして次に長男を被相続人とした一覧図を作成します。長男の法定相続人は全員生存しているので、通常通りに作成することになります。

相続関係説明図は同時に記載できる

このように数次相続の場合は、相続が発生した回数分だけ一覧図を作成しなければなりません。同時に記載することはできないのです。

一方、相続登記の添付書類である相続関係説明図は、一覧図とは異なりますので注意が必要です。相続関係説明図は数次相続の場合でも同時に1枚で記載することが可能です。すごく大きな図になってA4では収まりきらない場合は、大きな紙に記載して折りたたんで使用する場合もあります。

法定相続情報一覧図と相続関係説明図は似ているようで異なる部分もあるのです。覚えておきましょう。

法定相続情報証明について、より詳しい情報が知りたい方は以下をクリック

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2月 13 2024

相続登記を放置したために売却ができなくなったケース 相続登記㉞

実際にあった事例

今回お話しするのは実際にあった事例です。まずは概要を説明します。
息子さんからの相続不動産の売却の相談です。

数年前に不動産の名義人である母親が既に亡くなっていましたが、その時は相続登記をせずに放置していました。その後、父親が亡くなって財産を調べたところ、父親名義の多額の借金があることが分かりました。

そこで借金を相続しないように父親の財産については相続放棄をされたそうです。その後で母親の名義の不動産を売却できないかという相談に来られました。

相続人不在の持分がある不動産

この事例の何が問題かと言うと、不動産の一部が相続人不在になってしまったことです。そうなった原因は以下のとおりです。

母親が亡くなった時に相続登記を放置していたため、不動産は法定相続分で父親と息子が共有している状態でした。この時までは遅れて遺産分割協議をすることは可能でした。

ところが父親が亡くなって2次相続が発生しました。しかも父親に借金があったために息子は相続放棄を選択しました。これにより不動産の一部が相続人不在になってしまったのです。

なぜ相続人不在になったのか

母親が亡くなった時点で、法定相続人は父親と息子の二人です。この状態で父親が亡くなると、父親の持っていた不動産共有持分の権利は通常は息子に相続されます。ところが息子が相続放棄してしまったので、父親の共有持分の権利が宙に浮いた状態になってしまったのです。

遺産分割協議が開けないので所有者が決まらない

父親に両親や兄弟姉妹などの他の相続人がいれば、その人と母親の不動産について遺産分割協議を開くことができますが、残念ながら他の相続人はいませんでした。そうすると通常の遺産分割協議を開くことができません。母親名義の不動産の所有者を決めることができないのです。

この場合に考えられる方法は、家庭裁判所に相続財産管理人を選任してもらうことです。しかし相続財産管理人の選任には多額の費用と大きな手間がかかります。
※相続財産管理人の選任の際に裁判所に納める費用は数十万円と言われています。

相続財産管理人から持分を買い取る

しかも父親の不動産共有持分を手に入れるためには相続財産管理人から買い取る必要があります。タダでは手に入らないのです。

こうなる理由は相続財産管理人に借金の清算義務があるからです。相続財産管理人は父親の財産から借金を返さなくてはなりません。そのために父親が母親から相続した不動産持分を売却して換金する必要があります。この場合、もう一人の共有者が息子になりますから、息子が買いたいと言えば問題なく売ってくれるでしょう。相続財産管理人にとっても息子にとっても都合の良い結果ではあります。

ただし相場よりも安く買うことはできないと思った方が良いです。なぜなら相手は家庭裁判所から選任された相続財産管理人ですから、原理原則どおりに行動するからです。民間の不動産業者のような値引き交渉は通用しないと考えるべきです。

結果および結論

これらのことについて説明したところ、相続財産管理人選任の費用や、その後の共有持分の買取費用を考えるとメリットが少ないということで、売却はあきらめて放置という選択をされました。ただし今年の4月から相続登記が義務化されますので、ずっと放置しておくことはできなくなります。

今回の事例では、どうすれば良かったのかというと母親が亡くなった時点で速やかに遺産分割協議を開いて、不動産を全て息子さんが相続すると決めた上で、息子さん名義の相続登記をしておけば問題は無かったのです。

父親が亡くなった時には既に息子さんの名義になっているので、父親の相続放棄をしても問題なく不動産を売却することができました。相続登記を先延ばしにしたことで、手痛い失敗をしたという事例でした。

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2月 07 2024

葬祭費、埋葬料は受け取っても相続放棄できる 相続放棄㉒

葬祭費と埋葬料の違い

いずれも遺族に支払われる費用ですが、葬祭費は個人事業主などが加入する国民健康保険加入者へ、埋葬料はサラリーマンなどの健康保険加入者への支払いになります。

葬祭費と埋葬料は相続財産になるのか

葬祭費と埋葬料は被相続人の財産ではなく、相続人の財産と考えられています。相続財産ではない以上、受け取っても相続放棄はできます。この相談は割と多いので覚えておくと良いでしょう。

未支給年金も受け取れる

以前のブログでも取り上げましたが、老齢年金や障害年金の未支給分も相続財産ではないとされています。

未支給年金を具体的に説明すると、例えば2月分と3月分の年金を4月15日に支給予定であったが、4月5日に死亡したとします。この時、本来は支給すべき2月分と3月分の年金が支給されていない状態となります。このような年金のことを未支給年金と呼びます。

被相続人は2月と3月は生きていたのですから、一見、未支給年金は相続財産であるかのように思えます(私も最初聞いた時は、そのように思いました)。

しかし、この問題については最高裁判所の判断が出ていて、「未支給年金は相続財産として扱わない」ということになっています。国税庁も「未支給年金は相続税の課税対象にならない」と発信しています。従って、未支給年金を受け取っても相続放棄はできます。

生命保険は受け取れるか

生命保険についても、よく質問されます。契約者と被保険者が被相続人で、受取人が相続人という一般的なパターンの場合、死亡保険金は相続財産ではなく受取人固有の財産とされます。従って、死亡保険金を受け取っても相続放棄は可能です。

この理屈だと保険金には相続税がかからないように思えますが、それだと相続税を逃れるために多額の生命保険を掛ける人が出てきてしまうので、税法では一定額を超える死亡保険金に対しては相続税をかけることにしています。

葬儀費用を相続財産から払えるのか

悩ましい問題として故人の葬儀費用を故人の財産から払っても良いのか、というのがあります。これについては裁判所は、「葬儀代が不相当な額ではなく、社会通念上相当な範囲であれば、相続放棄をすることは可能」と言っています。

しかし、「社会通念上相当な範囲」というのが具体的にどの程度の額なのかは、はっきりと明言されていないため、いくらまでなら許されるのかは判然としません。それこそ裁判官個人のその時の裁量(個人的な見解)で決められてしまう可能性が大きいです。

故に、あまり大丈夫とは思わない方が良いというのが専門家としての意見になります。
どうしても故人の財産から出すというのならば、その時の世間の相場よりも確実に安いと言い切れる額に留めておくべきでしょう。

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相続放棄