司法書士ジャーナル<相続>
橋本司法書士事務所ブログ

2017年11月

11月 24 2017

節税保険(相続税⑤)

節税保険って言葉を、聞いたことがありますか?
取り上げられることが増えてきたので、一度くらいは聞いたことがあるかもしれませんね。保険会社としても、大きな市場としてとらえているため、次々に新しい保険が販売されています。

文字通り、節税につながりますので、売れています。
ただ、保険商品や加入方法を間違えると、節税が発揮できないだけでなく、税金が増える危険性もありますので、注意が必要です。

では、上手に利用した具体例を1つ紹介しましょう。

節税保険の加入例

父が亡くなり、母と子ども2人(長男と長女と仮定しましょう)が法定相続人のケースで考えてみます。
父の生前の財産は30,000万円(3億円)と仮定します。

まずは一般的な方法で、法定相続人が3人なので「500万円×3」で受取金1500万円の生命保険を「契約者父、被保険者父、受取人長男と長女」で生前にかけておきます。これで1500万円の節税効果があります。
ここまでは、ご存知の人も多いと思います。

>>>知っておきたい生命保険と相続<<<

ここからが、本格的な節税保険の加入手法です。
まずは、贈与から開始します。
毎年長男と長女に300万円ずつ、合計600万円を贈与します。
300万円の贈与税は、110万円の年間控除額を差し引いた190万円の10%で19万円ですから、10年続けたら190万円、2人合わせて380万円です。

そして贈与された300万円を、長男と長女がそれぞれ全額を生命保険契約して保険料として支払います。
契約内容は「契約者長男と長女、被保険者父、受取人長男と長女」です。
これを10年続けると、受取額は300万円の10年分、3000万円よりも多くなります(4000万円を下回るくらいでしょうか)。

こうすると受取額の増加分は、贈与税の合計380万円を上回ります。ようするに得になる訳です。しかも、毎年600万円、父の財産が減っていき、10年で6000万円も父の財産が減りますので、相続税に関してもかなりの節税になります。
実はこれが最も大きい効果と言えます。
(ただし、保険料負担者と保険金受取人が同一なので、保険金受取の際は、一時所得として所得税がかかります。)

元々3億円だった父の財産が、契約した1500万円の保険と、長男と長女への贈与を合わせると、なんと7500万円も減ります。相続税を計算する時点では、かなりの節税につながります。

このように生命保険を上手に利用することによって、非常に高い節税効果が期待できます。
実は、資産家や経営者の間では、昔からよく知られている方法です。
今回は1つの例をご紹介しましたが、いくつものタイプがありますので、資産や目的に合わせて加入することが大切ですね。
ただし、最近は節税保険について金融庁が問題視していますので、一部の保険には、メスが入るかもしれません。

現在は、相続税など無関係だと思っていた人も、かかる可能性がずいぶん高くなりました。
本気で節税を考えてみる必要が出てきたということですね。

具体的な加入については、家族の事情によって個別にプランを練る必要があることと、契約の仕方が複雑になりますので、一般の方が独力で設計するのはお勧めできません。万が一、間違った契約をしてしまうと高額の税金が発生する可能性があるからです。
ちなみに生命保険会社に直接相談すると、自社の保険を売りたがる傾向がありますので、注意が必要です。

もし検討される場合は専門家のサポートを受けたほうが良いですね。

相続税についてもう少し知りたい方はこちらをどうぞ

11月 13 2017

死後離縁

死後離縁って、聞いたことありますか?
恐らく、ほとんどの人が聞いたことがないと思います。
死後離縁とは、養子縁組を行った養親または養子のうち、どちらか一方が亡くなったとき、生存している養子または養親が家庭裁判所の許可をもらって縁組を終了させることを言います。一般的には、亡くなった側の家族と縁を切りたい場合に使われることが多い制度です。

この説明を聞いても、あまりピンとこないかもしれません。
こういう状況になる人は、多くはありませんから。
しかし、本人たちにとってみれば、とても重要な問題であることが多いです。
一度は親族になったものを、くつがえすほどの思いとは、どういうものなのでしょうか。

死後離縁は、実務上は圧倒的に養親が亡くなって養子の方から申し立てる場合が多いです。
養子からみて養親の家族と折り合いが悪いというケースが良くあるパターンです。
財産の問題、借金の問題、あるいは人間関係にいたるまで、離縁したくなる理由はさまざまです。

死後離縁の手続は、まずは家庭裁判所に申立をして許可をもらいます。
その後、市区町村役場に家裁の許可を証する書面を持参して、離縁の届出をすることによって成立します。家裁と役所の2段階になる訳です。

書面を提出すれば、それで離縁が完了するのかというと、そう簡単ではないのです。
死後離縁は必ず認められる訳ではありません。
家裁に正当な理由があると認めてもらう必要があります。

特に注意が必要なのが、そこそこの財産を養親から相続した場合や、養親が亡くなる前に一定の財産を贈与してもらった場合などです。

相続や贈与で財産をもらった後の死後離縁は認められにくい傾向があります。養子縁組をする大きな理由の一つに「養親が亡くなった後の祭祀(注)を養子が引き継ぐ」というのがありますので、「財産をもらったのなら養親が死んだ後の祭祀を養子が行うべき」、と家裁が考えるからです。
(注)祖先を祭ること

死後離縁を考えているのならば、養親からなるべく財産はもらわないように注意しましょう。
もし既にもらってしまったならば,家裁を納得させるだけの理由が必要になると覚えておきましょう。
例えば、養親の家族から大きな嫌がらせを受けたとかいう理由はありそうですね。

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死後離縁②

11月 09 2017

死後事務委任契約とは?(任意後見④)

任意後見契約とセットで契約されることが最も多いのが公正証書遺言です。
その次に多いのが、死後事務委任契約です。死後事務委任契約は公正証書でなくても結ぶことが可能なので、任意後見契約を結んだ後に、しばらくしてから新たに契約される場合も珍しくありません。

死後事務委任という名前から想像できると思いますが、死後事務の具体的な内容は、以下のようなことになります。

委任する死後事務の具体的な内容

自分が死んだあとのことは、あまり考えたくないのが普通かもしれません。
けれど、それを考えて書面に残すことで、スムーズに事が運びます。
「立つ鳥跡を濁さず」ということですね。

それならば、エンディングノートでも良いのではないかと思いますよね。
しかし、あくまでもその人の思いをノートに記したものなので、法的効力がありません。
すると、エンディングノートには書いてあっても、残された人たちが話し合って、亡くなった本人の意思とは違うお葬式をすることも充分考えられるのです。

委任する死後事務の具体的な内容は、葬儀・納骨・埋葬・供養などを本人の希望通りにやってもらうために、細かく取り決めておきます。死亡時に連絡して欲しい人の指定や、葬儀会社や寺や墓地などを指定することもできますし、これらに使う費用の上限などを定めておくことも可能です。
死後事務のメインになりますね。

もう1つは、死後の後始末に当たる部分です。死亡した時点での未払いだった各種費用(施設利用費や入院費、光熱費や通信費など)の支払い、家財の処分方法の取り決め、役所等への届出業務の代理、などを定めておくことです。
こまごまとしたことになりますが、役所等への届出の代理などは、きちんと定めておかないと、何もことが進まなくなって、困ることがよくあります。

死後事務委任が威力を発揮するとき

こんなことは親族が行えば良いじゃないかと思った人もいるかもしれませんが、信頼できる親族が近くにはいない、というケースも少子高齢化の時代には珍しいことではなくなっています。

仮に近所に親しい友人がいたとしても、友人はあくまで法律上は他人なので、親切心で死後事務を手伝おうとしても、葬儀会社も施設も病院も役所も友人を代理人とは認めないのが普通です。つまり、友人は善意で動こうとしても動けないという状態に陥ります。

こんなときには死後事務委任契約が威力を発揮します。死後事務委任契約書があれば、友人は契約書を見せることで相手方に本人の代理人と認めてもらえます。死後事務をスムーズに進めることができるのです。

近くに頼れそうな友人もいないという場合は、司法書士などの専門家に死後事務を依頼することも可能です。

死後事務委任の重要ポイント

また、死後事務委任をする場合に重要なポイントとして、費用の問題があります。本人が死亡して相続が開始すると銀行は口座を凍結してしまうので、死後事務の費用が賄えなくなる可能性があります。
これを解決しておかなくてはなりません。

遺産分割協議を経て相続人が確定するのは結構時間がかかるのが普通ですが、死後事務は本人死亡後にすぐに費用が発生しますので、どうしても費用の問題が発生します。死後事務委任契約は、この費用の問題も解決してくれます。

良く行われる方法としては、一定の預り金を本人の生前に死後事務の受任者に渡しておいて、その旨を契約書に記載して、預り証を別途作成して契約書と一緒に閉じこんでおきます。

注意点としては、預り証は法的にきちんとしたものを作成しないと、贈与税がかけられる可能性があるということです。
トラブルを避けるためには、専門家に作成を依頼するのが良いですね。

他人にお金を渡すのが心配な場合は、本人名義の預り金口座を別途開設して、死亡後に死後事務の費用として、受任者がその口座から引き出すことが出来るように契約書に記載しておく、という方法もあります。
信用している人であっても、万が一の心配をせずに済むのは、預り金口座の別途開設ですね。

このような方法で死後の事務を滞りなく進めていけるように締結するのが、死後事務委任契約です。

遺言にしても、死後事務委任にしても、あるいは任意後見にしても、どこかのテンプレートを見てそれを見本として作成して終わってしまう人がいますが、本当は一度専門家の目を通した方が良いのになぁと思います。
ちょっとした一言が無かったりするだけで、後々とんでもないトラブルが発生する事例を私たち専門家は、よく目にしているからです。
その事例は、またいつか別のブログで……。

任意後見についても、もう少し詳しく知りたい方は、知って得する任意後見のメリットをどうぞ

11月 01 2017

戸籍の郵送申請と定額小為替(相続登記⑪)

相続登記の必要書類の中で最も手間がかかるのが、被相続人の出生から死亡までの戸籍であるということは、このブログでも何回かご説明してきました。

出生から死亡までの戸籍について

被相続人の戸籍を遡っていくと、転籍をしていることが良くあります。転籍に関しては、相続人も全て認識しているケースは稀で、取得して見たら気付いたというケースがほどんどです。

転籍先が遠方である場合は(北海道や九州などというケースも珍しくありません)、戸籍取得の為に交通費を払う人はいませんので、通常は郵送申請になります。この郵送申請が結構やっかいなのです。

まず、相続の特徴として、申請する段階では出生までの戸籍が何通あるか分かりません。仮に役所に電話しても、「申請して頂かないと通数は分かりません」と言われてしまいます。従って、申請書の書き方に工夫がいります。

また、戸籍の郵送申請の場合、役所の手数料は定額小為替で支払わなくてはなりません。そのようにルールで決まっています。

定額小為替について
定額小為替とは、郵便局で発行してもらう少額の為替のことで、受け取った人が郵便局で換金できる仕組みです。

定額小為替の種類は金額によって細かく分かれていますが、1枚あたり100円という結構高い手数料が取られます。小為替には50円という額面もありますが、50円の小為替でも手数料は100円なのです!
組み合わせを工夫しないと、手数料が結構高くなってしまいますね。
今後は、役所も支払い方法の電子化などに注力していただきたいと思います。
予算は厳しいのでしょうが……。

ここで先ほどの問題が再び起こります。請求する通数が事前に分からない為、定額小為替をいくら封入すれば良いかが決まりません。この場合、司法書士が行う方法は、多めの金額を封入しておいて余ったら、その分は小為替で返してもらいます。

司法書士の場合は余った分を小為替で返してもらっても、次の仕事で使うことが出来ますが、一般の人の場合は、余分に作成した時の手数料が無駄になりますね。

また、定額小為替には、「発行から6ヶ月以内に換金して下さい」と書かれています。これを真に受けて、返してもらった小為替の換金を忘れて6ヶ月を経過したら、あきらめて捨ててしまう人がたまにいます。実は、これは非常にもったいない行為なのです。

実際には、発行から5年以内ならば郵便局は問題なく換金に応じてくれます。万が一、6ヶ月以上経過した定額小為替を持っていたら、覚えておきましょう。

そして、戸籍を発行する役所の、定額小為替の扱いですが、先ほどの理屈でいくと、6ヶ月以上経過した定額小為替を封入して郵送申請しても大丈夫だと思われる方が多いと思います。
しかし役所は通常6ヶ月以上経過した小為替は受け取りません。
一部受け取る役所もあるそうですが、そのような柔軟な対応をしてくれる役所は少数派なので、あまり期待しないようにしましょう。

相続登記についてもう少し詳しく知りたい方はこちら