司法書士ジャーナル<相続>
橋本司法書士事務所ブログ

2017年12月

12月 25 2017

空き家問題は、なぜ起こるのか(相続登記⑬)

近年、日本では空き家のまま放置される家が増加していて問題になっています。
空き家問題とは、放置された空き家を自治体等が処分しようと思っても、思うように処分できない状態になっていることをいいます。

景観の悪化や、不審者の住み付き、崩壊による近隣住民への被害も聞いたことがあると思います。
近くにこのような空き家があったら、何とかして欲しいと思いますよね。

新聞やテレビニュースでも話題になっている空き家問題ですが、そもそもなぜ空き家問題が起こるのでしょうか。これについて考えてみましょう。

特定できない持ち主

普通に考えると、持ち主のところに行って話をつければ良いように思いませんか。
空き家のまま放置されるような物件は、持っていても収益にはならないような物件ですから、持ち主にとっても処分することは、そんなに悪い話ではないはずです。
収益にならない物件を持っていても、毎年の固定資産税を払うだけ無駄ですから。

ではなぜ問題になっているかと言うと、それは持ち主が特定できないからなんです。

持ち主が特定できないとは、どういうことでしょう。
それは相続登記をしないまま長期間、放置した結果、相続人が膨大に増えてしまい、生死や居場所が不明な相続人が何人も現れるという事態に陥っているということなのです。

物件を処分する為には、すべての所有者の同意を得なければなりません。
これが10人、いえ、それ以上になっているような物件が、日本中のあちらこちらに存在しています。

相続放棄を放置した例

具体例で説明しましょう。
最初の相続で子ども3人が法定相続人だったとしましょう。このとき、相続登記をしないまま、子ども3人が死亡したとすると、子ども3人の相続人に所有権が移ります。

例えば、子ども3人それぞれに配偶者と子ども2人がいたとしたらどうなりますか?
相続人はそれぞれ3人ですから、3人×3人で9人が相続人になります。
この時点で、既に9人です。
この後、同様にして増えていくわけです。
もちろん、この間に亡くなる人もいますが、一方で結婚や出産で相続人が増えていくことも十分考えられますね。

更に相続登記をせずに放置していた場合、そのうち、生死が不明な所有者や、居場所が不明な所有者が出てきてしまうのです。

こうなってしまうと、空き家を売却して処分しようとしても、すべての所有者の同意を得るのは極めて難しい作業になります。従って、崩壊して危険になっているような空き家が増えていくという大変な事態になってしまうのです。

売りたくても売れない

政府も重い腰を上げて対策を取ろうとしています。相続登記を放置しないように、新しい仕組みを検討していると聞きます。
ひょっとしたら、相続登記を放置した場合に何らかのペナルティーが課せられるような制度が出来るかもしれません。
そのくらい、空き家問題は深刻なのです。

不動産売買には、売買契約が必要です。契約書には売主の署名押印が必要です。登記を放っておいたがために売主が特定できなければ、売買契約書に署名押印できないですよね。

さらに、売買には登記申請も必要です。
登記を放っておいたら、現状、誰が所有者なのか不明、という状態になりかねません。
その状態で、不動産を買う人はいませんよね。
所有者全員が特定できないために、売りたくても売れないという物件になってしまうかもしれません。
この記事を読んでくださった皆さんは、相続登記を長年放置したりしないようにしてください。

>>>相続登記についてもう少し詳しく知りたい人はこちら<<<

12月 20 2017

再婚時の生命保険活用(相続税⑦)

結婚した総人数に占める、再婚の割合は増えているようですね。
夫、妻の両方が再婚の人もいますし、どちらか一方が再婚の場合もあります。
両方をあわせると、結婚した総人数に占める、再婚の割合は25%を超えています。

ということは、将来の相続に対する配慮も、より必要になってきますね。
配偶者とは、離婚すれば縁が切れますが、子どもは離婚しようが再婚しようが、ずっと相続の第1順位なわけですから。

では、生命保険の相続における具体的な活用事例の2つ目をご紹介しましょう。

将来の法定相続人に、現在の妻の子どもと先妻の子どもがいるようなケースです。

親にとってはどちらもかわいい子どもで、法的にも同じ権利があります。
ですが、いざ相続が発生すると、もめてしまうことも十分起こりえます。
「先妻の子には、財産を渡したくない」
と、感情的になってしまって、遺産分割協議がどろ沼になってしまうことも……。

解決するには、生命保険を活用する方法があります。

具体的には、

  • 契約者:父親
  • 被保険者:父親
  • 受取人:先妻の子ども
  • とする生命保険を契約しておきます。

    保険金額は、最低でも遺留分相当分ですが、相続分相当分でも構わないです。
    ここは契約者が決めることです。
    契約の代わりに、先妻の子どもには前もって遺留分の権利を放棄してもらうと良いでしょう。保険金をもらった上で、更に遺留分の請求まで行ったら、それは先妻の子どもが優遇されすぎになりますから。

    こうしておけば、相続が発生したときも、スムーズに進みます。

    具体的な例を紹介しましょう。

      対策をしない場合

    遺産が6,000万円で、先妻の子1人、現在の妻の子2人だとします。
    相続が発生したら、現在の妻が2分の1で3,000万円、先妻の子が1,000万円、現在の子もそれぞれ1,000万円になります。

    一見何も問題ないように思えますが、財産の大部分が不動産だったりすると、現在の妻が家を手放さなくてはならなくなるなど、不都合も考えられます。

      対策をした場合

    先の生命保険の保険金が、1,000万円だったとします。
    遺言は、現在の妻と子に遺産を相続するという内容にしますと、相続が発生したら、現在の妻が2分の1で3,000万円、現在の妻の子が1,500万円ずつということになります。
    先妻の子の遺留分は1,000万円の2分の1で500万円。
    保険金は1,000万円入っているわけですから、遺留分請求まではしないでくださいねと、前もって契約しておけますね。

    このように相続財産に関しては遺言を残して、現在の妻の子どもに引き継がせるのです。現在の妻や子どもも、そして先妻の子も納得しやすいでしょうし、後の相続争いをかなりの程度防ぐことが出来ます。

    ただ1点、注意したいことがあります。
    あまり、若すぎる年齢で遺言と保険契約をしてしまうと、亡くなったときの財産と契約時の財産が違い過ぎる可能性があります。
    先妻の子のための保険契約時に、財産が1億円あったけれど、何かで失敗しほとんど財産が無くなってしまったりすることがあるかもしれません。
    しかし減った場合はあまり問題にはならないでしょう。

    問題になるのは、極端に財産が増えたときです。
    保険契約時の財産は6000万円だったけれど、亡くなったときには5億円の財産になっていたとしたらどうでしょう。
    保険金1000万円で先妻の子は納得するでしょうか?
    どのように抵抗するかはわかりませんが、争ってくる可能性はありますよね。
    ですから、ある程度の年齢になって、財産が概ね変化がないような状態になってから対策を立てるのが良いでしょう。

    遺留分の権利の放棄を前もってしてもらうことや、正確な遺言を残すときには、ぜひ一度、専門家にご相談ください。
    ここを間違えてしまうと、せっかくのプランが無駄になってしまう危険性があります。

    >>>節税保険にも興味がある人はこちらをどうぞ<<<

    12月 14 2017

    生命保険の活用で遺留分トラブルを回避(相続税⑥)

    相続における生命保険の活用方法は、何も生命保険控除だけではありません。1つ具体例を紹介しましょう。

    例えば、親が1人子ども2人の家族で、主な財産は自宅不動産だけだったとします。
    現金が1円もないことは、ほとんどありえませんが、財産に占める現金の割合が少ないことは、よくあります。
    子ども2人は、長男次男としますね。
    そして親は遺言で不動産を長男に相続させると決めていたとしたらどうなるでしょう。

    遺留分の発生とその後のトラブル

    この場合、相続が起こると次男に遺留分が発生します。
    次男が長男に対して遺留分減殺請求をすると、長男は遺留分相当の遺産を次男に渡さなくてはなりません。
    この例でいうと、普通に相続したとすると2分の1ずつですが、遺留分はその半分なので、4分の1ですね。

    預貯金があれば良いのですが、不動産以外のめぼしい財産がありません。そうすると、長男は遺言で与えられた不動産の一部を次男に渡すしか方法がなくなります。
    渡すといっても、家を切って渡すわけではありません。
    登記により、長男の持ち分が4分の3、次男の持ち分が4分の1となるのです。

    結果的に不動産は長男と次男の共有になり、売却したり抵当権を付けたりするときに必ず次男の同意が必要になります。意見が同じなら良いのですが、違っているとトラブルに発展します。こうなることを避けたいがために、親は遺言で長男に不動産を残したのですが、親の希望は通らなくなってしまうのです。

    生命保険による遺留分問題解決方法

    これを生命保険で解決することができるのです。

    親が生前に生命保険を契約して、契約者と被保険者を親、受取人を長男にしておきます。長男に支払われる保険金を次男の遺留分相当額にしておくのです。
    たとえば、家の価値が4000万円だとしたら、遺留分は4分の1ですから、1000万円です。
    そうすることで、長男は保険金によって次男に遺留分を支払うことが可能になり、めでたく遺言どおりに不動産を単独で所有することが出来るのです。

    遺留分とは割合を主張できるだけで、請求するものは選べません。遺留分相当の金銭が支払われたら、次男は黙って受け取るしかありません。(金銭を断って、不動産の一部をよこせ、とは言えないのです)

    このように生命保険は、相続の際に色々な方法で活用することが可能です。覚えておきましょう。

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    12月 04 2017

    突然借金の請求が……兄弟姉妹の相続放棄(相続放棄⑩)

    相続放棄で、よく問題になるのが兄弟姉妹の相続放棄です。
    なぜ、問題になりやすいかと言うと、いつまでなら相続放棄が認められるのかが分かりにくいからです。

    最初から子どもも両親もいないことが分かっている場合は、それほど問題にはなりません。通常と同じように、被相続人が亡くなったのを知った時から3カ月以内に家庭裁判所に申述をすることになります。

    問題は、亡くなった人の子どもや両親が先に相続放棄をしていた場合です。この場合、子どもや両親の相続放棄が家裁で認められて初めて兄弟姉妹が相続人になりますので、先順位の相続放棄が認められたのを知った時から3カ月以内が申述期間(熟慮期間)になります。

    しかし、被相続人の子どもや両親と、兄弟姉妹が頻繁に連絡を取り合っているとは限りません。特に兄弟姉妹が遠方に住んでいたりすると、ほとんど会っていないというケースもあるでしょう。
    そんなとき、先に相続放棄をした子どもや両親が、相続の権利が移ったことを教えてくれるとは限らないのです。

    実際に、連絡せずに放置したという事例は案外多いです。
    当事務所では、相続放棄をしたことにより、兄弟姉妹や甥姪などに被相続人の借金が引き継がれてしまう場合は、該当する人たちに連絡をするように強くおすすめし、そのようなサービスを行っています。
    「そうなんですか?では連絡をお願いします」という人もいれば、「いえ、特に必要ありません」という人もいます。
    強制はできませんので、必要ありませんと言われればそこで終了となりますが、心配にはなりますね。

    先に子どもや両親が相続放棄をしている訳ですから、兄弟姉妹は、いつのまにか相続人になったとき、借金が回ってきてしまうことになります。

    兄弟姉妹の相続放棄

    このようなケースで、兄弟姉妹が自分が置かれた状態に気付くのは、借金の請求をされた時納税金の請求をされた時などが多いです。いきなり請求を受けて、「あなたが相続人になりました。支払って下さい」と言われる訳ですから、相当驚いてうろたえてしまいますよね。

    これはあまりにも酷だろう、ということで、家庭裁判所も兄弟姉妹の相続放棄については割と広く申述期間(熟慮期間)を解釈する傾向があります。

    上記のようなケースならば、気付いた日付を「請求がされた日付」だと主張することによって、先順位の相続放棄から3カ月以上経っていたとしても、家庭裁判所に認めてもらえる可能性が充分にあります。

    兄弟姉妹の相続放棄は上記のような理由により遅くなりがちですが、認められる可能性は残っていますので、あきらめないで専門家に相談しましょう。

    >>>相続放棄についてもう少し詳しく知りたいかたはこちら<<<

    12月 01 2017

    法定相続分での相続登記4つのポイント(相続登記⑫)

    相続登記をする場合、圧倒的に多いのは遺産分割協議をしてから、協議書を添付して行う相続登記です。
    そして、次に多いのが遺言による相続登記です。

    もう1つ、相続登記にはパターンがあり、それが法定相続分による相続登記になります。これは件数としては他のパターンよりも少ないです。なぜ少ないのか、その理由についてご説明しましょう。

    法定相続分の相続登記4つのポイント

    法定相続分による相続登記には大きな特徴があります。
    それが、法定相続人のうち1人からでも申請することが出来るという点です。例え相続人の間で話がまとまっていなくても、そのうちの1人から申請することが可能なのです。(もちろん、法定相続人全員が申請人になって申請することも可能です。)

    一見、便利そうにみえる特徴ですが、件数が少ないのには、様々な理由があります。
    順番に紹介していきましょう。

    1. 共有者が多いため売りにくい
    2. 法定相続分の登記をすると、その不動産は法定相続人全員の共有になります。すると、不動産売却の際には、共有者全員の同意が必要になります(具体的には全員分の実印と印鑑証明が必要です)。
      もちろん全員が同意すれば売却は可能ですが、1人でも売却に消極的な共有者がいると売れなくなってしまいます。

    3. 相続人間でトラブルが起こる
    4. 法定相続人の一人から申請した場合、他の相続人が知らない間に相続登記が行われてしまうことになるので、そのことで相続人の間でトラブルが起こる場合があります。時には、他の相続人が遺産分割調停などを起こして、登記の変更を求めてくる可能性があります。
      (変更が認められるかどうかは、家裁の判断となります。「登記はそのまま」という判断になる可能性もあります。)

    5. 登録免許税は全員分を支払う
    6. 法定相続人の1人から申請した場合でも、相続登記にかかる登録免許税は全員分を支払う必要があります。誤解されることが多いのですが、1人から申請した場合でも、1人分の登記がされる訳ではありません。
      全員分の登記を1人で行えるということなのです。

    7. 登記識別情報が発行されない
    8. 一般の方が最も気づきにくいポイントしては、法定相続人の1人から申請した場合、申請しなかった他の相続人には登記識別情報(昔の権利証に当たるもの)が発行されません。これが次に売却するときに注意すべき点になります。

      売却の際には、全員分の登記識別情報が必要ですが、提出できない共有者がいる場合は、その人に関しては司法書士に本人確認情報を発行してもらう必要があります。その際に追加費用がかかります。(法定相続人全員で申請した場合は、全員に対して登記識別情報が発行されます)

    上記のように、法定相続分の相続登記には注意すべき点があります。
    ただし、法的には可能な登記なので(一人から申請する場合も含めて)、申請自体は問題ありません。もし希望される場合は、注意点に対して充分に納得して行うようにしましょう。

    >>>相続登記についてもう少し詳しく知りたいかたはこちら<<<