6月 19 2013
民事裁判と刑事裁判
一般の人は、あまり裁判になじみが無いのが普通ですから、民事裁判と刑事裁判の違いと言っても、ピンとこないかもしれません。しかし、この両者は全く異なります。
良くテレビや映画に出てくる裁判のシーンは圧倒的に刑事裁判が多いので(法廷ドラマが人気のあるアメリカでは、民事裁判のドラマも結構あります)、皆さんが頭に思い描く裁判のイメージは刑事裁判のものでしょう。何と言っても、刑事ドラマや検察のドラマが多いので、その影響を知らずに受けているわけです。
しかし、世の中の裁判のほとんどが実は民事裁判なのです。民事裁判の方が圧倒的に件数が多いです。それなのに民事裁判については驚くほど知られていません。民事裁判を扱ったドラマや映画も少ないですから、イメージすらもっていない人も珍しくありません。
それでは民事と刑事で何が違うのかを見ていきましょう。
まず民事裁判には、テレビに良く出てくる検察官は登場しません。少しでも裁判知識のある人にとっては「そんなの当たり前だろ」と言われそうですが、そのくらい民事裁判は一般人に馴染みがないのです。
刑事裁判で争っているのは国家(検察官)と個人(被告人)です。検察官は国家を代理し、弁護士は個人を代理しています。一方、民事裁判で争っているのは個人と個人です。個人が会社の場合もありますが、民間であることが重要です。ようは民事裁判とは民間同士の争いなのです。そして民事裁判では法律家を付けるかどうかは個人に任されています。双方に法律家が付く場合もあれば、片方にしか付いていない場合もあります。もちろん、裁判所に行ってみれば、双方ともに本人が出頭していることもあります。(民事裁判では訴えた方を原告、訴えられた方を被告と言います)
そして、良く間違われるのが「証拠」の扱いです。同じ証拠でも民事裁判と刑事裁判では取り扱いが全く違います。
刑事裁判では容疑者を国家が裁くという形をとりますので、慎重に進める必要があるという観点から、きちんとした証拠が無い限り、例えどんなに怪しくても有罪にしてはいけないことになっています。そして、その証拠の集め方も法律できちっと決まっていて、違法な手段で集めた証拠では有罪には出来ません。(例え、どんなに決定的な証拠であってもです)
一方、民事裁判では、証拠は警察や検察ではなく個人が勝手に集めたもので争われます。双方が用意してきた証拠を元に裁判所が判断する訳ですが、その際、証拠の集め方は問題になりません。もし違法に集めたものだったら、別の裁判で損害賠償を請求される恐れはありますが、少なくとも該当する裁判での証拠の価値は下がりません。
もう一つ、決定的な違いは、民事裁判においては、原告と被告の間に争いが無い事実(双方ともに認めている事実)については、証拠は必要ないということです。簡単に言えば、「両方が認めているんだから、それでいいじゃないか。」というのが民事裁判です。ひょっとしたら、本当は事実ではないことを両方が何かの都合で認めているのかもしれません。それでも構わないというスタンスを取るのが民事裁判の考え方です。従って、民事裁判では、双方の意見が食い違って争いになっていることだけを、証拠調べの対象にします。
また、民事裁判の場合、双方が認めるというのも、積極的に同意する必要はありません。例えば、原告が主張したことを、被告が黙って反論しなかったとしても、それは認めたこととみなされます。民事裁判では、日本的な「あうんの呼吸」は全く通用しません。反論しないことは、すなわち同意したのと同じことと考えられているからです。実際に、被告が一切反論せずに黙り続けたら、原告の完全勝利の判決が出ます。原告側が、どんなにいいかげんな証拠しかなくても、そうなってしまいます。ですから、民事裁判では、どんな屁理屈でも、とりあえず反論することが大事になります。
ところが、刑事裁判では、検察官の言うことに被告人が特に反論しなかったとしても、これだけでは有罪にすることは出来ません。被告人が反論しないで黙っていたとしたら、検察側は証拠により犯罪を立証しなければなりません。証拠不十分で立証に失敗したら、被告人無罪の判決が出ることになります。このように刑事裁判は、民事裁判に比べて厳格な立証が求められるのです。一人の人間を犯罪者にするかどうかを決めるのですから、まあ当然と言えば当然ですが。
以上、説明したように、民事裁判と刑事裁判は、その性質が非常に異なっています。特に相談をしていて私が感じるのは、ドラマなどの影響で民事裁判についての誤解が多いように思います。今回の説明で、少しはその誤解が解けたらと思っています。









